理由などない。
風に誘われ花に誘われ、ただ漠然と旅に向かったのである。
…これによく類似したくだりが、先日出版された町田康の「東京飄然」という本の冒頭に出てくるわけですが、まあまさにそんな感じで決意された今回の旅行。旅行の決意から出発まで2時間もかからなかったものな。
行き先は関西。
これには少しく理由がありまして、恥を忍んで言えば今から丁度三年前にも僕は一人でフラリと関西へと旅立ったのです。
今では信じがたいことですが、この時は精神がかなりファニーな状態、流行の言葉で言うと鬱、になっており、
『自分ってなんだ!』
といった類の思春期独特の懊悩を抱いた挙句、一路関西に向かった、とかそういう感じ。今思い出しても香ばしいですね。
そういう訳で僕も大学卒業を目の前にして、一度原点に立ち返ろうということで目的を京都に定め、さあ旅の準備です。最低3泊はするだろうから、それなりの準備を整えないと…。
rア ぼうたろう の アイテム
・パンツ 3枚
・充電器
・文庫 4冊
これだけの備えがあれば、まず間違いはないかと思いましたが、万一に備え出掛けのコンビニでチュッパチャップス(コーラ)も購入。これでいざ大震災が起こっても、僕一人だけ大飢餓から生き残れる!という寸法です!(新幹線で食べた)
夕刻、準備を整えた僕は一路東京駅へ。
東京一、いや日本一のターミナル駅たる東京は人でごった返している。
飄然と決めた旅行ですので当然の如く乗車券などは持ち合わせておらず、よちよちと切符を買いに行く僕。
最近はデフレが激しいことこの上なく、中野−新宿間のJRチケットなどおよそ150円で手に入る始末。こんなことでJRの財政事情は大丈夫なのかな?と思わず心配せずにはいられません。
まあでも、安くチケットが買えることは消費者としては嬉しい、というか迎合すべき事柄ですので、僕はにこやか&スマートにJR職員に向けて
「東京−京都の新幹線片道で」
と申し付けた。したところ
「12000円です」
「え?なんだす?」
「12000円です」
責任者出て来い、と思わず叫びかけてやめた。周囲にはテロ対策で警察が目を光らせている。こんなところで叫べば瞬時に逮捕&裁判、スイカはタッチ&ゴー。
思わず目の前が真っ暗になった。い、いちまんにせんえん。ファッションヘルスに行ける値段じゃないか。
この時僕の脳内で
『ファッションヘルスVS京都』
という注目のカードがPRIDEばりに熱い戦いを繰り広げたのは言うまでもない。実力は伯仲。勝負は五分と五分。泥仕合が予想された、が、リング脇のセコンド(僕の前頭葉)から
「初志貫徹だ!」
というアドバイスが飛んだため、京都は一気に優位にたち、辛くも勝利を収めた。
× ファッションヘルス−京都 ○
1R 3:47 (決め技:松葉崩し)
それにしてもえげつないどすなあ、JRはんも。短い区間の料金を安うしといて、わてらを篭絡した挙句、長距離運賃でガッポリ稼ぐんやからなあ。かなんで、正味の話。
と、唐突に関西弁。内心は早くも京都に向かう姿勢は万端だったのだ。けれども、12000円という急迫不正の侵害に僕はすっかり打ちひしがれ、晩年のホセ・メンドーサ(写真)のような体たらくで汽車に向かった。
線路は続くよどこまでも、不幸も続くよどこまでも。僕が購入したのは自由席だったけれど、どういう訳か席は全て埋まっておりました。
尊い僕のことですので、長い旅路を立って過ごすなんて荒業は到底できるはずもありません。これでもし僕がその道のプロであれば、おもむろに気弱そうな兄ちゃんの席の横にでも立って
「あーあー、座りたいのう!わしぁごっつ席にすわりたいのう!」
と鷹揚に叫べば万事解決なんですが、生憎と僕は任侠道にはとんと縁がないのでそんなことできません。というかもやしっ子ですしね。
とにかく僕ができることといえば我が身の不遇を呪うことばかり。しかしこの場合僕は何一つ悪いことをしておらず、だから悪いのは他の乗客ならびにJR(東日本)ということになります。
(みんな死ねばいいのに…!)
そんなポジティブな呪詛を撒き散らしながら、のぞみ356号新大阪行きは、時速400キロくらいで僕の体を運んでいくのでした。
(つづく)

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やる気が出ます。
哀愁を感じるよ
悩殺。
べ、別に驚いてなんかな、ないんだからね!