むかしむかしある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に――と、実に平和な毎日。おじいさんとおばあさんの間には娘が一人いましたが、今ではすっかり大きくなって村の若者のところに嫁いでいます。
だから二人は、今や夫婦水入らずなのです。
そんなある日のことです。おばあさんが川での洗濯を終えて帰宅すると、家の前に赤ちゃんが置き去りにされているではありませんか。
婆「野良赤?!」
驚いておばあさんは駆け寄ります。赤ちゃんはスヤスヤと眠っていましたが、その脇に一枚の紙切れがありました。おばあさんは手にとってその紙に目を落とします。
『両親へ。村の暮らしに飽きたアタシは刺激を求めて都に行くので、息子のことシクヨロ。
娘より』
こうして桃太郎はおじいさんとおばあさんの所にやってきました。
爺「村の会合でシゲさんらからビックリするくらい怒られてんけど……」
婆「そりゃ息子んトコの嫁が突然逃げ出したら怒るやろ……」
爺「どうすんねんこの赤子……」
婆「育てなアカンやろ……娘の不始末やし……」
爺「お前どうすんねん……」
婆「何をよ……」
爺「乳、ダルダルやないか……」
婆「それは言うなや……まだ母乳出よるし、なんとかなるやろ」
爺「えっ出てんの?」
この日から桃太郎と老夫婦の家族生活が始まりました。
爺「よー吸いつきよんなー」
婆「あんま見んといてや……」
爺「それにしても、ものすごいチュパ音轟かせよるわ。こいつはゴッツイ男になるでー」
婆「舌もレロレロ動きおるで。ア……ンッ!」
爺「とんでもないものを見てしまった」
二人の愛情を一身に受け、桃太郎はスクスクと成長しました。
しかし相変わらず村からの扱いは厳しく、おじいさんは会合で無視され、おばあさんが川で洗濯をしていると上流からキャノーラ油を流され汚され、芝は売れず、仕方がないので密林で大麻を製造して糊口をしのぐ毎日が続いていました。
そして桃太郎が割と成長したある日のこと。
「おばーちゃーん!」
婆「なんだい桃太郎や」
「赤ちゃんってどこから生まれるの?僕はどこから生まれたの?」
爺「どこってお前、そりゃマン」
婆「おっとジジイ、お前はそれ以上喋るなよ」
突然の質問に、おばあさんは激しく狼狽します。
婆(どこってお前そりゃ……確かにマンコの一択だけど、それを言えるか?こんな年端もいかないチャイルドに。そうなった場合、絶対に『マンコってなあに?おばあちゃん見せて!』ってなるに決まってる。その時、既に店じまいしちまったこんなマンコなんか見せられるわけないじゃない!)
そう思ったおばあさんは、同時に別のことも考えます。そう、桃太郎の本当のお母さんのことを。
ここで変なことを言ってしまうと、桃太郎は自分が親に捨てられた子供だと気づいてしまう。それは避けなければならない、なぜなら今、桃太郎は人格形成の大事な時期なのだから……しかしどうすれば……おばあさんの懊悩は続きます。
爺「婆さん、ワシに秘策ありや」
婆「……爺さん?」
爺「任せておけ。ワシも昔、親からこうやって教わったもんやで。おーい桃太郎。こっち来い」
「ねえおじいちゃん、僕はどこから生まれたの?」
爺「桃太郎、お前はな……」
「うん」
爺「桃畑で拾われた子なんや……お前は桃から生まれたんよ……」
「も……も……」
婆「じいさん……もしやもしやとは思っていたけれど、ついにアルツハイマーの波が……」
爺「今まで黙っていてすまんかった。でも何も恥じることはない。桃から生まれた桃太郎、なぜなら彼もまた特別な存在だからです」
「特別……」
婆「ちょっとおじいさん!あんまり適当なこと言わんといて!」
爺「かまへんかまへん。ワシも小さい頃は『お前はキャベツ畑で拾われたんやで』とかオカンからよう言われたもんや。それに比べりゃ桃畑は随分美しいやないか。雅やないか」
婆「おじいさん、桃は畑にはできんで」
爺「マジで?!」
こうしておばあさんは寸でのところで危難を回避しました。でもおばあさんは気がついていなかったのです。おじいさんのこの言葉が、大いなる災厄の序曲(プレリュード)であったことを。
「そうか。オレは特別(スペシャル)だったのか……」
3年後――
「グッ……アァ!!」
爺「ど、どうしたんじゃ桃太郎?!」
「疼くんだ爺さん……抑えようとしても疼く……オレの内なる桃力(コスモ)がな……!」
爺(コイツまたかよ……)
