と、こんなことを僕が言うと「また肉欲が妄言吐いてるよ。もういい加減慣れたけど」と喜んでいいのか悲しんでいいのか分からないレベルの生暖かいリアクションをゲットできます。いきなり僕が腸内容物の話をカマしても、誰も驚かないという現実。
ここにあって、僕の言葉には一切の含蓄がない。なぜならこの言葉を吐いているのが僕だからだ……と言ってしまえば少しトートロジーのようなことになりそうですが、実際何の背景もない人間に「ウンコくらい一度は漏らしておけよ」と言われても少し動揺するか、あるいは新潟県警に通報を行う程度で、世界に動静は生じないでしょう。当たり前や。
しかしこの発言を森本レオがカマしたら?例えば機関車トーマスのナレーションの最中に「ウンコを漏らしても……いいんだよ……」とあの独特な、α波が出てんだか出てないんだかよく分からない声で囁かれたらどうなるか。正直こちらとしても
「そうか。レオさんが言うのなら、そういうことなんだろうな」
となりそうだし、正直なるに決まってる。これがオレとレオの差よ。言葉を入れ替えただけなのに、目を見張るばかりの影響力の差。
悔しい、とは申しません。僕だってレオが荒ぶる芸能界で必死に身を立ててきたことは知っていますからね。だからレオの言葉は努力に裏打ちされた言葉だし、仮にそこに一切の論理性が存在しなくても、レオが言うだけで真実味は担保されてそうな錯覚を抱くものです。それがレオの努力の証なんです。
つまり人にはそれぞれ役割がある、という話。「お前が言うな!」とはよく聞く言葉ですが、では果たして、僕の語るべき言葉とは一体どんなものなのでしょうか。
先日、そよさんとお会いした時、そよさんはこんなことを仰っておりました。
「一度さあ、アタシがブログで『ブサイク』って言葉使ったら、それを読んだ読者の方から『そよさんがそんな言葉使わないで下さい!』って怒られちゃったんだ」
僕の脳髄に雷鳴が走った瞬間だった。え、ブサイクで怒られるの?じゃあ陰茎とか割と積極的に書いてる僕なんて即十万億土行きじゃないですか、と恐怖にわななく手で焼酎の湯割りをグイと空けた記憶があります。
※十万億土:一般的に極楽浄土、天国のこと
けどまあ、一応今のところそういう形で僕の死亡を推奨するメールは拝受していないっていうか、多分これからもこないと思うよ。仮に「宮崎あおいに近づく雄は軒並み死ね!SATSUGAIする」という負のアクセントが利いた言葉を吐いたとしても、大丈夫なような気がする。
でもコレがまた不思議なもんで、例えばそよさんがご自身のブログで
「アンタたち、愛ってのはね……」
極めてスウィートなテイストで語った場合、その米欄はもう大地が鳴動せんばかりにフットー、そよさんステキ!そよさん、感動しました!そよさん、オレの嫁になってくれ!そよさん、つゆだく!と、溢れ出る感動のシュプレヒコール。カーテンコールは泪の嵐……とこうなります。愛、それは綺麗な言葉だからね。
しかしながら、ここで仮に僕が更新に際して
「みんな、愛ってのはね……」
と石川啄木のような目でムーディーに語ってみますとアラ不思議、コメント欄が逆鳴動。「そんなもん読みに来てんじゃねーよ死ね」「つまんね」「あんた中二病?」「すいません、寒いんですが暖房入れてもいいですか?」「もう来ません」などなど、各種逆応援的なメッセージが届くという予想は、割とリアルです。
ブサイク、と言って怒られたそよさん、愛を語って叱られる肉欲、両者とも語っている内容が同じだったとしても、必然的に生じてしまうこの差。何と面妖な、一体これは……。
言論の自由なんて全てウソ、そんな不平等な世の中に絶望した僕は、素早い引きこもり活動を開始した。
そして3年が経った。
僕の趣味はネットサーフィン、そしてMMO。アガルタの大地に名を馳せるレベル13000の伝説の魔法剣士・ヒュンケルとは僕のことです。昨日、通算100匹目のブルードラゴン(最強と称されるモンスターの内の一匹)をぶっ殺しました。お前ら、括目して見ろよ。それでも月に一度の両親とのコミュニケーションは欠かしません。
「オラッ!ババア!さっさと今月分の仕送り振り込まんかい!」
手早い動作で携帯電話の切るボタンを叩きつけると、僕は再び電脳の世界に身を委ねた。ここは、僕の世界。ここでは僕が、唯一の存在。だからこれは自己満足ではなく、そう、自己実現なんだ。
「さて、無能どもを煽って憂さを晴らしますかい……」
デリバリーしたピッツァをコーラで胃に流し込むと、僕はマウスをクリックして行き着けの掲示板へと向かった。
【宮崎あおい part534】
お気に入りの女優のスレッドである。僕は適当に全レスを閲しながら、煽りに弱そうな住人にあたりをつけた。
「>>324
あおいは俺の横で寝てるよ?
