『モテたい!』
結局我々メンズは、この『モテてぇー』という宿便のような想いから、生涯逃れられないのではないか?僕はまだ24歳の若造だけれど、どういうわけだかそんなことを強く感じている。
「いや、別にモテたいとか、ないし……」
そういう人に僕は聞きたい。『本当にそう思っているのか?』と。
一生懸命に生きることがバカにされやすい世の中だ。モテたい!モテたい!と大っぴらに公言しながら生きていくこと、それは外面的には『モテることに血道をあげている、余裕のないヤツ』という評価に直結する。矛盾めいた言い方になるが、モテようとして逆にモテなくなる、という状況である。
そして我々メンズは、この『モテようとして必死になり、それがバレてひどく恥ずかしい思いをした』という黒歴史を、誰しも一つや二つ持っている。多い人になれば、3ダースくらい心の倉庫に格納されているものだ。
いませんでしたか?中学校時代の、あの頃。
思い出しませんか?登校して席に着くと、どこかからやたらとオーデコロンの匂いが漂ってきた、あの日のことを。
「……なんか、『臭わ』ない?」
そう、それは確実に『臭う』のだ。『匂う』ではなく『臭う』という形容詞がピタリな、あの状況。そしてその『臭い』の発生源は、どう考えても生き物係の安田!教室中には朝からジローラモなフレイバーが漂い、それに耐えかねたクラスメイト達の手により、2時限目の終わり辺りには恐怖の魔女裁判が始まる。
「つーか安田さぁー、今日何か『つけて』ない?」
「えっ?!」
安田に近づくにつれ強まるマンダム(mandom)な香り。どう考えても中学生には似つかわしくないそのスメルが、低血圧な女子たちの琴線をピピンと逆刺激する。
「あんた、臭いよ」
「え……!?」
その後の展開は想像に難くない。哀れ安田くんは周囲の女子連中から『朝から変だと思ってた』『マジあり得ない』『色気づくなハゲ』『公害訴訟起こすぞカス』など、言葉の限りに嬲られ弄られ、放課後を迎えるまでには悲惨なことに『マンダム安田』と称され、あるいは卒業を迎えるまでには『安田』の部分がカットされ、単純に『マンダム』と呼ばれることになるのである。
さて、ここからは安田サイドの話にスライドする。どうして安田は突然そんな憂き目にあったのか?なぜあのような自爆テロを敢行したのか?そこには、語りつくせぬ悲劇のストーリーが潜んでいることを、僕は切に訴えたい。
思春期ともなれば、当然『モテたい』という思いが、自然に発生する。けれど、それまでミニ四駆やビーダマン、あるいはハイパーヨーヨーに青春の全てを倍プッシュしてきた少年たちにあって、突然
『モテたい!モテまくりたい!』
という思いを抱いたとしても、まず方法論がない。ポケモンでミュウツーをゲットするテクは熟知していても、同級生の女子たちのハートをゲットする方法に関しては一切知識が存しない。
そこで僕たちは途方に暮れる。一体どうしたらモテるんだろう……という気持ちばかりが先走るが、肝心の作戦が全く思いつかない。『このままではいけない!』という考えは確かにあるものの、そこから先、『0』を『1』へと変化させるメソッドは帝国書院の教科書には書いていないからだ。
そんな時、これは僕らの時代の話になるのであるが、迷える中学生たちが出会う一つのバイブルがあった。今はなき『Hot-Dog PRESS』という雑誌である。2004年、めでたく廃刊となった当該雑誌は今では手にすることはできないが、僕がバリバリの中学生であった当時は、どのコンビニにも置いてあったように思い出す。
この雑誌の表紙に並べられたポップというのが、いつもいつも童貞のハートを150キロでストライクした。Hot-Dog PRESSは確か隔週発刊だったのだけれど、とにかく毎号のように
『モテる』
『ヤれる』
『女の子のイマ』
『この夏、○○がアツイ』
など、編集会議の状況を想像するだに涙を禁じえないようなポップが踊り狂うくらい精子臭い雑誌だった。一度など『皆のペニスサイズを計ってみよう!』という、完全に狂ったとしか思えないプロパガンダと共に、『チンコ定規』が付録として同梱されていたものである。
ただ、外からみればクレイジーそのものの付録ではあるが、青春にノイローゼしている若者たちのコンプレックスを的確に突いている付録ではあると思う。かくゆう私も測定してだね。その話はどうでもいいんだ!