「どうやら審判の日(ジャッジメント・デイ)が近いらしい……オレの桃力(コスモ)が感じるんだ……」
婆「も、桃太郎や、なにを感じるのじゃ?」
「機関の策謀……そして"ONI"の目覚めの近いことを!」
婆(いや、鬼とかおらんし……)
爺(なんだよ桃力って……)
あの日、自分が特別(スペシャル)であるとすっかり勘違いしまった桃太郎は、いつしか見えない敵と戦うようになり、今ではマイナス方面に立派なヤングへと変貌を遂げていました。
「ちょっと田中さん!いい加減にして下さいよ!!」
爺「へ、へえ。先生。どうかなすったんですか?」
「どうもこうもないですよ!おたくの桃太郎くんのことです!今日の授業中、いきなり『オレの第三の目(サード・アイ)がコイツを悪魔だと囁いている』とかなんとか叫び出して、いきなり蓬田くんのことを殴りつけたんですよ!!」
爺「ほんとすいません。堪忍してやってつかあさい!」
「もうこれで何度目なんですか!!そろそろ私たちも堪忍袋の緒を緩めますよ?!」
婆「よく言って聞かせておくんで!ホントすんませんでしたー!!」
しばらくしてようやく先生は家を後にし、二人は長い溜め息をつきます。しかし、それも無理はありません。桃太郎がらみのトラブルは、これでもう38件目なのだから。
「ただいま……」
婆「ちょっと桃太郎!こっち来て座り!」
「おやおや、騒々しいことだ……」
爺「どうして学校で暴れたりなんかするんや!ダメやないか!」
「暴れて?オレは暴れてなどいない……」
婆「ウソついたらアカン!さっき先生が来たんやで!蓬田くんのこと殴ったんやろ!オカンは全部知ってんで!!」
「殴った?ああ、人間(ヒト)の子はあの程度のことで痛みを感じてしまうのか……どうやらオレもまだこの桃身(カラダ)の扱いに慣れていないようだ……以後気を付けることにしよう」
爺「もう学校で暴れたりするんやないぞ!分かったか?!」
「心得ている……オレが全桃力(ホンキ)を出して暴れたら、この地球(ホシ)はすぐさま塵になってしまう……やれやれ、不便な桃身(カラダ)だな……」
爺「ダメだこいつ」
「時に爺さん……オレはいつONIを殲滅する任に就くんだ?もうオレだけではこの桃力(コスモ)を抑えられそうにない……"精神感応金属"(オリハルコン)でもあれば話は別だがな……グッ!!アァ!!」
婆「どうしたキチガイ?!」
「疼く……疼くぞ……!急げ、早くしろ……早くオレのところに……煉獄の焔で焼かれた死魚を持ってくるんだ……!」
婆「爺さん訳して」
爺「アジの塩焼きが食べたい、と」
一事が万事こんな調子の桃太郎に、おじいさんもおばあさんもほとほと手を焼いていました。しかし、そんな二人のもとに突然の朗報が舞い込みます。
爺「おい婆さんや!ちょっとこれ見てみぃ!」
婆「どうしたんよ大きい声出して」
爺「これな、そこで拾った瓦版に書いてあったんやが、ここ、ここ見てや!」
婆「なになに……『あなたの家に手の掛かる子はいませんか?そんな時は是非我々にお任せ下さい!非行に走る子供たちをボコボコにし続けて30年、信頼と実績の我が施設が、親に代わってあなたの子供を鉄拳制裁。是非一度ご連絡下さい。戸塚』って……これ、なに?」
爺「いやな、桃太郎もだいぶ大きくなったし、そろそろワシらの手には負えんようになったんやないかと思うんよ。毎日あんな調子やし」
婆「そうやなー、ワシらももう歳やしな。それで、ここに預けようってことか?」
爺「そうや。あれも社会に揉まりゃ少しはマシになるんやないかと思っての。幸い金ならこの前の取引でたんまり手に入ったしやな」
婆「せやなあ、一度大人にビシッとしつけてもろうた方があの子のためにもええかもしらんな。でもあの子が大人しく従うか?」
爺「そりゃ大丈夫やろ」
婆「なんで?」
爺「『ここに鬼がおんねん。桃太郎、今こそお前の出番やで!』って囁いてやれば、きっとコロリやで」
婆「爺さん、悪魔的な頭脳やな」
爺「室町の御手洗潔とはワシのことよ」
二人の間で着々と進む策謀のことなど知る由もなく、桃太郎はその夜――
爺「桃太郎、大事な話がある」
「……聞こうか」
爺「西に、ついにONIが現れたそうなんや」
「"?!"」
婆「今はまだ大人しゅうしとるらしいんやけど、どうも一つに固まって力を蓄えよるらしいんよ。せやから桃太郎、ここはお前がONIをこらしめにやな……」
「……ようやく"元老院"のお歴々が重い腰を上げたか」
爺「え?なに?げんろういん?」
婆(じいさん!合わせて合わせて!)