つーかお前みたいな引きこもりニート何て相手にされるわけねーだろwwww m9(^Д^)9mプギャー!!」
僕は書き込みの内容を満足気に確認し、【書き込み】のボタンをクリックした。
「>>326
ハァ?wwwwwwお前こそこんな昼間っから書き込みしててお仕事はどうしたんですか?wwwwwwwあ、キモヲタニートだから答えられないですよねwwwwwwwサーセンwwwwwwww」
自分の中で何かが弾けるのを感じる。こいつ、俺を誰だと思ってやがんだ?伝説の魔法剣士・ヒュンケル様に向かってこの野郎!僕は激昂した。自分に対する文句は、誰からであろうと許せない。怒りのままにキーボードを打ち付けた。
「>>327
事実を言われたからってそんなに真っ赤になるなよwwwwwww
ごめんなwwwwwwお前はニートでも俺はニートじゃないんだwwwwww
外資のコンサルで年収3000万円なんだよねwwwwww
フレックス制って知ってる?だから今日は時間があるんだよwwwwwwwもっと外に出て光浴びろよ厨房wwwwwwwww
つーか俺以外の奴らが全員引きこもりニートなのは周知の事実ですからwwwwwww」
はあはあと口で荒い息をつきながら再び【書き込み】ボタンを押した。そのままその掲示板を後にする。少し気分転換が必要だ、と感じた僕は、お気に入りのアダルトサイトに赴くことにした。
「ん?」
するとその道すがら、見慣れぬ、しかしどこか目を引くURLが僕の視界に飛び込んで来た。
「何だこりゃ?」
戯れにそのURLの上にカーソルをポイントする。たとえ飛んだ先にウィルスが配置されていようとも、別段大事なデータも入っていないパソコンだ。全てをフォーマットしてしまえばそれで事は済む。僕は微塵のためらいもなくURLをクリックした。
『エイプリルフールBBS』
白を基調として、ごくシンプルな作りの掲示板だった。一体ここは何のための掲示板なのだろう、というようなことを漠然と考えながらサイトの説明書を探す。マウスホイールをくるくると回転させていると、その文章は掲示板の一番下にあった。
『こんにちは!今日はエイプリルフールですね。でも嘘をつくだけじゃあ少しつまらなくないですか?だから今日は、あなたの嘘を現実にしちゃいまーす★』
見たことのない二次元少女キャラが吹き出しの中で喋っていた。何だ、よくあるおふざけサイトかよ、馬鹿馬鹿しい……と思いながらも、そこは腐るほど時間のある引きこもりの性(サガ)。気付くと僕は斜め読みに掲示板を見詰めていた。
「新垣結衣は俺の嫁」
「実は1億円タンス貯金しています」
「浅田真央と婚約しました」
誰がこんな掲示板に書き込みなんかするのか?と思いきや、そこにはダイレクトな形で欲望が渦巻いていた。それにしても、全てが唾棄すべき下らない嘘だった。いや、これはもう嘘というよりも、願望というか虚妄というか。画面越しに必死で己の欲望を打ちつけている人間が相当数いる現実を想像すると、思わず苦笑が漏れる。しかしまあ、どちらにしても書き込むだけならタダだな、と思った僕は何かしら書き込むことにした。さて……。
「Lv.30000の伝説の賢者で」
書きながら思わず「違うだろ!」と叫んでしまった。どうも引きこもり始めてから独り言が増えた気がするが、とにかくその望みはこれからじっくり時間を掛ければ容易に叶うのは自明のことだ。まあ10000時間くらいは掛かるかもしれないけれど、とにかく時間は腐るほどあるのだ。だからそう、時間を掛けても叶わないようなことを書かなければならない。
「……」
しかしそんなものって、実際存在するのか?確かに僕には学歴がないけど、それだってしっかり時間を掛けて勉強すればこれからでも東大には入れるだろう。そうすれば自然と大企業には就職できるだろうし、だからそんなことはここで望む価値はない。
じゃあ女だろうか?しかし僕には性欲はあるけど、今の生活に女が介在してくるのは嫌だ。正直放っておいて欲しい。自分の容姿じゃあ時間を掛けても女は望むべくもないことは分かっているけれど、だったら金で何とかすればいい。だから女も別にいい。
「バカらしい……」
ふと、いつの間にか真剣に考えていた自分が世界一の愚か者であるような心持ちを抱いた。所詮お遊びの掲示板だ。僕は何を本気になっていたのだろうか?案外、他の書き込みをした者たちもこのように思考の螺旋に陥って、結局簡素な望みを書き込んだのかもしれないな、とそんなようなことを思った。
「面倒臭い。あれでいいや」
ふと思い立ち、僕は先ほどのスレで書き込んだ内容をコピー&ペーストする。年収3000万円なんてのが真っ赤な嘘なんていうのは僕自身が一番よく知っている。外資?英語どころか日本語すら満足に理解していないのに、ちゃんちゃらおかしい。僕は自嘲気味に笑いながら
