長い間、僕は女性というものを神聖視してきた。それはつい先日の日記にも書いた通り、僕が男三人兄弟という煉獄のような環境で育ったことに大きな原因があるのだけれど、とにかく女性に関する基本的情報を得る機会が著しく少なかった僕にとって、抱く女性像は全て『BOYS BE...』というマンガから与えられた。
BOYS BE...という作品は、簡単に言えば『 ウヴな男子高校生が、思いを寄せる異性に中々気持ちを伝えられなくて右往左往する正統派純愛マンガ 』といったテイストだ。内容のほとんどが数話完結形式のショートストーリーで、物語序盤はただの友達同士だった男女二人が、話の終わりの方で無事に想いを伝え合い、めでたしめでたし……となる、何とも牧歌的な作品である。
僕もいつかはBOYS BEのように!青春時代のあの頃、胸に抱いていた思いは総じてそんなことだったように思い出す。
そんな風に女性経験値が限りなくゼロに近かった僕は、女の子と仲良くなりたい!という思いだけは人一倍強いくせに、結局何もすることなく青春の日々をいたずらに過ごしていた。それでも欲望だけは誰よりも強い僕は、その行き場のないルサンチマンのほとんどをオナニーによって吐き出していた。
「お、肉欲なんか眠そうやん。夜更かしでもしたん?」
「いやー、昨日の部活がきつくてね……」
多感な頃である。当時、恥ずかしさのあまり『オナニーをした、たくさんした』という自分の存在を外に向かってアピールしたくなかった僕は、いつの頃からオナニーのことを『部活』と称するようになっていた。そして、僕の部活はあの頃、相当にハードだったように思い出す。きっとストイックだったのだ、僕という人間は。
部活がハードになればなるほど、僕の中の罪悪感は重さを増していく。というのも、僕の抱くイメージの中で、女子たちはタバコも吸わなければ酒も飲まない、夜は毎日のようにリリアンを編み、週末にもなるとクッキーでも焼いているのが通常だったからだ。当然、オナニーなんてしない。いや、してはならないのである。
そんな一方的な思いを抱く反面で、肉欲少年は毎晩、まるでそれが義務であるかのように、シリアルキラーの目つきで激しい部活に打ち込む。こんなことをして俺は……俺はっ……!と、すぐそばの彼方に存在する清楚な女性たちに後ろめたさを感じながら、それでも鳴り止まないライトハンド奏法。そして全てのことが終わった後に、
「最低だ……俺って……」
と、シンジ君の気持ちで呟くのである。エヴァがリアルタイムで放映されて間もない当時の頃だった。
一体自分はどうしたいのだろう?!思春期を通過した男なら、誰もが一度は抱くこんな類の自問。僕の部活動が激しければ激しいほどに、そんな終わりなき煩悶を持て余したものだった。俺が抱く女性像は清楚で、凛々しく、そして穏やかなはずだ。だったらなぜ?!目の前の画面の中にいる女性は、臆面もなくチョコボール向井のチンポを激しく舐めまくっているのか!?!リリアンは、クッキーはどこに!!女って、俺の理想って、一体なんなんだ!!?!
そんなあまりにも青すぎる春の中、僕は明日の予習のために……と開いていたチャート式に一切手を付けることなく、激しい部活動の疲れに負けて眠った。
僕の高校時代は、結局そんな3年間だった。多少付け加えると、最後まで女性と接することに慣れなかった僕は、常に男友達とばかり行動しており、まあこれは男の人なら分かってくれると思うんだけれど、年頃の男同士というのはスキンシップの一環でお互いのチンポ部分を揉み合ったり、あるいは肛門のシワの数を数えあったりするのが常なんですが、そういうプレイって彼女持ちの人たちがやってた場合であれば、
「ああ、あれはギャグでやってるのかしらね」
と笑い話になるところ、彼女もいない僕がバリバリとそんな行為に勤しんでいた場合ちっとも笑えないワケで、いつしか僕は女性たちから逆説的に
「あいつはホモに違いない。ホモじゃないと許さない」
という非常に誉れある称号を頂き、桜舞い散る3月の風の中、静かにそしてゆっくりと思春期が幕を閉じたことをお伝えしておきたい。
・・・
そんなロマンチストだった僕のことを、今では「まったく、どうしようもないバカだったよな」と笑ってしまう自分がいる。花を愛で、そよ風を慈しみ、常に笑みをたたえ、そして固く操を守る。そんな女性は二次元の向こう側にしか存在しないことを知ったのは、20歳を過ぎてからのことだった。
東京に出て、女性の汚い部分とかを一通り見た気持ちになっていた僕は、いつしかニヒリストになっていた。どうせ、女なんて……と卑屈に呟き、退廃的な笑いを浮かべる。どうせオマンコしたいだけなんだろ!?オイ!!と、意味のない咆哮を5度ほど新宿3丁目で叫びかけたものだ。
