「お、おいのび太!だ、だ、誰だよそのおっさんは!」
何とか男を抱えたまま地下室に帰ってきたのび太を見て、ジャイアンが悲鳴にも似た嬌声を上げた。スネオと静も信じられない、といった表情を浮かべてのび太を見る。
「説明はあとでする!この人、怪我してるみたいなんだ!しずかちゃん、包帯とお医者さんカバンを!」
「は、はい!」
のび太がぜいぜいと息を付きながら静に指示を出した。それまで呆然としていた静だったが、のび太の大声に弾かれたように反応すると、大急ぎで手当ての道具を持ってきた。きず薬つき自動巻きほうたいが怪我の部位を見つけると、男の体にぐるぐると巻きつく。のび太はその隙にお医者さんカバンで男の胸の辺りに聴診器を当てた。
『寝不足と栄養不足です。十分な休養と、ビタミン剤を与えてください』
ウィンドウにそのような文字が浮かんだと思ったら、バッグの中から注射器に入ったビタミン剤が飛び出してくる。のび太はそれを右手に取ると、強引に男の口をこじあけビタミン剤を注入すした。男は最初に少し咳込みをしたが、ビタミン剤を少しこぼしただけでそのままゴクゴクと飲み干した。
「これで、一安心だな……」
のび太が腕でぐい、と自分の額を拭うと一息ついた。それと同時にジャイアンとスネオがのび太の下に詰め寄る。
「おいのび太、どういうことだ!この人は一体誰なんだよ!」
「そ、そうだのび太!大体、この星は無人惑星じゃなかったのか!」
二人がほぼ同時にのび太を詰問する。ジャイアンにがくがくと肩を揺さぶられるままになっていたのび太は、しかしそれでも何も言わない。のび太にしても分からないのだ、何も。
「……タケコプターで飛んでたら、森を見つけたんだ。面白そうだったから探検してみたんだけど、結構広くて……。それで、今日は帰ろうと思ったんだけど、そしたらこの人が倒れてて、怖かったけど、怪我してたから放っておけなくて……」
ぽつり、ぽつりと呟くようにのび太は一部始終を説明した。3人は黙ってのび太の喋ることに耳を傾ける。みな一様に戸惑ったような表情を浮かべていた。
「人間なのか?この人……」
「人間……だと思う。なんか、言葉らしいのを喋ってたし。ただ、地球の人じゃあないみたい。あんな言葉、聞いたこともなかったもの」
「とにかく、目を覚ますまで様子を見よう。幸いほんやくコンニャクがあるから、言葉は通じるでしょ。それにしても……」
言葉を区切ってスネオが男の体をしげしげと眺めた。
「戦闘服、だよな。これは」
スネオの言葉に、のび太も改めて男の全身を見た。短く刈り揃えられた髪、額にはバンダナのようなものが巻かれている。眉間あるのはひし形のような形の傷痕。顎には僅かに髭がたくわえられている。そして迷彩の入った服と、編み上げのブーツ。それら全ての要素が、のび太の頭で『戦争』という言葉に向かって収斂していった。
「どちらにしても、穏やかな様子ではないわ……」
「怪我もしてるしよ……」
「とにかく今は、起きるのを待とう」
部屋が静寂に支配される。誰も、何も喋らずに死んだように眠っている男の体を見つめていた。
それから1時間ほど経った頃だろうか。ん……と微かな声を上げて、男が目覚める兆しを見せた。
「あ、起きたみたいだ!あの、大丈夫……あ、そうか。ほんやくコンニャク食べなきゃ」
のび太は慌ててほんやくコンニャクを頬張ると、改めて男に向かって話しかけた。
「大丈夫ですか?起きられますか?僕の言葉、分かりますか?」
「ん……ああ。生きて、いるのか?俺は……」
目覚めたばかりの男は、上半身だけを起き上がらせると首を左右に幾度か振ったあとに、瞼を閉じたり開いたりした。そして大きな深呼吸をすると改めて部屋を見渡し、その視線がのび太の顔のところでピタリと止まった。
「国王……!」
「え?こ、こく?」
「国王!このようなところで一体……ああ、いや、ここはどこですか?見慣れない場所ですが。それに、この者たちは……」
喋りながら男は、ジャイアンとスネオを鋭い目つきで睨みつける。それは、二人がこれまで出会ったどんな大人も有していない類の目つきだった。針で刺すようなその視線を一身に受け、二人は金縛りを受けたようにすくみ上がる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!こく、国王って何のことさ!僕のこと?僕、僕は、のび太。野比のび太だよ!」
