先日、過去ログを読み返していたのですが、やはり昔の日記の方が今よりも気負わずに書けていた気がするのです。もっと自由に、そして緩やかに……そんな在りし日の、僕。それが今では小難しい単語ばかり並べ立てて、文章も冗長になってしまって。
これではいけない。そう思った僕は今日、何も考えずに脊髄の反射だけで日記を書こうと決めたのであった。
・・・
「仁美!ちょっと甘いものでも食べて帰らない?」
「え?いいけど……」
友人の里香から誘いを受けた仁美は、口ではOKしながらも内心暗い思いになった。仁美はごく一般的な女子大生であり、甘いものも人並みに好きだ。であるならば、どうして仁美は。
「ここが最近有名なんだって!さ、入ろっか」
「お茶屋さん……?」
ケーキか何かを食べに行くのだろう、と思い込んでいた仁美の目に飛び込んできたのは、純和風の茶屋。なるほど、里香が言うように確かに繁盛している。しかしながら、仁美の中の暗澹たる気持ちは一層その色を濃くしていく。
中沢仁美。20歳。都内在住で家族は4人。
身長162cm、体重48kg。髪型は栗毛のショートボブ。
そして彼女の性感帯は、おしるこ。
「いらっしゃっせー!!」
のれんをくぐった瞬間、店内から元気のいい声が響き渡る。声の主はこの店の若旦那と思しき人物で、見ると人の良さそうな笑顔を浮かべていた。そして里香と仁美は、若旦那に案内されるままに店内を奥へと進んでいく。
そして、その時。
「ヒャウ!!アッアッー!!」
「ど、どうしたの仁美?!急に大きな声出して!!」
仁美は刹那、全身に電流が走るような感覚を得た。腰はガクガクと揺れ、目は虚ろになり、口からは唾液がだらしなく垂れる。あまりの衝撃に仁美は体勢を維持できなくなり、そのままその場にへたり込む。
「ちょっと仁美!マジでどうしたってのよ!」
「……いさ……」
「え?何て言ったの?」
仁美は何かを喋ろうと賢明に口を開くのだけれど、言葉は声となって出てこない。それでも仁美は必死に奥歯をかみ締めながら、若旦那の方に顔を向けると、ようやく声を発することができた。
「お兄さん……この店のおすすめのメニューは……なんですか……?」
「おしるこですが」
「アフッ!ア、ア、ハァッ!……そ、それで、ここで使っている餡は……餡は何でしょうか……!」
「漉し餡でございます。いわゆる御前汁粉のことですね」
仁美の性感帯はおしるこ……でも漉し餡なら、漉し餡なら何とか耐えられるかもしれない……!そんなことを思った仁美は、若旦那の言葉に『ありがとうございます』と小さく答えると、息切れを隠そうともせず席に座った。
「ちょっと仁美さっきから何なの?アンタ、おしるこ嫌いだったの?」
「そうじゃない、そうじゃないの!ただちょっと……宗教上の理由で少し……」
「複雑な宗派なのね……」
仁美の告白に『悪いことをしたな』という表情を浮かべた里香だったが、それでもメニューから『本日のおしるこ』を選ぶと、遠慮なく店員にオーダーした。友情とは何と儚い……と仁美も一瞬思ったけれど、里香にだって悪気があるわけではないのだ。ただ私の……けしからんバディが全て悪いのであって……仁美はバラバラになりそうな思考をなんとか保ちながら、目の前にあった熱い緑茶に手を伸ばした。
「お待たせしました、栗ぜんざいです」
「話が違うわ!!」
やってきた栗ぜんざいの姿を見るや否や、仁美が甲高い声で叫ぶ。その尋常ならざる声の調子に、店内にいた客が一斉に仁美たちの方を見た。彼らの手の中にあるのは、ぜんざい、ぜんざい、またぜんざい。最早仁美の脳内はどうにかなってしまいそうだった。
「これが本日のおすすめなんですが……何か問題がございましたでしょうか?」
「問題がってあなた……恥ずかしくないんですか?!こんな真昼間からクリを……しかもぜんざいにまでして……もうこんなになってるじゃないですか!」
「仁美落ち着いて!!私、あんたが何を言っているのか少しも理解できない!」
ああ、いつもの通りの言葉だ。私はそう、昔からこうで……侮蔑と、猜疑と、そして好奇の視線に晒され続けてきたのだった。どうして私の性感帯はおしるこなのだろう……どうしてこんな呪われた体に生まれてきてしまったのだろう……お姉ちゃんの性感帯は、普通に土踏まずだっていうのに、私だけこんな……。
「お客様、もしおしるこがお気に召されないようでしたら、こちらの塩昆布はいかがでしょうか?!」
「し、塩昆布?!イヤァッ!!」
おしるこに加えて、塩昆布まで出されたとあっては仁美が冷静さを保てるわけもない。間近にあった若旦那の体を両手で突き飛ばすと、仁美は走って入り口へと向かった。その最中、他の客が食べているおしるこのことが目に入る。そこにあったのは、紛れもなく粒餡のおしるこ(いわゆる小倉汁粉)で――
(とにかくもう、ここにはいたくない!)
