『もしも、こうなれば……』
長い人生を生きる中、一度もこんな思いを抱かないという人は存在しないだろう。あの時ああしておけば!これからこんなことが起きれば!過ぎてしまったことを悔やんだり、まだ確定していない未来にあれこれ期待する…それはある意味で虚しいことだ。けれど、そんなことを思ってしまう僕らの存在もまた確かだろう。
『あんた、あの時もっと頑張ってたら……』
もしも――こうであれば――という思い。それは自分に向けてのみならず、他人に対しても抱くことがある。お前があの時早稲田に入学しておけば……とか、良美があの時に亮介君と付き合っていれば……など、実にビッグなお世話なのだが、実際に僕らがこんなことを言われることって少なくない。
何かを悔やむ気持ち、あるいは輝かしい未来を夢想する心。繰り返すが、そんな感情は誰にでもある。そんなことを願っても無駄なことだと分かっているのに、僕たちは『もしも』と思うことを止めることができない。
邪気眼、という言葉をご存知だろうか。インターネットに多少精通した方ならばその言葉の意味を理解していると思うが、一応ここで言葉の定義らしきものを引いておこう。
【邪気眼】
選ばれし者が持つという第三の眼。
転じて、子供の頃に考えたような痛い妄想設定のことを総じて「邪気眼」と呼ぶこともある。
僕もブログで何度か書いたが、こういう妄想というのは男であれば必ず通る、いや、通らなければならない道だ。それは人生レベルの必須科目なのであり、邪気眼を履修していない者に人生というカリキュラムを語ることは許されない。
邪気眼に代表される、若くて青い妄想設定。これこそがある意味で『もしも』的観念の最たるものだと思う。少年たちは夜、布団に潜り目を瞑る。眠れない夜、思考回路だけがやけに活発に動き始める。真っ暗で静謐とした部屋の中、少年の思いは遠く、遠く、遥か遠くへと旅立ち、そしてこう考える。
『もしも、俺の学校がいきなりテロリストに占拠されたらば……』
妄想テロリスト型。邪気眼類型としては初歩の初歩だけれど、基本は一応押さえておかなければならない。もしも自分の通う中学校がテロリストに襲われたら?!俺はどうする!?
『人質に三組のユミが選ばれ……』
少年たちがまず真っ先に人質のチョイスから始める、という点に着目するのも『もしも』学におけるキーポイントだ。ここにおいて
テロリスト⇒人質⇒軽やかにユミを助ける、俺!
という黄金の方程式が完成するのである。繰り返すがこれはあくまでも基本類型であり、バリエーションは無限に広がる。ただ、
『己が身を挺してテロリストを殲滅する』
という点だけは絶対に揺るがない。少年は皆、その心の中にスティーブン・セガールを飼い慣らしているのだ。
〜廃墟となった学校の中で〜
「なん…だと……!我々の組織が、こんな年端もいかないガキに全部やられてしまったというのか……!」
「チェックメイトだ。さあ人質を解放してもらおうか」(制服はボロボロになっており、体のところどころに血が付着している)
「う、動くんじゃねえ!動くと人質の命はねえぜ!」
「下園くん!来ちゃだめ!」
「ユミ!クッ……卑劣なヤツめ……!」(アーミーナイフを握り締めながら)
「ヘッヘッヘッ、人質がいる限り俺の優位は揺るがねえ……さあ大人しく降伏してもらおうか!さもn」
(中略)
「グッ……あと少しだったのに……まさかこんなガキに……」(絶命するテロのボス)
「ユミ、大丈夫か?!」(拳銃で撃たれた脇腹を押さえながら、夕日をバックに叫ぶ)
「下園くん、下園くーーーーん!!」(駆け寄ってくるヒロイン・ユミ。苗字は安田)
「もう大丈夫だ……さあ、家に帰ろ……う……」(突如倒れる少年。どうやら血を流しすぎたらしい)
「下園くん、しっかりして!ねえ、下園くん!」(涙を流しながら少年を揺さぶるユミ。実家は造り酒屋)
「へへ……どうやら無茶し過ぎたみたいだ……でも皆が無事だったのなら、俺は……それで……」(最後は小さく呟くようにしながら、目を閉じる)
「下園くん?!下園くん、下園くぅぅぅぅん!!!」(下園くーーん)
〜満足して睡眠〜