話が脇にそれたが、とにかくHot-Dog PRESS誌。今でいえばその位置づけがどこになるのかは分からないけれど(メンズノンノとか?あるいはネットか)、当時のメンズは割と普通にHot-Dog PRESSやその他『ティーン誌』にモテのハウトゥーを求めていたように思われる。『東京ストリートニュース』とかな。
もちろん『チャンプロード』などを愛読しているバイオレンス層もいるにはいたが、彼らは彼らの世界(セブンスターやシンナーを吸いながら『便所』と呼ばれる女とハメ狂う、マッドマックスな世界)に棲んでいたので、今日の日記では割愛する。僕が話したいのはそんな極道の世界ではなく、もっと普通のお話だ。
初めて『色』に興味を覚えた我々は、モテるための方法論を得るためそれら雑誌に取りすがる。この辺の機微は難しいところなのだけれど、僕らウヴでシャイなメンズは、オナニーのことをあれこれ相談することはできても、『女にモテるためにはどうしたらいいのか?』という辺りは、絶対に相談しない。女性からすれば
「オナニーはよくて、モテ相談は嫌だとか、意味わかんないんだけど!」
と言われそうではあるが、男子というのは全体そういうもんである。
「なるほど……女は『いい匂い』のする男に弱いのか……」
部屋にこもり、ブツブツと呟きながら買ってきた雑誌を隅々まで精読する安田。雑誌から発せられる影響力は凄まじく、そこに書いてあることは正に『絶対的真理』のように心に響き、僕らあどけない少年たちはそこにある情報をほとんど丸ごと信じてしまう。どうしてか?言うまでもなく、モテたいからだ。
手探りの中、ようやく道しるべをキャッチした僕らは、乾坤一擲オヤジのコロン(mandom)を手にする。もちろん雑誌には『ウルトラマリン』とか『CK1』とかいった、マンコが濡れまくるほかないほどスリリングな香水がオススメされている。しかし、そんなのはあくまでも理想論なのだ。月3000円にも満たない小遣いしかない我々にあって、ブルガリやスカルプチャーといった香水を買いたいと願うこと。それは湖に浮かんだ月を掴もうとするようなものなのである。ムリなのだ。
「配られたカードで勝負するしかないんだ」
僕たちは血走った目で父親のマンダムを手にすると、機敏な動作で己の体にオーデコロンをぶっかける。そしてその時吹きかけるコロンの量は、致死量の3倍ほどであることをお伝えしておかなければならない。なにぶん初めての経験なのだ、加減など知りようもないのである。
「これで……俺も……!」
通学路を殺人的なフレグランスを漂わせながら、安田少年は確信する。『いい匂いのする男はモテる!』そんなHDP誌のポップも頭に踊る。そして颯爽と教室にインし、なるべく自然な様子で席につく。
女子「ねえ、安田くん?」
(ついにきたか?!)「なんだい?」
女子「臭いんだけど」
お前は鬼か、と僕は言いたい。いや、もちろんそれを言いたい気持ちも分かる!しかし、である。僕も男をやってて24年になるがハッキリ言ってこの状況、即座にインポになっても何ら不思議ではないだろう。それくらいのインパクトは確実に、ある。
1 頑張った自分が空回りしていた、という気恥ずかしさ
2 格好いいと思ってやったことが全然格好よくなかった、という絶望
3 モテたい!と思ってやったことが、まるで逆の結果を生み出したことへの悔恨
4 臭い。えっ、俺って臭いの?