背後から聞こえた里香の声を無視し、仁美は街を走った。途中、何度となく道行く人間と体をぶつけたが、それでも立ち止まることなく仁美は疾駆する。若旦那に騙され、里香に裏切られ、他の客から辱められ……仁美のプライドは、既にズタズタだった。
「正一くん……!」
走りながら、仁美の口から愛する彼の名前が漏れ出る。正一くん、私、汚れちゃった。私、昔の私とは違っちゃったかもしれない。こんな私でも、正一くん、あなたは変わらない愛をくれますか……そう願いながら、祈りながら、仁美は街を。
「正一くん!」
「仁美?!」
正一の住むアパートに辿り着いた仁美は、ノックをすることもなく彼の家のドアを開ける。いつもの玄関、いつもの台所、いつもの匂いにいつもの、正一。何もかもがいつも通りのはずだった。そう、確かに仁美と正一はいつもどおりのはずだった。
ただ一つ、正一が里香と一緒におしるこを食べている、その光景を除いては。
「もう、急に仁美がいなくなったから心配したのよー!だからとりあえず正一くんのところに来ているんじゃないかな、って」
「違うんだ仁美!!話を聞いてくれ!!」
全力で走った仁美の口からは、荒い息が止め処なく溢れ出る。けれど仁美は見逃さない、正一が手にしているのがおしるこ――それも最中汁粉――であったことを。正一が私以外の人間とおしるこを食べて、いる。
「みん……え……」
「仁美!!話を聞いてくれ!!」
「皆死んじゃえ!!!!」
正一が止めるのも聞かず、仁美は来た道を駆け戻った。信じていた、何もかも委ねていた、それなのに、ねえ正一。毎晩枕元でみたらし団子を頬張ってくれたあなたは、もうどこにも、いないんだね。おしるこにトラウマを持っている私のことを思い遣って、夏の暑い日は宇治金時で我慢してくれたあなたはもうどこにも――いないんだよね。
気づいた時、仁美は新宿の西口にいた。
仁美の目の前にいるのは、大勢のホームレスたち。
「もう、どうなってもいいや……」
瞼を閉じれば、優しかった正一の笑顔ばかりが浮かんで消える。そしてそれが里香の笑顔と重なり、次の瞬間には奈落の淵に立っている自分の姿を思い浮かべてしまう。その全てが耐えられなかった。今はもう、耐えようとも思わなかった。
「おじさん……」
一番近くにいたホームレスに声をかける仁美。ダンボールにくるまっていた名も知らぬホームレスは、仁美の問いかけにうるさそうに顔を上げる。
「なんだぁ?金でもくれんのかぁ?」
「おじさん、これ、あげるよ……」
そう言って仁美はホームレスに何かを差し出す。ホームレスは突然のことに訝しげな表情を隠そうともしていなかったが、それでも大人しく仁美の申し出を受け入れた。
「缶のおしるこ?これ、ワシにくれんの?」
「お腹、減ってるんじゃないの?」
「おお、丁度甘いもんが欲しかったところだからなぁ。くれるっつーんならありがたくもらうわ。姉ちゃん何?ボランティアの人か何か?」
「私のことなんてどうでもいいじゃない……でも一つだけお願いがあるの……聞いてくれる……?」
「金ならねぇぞ」
「そんなのじゃない……ただそのおしるこをね……」
そこで仁美は一息付く。ここから先のことを口にしてしまえば、もう戻れない場所に行ってしまうかもしれない。仁美は再び瞼を閉じた。唐突に暗くなる視界、しかしそこに正一の顔が浮かぶことはもう、なかった。
「そのおしるこを……メチャクチャにして欲しいの」
「へ?」
「そうよ、獣のように、ジュルジュルと音を立てて、おしるこをメチャクチャにして頂戴!」
「よく分かんねぇけど、ならいただくわ」
ジュババババ!!激しい音を立ててホームレスの口の中に吸い込まれていくおしるこ。事前に熱を冷ましていたのが奏功したのだろう、ホームレスは缶の中身を一度に半分ほど飲み干していた。
「アァァァァァァ!!!いい、いいのぉ!!!!おしるこいいぃぃぃ!!!もっと、もっと激しく吸って欲しいのぉぉぉぉ!!!」
「こ、こうか?!」
ズババババ!!再び激しい音を立てて吸い込まれていくおしるこ。それとほぼ同時に、仁美の体内を絶望的なまでに激しい快楽が襲い掛かる。新宿西口の空の下、仁美は山月記の虎のように叫んだ。
「シゲさんどうした?」
「おう、チョーさんか。何かよく分かんないんだけど、この若い子がおしるこくれたんで飲んでんだよ。何かそこにまだ転がってるから、チョーさんも飲めば?」
「飲んで!みんなで好きなだけ飲んで頂戴!!ビャアアアアアア!!!!」
「俺も腹減ってたから助かるわい。おーい、皆おしるこ飲むっぺよ」