「野比……」
狼狽した声を上げるのび太に反応して、男はのび太の全身を上から下まで眺めた。値踏みされるような視線を受け、のび太は思わず緊張する。
「……確かに、国王はそのような服を着ないな。すまない、よく知る人物に似ていたもので、勘違いをしたようだ。それにしても、似ているものだ」
男は一人で呟くように言うと、床に手を付いてさっと立ち上がった。
「怪我の手当てをしてくれたことに、まずは礼を述べる。ありがとう、あそこで君に出会わなければ私は死んでいたかもしれない」
そう言って男は深々と頭を下げる。こんなに丁寧に大人から謝辞を述べられたのは初めての経験だったので、のび太はひどく戸惑った。
「そ、そんな!僕は当然のことをしたまでです。死ななくて、よかったです!」
「そうか……いや、本当にありがとう。自己紹介が遅れたな。私の名前はタカベ。トリユ国の者だ。ところで、君たちは一体……」
タカベはさっきとは打って変わって今度は穏やかな目で3人を見回す。今の彼の瞳は、どこにでもいるような穏やかな大人の目だった。ジャイアンとスネオはほっとした表情を浮かべる。
「ええと、僕たちはその……この星に住もうかと思ってやって来たんですよ」
「星?星だって?ということは君たちは、違う星からやって来たということかい?」
「え、ええ。そうなんです。そのー、ここから遥か遠い、地球という星からはるばると」
脇からスネオが口を挟んだ。何か喋らないと、落ち着いていられないのだろう。それでもまだ動揺が収まらないのか、いつものような弁舌さはナリを潜めていたけれど。
「そうなのか……いや、にわかには信じがたいが、確かに君たちの服装はこの星で見たこともない。それに、あの傷がこんなに簡単に治ったのも考えられないことだ。信じよう、君たちの言葉を。それに、助けてくれた者を疑う道理もないしな」
タカベはそう言ってニッコリと笑った。笑うと目じりに深い皺が刻まれる。それはとても優しい目だった。のび太と、そしてスネオとジャイアンはその笑顔を見て暖かい気持ちに包まれた。
「あの、タカベさん!幾つか伺ってもいいですか?」
「ん?なんだい?」
「あの、この星……ヒストリアには、人が住んでないんじゃないんですか?」
のび太は率直に聞いた。端末では確かに無人惑星と記されていた、この星。しかし今のび太の目の前では、現実にタカベという男が動き、喋っているのだ。
「人が住んでないって……面白いことを言うね、君は。ほら、現にこうして俺がいるじゃないか。俺だけじゃない。俺の住んでいる国、トリユと言うんだけど……そこには何万人という人が住んでいるよ」
タカベの姿を見た時からこの星が無人でないことはある程度予想していた。けれど、改めて言葉となってその事実を知らされると、やはり3人の落胆の度合いは大きい。
「トリユだけじゃないさ。この星にはもう一つの国……大国パルスタもある」
「もう一つって、この星には2つしか国がないの?!」
タカベの言葉にジャイアンが頓狂な声を上げた。ヒストリアには国が二つしかない。その言葉が本当だとすれば、随分と小さい星なのだろう。もっとも全ての星が地球ほどの規模を有しているわけではないことを考えれば、そのような状況も当然存在し得るのであるが。
「そうだよ。君たちの星には、もっと多くの国があるのかい?」
「ええ、まあ……」
「ああ、さっぱりしたわ。あら、その男の人無事に目覚めたのね」
背後から静の声が響いた。タカベが起きるのを待つ間、再び風呂に入りにいったのである。この少女は本当に風呂が大好きなようで、今日だけですでに二回目の入浴だった。タカベは声のした方に振り返った。
「助けて下さってどうもありがとう。私の名はタカ……」
その時、静の顔を見たタカベの顔が見る見る内に険しくなった。それは先刻、射抜くようにスネオとジャイアンを睨み付けた、あの表情だった。
「エイレーネー帝……!」
タカベは、地を這うような低い声で搾り出すように言葉を発した。その殺意を孕んだ視線が自分に向けられているのだと気付いた静はびくん、と体を震わせるとその場に縛り付けられたように立ち尽くした。
「まさか帝自ら……」
何事か呟きながら静の方ににじり寄るタカベ。そのあまりに異様な雰囲気に、逃げることも叫ぶこともできずに硬直する静。その時、それまで黙ってことの成り行きを見ていたのび太がタカベに叫んだ。
