昨日のこと。
急いでいた僕はエレベーターに駆け込み、やれやれだぜ、といった風情で『閉める』ボタンを押した。すると背後の方でガスッ!という音がして再びドアが開く。すわ、何事?!と思って開いたドアの外を見ると、僕の遥か前方、およそ50mほど先から悠然と歩いてくる初老の男性の影。後ろには、その部下と思しき男性が会釈しながら『開ける』ボタンをキープ・オンで押し続けていた。
暴れようかな、と思った。
けれど、そんなことで怒るだなんていかにも狭量だろう。それに、エレベーターは一種の公共物であり、僕らは譲り合って使わなければならない。しかし、それでも俺は急いでいるんだ!怒りたいけど、怒るに足りない。そんな風にしみったれた、僕の葛藤。
人は誰しも、心に神を抱いている。
それは『価値観』という名の神だ。
神は八百万の数ほどおわしまし、その態様はそれぞれに異なる。
神の在り方は、単純な善悪では評価できない。
神はただ『そこに在るもの』として、人の心に存在する。
急いでいるのだからさっさと扉を閉めてくれ!あの時、僕の心の中にいた神は確実にそんなようなことを叫んでいた。その一方で、『開ける』ボタンをキープ・オンしていた人は『上司が来るんだから、少しくらい我慢しろ』という神の声を耳に聞いたに相違ない。どちらにもどちらなりの言い分があり、やはり両者の是非は正しさだけでは計れない。ただ、真実はいつでも悲しい、ということだ。
神々の戦いは常に熾烈だ。特に男女それぞれの抱える神がぶつかり合う時、イヴァリースの大地は必ず血の赤に染まる。
「先っぽくらい、いいじゃん!」
それは名もなき男の声である。先っぽだけならセックスに入らないんだ!というのが、彼の教義なのだ。友達なんだから、ちょっくら先っぽくらい納品できるでしょ?!彼の中に住む神が、マンコの前で絶叫を上げる。
「先とか根元とか……バカじゃないの?!」
男の言葉を受け、女の神が怒りに狂う。友達だった彼、友達だと思っていた彼。襟を開き、清清しく夢のような付き合いを紡げていたと思っていた二人の時間は、瞬時にナイトメアと化す。
「そんなに安い女じゃないの!バカにしないで!」
彼女の神は『貞淑』という経典を片手に、激しく喚き散らす。ただ、実際のところは女の方から先に男にしなだれかかり、膝枕までしていたのであるが……しかしそんな事実を、彼女のゴッドは完全にシカト。常に荒っぽいやり方で男を責めるのが、やはり彼女の宗教なのだ。
「じゃ、じゃあオッパイだけでいいから!!マジで!!」
とにかくオッパイ、オッパイだけでいいから!揉ませろ!それは確実に狂ったマントラ。けれど、先ほどの『先っぽだけ』発言からすれば相対的に譲歩したように思えるのだから、宗教家の言葉はやはり熱い。とにかくもう、何かしないと収まりがつかないんだ!すっかり平静を失ってしまった彼は、ベンガルトラよりも獰猛だ。
ただ、彼をよく知る友人は次のように語る。
「オナニーをした後は、本当にいいヤツなんです」
だとすればこの体たらくは、一体?そう、彼の中の神は、既に邪神と化しているのだ。彼にだって平和を願い戦争を憎む、穏やかな時期があったはずだのに。
「……まあ、ブラの上からくらいなら。でも、目は瞑ってよ!」
乳を揉むなら『ブラの上から』『目は瞑って』。かつて、『キッスは目にして』という楽曲があったけれど、その例を待たずとも、彼女の発言は確実にクレイジー。この女性はそのブラインドで一体何を隠したかったのか?あるいは、ブラの上からであれば貞淑が保てるのだろうか?分からない、外から見ると甚だ理解に苦しむやり取りであろう。
しかし、再三になるが、正しさとか、常識とか、あるいは倫理とか。そういうのは神々の前において本当に無価値な概念なのである。常在戦場、彼らは既に戦いのワンダーランドの中に身を置いているのだから。
「なあ、やっぱり先っぽだけでも……」
ねえ、どうして先っぽなの?先っぽすれば、ええことあるのん?だから聞くなってば!そういうのは!山に向かって「どうしてあれは山なの?」とか聞くのか?アンタは。山は昔から山としてただそこにあるだけの存在なのだし、かつ、彼の先っぽ神も漠然と、しかし峻厳たる様子で、ただそこに在るだけなのだ。
もちろん、そんな彼をどう分析しようとそれはあなたの勝手だ。
『世の中には真実などない、ただ解釈があるだけだ』
ニーチェの抱く神は、その辺りのコクがよく分かってらっしゃる。しかし周りがどんな解釈を施そうとも、彼の中に在る神の姿はいつも一つだ。先っぽなのである。
「だってゴム、ないし……」
ゴムがあればいいのか!?アンタつまるところ、そういうことでしょ?!彼女の言葉に、僕たちの心の中にある『やす・きよ』のきよし部分が思わずツッコむ。いますよねぇー、こういう『固いんだか緩いんだかよく分からない基準』を己の中に設けている淑女たちって。とはいえ、このセリフをストレートに受け止めてしまえば、それは男の罪である。この場合、やんわりと断られたことに気づくべきだ。それは、男に恥をかかせまいとする、彼女のゴッドが下した配慮。泣かせるじゃねえか……と、思わず僕も江戸弁に。
「実は、ゴムあるんだよね(ニヤリ」
