「今日からは、しっかりやらなくちゃ!」
それはおろしたてのシャツや、買いたてのシーツなどが有する、あの独特の肌触りを身にした時の気持ちに似ているのかもしれない。サラリと優しい感触なのだけれど、どこか背筋を伸ばさなければならないような感覚にも囚われてしまう、あのテイスト。
「よしっ、頑張るか!」
ステージの違いはあるにしても、始めの一歩は誰にも等しく訪れる。それは幼稚園への入学であり、部活動への入部であり、アルバイトの初出勤日であり、あるいは夫婦としての契りを交わした日でもあり得る。棺桶に足を突っ込むのも、あの世への第一歩。それは甚だ不謹慎な喩えだと怒られるかもしれないけれど、とにかく僕たちの周りには事の大小を問わず様々な『初めて』が転がっている。
ここで精一杯やっていこう――
初めてランドセルを背負ったあの時の気持ちを、ようやく彼女と手を繋げたあの時の感触を、僕たちは忘れることができない。目の前に亡羊と広がるばかりの未来は、先が見えないからこそ底抜けに明るく見えて、その分だけ僕たちに高揚感をもたらす。
始まりの瞬間に、僕たちはいつでもポジティブな気持ちを覚えるからこそ、どれだけ心が疲弊しようとも、どんなに世界が終わろうとも、新しい『何か』に期待することだけは止めることができないのだ。
「今期のアニメはマジで終わってる……でも、来期はヤバイのが来るかもしれない!」
そんな小さな部分からも、マイレボリューションは始まる。もしかすると多くの人たちは『アニメごときで……』と冷たい笑いを浮かべるかもしれない。けれど、そのアニメ『ごとき』で幸せを得られる人も確実に存在する。
嗜好はそれぞれあっていいし、価値観は尊重されるべきだろう。その意味で言えば、あなたがアニメを笑うことも自由だ。けれど同時に、あなたの趣味嗜好も笑われているかもしれないことを意識しておいた方がいい。
対象が何であれ、『始まる』ことは誰しもに訪れる。極論を言ってしまえば、この世は全て始まりの連続だ。新しい朝、新しい昼、新しい夜、そして新しい明日。時間が不可逆である以上、あくまでそれは当たり前のことかもしれない。
けれど、そのことを常に意識しながら生きていくことはそう簡単なことではないだろう。
朝はいつでも当たり前のように訪れ、のんべんだらりと昼が来て、気づかぬ内に夜を背負い、目覚めた時には違う明日に出会う。
1日を尊く生きろ、だなんて大上段に構えたことを説くつもりは毛頭ない。そんなのは書店に並ぶ様々な啓発書が僕以上に雄弁に教えてくれることだろうし、毎日を無駄に過ごしている僕みたいな者が
「生きるって、こういうことなんだ!」
とシャウトしても、そんなのはギャグでしかない。それは、快楽殺人犯が『人殺しはいけないよ』と半笑いで説法する寒さにも似ている。
ただ、これだけは言える。
『始まり』に内在される楽しさそのものは十全に理解しているはずなのに、その時に抱いた『これからしっかりやっていこう!』とか『一生こいつに付いていくぜ!』みたいな、そんなポジティブさをすぐに失念してしまうのだ。僕という人間は。
『若い時分』とは、『イケイケであること』とほぼ同値である。いや、もはやイケイケとかいう言葉なんて使わないのか?!最近の人たちは。だったらオッパッピーでもなんでもいいけど、とにかくそんな感じ。簡単に言うと狂った状態のことだ。ざっくばらんに評すれば、思春期というのは一種のクレイジーな状態にあるものだと思う。
「狂ってやがるぜ!」
はたから見れば狂ってるとしか形容できない精神状態、それをマイルドに言い表した言葉が『青春』である、と信じて疑わない僕だ。