そんな僕が大学2年の春の頃、とある事情から新入生の世話を一手に引き受けることになった。
入学したばかりの新入生というのは、まだ足跡の付いていない新雪のようなものである。これがサークルの勧誘、新歓コンパ、そしてGW……と様々な嵐を経験していくうちに、いつしか雪はアイスバーンへと変化していく。最初の頃は「あー、私これ好きなんですー」とカントリーマァムを食べていた長野出身のミホちゃんが、GWを過ぎると喫煙所でショートピースを吸い出したりする。大学1年生の移り変わりは真に激しい。
そんな中にあって、新入生が最初に出会う『センパイ』になれる機会というのは、いかにもチャンスだった。目の前に広がるまっさらな雪を、一番最初に踏みしめたいと思うのは誰でも同じだと思う。加えて、人が新しい環境に飛び込んだ時というのは、身近にいる目上の『センパイ』たちが大層心強く、かつ実物の2.7倍ほど格好良く見えるものである。
「あんたはそんなルーキー特有の、脆い精神状態に付け込もうってワケ?最低です」
だがちょっと待って欲しい。最低だから何だというのだろうか?僕が最低であったとして、それで誰かに迷惑をかけたのだろうか?僕だってちゃんと消費税とタバコ税、それに酒税とか色々払ってる限りにおいて国民全体の利益に資しているわけだし、それにイエスはかつてこう言った。『あなたがたのうちで罪のない者が、最初に彼女に石を投げなさい』と。皆だって、生きているうちの中で誰かの弱みにつけこんだ機会が一度もないとは言わせたくないんだぜ?
さて置き、僕は「やる。いろいろやってやる」という強い気持ちと共に新入生の下へと走った。もちろん新入生全体を僕だけで世話することは不可能なので、幾人かの友達と一緒に。
「なあ、今年の新入生ってどんなかな?!」
「ツインテールのお嬢様風、とかいたりしてな!!」
「『センパイ、履修登録だけじゃ寂しくて……私のことも肉体登録あそばせぇぇぇぇ!!』なんちゃちな!!」
「ウヒョヒョーー!」
正しい男の姿である。
・・・
「肉欲さん、この授業のことなんですけどぉ〜」
「ああ、それはね……」
「肉欲さん、これからも学校のことで色々聞きたいこととかあると思うんで、メアドとか教えてもらっていいですか?」
「ああ、いいよ」
まさに我が世の春であった。センパイ、という肩書きは予想以上に大きかったらしく、まさに千切っては投げ千切っては投げ、八面六臂の大活躍。僕の携帯のメモリーはグングンと増えた。
「おい!メアドどんくらいゲットしたよ!?」
「おう、今んとこ17くらいやな!肉欲は?」
「俺もそんくらいやな!!たまらん!!」
「『センパイ、なんだかメアドだけじゃ寂しくて……今夜は私のドメインにもman.comしてぇぇぇぇ!1!!』なんちゃちな!!」
「ウヒョヒョーー!!」
正しい、正しすぎる男の姿である。
・・・
人が浮かれる心理というのは、一体どういうものなのだろう?僕は専門家ではないので、そのあたりのことはよく分からない。ただ、一種の『狂った状態』にあることは、ほぼ間違いないように思う。
だから僕はあの頃、おそらく狂っていたのだろう。
「もう最近の若いのはスゴイからな!ちょっと押せばもうコレのコレでコレもんやろ!?正味の話さあ!!」
「間違いない!間違いない!」
僕はそんなことを叫びながら、友人の前で次々とメールを掃射した。もう、BOYS BEを信じた、あの頃の僕の姿はそこになかった。
「楽しまなきゃ損でしょ!やっぱ!」
・・・
ほどなくして、飲み会が開かれた。そこには見知った新入生も何人かいた。何度かメールをした女の子もチラホラいる。ここらでもっとクロス(親密)な関係になっておきたい……!僕は内なる闘志をたぎらせた。
「よう!だいぶ大学も慣れた?!」
「ええ、まあ……」
シーン。咳をしても一人。えっ、なんだこの冷たいリアクション。ブリザードもかくや?!の寒さである。僕は状況を理解できない。
「一人暮らしをはじめた頃ってさあ!何かと寂しいよね?!?」
「そう……ですかね……」
その時僕は、便所に生きるカマドウマの気持ちになった。そこに居るのは許されない、でもそこで生きていくしかない!便所コオロギの、そんな切ないカルマ。それにしても、他の人とは楽しげに喋っているのに、どうして自分だけこのような仕打ちに合うのだろうか。
「そういえば先日、俺の垂乳根から電話がかかってきてさあ!!」
「たら・・ちね・・・?」
しまった!こいつ確か帰国子女だった!いや、そういう問題じゃない。飲みの席で、古語を駆使する男ってどうなんだ?しかし僕には、これしか喋る言語がないんだ。母親のことを垂乳根と呼んだって、それはそれで風流なはずだろ!けれど新入生の目つきは、やはりマイナス196℃をキープしたままなのである。
