テクノロジーが発達すると、全体的に僕たちは欲が深くなる。欲が深くなるということは、簡単には幸福を享受できなくなるということだ。
たとえば現在はiPODが隆盛の極みに達している。僕はあまり音楽を聴かないのでiPODは持っていないけれど、ここ最近はweb上においてデータの形式で手軽に音楽を手に入れることができるらしい。そういえば僕もyoutubeなどで気になった音楽を聴くことが増えた、というかそればかりになったような気がする。
僕が中学生の頃は、未だマキシではない方のシングルCDが全盛の頃で、2曲入って1枚1000円、というのが大体の相場だった。当時B'zに熱中していた僕は、新曲が発売されるとすぐに皺くちゃになった1000円札と幾ばくかの小銭を握り締め、CD屋に走った。そして家に帰る道すがらに感じた、期待と興奮。
今、CDを買うことに対して期待することも興奮することもない。それは単純に可処分所得が増えた、という事実を度外視しても、最早CDを買うことに何のプライオリティも存在しないからだと思う。全ての音源がデータ化され、望めばすぐにあらゆる音楽が手に入る状況。あの頃、僕に沸き立つような興奮を与えたCDあるいはMDは、今僕の部屋の隅でホコリを被っている。
かつて、オナニーは僕の青春だった。否、オナニーこそが神だったし、オナニーこそが人生だった。国語の時間に源氏物語の話を聞けば「光源氏って、こいつ相当やな……!」と興奮を覚えては、その日のオナニーに思いを馳せた。日常のそこかしこにオナニーが散らばっていた。僕の心がラピスラズリよりも確実に青かったあの頃。
実家では、5畳の部屋に兄弟3人が押し込められた。人権やプライバシーという概念は完全にレイプされてて、だから僕の求めるオナニーには安らぎなんて少しもなかったし、オナニーは常にゲリラ戦だった。戦場で奏でるオナニー、だからそこに安らぎなんてなかったのだけれど、張り裂けるようなスリルはオナニー・タイムの悦楽をより一層高めたし、死の淵でチンポをライトハンド奏法することは、逆説的な背徳感を僕の心にもたらした。
結局、エロというものがその性質において閉ざされたものである以上、かつての僕のように家人の目を盗んでオナニーをする、というのは極上のスパイスなのだ。練習試合は存在せず、一球一球が常に決勝戦のマウンド。また兄の秘蔵AVをこっそりと持ち出し、とっくりと放出した後、1秒単位のズレもなく元の再生位置に調整する行為も、やはり命がけだった。おかげで割りと早い段階に『そうか、兄の琴線を奏でるポイントは、顔射だったのか』ということが理解できた。
シビアな状況に、シビアなオカズ。贔屓目に見なくても、あの頃の僕のオナニーは輝いていただろう。水泳の授業時、クラスメイトのスクール水着の股間部分に浮かぶ割れ目でポン!を目を皿にして見つめ、脳内にその映像を焼付ける。帰宅するや否や、まるでそれが重大な責務であるかのようにチン.comをダブルクリックし続けた中学時代。現在、アマゾンの熱帯雨林の木があるべき本数から8本減っていたとすれば、それは間違いなく僕のせいだ。ごめん、アマゾン。
けれど若草の時はとうに過ぎた。僕は現在自分の部屋を持っている。いつでもいつまでも、好きな時にチン.co.jpにアクセスできるし、回線速度は紛れもなくフレッツ光だ。オナニーに掛ける時間がもったいなく感じるようになった僕は、光ファイバーの勢いでオナニーを終わらせ、さっさと居酒屋に酒を飲みに行く。そこには最早ロマンもスリルもカタルシスも、何もない。
作業と化してしまったオナニー。
ルーティンの中に溶けていったオナニー。
かつて心にあったラピスラズリの青。
今は備長炭よりも黒くなってしまった。
・・・
「僕はこだわってオナニーしたいんですよ、肉欲さん」
昨日ラジオをしていると、スカイプを掛けてくれたキンパ君がおもむろにそう言った。へえ、と思ったね。僕とほとんど年齢も変わらない彼は、未だに熱い情感をオナニーに傾けているこの現実。方や漫然としたオナニーに耽って、安易な快楽を貪るだけの肉欲。こんなことが許されていいのか?