爺「そ、そうなんや!あの"元老院"の"鉄の宰相"がついに決断を下したのや……そこでお前が選ばれたんや桃太郎……否、もはやその名では呼ぶまい。お前の出番なんや、P・B(ピーチ・ボーイ)!」
「P……B……!」
婆(じいさん!ナイスナイス!)
爺「機は熟した……今こそお前の全桃力(フルパワー)でONIを殲滅させるんや!行け、P・B!」
「……ク……ハハ……クハハハハ!!ようやくきたか!!この日が!!!待ったぞ待ち焦がれたぞ!いいだろう、それこそがオレの持ってうまれた宿命(さだめ)、この桃身(カラダ)の中ある全ての桃能力(チカラ)を出して、ONIを――倒す」
爺「ああ……お前の桃眼(モモ・アイ)も存分に使うがいいさ……」
婆(じいさん!ノリノリやな!)
「そうと決まれば話は早い。オレは今から出立する」
爺「ん?もうかい。意外と早いんだな」
婆「名残は尽きないけど、これも運命と思って諦めるしかないね」
「では行くとしようか……約束の地(プロミスト・ランド)へ」
婆「道中は長いから、これを持って行きなさい。私が作ったきびだん」
爺「ばあさん!」
婆「……気火=DAN=檎を」
「これが伝説の気火=DAN=檎か……ありがとう、礼をいう」
婆「いってらっしゃい、P・B!」
爺「グッバイフォーエバー!」
こうして桃太郎は、故郷を背に長い長い旅へと向かったのでした。
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続きに激しく期待せざるを得ないw
「おっとそれ以上喋るな」がツボった…肉さん天才だよ…。
是非続きが知りたい!!
“ONI"は退治されちゃうの?どうなのよ、ねぇ!?
めちゃくちゃワロタ
【肉欲より】
誤字です!申し訳ない!
でもやっぱり前に良く書いていたような
アフォリズム的な内容ある話が読みたいなぁ・・
愛しちゃった〜
笑い続けだったが、ここで盛大に吹いたwwwwww
おもしろいwww
許容範囲広いなぁ!先生w
続きが気になります!!
これ思い出した
なんだろうこのやるせない感じは。心の傷痕(スティグマ)が疼く。
隣の爺婆にものっそい嫌な顔された。
そのせいかいきなり電車止まった。
僕は、派遣勇者の続きも気になるなあ。
結構前にマイミク申請しましたが、まだ掛かりそうですかね?
気長にお待ちしております^^
気長に待ってます^^
きっと、きっとだよ
読みたいんですがみつかりません…
で、部屋で一人で吹きました
肉ちゃん、素敵ー!
もっともっとー★
ノリとテンポが最高です。
空いた口が塞がりました!
“祭り囃子が今日も聞こえる”(うろ覚え)は消してしまったのですか?
唐突に読みたくなって、過去ログ探したんですがありませんでした………
肉さんのリズム感溢れるぶれない文章が大好きです。
下ネタ、二次、シリアス、日記、内容に好みはあれど、読んでいて心地良いテンポで繰り出されるので多くの人が夢中になるのだと思う。自分もそのひとりです。
これからも(mixi共々)楽しみにしています!日記への米というより肉さんへのメッセージになってしまった、肉たんかわいいよ肉たん
続きを早く読みたいですなぁ
肉さん文才がすごいですな!
これからも頑張ってください
弟のしゃべり方、このP・Bと同じだわ。