よくよく考えてみれば、中学校を占拠して中学生を人質にとって中学生に壊滅させられるテロリストだなんてマジでシブすぎるんですが、まあ少年の考えることですのでその辺りのツッコミはなしにしましょう。あくまでもこれは『もしも』のお話。そして中学生あるいは高校生はこういう妄想が非常に大好物で、下手すると大学生、あるいは社会人になってもこの手の『もしも』を得意とする人も、僅かながら存在しております。な。
もちろん、こんなことが現実になるだなんて真剣に思っているわけじゃない。現実味のないフィクションとしてこれらのことを思い浮かべ、その物語の主人公に自分を据える。それが邪気眼の起算点だ。有る意味でメルヘンチックな思考だともいえるし、メルヘンであるからこそふとした時に妄想を紡ぐ時が爆発的に楽しくなる。
メルヘンの世界ではいつまでも自分が輝かしい主人公でいることができる。一面からすればそれは逃避的でもあるが、せめて自分の脳内では自分だけがスターダムに!そう願うことは、別段不健全ではないだろう。妄想の世界においてまで過度にリアリスティックになってしまい
『学校で授業を受けていると、突然親父に金を貸してるヤクザが怒鳴り込んできて、教室はパニックに陥り、家に帰るとお母さんが泣いていて、晩御飯はご飯かけご飯で、そして僕は、僕は……(FIN)』
などと妄想する少年。決して存在しないとは言わないが、その妄想は誰が何を得をするんだ。結局、現実的であることが即ち健康的である、という訳ではないのである。
夢に夢見て夢を見る、そんな様相を呈する『もしも』の世界。でもここで考えてみたい。『もしも』そいつが現実になったとしたら?あなたが心に抱く邪気眼ワールド、それが明日にでもあなたの下に訪れたとしたら?『もしも』の『もしも』、何だかややこしくなってきたけれど、実際のところ理想とする世界が自分のところにやってきたら、一体どうなってしまうのだろうか。
〜学校にテロリストがやってきたでござる、の巻〜
「今からこの学校は我々の制圧下に置かれる!逆らったり逃げ出したりする者は容赦なく射殺だ!」
ユミ「し、下園くん!」
「うっひゃwマジすげーテロだってよwwwどうする畑中氏wwww」
「フヒヒwwwまずは写メっておきましょうwwwパリャリパリャリwww」
「俺、mixiに日記書こうっとwwwタイトルは『テロリストがきたけど何か質問ある?』でいいやwww」
「やりますな下園氏wwwさすがweb2.0www」
ユミ(なんでこいつら生きてるんだろう……)
〜2時間後、警察がきて事態は収束 FIN〜
かなり綿密に想像力を働かせてみましたが、ダメでした。これ以外の結末が思いつきません。否、これはちょっとリアルすぎた。『もしも』の世界を貫徹するのであれば、主人公がもっと強いという設定にしなければならない。ということでテイク2、アクション。
〜突如学校にテロリスト(山狗と呼ばれる部隊)がやって来て〜
「動くな!全員我々の指示に従え!」
ユミ「いやぁ!助けてぇ!」
「へっへっ、最近のガキはいい体してやがるぜ!」
「ヒャッハー!あとでたっぷり可愛がってやるからな!」
「待て下郎!」(颯爽と登場しながら)
ユミ「下園くん!来ちゃダメ!」
「なんだこのガキ!撃ち殺すぞ!」
「おいおいオッサン、安全装置が外れてないぜ?」(余裕の口笛を吹きながら)
「なにぃ!?」
「バカめ!オラァ!」(俊敏な動きでテロリストを殴り飛ばす、そして返す刀でテロリストの持っていたAK74通称カラシニコフを奪い取る)
「スティーブン!畜生、このガキめ!」
「地獄で祈りな!」(叫びとともに吐き出される鋼鉄の礫、テロリストの体を貫く。テロリスト、血を吹きながら絶命)
「バカ……な……」
「ふう、危なかった……まさかグリーンベレーにいた経験がこんなところで役に立つとはな。大丈夫か、ユミ」(最上級の笑顔で)
「……し」
「ん、どうした?」(手を差し伸べながら)
「……ろし、こないでよ、ひ、人殺し!!誰か男の人呼んでぇぇ!!」
〜2時間後、警察が到着して事情聴取を受ける。正当防衛を認められるも、世間の声に耐えかねて転校。しかし新天地でも噂は付きまとい、いつしか少年は心を閉ざして暗黒街に身を堕とす。20歳、ヤのつく職業の人たちにドラフト指名され、リクルート完了。後の大親分である FIN〜
おかしい、輝かしい未来のはずがゴッドファーザーのサクセスストーリーになってしまった。あの日僕たちが夢見た『理想の世界』はこんなにも血なまぐさいものだったのだろうか?