してやられた!してやった!神々の戦いは、既に高度な情報戦の域に達している。神の存在は揺ぎ無い、のであれば、こちらが足場を崩してやればよい、そんな明確すぎるセオリー。稀代の策士、げに恐ろしきは先っぽを司る神の胆力よ。
「でもアタシ……ゴムアレルギーで……」
打つも打ったり、投げも投げたり!やぶれかぶれの専守防衛?否、もはや意味が分からない。ゴムがなきゃダメなの、でもワタシ、ゴムアレルギーなの!って……そんなこと言ってお前、一体、僕らのチンポをどうするお心づもりか。寒い、その返しは、僕らの心にあまりにも寒く響く。しかし こうかは ばつぐんだ。
「そんなにしたくないのか……」
「うん、ごめんね」
「じゃあ、せめてフェラしてくれ」
軍神、爆誕!もはや『さすが』の一言である。何が『じゃあ』なのか。どういうロジックで『フェラ』というリリックがこの腐敗した世界に落とされたのか。できないのであれば、フェラで……そんな気持ちは男の僕らにはよく分かる、けれどそいつは少々トンチが利きすぎているように思われるぜ。
「何言ってんの?!手でするならいいよ」
口はダメ、ゼッタイ!でも手だったらオッケーだよ☆僕が言うのも何なんだが、そんなあんたはナウ、確実に眩しい。何か目の前にある山があまりにも高すぎて、もうどれくらい高いのかすら分からなくなって眩暈がするような、あの感覚。分かりますよね?僕の言ってること。生乳はダメだけど、でも手コキなら……ええんよ?
『……』
分かってる、みなまで言うことなかれ。そういう神もいる、という話でしかないんだ。
・・・
便宜上、体関係の話になってしまったけれど、こういうのってきっと世界中のどこにでもある。自分の中で決して譲れない、譲りたくない大事な部分。絶対に目に見えない、極めて抽象的なその思い、それを僕は神と呼びたい。
「おー、エレベーターで待っててくれたのか!すまんな!ガハハハ!」
「いいえいいえ、これくらい当たり前ですよ!ヒャハー!」
彼の中の神は、上司の方だけ見つめていた。それはおそらく『処世』という名の神だ。その神の前では、急いでいる僕の存在なんて本当にちっぽけなものだろうし、あるいは階上でエレベーターの到着をイライラと待つ人たちの存在も、絶対に認識されない。決して善し悪しの話ではない、ただそういう神もいる、というだけのこと。
鉄道の神、幼女の神、中華料理の神、中出しの神。神々は様々おわしまし、そしてその態様も種々雑多だ。
「そっちが誘ってきたんだろ!?」
「アンタがムリに手コキさせたんじゃん!バカじゃないの?!」
神々の戦いはいつまでも終わらない。周りはその様子に、手も出せず、口も挟めず、ただ見守るしかできない。上掲したフィクションのお話、その中にあって男と女のどちらがより責が大きいか?過ぎ去っていくしかない時間の中で、それは誰にも分からない。
「お前だって、オッパイ触らせてくれたじゃん!そりゃ、男だったらムラっとくるわ!!」
けれど、声の大きい方が勝ちを収めることだけは、どうやら確からしい。
「本当に触るとか思わないじゃん!女の子って、男の子に力で敵うわけないんだよ?!」
「そうよ!この短小!ハゲ!ユニバーサルマスク!」
「男はいつもそう!玉なし、いや玉あり!うんこ食べてる時に松崎しげるの話をするのも、いつだって男!サイテー!死ね!」
そして往々にして、女性の声の方が随分と大きいことも、どうやら確からしいように思われる。
「ご、ごめん……そんな風に思ってただなんて……」
「ゴメンなんて言って欲しい、とか言ってないし!謝るくらいなら、最初からしないで!!」
神は死んだ。
神は死んだままだ。
そして我々が神を殺したのだ。
でも僕は、そんなしどけない先っぽの神の方を、是非応援したいのだ。男なら誰だってそうだろ?そこはさぁー。
「でも、ただの手コキだし、いいじゃん……」
そんな調子で、頑張れ神々。
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まさにgood timing。
その子は気付くとマイミクから消えてました。
神は死んだ。それからずっとEDです。
忙しいのかな?
マリリンマンソンのこれ思い出した。
ROCK IS DEADだったっけ。
まあともかく。
やっぱり定義がいるのかね、セックスには。
学生時代に同じようなくだりをかましてしまい、あまりにもなつかしくて……
しかし自分と彼女の神談合は
「何もしないし触らせないけど、自分でオナって。見ててあげるから。」
で決着しましたが。
毎度のことながら
肉さんのお話は為になります♪
やはり神の采配はいつだって卑小な民草には理解できないのか…
確かに我々が殺したんですかね・・・・・・。
んで最後えらく投げ遣りな感じがwwwww
ハッ!肉欲さんは、まさか神?
僕は友人の女性に断りなく触って、入れました。
その後、何事も無かったような友人関係が持続中。
…という誰の得にもならない妄想をした事を告白します。
けか手コキまでやったらもう駄目だろう・・・
お前を楽しませるためにコメント書いてるわけじゃあるまいしw
そう思うならお前はもう少しマシなこと書けよw