稀代の優しさを誇る僕と言えども、さすがにこう長期間パソコンの野郎に怠慢な働きをされると、もはや怒りを抑え切れなかった。
いやしかし…もしかしたら今日、突然に復活するやもしれません…。
そのように思い改めた僕は、菩薩の如き穏やかな表情でパソコンを起動させた。信じること−−それが何より大切なんだよ、と高校の時の先生が教えてくれたっけな…その先生はあれからどうしてるんだろう…そういえばレイプで捕まったって言ってたっけな…元気で頑張ってるんだなぁ…。
そんな取り止めの無い思考を弄んだ後にふと顔を上げてディスプレイに目にやった僕は慄然とした。そこには…画面いっぱいに埋め尽くされた「v」の文字…!
バカな…!こいつ…1ミリも直っちゃいねえよ…!
怒り−−まっさらな怒りが僕を覆っていく。クソが!目にもの見せてやんよー!
「オラッ!これでもくらいな!」
と叫びながら僕はパソコンのUSBの部分にピンクローターを捻じ込んだ。唸りを上げて震え出すピンクローター!ガタガタと震え出すパソコン!ヒヘヘ…これやで…!これが人間様の実力なんやでぇ…!
と、その時、満足げにパソコンを見下ろした僕の目に信じられない光景が飛び込んできた。
(パソコンが…血を流している!)
それはまさしく破瓜の血だった−−まさかこのパソコンは、未だ、汚れを知らなかった…?
バカな!HDに大量に詰め込まれたエロ動画!毎晩のように打ち込まれる卑猥なテキスト!それなのに、だのにお前は、お前は…!処女…だったのか…!
「うぐ…うぐぐっ…!」
涙が、溢れた。拭っても拭っても、溢れた。俺は…取り返しのつかないことを…してしまったのか…?何でもっと…優しくしてやれなかったんだよ…!今となれば顔の割りに小さな胸や少し鼻にかかるその声も数え上げりゃキリがないんだよ…!俺は…お前を愛していた…んだ…。
涙に霞む瞳を、そっとパソコンに向けてみた。
(8181)
8181−−バイバイ。「v」しか打ち込むことのできなかったパソコンが、今、ディスプレイに、最後の力を振り絞ってそんなメッセージを打ち込んだ−−そう考える僕は、夢見がちすぎるのだろうか。それを端にして、僕のパソコンのキーボードは、回復した。
キーボードが自然と文字を打ち込むことは、もう、ない。