つまり、4回死ねるのである。大げさに聞こえるかもしれないが、少なくとも少年の精神世界の中ではそうなる。繊細なのだ、思春期のメンズというものは。いや、思春期には限らないか。
こういう風にして、僕たちは少しずつ失敗しながら成長していく。今回の話はオーデコロンだったけれど、その他にも
『前髪をジェルでガチガチに固めた』
『なぜかサングラスをかけはじめた』
『衝動的に金のネックレスを買ってしまった』
など、実例に関しては枚挙に暇がない。そんな感じにして紆余曲折する僕ら、その集大成として僕らの中に様々な価値観が芽生えるのではないだろうか。
それら全ての事項は『振り返った時に確実に格好悪く思い出す』という部分で共通する。当時は『これは絶対に格好いい!』と確信して行っていたはずなのに、2〜3年もすると『思い出すたび死にたくなるメモリー』に属してしまう。僕も中学1年の頃、編み上げのブーツを履き、軍用のジャンパーを着て歩いていたことがあった。当時は間違いなく『俺、マジでヤベエ……』と思って着ていたのであるが、今なら言える。マジでヤベエよ。
結論を先取りすれば、そういうのって結局「上辺だけのカッコよさ」を追い求めるからダメなのであり、本質を見てないからこそ後になって格好悪い、ということになるのだろう。松田優作は平成の今でも格好いいわけだし、現代において織田信長に心酔する人だって決して珍しいわけじゃない。彼らは総じて『本質的な格好よさ』を掴んでいたからこそ僕らの心を捉えて離さず、逆に『上辺だけを追った』かつての僕らは、僕らからしても忘れたいだけの存在だ。
そんなことに気づいてしまうと、途端に流行を追うことが恥ずかしくなってしまう。かつての自分の恥行を思い出し、またあのようになってしまうのではないか……という憂慮から、新しく何かを追い求めることが躊躇されてしまうのだ。それはある意味で仕方のないことだし、僕にしても24歳にもなってHDP誌を読もうとは思わない。
しかし!カッコよくあろう、と願うことはそんなに悪いことなのだろうか?今日びはホイホイと流行に飛びつく人たちのことを冷笑的に揶揄する向きがある。確かに僕もそういう人たちの姿を見て『みっともねえな……』と思う面もある。けれどその反面で、
『ちょっと羨ましいかな……』
と感じる部分も、確実にあるのだ。
結局僕たちは、松田優作にも織田信長にもなれはしない。ただ、ヒリつくような『自分』という存在を生きるしかない現状にあって、その人生をどう過ごすかは果てしなく自己責任だ。だからこそ失敗を恐れてしり込みしてしまう気持ちは、どうしても生じてしまう。
けど、絶対失敗したはずなんですよ。優作も信長も。若気の至りでマゲをメッシュにしてしまった信長、絶対にいなかったとは言い切れないでしょ。ノリとテンションで『ウィノナフォーエバー』とイレズミをカマしてしまったジョニーデップ、今ではあんなに格好いい。失敗がその時々にあったとしても、それは結局、ヒリつくような『イマ』を正直に生きようとした結果として生じた事故でしかない。
僕たちは決してモテるためだけに生きているわけじゃない。でも、やっぱりモテたいと思う気持ちは常にどこかに燻っている。
『そのとき どう動く』
これは相田みつを氏の言葉であるが、結局『動く』ところから全ては始まるのではないだろうか。かつてのビターなメモリーから『モテようとするなんて、格好悪いし』と思うこともあるかもしれないけれど、僕は絶対にそんなことはないと思う。むしろ、モテようとしている人を「あいつ、まだあんなことしてるよ……」と冷ややかに笑う人の方が100倍格好悪い。少なくとも僕の尺度の中では、そうなる。
そんな僕は『モテたい!』という一心から高校生の時にバンドを組んだ。僕は楽器が弾けないので、楽器隊を集めて無理やりボーカルに就任した。そしてライブをしたところ、極めて大盛況であり、僕は内心『これで俺の人生も花開いた!』と確信したものである。
モテたのはドラムのAくんだけだった。これは実話だ。ライブ後、Aくんの前には30人ほどが写真を撮ろうと列をなしていたが、僕の前にはゼロだったことを今も鮮烈に覚えている。上辺だけの格好よさ、ボーカルという存在の分かりやすさ、それらだけを追い求めた僕の精神性が露見していたのではないか……と、僕は振り返ってそう思うのだ。対して、クソミソにモテたAくんは、ドラム暦9年。女はちゃんと『本質』を見抜いている。
「アンタ長々と日記書いたけど、だから何?」
そう、僕が言いたいのはただ一つ、『ボーカルはモテない』ということだけです。マジ騙された。やるならドラムがいいよ、ドラムが。もしくは三味線かな。
人気ブログランキング
顔 …○
おもしろかったですw
おもわず自分の黒歴史を思いだしたわ…
本日めでたく元カノとの復縁が絶望的になった僕でもとても楽しめました^^
がんばろう
「あいつ、似合うと思ってんのかよ」と聞こえる陰口を叩かれた私は女。死にてーーーーーー。
ストニューやエッグ見てキレイめを目指し、スーツ着た中学生。
アムラーが流行れば真似してた。
ウルマリもやはり大好きだった
今考えるとかなりヤヴァイですね(苦笑)
この頃の自分殺したいっす
面白いくらいモテません^^
ちょ、ちょっとあの時は親父が制服にコロン落としやがってさー言い訳すんのもなにかなーと思って…だ、大体あんな学校の女子になんて嫌われても良いって思ってたから「ハイハイうっせーよブタ!」位に思っていたんだから!
