Tからのメールを放っておいたら、再度Tからメールが来た。分かっていたことだ。俺がTでも同じことをしただろう。
最近の俺は疲れている。気づいていなかっただけで長いことそうだったのかもしれない。色んなものに倦んでいる。想像力というものが全く働かない。原因と結果、その二つがひたすら明確な事象にしか心が動かない。予想外のことに出くわすのが不快で不安で仕方ない。疲れている。自らに去来したそんな結果だけを眺めることもまた、背骨に鉛を流されているようで気持ちが悪い。こんな風になってしまった原因はどこにあったんだ?
Tからのメールを再度見返す。俺は別にTのことが嫌いなわけではない。むしろ積極的に好きだ。Tはいつもセンスが良かった。人との距離の取り方というものが天才的に上手かった。Tは優しかった。Tは辛辣だった。Tは雑で、丁寧で、面倒見が良くて冷淡だった。Tのことを褒めろと言われれば俺は一時間くらいは語ることができるだろう。Tのことを貶せと言われれば、俺は目の前のそいつを殴るだろう。
結局俺は、Tにとって特別な何かでありたかったのだろうか?そうなのかもしれない。俺はTでなくても良かった。だが、Tでも良かった。何がしかの風景を、もし同じ目線で見ることができる人間がいるとするなら、それはたぶんTでも良かった。Tが俺のことをどう思っていたのか、そいつは全くもって定かではない。
赴けば俺は酒を飲むだろう。大量に飲むことはまず間違いがない。昔話のひとつも、23個くらいは、まあ、しなくてはならない。その言葉は、思い出の語りは、俺から放たれきっと俺だけに帰着する。あの夜を繰り返すようにして酒を飲む。Tと俺との先のことなんて分からないし、あるかどうかすら定かではない。俺が過去にばかり目を向けるのは、何も世の中に悲観をしているとか、全てのことに絶望を抱いているからだとか、そんな安っぽい感情からでは決してない。俺には過去しかないからだ。妄想の話はできる。それは豊富にできるだろう。だがそれが何になる?誰が楽しくなれるというのか。詰まるところ、俺は過去のことしか語れない。
俺はTからのメールを三度読み返す。どうしたってしみったれた感情しか沸いてこなかった。