酒を飲む以外には努めて外出しないように心がけているのであるが、それというのは、酒を飲む以外の用件についても一々外出していれば即・破産の憂き目に遭ってしまうからである。街には本当に誘惑が多い。
そのように極限なまでのストイック生活を送っていてもどういう訳か年中スカンピンな有り様で、結果として僕は年相応の分別を身につけるよりも先に『タカる・ユスる・バックレる』という負の三大技術ばかりを高めていくこととなった。これらの技巧を身につければ財布には優しい反面、人間関係には厳しい。副作用として友人が光の速さ爆散すると、いう諸刃の剣である。心臓の弱い方と、友人関係を重視している方には、オススメできない生き方だ。
故に僕は安居酒屋を探すことに血道をあげている。つい最近まで住んでいた鹿児島という土地は、その点について優しかった。そこでは定食屋はもとより、場末の喫茶店にまで焼酎が常備されていた。200円前後の値段であった。
何事にも猜疑的である僕は、本当に200円程度で焼酎が飲めるのか?という疑問を当然に抱いた。結果として僕は赴く店の殆どで実際的探求を行うこととなる。専ら知的好奇心に突き動かされつつ。
目の前に届けられた焼酎は、割られるでもなく、薄められるでもなく。ただ生まれたままの御姿で、要するにストレートの状態で、我々の眼前に鎮座在していた。200円で。
友人「ほら、ちゃんと来たじゃん」
僕「しかしなぁ……二杯目もこれと同じ量、とは限らんのじゃないかなぁ……」
何事にも猜疑的である僕は、瞬間的に統計学者のマインドとなる。同じ焼酎は二杯としてない。平均値はどこか。僕は友人と共に一杯一合200円の芋焼酎を飲み伏せると、あたかもそれが義務であるかのような所作で、二杯目を注文した。
友人「全く同じ量だよ」
僕「さりとてなぁ……三杯目あたりから誤魔化しのひとつくらいは入る可能性も……」
鹿児島中央駅、正午過ぎから夜半まで。
8杯を干したところまではかろうじて覚えている。
「いずれにせよ、鹿児島の飲食店が実直な経営をしていることは確からしい」
そんなようなことを、滝のようなゲロを吐きながら痛感した。
とにかくも鹿児島は優しく、そして懐深い土地であった。
記憶の中で同じく優しいものを挙げるとすれば、それは大阪へと帰納していく。そこにあった優しさとは鹿児島でのそれとは別種のものであり、平たくいえば 『朝からモリモリと飲める』 その点にあった。
東京にも朝から飲める店はゴマンとある。が、どちらかといえばそれは "朝まで飲ますよ" という色彩の方が強いことも否めない。オールをカマして、何となく流れで朝まで……という際には重宝するが、その実、店にいるほとんどの客の目は虚ろだ。僕の知る中で例外があるとすれば、築地市場の場外の居酒屋くらいのものだろうか。
大阪の場合、東京とは少し異なり、積極的な意味で朝から飲ませる店が相当存在している。僕が赴くのがいつだってそういう場所ばかりだからそう思うのかもしれないが。
「生、大ジョッキでくれや」
朝の7時に。還暦などとっくに通り越したであろうご老体が、少しの淀みもなくキッパリと言いのける、その姿。名状し難い "頼もしさ" みたいなものを覚えるのは、果たして僕だけであろうか。
「俺みたいなもんでも生きていていいんだ」
そう確信できる数少ない瞬間である。翌日には滝のようなゲロを吐きながら。
上述したような店の特質を兼ね備える店を、永く東京で見つけることができなかった。つぼ八のことは好きだ。しかし、あくまでもあそこは緊急避難所のような位置づけでしかない。
ただ飲む、という点を重視するのであれば、コンビニで酒を買って公園で飲むのがずっと安価で、ずっと自由だ。
しかし、伝わりにくいかもしれないが、僕が求めているのはそういうことではないのである。
「話題沸騰!焼酎、飲み放題で1000円!」
違うのである。
「自炊居酒屋!驚くほどのコストパフォーマンス!」
もっと泥臭く、もっとどうしようもない、何か。
そういうところで僕はお酒を飲みたいのだ。
ようやく見つけたそれは池袋西口にあった。その店は『ふくろ』といった。ある意味でひどく有名であるその店は、朝の7:30より営業を開始し、焼酎が徳利一本で190円であった。僕の求める全てを兼ね備えていた。
1階は全席カウンターで、どの時間帯を見ても平均年齢層は50代を下らない。事と次第によっては70代にまで達することもある。店内には一日を通して心地良い瘴気が漂い、負のオーラが充ち溢れ、仮に彼女との初デートをこの場所に選んだ場合、彼女側からの訴追により最高裁まで揉める可能性も否定できない。そのくらいワンダーでポップな雰囲気である。
酒の安さは先に書いた通りであるが、ここにはもう一つカラクリがある。結論から述べれば、そこで提供される焼酎というのが、質的において粗悪極まりないのだ。
この前隣り合った常連のオッサン曰く
「兄ちゃん、こんなもん飲んどったら早晩死ぬぞ」
年配の方々の放つ御言葉はいつだって含蓄が深い。
よってその焼酎を飲む場合、必然的に他の何かで割ることになる。経験則上、その徳利焼酎をホッピー (ノンアルコールビールのようなもの) で割れば、ざっくり言ってジョッキ3杯は戦え、それだけ飲んでも400円程度のものである。破格と言わなくてはならない。
加えて、この店で飲んでいると、ほぼ100%の確率で隣の席に座ったおっさん……もとい、人生の先輩方から、絡まれる……もとい、ありがたい説法を賜る……という貴重なオプションが付いてくる。この説法の珍重なところは、その法話の最中に30分ほど居眠りをカマしても、話題が何ら変化していないという点にある。ひとえに人生という道を語るには、那由他の時間を要するからに他ならない。
おっさん「だからさぁ!!○×□ぎゅhじこlp;@ふvbhんjkm、ホッピー!」
僕「ハッハーン……いやー、さすがっす!」
サンスクリット語を学ぶ機会にも恵まれることだろう。
とにかくも、酒が安く、時間的にも融通がきき、また朝から酒を飲んでいても何らの罪悪感を覚えることがない。そんな三点が相まって、僕はこの店を非常に重宝している次第だ。どんな土地にだって、酒に優しい場所はある。そんな当たり前のことを、僕は少しく忘れていたらしい。
最後に、あえて注意点を挙げるとすれば。
この店にはホームレスからヤのつく商売の方まで幅広い年齢層が取り揃っているそうで、この前話した常連のおっさん曰く
「そこらの席で騒いでたガキが外に連れ出されてボコボコにされてたよ。兄ちゃんも気を付けなね」
ガハハ、と笑いながら有り難い教えを説いておられた。
また、重ねて曰く
「あと、この店って一階には男女共用のトイレしかねーんだけど、若いねーちゃんが一階のトイレ入ったら、じいさんがその後ろからこっそり追いかけてくっから」
僕「お、追いかけて、何を?」
「見たり触ったりすんじゃねーの!?ガハハ」
実に示唆に富んだ御言葉を賜ったことを、ここに明記しておく。
1999年12月31日
この記事へのコメント
そこで肉さんに会えるのですね!
Posted by at 2010年10月08日 22:05
コメントを書く
この記事へのトラックバック
メールフォーム