「そんな一遍に……でも私は……アアアァァァオオオオオオ!!!!」
「ウマウマ」
「最近の若い人も捨てたもんじゃないのう」
「アフッ!!アッ、アッ!!いい、いいの、おしるこいいのぉぉぉ!!!」
次々と空になっていくおしるこ、そしておしるこ。ホームレスの顔は甘みと温かさで朗らかになっていき、その傍らで仁美は白目を剥きながら、いつまでも絶叫を続けていた。
そして。
全てのおしるこがなくなった時。
シゲと呼ばれたホームレスが缶をまとめると、ビニール袋の中に放り込んだ。おそらくそれを売って糊口をしのぐのであろう。シゲは未だ放心状態にある仁美の所に近づくと、笑顔で声をかけた。
「姉ちゃん、ありがとな。お礼にこれやるよ」
仁美は黙ってそれを受け取る。
その手の中には、食べかけのアタリメがあった。
「私は……こんな物が欲しくておしるこを飲んでもらったんじゃないのに……」
今はもう誰もいなくなってしまったその場から、仁美はいつまでも離れられないでいる。手の中には、少なくない数のアタリメ――仁美は意識するでもなく、ごく自然にそのアタリメに手を伸ばしていた。
「美味しくない……」
アタリメからは、イカのような香りがした。
まだ芽吹く春も遠い、3月の空の下でのことだった。
・・・
ひでーなこりゃ。
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てかおしるこをもう普通の目で見れないww
お汁粉を作ろうかな・・・w
とりあえず勢いは凄かったです
よく考えたらいつもどーりかw
あずき水に漬けてあったww
肉さんとリンクした
あたしも性感帯おしるこにしよう
理解が追いつかねえwwww
ウケました。
授業中だから吹きそうになったww
こうゆうの好きですよ(・∀・)
を思い出した
そして「ひでーなこりゃ。」
で我に返って吹きました。
おしるこ飲みたいw
おもしろいなあ、もう!!
少々冗長なとこがあるいつもの文章の方が好きですわ。
良くも悪くも肉さんらしくて好きかもしれない
惚れ直しましたアニキ!!
wでも好きwwwww
武士ガールとかもうやめとけやめとけ。
もう人前で使えないw
肉さんの文才には毎度のことながら大変驚かされますね、性感帯:おしるこ なんて一般ピーポーには思いつかないッスよ(´Д`)
あと神木キュンとかアナゴとかな!
やっぱしアクセス数が上がればそれに反比例してクオリティは下がるなblogって。
あんま関係無いけど椎名林檎を今も好きみたいな感じ。「ソロ時代の前半辺りが絶頂。事変はカス(笑)」とか言ってるかぼちゃヘッドどもが大嫌いさ!
おしるこ最高wwww
脊髄反射で書く文章これからも楽しみにしてます!
読んでて変な気持になってきたしww
肉さん大好きっす!!
肉さんが好きなものを自由勝手に語る文章が好きなのです。
いつも、お疲れ様です。
肉さんの書く文章が合う日合わない日はあります。ただ、それは劣化如何の問題ではないはずで。合わないと感じたその次の日でも、お気に入り欄から「肉欲企画。」をクリックさせる力が、このブログにはあります!!おうえんしてまふ。
全部好きなんだぜ?
まさかこんなことになってしまうだなんて……
まったく、あなたって人は!!!
脊髄反射で放出される大量のスペルマに脳みそドロドロに溶かされました。
誰か肉さんを助けてあげて
毎度毎度最高に笑わせてくれる・・・!
バイト行く前の夕方と終わった深夜にここをチェックするのが僕の日課ですw
いきなり見せられても「あ、肉の欲だ」ってわかると思います
それってすげーです
応援してます(^-^)
隠す場所を変えたって「×しる×」じゃないですか!!最低!!
べ、別にツッコんで欲しいわけじゃないんだからね!?…「突っ込む」!?イヤァァァ!!卑猥!!
さすがにこれはどうかと思う。
しかし、受け手は送り手に何を言っていいもんだ、とか勘違いしてる奴って多いんだなあ。批評だ、とか言って。
批評の何たるかを理解している奴がどれだけいるのか怪しいもんだけど。とは言え、質が落ちてきてるのも確かなので、更新ペースを落としてじっくり書いてみる、とかっていうのもアリかもしれないですね。
皆が皆「最高!」って言ってくれるのなんてないんだし
一番心配なのは肉さんが必要以上に悩みすぎて妙な記事になることかな
そんな俺は「汁」の頃も今も肉欲企画が大好きです
長々とごめんね
表現力だけだよ、良いのは。
もっと短く完結にしたほうが良いよ