でも実際、同級生が血まみれになりながらカラシニコフを掃射している姿、それは確実に悪夢だ。悪者を駆逐するのは行いとしては正しいものの、おそらく世間はドライな評価を下すだろう。きっと実話ナックルズあたりは少年の一連の行為を『少年A、血まみれのジェノサイド!』と、狂ったフォントで殴り書き、みのもんたは憤る。悲しいが、それが現実なのだ。
いや、そもそも設定が突飛すぎた。この平和な日本においてテロリストが現れるだろうか?可能性がゼロとはいわないが、まずあり得る話ではないだろう。だからもっとリアルで、実際にあり得そうな『もしも』。今度はこっちを考えてみたい。
春である。先日も述べたが、今は新入生が多く出現する時期だ。特に新大学生となった諸兄は新生活に胸を膨らませていることだろう。それは僕もそうだったし、きっとかつて大学入学を経験した多くの人もそうだったことと思う。ちょっと古いドラマになるが、新大学生はきっと『オレンジデイズ』のような切なくて苦しい、それでいてどこか暖かいキャンパスライフを思い描くに違いない。
〜桜舞い散る大学のメインストリート〜
「俺たちが入学してもう1年かあ。早いよな」
「コースケ、覚えてる?あなたが入学式の日、もの凄い早口で私にメアド聞いてきた時のこと」
「……もう忘れちゃったよ」
「あー、照れてるー」
「うるさいなあ。そういうお前だって1年前はすっげー気合い入れたパーマかけてたじゃん!写メ見せようか?」
「ちょっと!あれは消してって言ったじゃん!」
「おいおい、相変わらず痴話喧嘩かー?全く仲がいいカップルだよなあ。そろそろ付き合って半年くらいになんのか?」
「いや、7ヶ月と2日目。そうだよな、千春?」
「……そういうのって普通、女の方が覚えてるもんじゃない?」
「そうかなー?」
「そうよ。絶対そう」
〜そして二人は家に帰り夜、腰が砕け散るようなセックス FIN〜
思い浮かべていないとは言わせないぜ、新入生のおまんら?いやいや、皆まで言うな!分かってる、俺にはよく分かっているから。な。詰まるところ、新入生の皆さんの『もしも』はこの辺りに集約されると思う。それが健全って言葉の意味するところだし、また青春そのものでもあるだろう。
しかしその『もしも』も、肉欲バイアスがかかるとこうなる。
〜春、乱雑にゴミが散らかる6畳1間の我が家で〜
「ねー、せっかくの春休みなんだしさー、どっか行こうよー」
「ダリーよ……どこも人がいっぱいだろ……」
「近場でいいからさぁー、ねぇー」
「今月ピンチだから金ねんだよ……ホラ、家でYoutube見ようぜ……」
「いーやーだー!どっかいきたーいー!つれてってよー!ねー!」
(うぜえなコイツ、つーか最近では化粧すらしやがらねえ)「分かった分かった、じゃあコンビニ行こう。もうゴムもねーしさあ」
「そんなとこ行きたくなーいー!どっか店とかぁー!」
「でもゴムないと困るじゃん!そうは言ってもホラ、お前も嫌いじゃないくせにさぁー!」(突如彼女の首筋をチュパチュパ チュパカブラ)
「あぁん……ダメ、お天道さまが見てる……」
(サークルの新入生に可愛い子いねーかなー)
(ノボルの前戯もマンネリだよなー)
〜極めて義務的なセックスを終えた後、カップ麺を食べてから就寝 FIN〜
なんですか、この『福本信行のマンガだったらたった2Pの展開で億単位の借金を背負わされそうな男女』の姿は……しかしながら、きっとこれがヒリつくような現実なのではないか。一年前は引き締まっていた男の腹はプックリと膨らみ始め、かつ、彼女のマニキュアもいつの間にかボロボロに。長く付き合う、というのは響きのいい言葉ではあるけれど、それは必然的に『緩み』にも繋がる。もちろんそれだけ気の置けない仲なのだ……という捉え方も可能だが、最初からその緩んだ生活像を理想に据える人はいないだろう。現実はそうであっても、本音のところでは
