パリーン
「女に手ぇ上げてんじゃないわよ!!!」
響き渡る騒音。
轟く怒号。
今、街は、スラムと化したのだ!!!
なんてことはなく、これは先ほど窓の外から聞こえた音と声。駅近という立地条件ゆえに、こんな感じで酔人の争声はよく耳にします。
とりあえず耳をそばだてて状況把握に励みましょう。男二人に…女が一人…女が矢面に立っている様子だ…つまりこれは総合すると……
ピコーン!!結論!!
[見に行こう]
ということで、見逃してなるものか、という強い使命感を抱いた僕は、取る物もとりあえず現場に急行した。急行したはいいんですが、現場は音声ほどエキサイトしておらず、まあ多少極道の世界に足を突っ込んでいるのかしらん?と思しきミドルが二人と、まあもうじきに生理があがっちゃうんじゃねえの?って風貌のミドル、フランクに言えばオバハン、が口論してた。
僕としてはもう少し修羅場、殺るか殺られるかの愛憎劇を期待していたところ、なんていうか肩すかしくらった気持ちでした。つまんねえ、アンタらつまんねえ。
とりあえず星飛馬の姉さんよろしく一部始終をじっと見守っていたのですが、見せ場らしい見せ場といえば激昂した男が女、もといオバハンのハンドバッグをよいやさ!と放り投げたシーンくらいでしょうか。いい肩してるぜ。おめえ、俺と甲子園目指さねえか。
とまあ、このくらいの喧嘩はよくあるのですが、とりあえずウルサイのはやはりムカつきます。正直やめて欲しい。
そういえば以前こんなことがありました。
僕の家の程近くにはスロット屋があるのですが、その軒先に小僧どもがタムロしていたのですね。午前二時という深夜も深夜、キングオブ深夜みたいな時間帯に。
これがまあピーとかパーとか騒いでいてうるさいことこの上なく、大概寛容な僕もいい加減リミットブレイク、怒りMAXマラな勢いで小僧どものところに行きました。
いやー、それがさー、おるわおるわ、10人くらいおるのよ。それも揃いも揃って
『悪そうな奴は大体友達』
みたいな風貌でさあ。
履歴書の〈趣味〉の欄に平気で
『レイプ』
とか書きそうな、
「特技は?」
とか聞かれたら
「殺人(笑)」
とか答えそうな、そんな荒くれどもがモンマリとタムロしとるのですよ。そりゃ俺も回れ右して帰るって話。
スゴスゴと帰るには帰ったのですが、なんというかこのまま引き下がれないっていうか、正義感は忘れられないっていうか、自分の中の熱い部分は忘れたくないっていうか、そういうのはあったかもしれへん。正直、憤りは感じてましたわ。
とはいえ正面切って
「クラッ!ガキどもうるせんだよ!」
とか言おうものなら暴行傷害監禁輪姦というゴールデンルートをトレース、新しい性癖の覚醒、ノーマルな僕とサヨウナラ、ホモ世界よコンニチワ、してしまうのは確実なので、ここは一つ搦め手でいきたい、そういう風に思いました。
僕「もしもし?」
「はい、中野警察署です」
つまりは、まあ僕らが何のために税金払っとるのか、っちゅー話ですわ。さあK察のみなさん…天誅の時間ですよ…フヒ…!フヒヒヒ…!
つーかあれですね、Kな方々って通報してもなかなか来ないのな。まあ事件というか若者の深夜徘徊だなんて軽微な出来事だからってのもあるでしょうけど。20分はかかりましたよ。殺人事件なら一家殺して一服くらいはできそうなロングスパン。ちゃんと働けよ。
肝心の首尾はと言いますと、あのツートンカラーの例の車両が訪れた瞬間、荒くれどもは蜘蛛の子を散らすように逃げて行きました。圧勝でした。
いやーしかし、この無駄な行動力をもっと別なベクトルに生かせないものなのか。甚だ疑問でなりませんね。
2時までの時間を何かに打ち込めば将来大成しそうなのに