同じく僕も、10代の頃は間違いなくベルセルク (Berserk≒アンポンタン)だった。7回死んで8回生き返るような飲酒を繰り返し、世界で一番愛のこもっていない『好きだ!』という言葉を、出会う様々な女の人にバラ蒔いていた。
どうしてそんなことができたのだろう?振り返って思うのは、そんな狂った状態の僕が向こう見ずな酒の飲み方ができたのも、あるいは愛のないラブを撒き散らせていたのも、全ては
「ま、次があるし!」
という担保物権を心に抱いていたからに違いない。この酒がダメでも、次で挽回すれば……という思い。あるいは、こいつがダメでも他にいけば……というヘドロのようなそのマインド。そんな宇宙で最も無価値なニトロが、僕を動かす燃料だったのだろう。
タンポポのようだった、と思う。種だけ多くて、でも飛び散った先までは責任を持たないよ。更に俺は、種子がない!芽吹く春は、一生来ない!そんな僕のハートは、最悪の一言である。
楽しい、というだけではやっていけない世の中だ。どれだけ美味しい酒でも、適量を越えれば翌日には高い確率で二日酔いが訪れるものだし、シャブをキめればバッドトリップに襲われる。自由と責任、という言葉があるけれど、享楽的であり続けようとすればするほど、後になってのしかかってくる責任は重く苦しくなってくるもんだ。
「この新しい世界で、頑張っていこう!」
そんな時に僕らが胸に抱く高揚感は様々だ。無人島で生きている訳ではない僕らは、常に他者との関係の中で生きていかなければいけない。だからこそ、新たな世界に足を踏み込んだ時に僕たちは「頑張ろう!」とか「やってやろう!」と思うのだろうし、そんな気持ちこそが僕たちを動かす原動力足りうる。
僕が大学に入った時もそうだった。地方の片田舎から上京し、初めて見上げた東京の空。都会の空は汚い、だなんてことを聞いていたけれど、新生活の始まる僕の目に新宿の空は目を疑うばかりに澄んで映り、だからその青さがまるで僕の背中を強く後押ししてくれているようでもあった。
「ここで、頑張ろう!楽しそうだなあ!」
そんなことを明確に思った、あの日。
けれど、流されるだけの時間の中で、少年の心は驚くほどの早さで変わっていく。
「なんかよう分からんけど、とりあえず楽しけりゃいいんじゃない?」
目的もない若者の心にあっては、無批判に『頑張る』ということはいかにも苦い。一体何に頑張ればいいのだろうか?大学に受かったあの時の高揚感、それを忘れたわけではない。でも、そのモチベーションを抱き続ける意味を見出せない。
そんな屁理屈を心の中で紡ぎながら、僕はいつしか、寝て、起きて、バイトに行くだけの人間になっていた。当初抱いていた『頑張る』というマインドは捨て去られ、『楽しそうだ』という部分だけが肥大していったのである。
「マジ、お前の寝顔って可愛いよな!」
恋愛関係においても、スタートダッシュだけ早い僕は、いつでも熱しやすかった。お前を大事にする!絶対に!誰に対してであれ、その気持ちは確かなのである。ただ、その気持ちを保ち続けることは難しかった。
「マジ、お前寝てる時にイビキかくの止めてくんない……?」
付き合いも3ヶ月を経過すると、あの一種独特な熱病は過ぎ去り、後に残るのは当たり前のようなヒト対ヒトの付き合いばかり。そりゃ人間、生きてれば晴れの日もあるし雨の日もある。どれだけ可憐な女性でも、歯軋りを立てて眠る夜もあるだろう。
そんなナマナマしい恋人の姿を許すのは、きっと『初めてあの子を好きになった時の、あの気持ち』というヤツなのだと思う。
「つーかこの腹ヤバイっしょ!冬とはいえさぁー!」
スタートしか上手に切れない僕は、いつしかデリカシーのない言葉をも平気で吐いてしまう。