「俺はニートじゃないんだwwwwww
外資のコンサルで年収3000万円なんだよねwwwwww
フレックス制って知ってる?だから今日は時間があるんだよwwwwwwwもっと外に出て光浴びろよ厨房wwwwwwwww
つーか俺以外の奴らが引きこもりニートなのは周知の事実ですからwwwwwww」
と書き込んだ。刹那。
【!!!ラッキー★レス!!!】
突然画面が切り替わる。白かった背景は急に赤や青やと明滅し、その眩さに思わず目がチカチカした。一体、何が……と思っていると、再び画面が切り替わり、新たな文字が画面に躍った。
『おめでとうございます!あなたの嘘が、本年のエイプリルフールレスに決定されました!また来年もよろしくお願いしまーす!』
「は?」
・・・
頭から雲が晴れていくような感覚があった。脳内が急速に明晰になるのが分かる。少しだけ漠然とした頭でぼやけた視界に焦点を合わせた。目の前には、電源の落ちたパソコンが鎮座していた。
軽く伸びをしてから振り返る。そこには夥しい量のゴミが転がっていて、万年床からは饐えた臭いが漂ってきた。一体、俺は今まで何を。
「会社、行かなくちゃ」
呟きながらクローゼットを開けたが、そこにはスーツなど一着もなかった。棚の中に乱雑と並んでいたのは、自分の趣味とはとても思えないようなスウェットやGパンの数々。こんなもの買ったか?俺は。数々の疑問符が頭の中で踊る。とにかくここで逡巡していても仕方がない。俺は財布を手にすると、またもや見たこともないようなサンダルを突っかけて外に出た。
快晴だった。抜けるような青空を頭上に据えながら、俺は一つ深呼吸をする。お花見の時期も、そろそろかもしれない。春の陽気に浮つく自分の心を感じながら、俺はATMを求めて銀行へと向かった。しかしそこには。
【誠に勝手ながら、働いたら負けかな、と思いましたので閉店いたします。悪しからず】
あまりにも斜め上行く張り紙の存在に、思わず途方に暮れた。何だこれは?新手のギャグだろうか……と思いながら周囲を見渡すと、そういえばここに来るまで誰とも、何ともすれ違っていないことに気付いた。街は、まさに映画の中に出てくるゴーストタウンのような様相を呈している。
人が、いない。
いや、いるにはいるのだが、それは明確にホームレスだった。しかもこの暖かさだというのに、ダンボールにくるまりきっている。そんなに寒いのだろうか。
俺は慌ててまともな人間を探して駆け出す。しかし人なんてどこにもおらず、しかもどの店にも先ほどの銀行と同じく【働きたくないです】【外に出たくないです】といった旨の張り紙が貼り付けられていた。何だ、一体何の冗談なんだ、これは?
走りつかれて立ち止まる。ぜいぜいと荒い息を吐く。そして俺は
「何なんだよ!一体――」
叫んでみた。その時、どこかの家からどん、と強く壁を殴る音が聞こえた。気がした。
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読んでて『彦』の名残が垣間見えたような… でも恐さの度合いがこちらのが高いですね。本怖に出てもおかしくなさげな構成でした。
面白かったです
頑張ってください♪
夢オチ??
前半部分からの流れも含めて。
物語中盤の願望に悩む場面に身が竦む思いがしました。さすが肉さん。
面白かったです。
一週間くらい前から拝見させてもらってました
コメントは処女でつ
肉さんからジャンプした『そよさんblog』で初コメ&ヒッ・ばぁーじん!!してきましたm(__)m
肉さんblogにコメするにゃブルーヒップですがお許し下さいませ☆
理想と夢と現実の狭間を漂う時間が必要な時期ってあるんじゃないかな?
理想と夢をどんだけ現実に実らせる?
どんだけ諦めなきゃいけないのか??
正解も間違いも他人にゃ解らないし、自分にも解らない。
でも自分自身で作り上げてくしかないやん♪
肉さんは哲学しとると思うのは海里がオババだからかしらん(笑)
これは肉欲クオリティ!
ゾッとしますた。
俺のアナルバージンあげちゃう( ^ω^)
肉さんの作品、僕の頭の中では『アニメ』でストーリーが再現されてます。
さて…
じゃ〜今から、触れてないのに報道陣のカメラに接触したと言う
『痛たたたたたぁ〜い!』演技(狂言)と、
『モトヤチョ〜ップ!』の特訓しますわ〜p(^^)q
俺の肉欲中毒は必然だわ。
人間その気になったら叶えられないことなんてないんだなぁ。
肉欲さんの脳内を、散歩してみたい…
これぞ肉欲クオリティ。アッアー!!
救いは、来年のエイプリルフールに、またラッキーレスを取れればですね^^
あのさ。世にも奇妙な…シリーズの脚本を小林賢太郎と2人で書き映像化したのを切に観てみたい。ガチで。