「ノボル、お・は・よ☆」(チュッ)
「ん〜、いい匂いだな。今日はトースト?」
「昨日、ちょっといいバゲットを買ってたの。さ、早く朝ごはんにしましょう」
これを望んでいるはずだ。ただ、繰り返すが
「んー……」(ガスッ)
「……ってぇー!オイ、てめぇー寝返りにかこつけて蹴ってくれてんじゃねーよ!」
「もう、朝からうるっさいわねー!このドリルチンポ!」
「黙れやレーズン乳首!ねぶりあげるぞコラ!」
現実はこうだ。決して履き違えてはいけない。そして、こんな場末のブログを読んでいる人たちはすべからくこうあるべきである。決して幸せになってはいけない。僕との約束だ。
結局何を言いたいのかといえば、結局妄想は妄想、『もしも』は『もしも』だからこそ意味があるのではないか、ということだ。人生という道が二つとない以上、我々は逃げようのない現実を粛々と生きていくしかない。そして往々にして、ちっぽけでささやかな、それでいて失うと切ない温かな幸せ、みたいなものは既に身近に存在している場合が多い。そのことに気付かず、漫然と今ある小さな幸せを逃してしまい、後になって『もしもあの時……』と後悔する。本質的に言えば、多くの『もしも』の出発点はその辺にあるんじゃないだろうか。
・ ・ ・
「ノボルくん、お部屋、綺麗に片付けといたからねっ!わたし、偉いでしょ?」
「お、おう……」(ちょっとくらい散らかってた方が、俺的には落ち着くんだけどな。聡子……)
・ ・ ・
「聡子ちゃん、僕はキミとのことは大事に考えているから、まだ体の関係は持ちたくないんだ!分かってくれるね?」
「え、ええ。もちろん」(別にすぐファックしてもいいんだけど、つーかしたいんだけど。ノボル……)
・ ・ ・
なんだか話が散り散りになってしまったが、心に多くの『もしも』を抱える全ての皆さんの人生に、幸の多からんことを……いつまでも幸せに……という無難な結びで今日の日記を締めたい。いや!やっぱり幸せになってはいけない。皆さんにおかれましては、できれば泥をすするようなキワキワの人生を送って欲しい。だって、きっとその方が楽しいのだから。僕との約束だ。
(続きものの日記の更新が滞ってますが、気長に待って下さいな!)
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妄想はタダだからいくらしてもいいんじゃないんですかね
いや面白かったけど。
な。の部分に肉欲さんのカルマを感じました。
今日のは面白かった。
でも今、目の前の現実が…………レポート終わらない………
これはオイラしかいないだろうというのがスパロボ方式の妄想
HP50000の黄色ユニットで颯爽と登場してはプレイヤー側と敵勢力まとめて相手にするを繰り返し、ラストでNPCユニットで味方として登場
もちろん超カッコイイBGM付きです
妄想という小さな幸福の為、更なるキリキリを目指して生きて行くことをここに誓います。
あといきなり日本で好きな女の子と2人っきりになってしまう妄想とか…
そんな僕も19になりました。
今では僕も立派な自宅警備員です。
A基本のテロリスト妄想
B能力者ネタ
そんな若かった自分を懐かしむ今の僕は二次元から帰れません
妄想の量的に卒論が書けそうです
来週から週一で休みもらえるんでまた通勤時の楽しみにさせていただきますww
みんなやってるんですね!
さて、今日はオーラ発現系の妄想でもコキながら寝ます
学校→テロリストが占拠→主人公の高校生が一人で壊滅させる
っていうライトノベルがありましたね。よく考えたらあれ完全に中二病ですね。
ただ私はさとこでもそうこでもないんですけどね。
あと、私はいまだに妄想はします。23歳、会社員なのでテロリストは出ませんけどね。