「じゃ、また……」
僕は結局、何が何やら分からないうちに、そそくさとその場を後にした。
・・・
「えぇ〜?だって肉欲さんってボンクラっつーか、そうとうロクデナシなんでしょー?」
結局、全ての『こと』が露見したのは夏前になってのことだった。僕の不遇はあの後も続き、果たして僕が新入生と肉体履修やman.co.jpを為すことはなかった。
「つーかあの頃、肉欲さん色んな女の子にメールとかしてたじゃないですかー。そういうのって、マジアウトっすよ」
確かに、した!でもメールだけで?!と思った僕はやはりまだ青い。メールだけで、とかそういう問題ではないのだろう。浮ついた男、チャラチャラした野郎、そんな評価を僕の行動の全てから下されたことは、どうやら確からしい。
「やっぱ女の子は自分だけを特別に扱って欲しいってとこ、ありますからねー」
「そういえば、BOYS BEにもそんなことが書いてあったような」
「え?なんですか?ボーイズ?」
「いや、なんでもない」
詰まるところ、答えは元から自分の中にあったのだ。浅薄な経験から女性というものを全て知った気になり、軽んじ、ナメた態度でメールを送り、結果皆から忌み嫌われる。こういうのを総じて因果応報と呼ぶのだろう。大切なことは全部BOYS BEが教えてくれたのに、僕は合コンや、AVというカルマにまみれていく中で、ピュアな自分を逸していたのだ。
「俺は恥ずかしいよ……」
「そうそう。まあ吉田さんが『肉欲ってマジでロクでもないヤツだから気を付けなよ!』って新入生に随分言って回ってたから、ってのもあると思いますけど」
「え?吉田?」
「そうそう。肉欲さんも随分仲いいでしょ?だから変なことをする前に釘刺してたんじゃないですかねー。キャハハ」
「え?」
混乱する僕の頭、その追憶の中で蘇る吉田とのやり取り――
吉田「もう最近の若いのはスゴイからな!ちょっと押せばもうコレのコレでコレもんやろ!?正味の話さあ!!」
野郎!ぶっ殺してやる!!僕はベンチから立ち上がると、吉田の姿を探して駆けた。
「吉田!この野郎!」
「まあ待て。時に落ち着け」
「お前、新入生に向かって俺がロクでもないとか随分言ってたらしいな!」
「まあ待て。だって事実じゃないか」
「ああ、盲点」
なぜか僕の怒りはそこでフッと覚めた。結局今色々思ったとしても、全ては流れ行く時間の中で過ぎ去ってしまったことだ。それに、彼のしたことを怒っても、今さら僕の周りのあれこれが変わるわけでもない。
「時にお前、どうしてそんなこと言いふらしたワケ?」
「そうすることによってだな、相対的に俺の評価がうなぎ上りするだろ?」
「野郎!ぶっ殺してやる!」
「お陰で新入生6人とセックスしてだな」
「死ね!死んで!!」
「とりあえず今度合コンあるんだけど、来る?」
「行きます。いや、行かせて下さい」
「女を口説くコツってのはな、お前しか見てないよ、みたいなことをさりげなーく、それとなーくアピールすることから始まってだな」
「スゴイっす。マジ勉強になるっす吉田さん」
こんな感じで、今でも僕と吉田とは仲良しです。たぶん。
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サークルの新入生になかなかモテる。…と思います。
24歳って、新入生からはもの凄く大人に見えるんでしょうね。自分の頃に回想を廻らすと確かにそう見えた気がする。
だからこそ“大人”に対して失望させないためにも手は出せないし、出さない。
もし出すとしたら、年齢等関係なく、本当に、心の奥底からそのコを好きだと思えたとき。
ではなく社会人になって若い子の肌が…Ψ(`∀´)Ψグヘヘ(以下割愛)。
大人になるって、こういうこと。
そういうことですよね?肉さん。
女の子同士の間で株下がると厳しいですよね
色々されても結局仲良しなんですねwww
まあいいや。これからも吉田さんに期待www
懐かしいです!!!
でもあのマンガの女の子みたいに
クス...って笑う子なんて
友達にも知り合いにもいません...笑
久しぶりすぎてww油断してたwww
それでいいのか
肉さん
お前しか見てないよって感じで良いんですかね?
うらやましい…
あ、あれは別の人の体験談でしたね。
同姓かぁ。
新入生はいいっすよねww
どうすればいいですか>_<
(´ -ω-)y-~~~
吉田さん見習わなきゃ。
肉さんと吉田さんの友情よ・・・
いつまでも・・・
吉田さんみたいな友人が欲しいwww
近づく雌を全て切っていたら男の中の男好きだと
再評価します。むしろ他人事としてはその方が面白い。
聖書の引用が見れるとはな
これが若さか
さすがだ・・・・・・・・・・
シュール杉www