「お前のこと真剣に思ってるから言ってるんじゃん!」
当時はそんなことを言っていたように思い出すけれど、それは違う。言っていることは正しいとしても、伝え方の問題というものもある。
『好きだ、付き合ってくれ!』
あの当時にはあんなに優しくなれたのに、今では彼女の腹を摘みながら「なにこれ?どこに出荷すんの?」と平気で言えてしまうのは、人としてダメだろう。恋人になれた!頑張ろう!という浮かれ気分の中で、いつしか『頑張ろう!』の部分だけ失われてしまい、あるべき思いやりが欠けてしまったのである。
そのことは、バイトと睡眠と酒にだけ時間を費やしていた大学生活にも、そっくりそのまま当てはまるのように思い出される。
どうして、『初めて』のあの時の気持ちを持続できないのだろうか――
いつしか、自然とそんなことを思うようになっていた。
大学も卒業を迎える年のことである。
当時の僕は授業もほとんどなく、僅かに残った単位のために週に1〜2度ほど大学に向かう程度だった。その頃に至ると、大学に行っても知り合いに会う機会が激減する。周りも自分と同じような状況なのだから、それは至極当然のことだった。
大学1年の、桜舞い散るあの頃。周囲からの目を過度に意識した僕は、ヘアワックスで髪型をバッチリと整え、新しく買った洋服を身に包んでキャンパスを闊歩していた。全ては新しい生活のため。自分という存在を、少しでも良く見せるために……思えばあの頃の毎日は、常にほどよい緊張感と共にあったのだろう。
それが、大学4年の自分ときたらどうだったろうか。寝癖のままのボサボサの髪型、沖縄で購入した『酒好人』と書かれたノーセンスなTシャツ、寝巻きのハーフパンツ。こんな装備で、僕はどこの誰と戦いたいたかったのだろうか?いや、あの頃の僕は、もはやドラクエでいうところの『村人A』にすらなり得なかったろう。もはや人生レベルのバグである。
今日の飲み会は、渋谷だったかな――
それでも人間、拠るところがなければ生きていけない。当時の僕には酒だけだった。哀れな文系学生の宿命というか、僕の周りの友達も概ねそんな感じで酒にまみれていた。毎晩のように繰り返される酒宴、そこで消費される安い酒、安い会話、安い時間。でもその安さがなぜだか楽しく、だからそれだけを道しるべに過ごしていた。頑張ることを見失い、楽しさだけを愚求していたあの頃。
もうちょっと頑張らんで、ええんやろうか?
二日酔いの頭を持て余しつつ、キャンパスを歩きながら地元の言葉で自問する。けれどガンガンと痛む頭の中では答えなど見つからず、2秒後には何を考えたかすら忘れてしまう。
グルルルル!
突然お腹が痛み出すのも、丁度この頃。生来、深酒をすると腹を下す性質なのである。
(ちょっとガス、抜いとこか)
昔から、歩きながら放屁するのが得意な子供だった。幼い頃よりの努力と研鑽の甲斐あり、当時では既にウォーキングガスのスキルは職人の域に達していた。音はない、ただひたすら臭い!まるで自己主張の激しい忍者のような、僕のオナラ。
(きた!きおった)
直腸に感じる、確かな感覚。大物である、僕の脳内センサーがアラームを発した。それと同時に乾坤一擲、僕は括約筋を緩めた。
ミラ・ジョヴォ・ヴィッチ!
僕の肛門がハリウッド女優の名前をシャウトした。博覧強記なケツメドでしてね。違う!そうじゃない。世界で一番感じたくないあの感覚に、思わず僕の背筋が3年ぶりに伸びた。パターン茶、shitです。
狙ってのことではなかった。ただ、真実はいつでも苛烈だ。僕はケツの割れた部分に望まれない子、ゲル状のブラウン物体を産み落としながら東京の、千代田区の、四谷の大地でしばし――立ち尽くした。
――この夏、危険な匂いの男がモテる!