「た、タカベさん!その人はエイなんとかじゃない!僕の友達の、しずかちゃんだ!」
その言葉にタカベは我に返ったようで、静の方に歩み寄るのをぴたりと止めた。ピン、と張り詰めていた空気が一気に弛緩していく。それにしてものび太といい静といい、タカベは一体何を誤解したのであろうか。
「……すまない、随分と威圧するような真似をしてしまった。私の勘違いからとはいえ、幼いお嬢さんにあのような態度を取るとは……軍人として失格だ。非礼を詫びる、許してくれ……」
先ほどのび太にしたように、タカベは深く頭を垂れた。そのままの状態でいつまでも頭を上げようとしないタカベを見て、静かは慌てて「いいんです、いいんです」と許しを与えた。
「僕もさっき誰かに間違えられたんだけどさ……もしかしたらこの星には、日本人に似た人が多いのかもしれないね」
場の雰囲気を変えるために、のび太は軽い調子で話題を振った。
「ああ、そうかもしれないな。確かにこの星の子供たちと、君たちの顔立ちはよく似ている部分がある。特に君なんかは国王と……ああいや、なんでもない」
「タカベさんのお国はナシータ……ううん、この場所から近いのですか?」
「そういえば……ここは一体どこなのかな。気を失ったままのび太君に運ばれたから、全く覚えていないんだ」
「そうですね。ちょっと外に出てみましょうか」
そこで話を打ち切ると、5人は揃ってナシータから外に向かった。
「しずかちゃん、先に行っていいよ」
のび太はどこかで聞いたレディーファーストという言葉を思い出し、静に声を掛ける。
「あたし、スカートなのよ?」
ジェントルに振舞ったはずののび太だったが、それは空回りしたようだった。スネオが梯子を上りながら下を振り向いて、ばーか、と小声で囁いた。
「ここです、ここ」
のび太が腕を広げてタカベに草原を示す。相変わらず日は高いままで、気温も少し上がったようだった。この星は、日照時間が随分長い。
「ここは、ケンジュ草原じゃないか!」
「ケンジュ?ここ、ケンジュって言うんですか?」
「変わった名前だなあ」
「何か意味があんのかね」
スネオとジャイアンが間の抜けた声で感想を漏らす。しかしそれとは逆に、タカベの眉間の皺はどんどんと深くなっていった。
「……のび太くん、悪いことは言わない。すぐにこの場所から、いやむしろ……この星から、出て行った方がいい」
「え、どうしてですか?」
突然、ここから出て行けと言われ、のび太は軽く混乱した。スネオとジャイアン、そして静もどうして?なんで?と疑問の声を上げている。
「それは……」
タカベが口を開きかけた、その時。
「みんな!すぐに地下室に入るんだ!」
「え?え?なんですか?」
「いいから急げ!」
タカベが鬼のような形相で鋭く叫ぶ。4人は、ほとんど蹴りこまれるように地下室に叩き込まれると、最後にタカベが激しい音を立てて地下室の扉を閉めた。それと、ほぼ同時に。
ドオオオオ……ン
「な、なんだ!?」
地上に響く激しい炸裂音。ナシータ全体も、僅かに振動したようだった。寸前に響いたあの音は、これまでの冒険で幾度か耳にしたことのある音であり、決して喜ばしい類のものではなく――おそらく、爆発音だった。
「タカベさん、一体何が起こったんですか!?」
全員が梯子を降りたところで、のび太がタカベに詰め寄る。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたタカベは、一瞬何か言おうと口を開いたがすぐに諦めたような表情を浮かべ、話すよ、と息だけの声で呟いた。
【続く】
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多すぎてケータイでよみきれませんがな。
一話目途中でリタイア。
週末まとめてパソコンで読みます。
あーでも第一話出だしから、ドラえもん愛溢れてますね。
ドラえもん最盛期(第二次ベビーブーム世代)に見たドラちゃんやのび太を思い出すよ!
大変wktkしています(`・ω・´)b
続きがきになる!!
ワッフルワッフル
wktk
重松清とか読んでるんですね。
願わくば、このままクソミソ無しの展開でいってもらいたい
クレイジーな方に進まない事を祈りますえ。
福井晴敏の小説を読んでるみたいだ。