当然許されていいはずもなく、僕らは午後1時、スカイプを用いて鹿児島−埼玉間という絶望的な距離で『究極のオナニーとは何か』という普遍的なテーゼを議論した。実に楽しい議論だった。だから昨日僕は、いつの日にかに置き忘れた大事な『何か』を確かに思い出せたような気がする。
「やはり五感を刺激することが大事だよな。オーガニックな感じっちゅーかさ」
「そうっすねー。手触りでいうと、僕、今日起きて初めて触ったのが、『生茶』のパッケージだったんですよ。あの包装って、何か少しザラついてますよね?それがすっげー卑猥で……だから、起き抜けにオナニーしちゃいましたよ」
「たまげたなあ」
「だから触感は生茶的なテイストでいいんじゃないですかね」
「じゃあその線でいくとして、嗅覚に関しては、ガソリンの匂いとか淫靡な感じだと思うんだよね」
「確かに!嗅覚はガソリンで確定っすねー。あとは味覚か……」
「綿アメとかどうだろう。儚く口に溶ける感じが……」
「いや、それは少し弱いな。ハチミツ……ううん、少し違う」
「ちょ、ちょっと待った!いま、掲示板に鋭い指摘が為されたよ!『ナタデココ』……そうか、ナタデココか!」
「その論理には一点の曇りもないですねー。ナタデココ、これで本決まりですね!」
「後は聴覚か……個人的には女子高生のローファーの音とか、いいと思うのだけれど」
「うーん、流石に聴覚は個人差がありますからね。ここは各人の判断に任せるということでどうでしょう?」
「なるほど。自動車のハンドルにも『あそび』がないと、却って危ないからね。自由度は担保されるべきだ」
「最後は視覚ですか。僕なんかは鏡で自分を見ながらオナニーするのとか、いいと思うんですけどね」
「たまげたなあ。僕なんかは木々のざわめきを見ると、心が安らいで中々ライクな感じなんだけどね。視覚は難しいよ、実際のところ」
「けどね肉欲さん、既に基本5感のうち4感は制服している状況にあって、視覚をどうするか、なんて議論は最早意味がないと思うんですよ。おそらく4感を刺激した時点で、オナニーとしては終了してるのではないかと――」
「へえ、と思ったね」
という議論が尽くされ、だから結果として最高のオナニーは
『ナタデココを口に含みつつガソリンの香りを嗅ぎながら思い思いのサウンドに鼓膜を委ね、生茶のボトルをさする』
ということで見解がまとまりました。何かこう、想像するだに胸がワクワクしてくるでしょう。だとすれば、おそらくそれが『ときめき』です。ちなみにその後
「じゃあ結局のところ男が一番強い興奮を覚える画ってどんなのよ?!」
という議論も尽くされましたが、その際かなりの割合で『ああー、その画には興奮せざるを得ないかも分からんね』という声が上がったのがこの画(多少エロス。閲覧注意)。
ハッキリ言って僕もこの状況は大好き、というかどうして全ての女性がこの状況を演出してくれないのか、首を傾げるばかりです。女性が毎日でもこういうスタイルの着衣をするよう国を挙げて支援するべきだって、俺はそう思うね。民意ってそういうことだろ?マジで。
当該シチュエーションに関しては何ら適切な名称が付与されていなかったので、真に勝手ながら我々が喧々諤々の議論の末、ネーミングを施しました。掲示板には延べ100ものレスが舞い散り、まさに玉石混淆の命名式。その中には『残パン』『エネミーゼロ』『オフサイド』『スネ〜ク』『ナヴァロンの要塞』『燕返し』『天使の足かせ』など、珠玉の命名がいくつもありましたが、最終的に満場一致で「これだ!」となったのが
【疑似餌】
という名前でした。男を寄せ付け、一網打尽にする。そのパンツは決してセックスにおいて本質ではないのだけれど、どうにも僕らの心は乱される、冷静ではいられなくなる。ストレートにエロスな単語ではないのも、いいじゃないか!あれはまさに疑似餌、僕はそう思いましたね。
そして今日僕はローソンに赴き、やおらナタデココと生茶を買った。なんだかオーガニックな気分になっていた僕、今日のBGMは葉加瀬太郎の『情熱大陸』のテーマでキメ。やおらジャージを脱ぎ去り、ナタデココを口に含み、生茶のボトリングに柔手をフワリ。そして画面いっぱいに映し出される疑似餌の画・画・また画。ボルテージは既にクライマックス最高潮、そしてその時僕の胸中に渡来したものは?!?ラピスラズリの青なのか!?!
激しい絶望に決まっているだろうがクソが。何が生茶だ。ブチ殺すぞあの金髪。
「オイオイ!ガソリンがあったらまた違ったんじゃないのか?」
黙れよ。お前小学生の時、検尿とか遅れて出すタイプだっただろ!?!ホントにそう思うんなら、アンタがやってみろよ!!
沈黙が部屋を支配する、夕景。
僕はおもむろに『環境問題』との名が冠されたフォルダを開くと、静かな調子で中にあった一つのファイルをダブルクリック。
「やはり紅音ほたるはギャル系路線に進む前が最高だな。手の振動が止まりませんワイ」
というようなことを画面に向かって祈りながら、願いながら僕は。僕は嗚呼。
そしてアマゾンの木が、今日もまた消えた。
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深っ…
その痛みがたまらない。
相変わらず肉欲さんのお考えは深い^^
ところで、掲示板やネットラジオの告知というのはどこにあるのでしょうか?
って言ってました!!!
8mmのCD?
【肉欲より】
おおっと!ちょっと誤解してました。CDのところ、若干修正しました!まいど!
あれだけ長い時間話してたのに残念ですね(´・ω・`)
肉さん愛してるよ〜
使わせていただきます。
『疑似餌』誕生の瞬間は恍惚・・・
ランキング2位になってますよ。
嗚呼、心が静かに感動している。
第4話も楽しみに待ってるおー^^
いつ見ても素晴らしいですね!!
オナニーで発電できれば
CO2も減らせて地球環境にも優しく
親に見つかっても『発電中だよ!!このまま火力や原発に頼るのかよ!!」』と言えるとでつ。
あとは小悪魔成分を足して、自分なりの呼び方を作り出してみます。
女のオナニーについて赤裸々にブログ書いてるんで、是非肉欲さんに見ていただきたいです!
人間は…
なんか半端なツッコミですんまそんm(_ _;)m
その手の偽装、中学生のときにむっちゃがんばってた。
生茶より一のほうがいいと思う
時々自分の人生これでいいのか肉棒をしごきながらかんがえるんだ
まぁ園児の黄色帽子にすら欲情する俺だがよ。
ナタデココはよかったんですかねw
擬似餌、俺はこれに釣られる。
藤岡弘、隊長万歳!
そんなに良いものですか?
俺には理解できませんよ。
これには同意せざるを得ませんね。
秋月はガチ
俺も疑似餌に釣られた