そんなJJのポップが頭の中に踊ったものの、このスメルは少々危険すぎることを即座に察知。おっとお嬢さん、俺に安易に近づいちゃいけない。火遊びなら別なとこでした方がいいぜ……俺で火遊びしようもんなら、メタンのガスが爆発しちまう。それくらいのパワー・スメル。いっそ殺せ。
四谷のキャンパスに詳しい方だけにお伝えしておくと、丁度8ピロ前、あのSJハウス前で僕は豪快に脱糞。僕の、僕だけの中で発動したザ・ワールド!時が止まった。いっそシアーハートアタックならよかったのに……とも思ったけれど、そのネタは少々ニッチ過ぎるのでやめておく。とにかく、生きていたくない、死にたい!という思いを抱いたことだけは確からしい。
「うー、トイレトイレ」
くそみそニクニック。半泣きになりながら、それでも義務的な内股でトイレに駆け込む僕。確か3号館です。あの、入ってすぐ左手にあるあそこな。もうあの時の僕の頭の中に、日米貿易摩擦のことなんてゴルジ体から分泌されるタンパク質よりどうでもよかった。とにかくウンコを始末したかった。ウンコ・アサシン。俺の後ろに、立つな!
幸いマイ・アヌスの爆撃は限定核だったらしく、ズボンそれ自体は平穏そのものだった。ただ、げに恐ろしきはツンパの焼け野原よ。おまんら、金輪際『阿鼻叫喚』とか使っちゃだめだよ。あれは、あの時の僕のツンパにこそ相応しい形容詞だ。いや、そこは僕のツンパの防御力を褒めるべきなのだろうか?とりあえずディフェンスに定評のある池上が、そこにはいた。
もう、怠惰な生活はやめよう――
ケツを拭きながら、唐突にトイレの壁に誓う僕。この脱糞の因果関係は、間違いなく昨日の酒だ。もうこんなことは繰り返したくない、だったらやはり、健やかに生きなければ……僕はその時、強く心に願ったのである。
その言葉を皆さんは空疎だと笑うのだろうか?僕が逆の立場でも、おそらく笑うと思う。しかし、往々にして神は細部に宿るのであり、1000の伝聞よりも1の実体験なのである。その意味で言えば、何のドラマ性もないあの日の出来事、そしてその実体験は、何よりも僕の心に重く響いた。僕は大学のゴミ箱の中に己のツンパを葬り去りながら
「肛門のコントロールを失うほどの深酒は、もう止めよう。頑張って生きよう」
と思ったことは、本当に確かなんだ。なぜなら大学に入学した当時の、あの気持ち。あのフレッシュな思いをキープしていさえすれば、僕が東京の、千代田区の、赤坂見附のすぐ隣のあの場所で――AK47通称カラシニコフを暴発させることは、なかったのであるから。
新しい出会い、何かをスタートさせる心。
それらは等しく尊く、楽しい。
だけど同時に僕たちは覚えておかなければならない。その時の気持ちを持続させる、その尊さも。
「何か臭くない?」
肉「ああ、夏が近づいてるな!」
頑張る手始めに、そんな痛ましい事故の後にもきちんと授業に出席した僕は、少しだけ評価されてもいい。
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吹いたwwwww
クソワロタ
ツボにはまりましたww
そんな肉さんも大好きです!!
○洋服に身を包んで
だと思う。
そのあとパンツをどう処理したか気になりますwwwww
何学部にしろ肉さん頭いーんだなぁー!!
盛大に吹いたwwwwww
途中「新しく買った洋服を身に包んで・・・」あたりの表現に違和感を感じたけれど、全体的な流れは流石としか言いようが無いです。
今回も堪能させて頂きました♪
バイツァダストじゃ何回も漏らす事になるし‥
が正解
夏の日の2007
アルコール飲み歩きは危険!!
そんな相手♀はクリスマスイブ誘ってみましたが家族で過ごしたいと断られました…
クソワロタマシタ
こいつぁマギもお手上げだw
あ、なんだ肉さんの排泄b(ry
あぁ、呼吸困難で危うく死ぬ所ですよ。笑い死にですよ。軽く殺人事件ですよ。そしたら肉さんは殺人犯ですよ?
笑いすぎてほんと死が目の前に見えましたよ。
もう、二度と『阿鼻叫喚』という表現は使わないことをここに誓います。
これからも伝説に残る人生を妥協せず歩み続けて下さい。
天才www
オーランド・ブルーーーム
って感じですね(笑)