そんな僕は未だ童貞(清らかな身体)。
さっきまでそのゲーム調べてたから数倍焦りました
しかし男は馬鹿だなあ、とつくづく思う
うちのクラスにはキンシコウいますからね(髪の毛と中身的な意味で)
嫌なことをいっぱい思い出したぜ!ありがと肉さん!
なんなんでしょう。
毎日つけてたヘアーバンド、今見ると一昔前のふかわりょうでした
は、恥ずかしくなんかないんだからっ!!
最近の中で一番おもしろかったす(^^)
好みの問題なんだから
しかもその写真が卒業アルバムの個人写真だったりするから……ギャアアー!!!!
撮影の時のカメラマンさんの顔が忘れられない
さりげにポケモンから香水、果てはジョニー・デップネタて。
肉さん今日もインテル入ってるわぁ。
Core 2 Duoですな^^
○松田優作
男なら誰でもある黒歴史をこんなに堂々と書いて頂きなんだかすっきりしました。
つまんね。
マジでもうやめたらいいのに。
劣化くやしいのうwwwwwwwwくやしいのうwwwwwwwwwwwwwww
ところでちんこってどうやって測るんですか(´・ω・`)
僕もくせ毛の前髪が嫌で、どきどきしながらワックスで立ち上げたりしましたね。笑われました。もう殺して下さい。
あと劣化だの復活だの書かれてますが、これまでどおり気にせず好きなことを好きなように好きなときに書いてほしいです。あわよくばずっと書いててほしいです。
長文失礼しました。
自分の好みから逸れた=劣化。というのはあまりに浅薄な考え方。
いや、それにしても当時はモテたいと思ったことがなかったな。
野球という彼女がいたからかな。
ところで過去の日記の「好評を博した日記」のページ、更新されないのでしょうか??
更新希望です(>_<)
っていうかうれしすぎる!!!
肉さんの脂ののった文章が戻ってきましたね♪
今後の更新も超期待です^^
俺の黒歴史をピンポイントで抉って殺す気だ。
すいません、反省してますから許して下さい。
下を向いて大笑いさせてもらった。
あれだ。ありがとう。
じゃあ自分、ピアニカで。
自分は今回のかなり好きです
自分の黒歴史は中学校のとき化粧もせずにギャル系の服を着てた事ですかね
たま、というバンドのニヒルな坊主の人が情熱的に弾き倒してたような情景を思い出したけども。
ちんこ定規って、メジャーとかじゃダメなんだ。単位がチンコとかなのか。
まあ、中二病も行くところまで行けば神みたいなもんだし。
それなりに楽しめば良いと思う気がするなあ。
劣化と主張するなら肉さん以上の名文を提示すべきだろ?
どれだけの人間が肉さんの名文を楽しみに日々を過ごしてるのか…。
かくいう私もその一人です。
いたずらに肉さんのモチベーションを下げるより批評批判をしたいなら、より冷静で的確な批評批判をすべきだろう?
肉さん、これからもお体に気をつけて更新されて下さいね。
毎回楽しませてくれてありがとうございます。
自分はモテたいがためにブラひもチラ見せしまくってましたwモテたかどうかは秘密ww
こんな長く書いてこのオチとは可愛すぎる