@スネ夫の肛門が破壊された日
A出木杉の肛門が破壊された日
ここは東京都練馬区月見台すすきが原、某空き地。
4月の陽光が降り注ぐ中、のび太とジャイアンは横並びになって土管の上に座っていた。ただ、うららかな春の陽気とは対照的に、二人の少年の表情は苦渋に満ち満ちている。
「ジャイアンったら、折角見つけた玩具をすぐに壊しちゃうんだから……」
「なんだとのび太!それを言うならお前だって同罪、共同正犯だろうが!」
二人の議論は平行線を辿って戻る。責任の押し付け合い、なすり合い。誰しも自分だけは正義の側に立ちたがるものだ。それが年若い時分であれば、なおのことに。
「まあ、いい。過ぎたことを悔やんでも始まらねえ。俺は犯した、お前は撮った、スネ夫と出木杉は壊れた。それ以上でもそれ以下でもねえ。ことの善悪は後の歴史家に判断させときゃいい。倫理規範や価値観なんてものは曖昧にして模糊、常に揺れ動いている。大事なのは……」
これから俺たちが何を為し、あるいは何を為さないべきか、だ。剛田武はそれだけ言うと、土管の上から飛び降りた。
「どうするんだい」
呼応するようにして、のび太が気だるそうに腰を上げる。未だ僅かに寒さの残る風がのび太の頬を撫でて流れた。
「俺たちが反省するべき点があるとしたら、それは一つ。壊れやすい玩具を選んでしまったこと、そして実際に壊してしまったこと。それだけだ。逆に言えば、永遠に壊れない玩具、何度でも繰り返し遊べるホビー・トイ、そいつを俺たちは見つけるべきだった」
「永遠……しかしジャイアン、この現世(うつしよ)にそんな莫迦げた代物は」
「ある。俺も半信半疑だが、確かにそいつは在るんだ。それは俺たちの常識では測れない、測ってはいけない埒外の存在。森羅万象あまねく理から外れた魑魅なる象徴。古来よりいないものとされながら、同時にいるものとされ続けられた矛盾の結晶。それは即ち……」
剛田武は瞳を閉じる。無言、静寂、時間の静止する、刻。のび太の手にはじんわりと汗が浮かんでいた。
「化生(けしょう)、俗にいうところの、オバケだ」
少年たちの眼前で名も知らぬ花びらが一枚、ひらりと舞った。
『オバQの肛門が破壊された日』
「正ちゃーん、僕、お腹が空いたよ」
「さっき食べたばかりじゃないか!いい加減にしようよ」
正太にどやされQ太郎はしょげ返る。彼の唱える理が分からないわけではない。しかし理屈で現象が止まるのであれば、誰も苦労しない。それはオバケであっても例外ではないのだ。
腹が、減った。
飯は、ない。
両概念は同時に成り立つ。成り立つからこそ、辛くて苦しい。
「ちぇ……もういいよ……」
Q太郎は空へと飛び立つ。オバケである自分が餓して死ぬことはない。だが何もないこの部屋で、夕餉までの時間をひたすら内的な煩悶と向き合って過ごすのは、まっぴらだった。
外界に僅かながらの可能性を求めること、それはある意味で道理だったのかもしれない。
確かにそれにより飯にありつける可能性は増すのであろう。部屋に座していたところで空からパンが降ってくることはない。外に出れば落ちてる銭を拾うこともあるかもしれない。0を1にする契機は、並べて行動により訪れる。
しかしながら。それは同時に、有象無象の悪意に身を晒す行為でもある。隔絶された世界に居れば0は0のままとして在り続ける。ひとたび隔壁が瓦解すれば、その0は如何様にも揺蕩う。それはつまり、マイナスの方向にさえ。
故に。私はこう言わなくてはならない。捕食を求めたQ太郎が、有史以来例を見ぬレベルにまで膨れ上がった悪意に捕食されたとして、それは何ら不思議なことでは、ないのだと。
「Qちゃん、Qちゃん」
「んん?僕の名前を呼ぶのは誰?」
「Qちゃん、こっちおいで、うどんとかカツ丼とかこっちおいで」
「うどん!?カツ丼?!ワーイ!!!」
Qは飛ぶ。己が醜い欲望を埋めるため。
Qは翔ぶ。そのあまりに幼すぎる衝動をただ鎮めんがため。
Qの行動は迂闊の謗りを免れないものかもしれない。だが、それは迂闊というだけであって、決して罪ではない。Qはただ、純粋に過ぎたのだ。
そして罪を犯すのは、いつだって、人間なのである。
「わ、ワ!これはすごい、テーブル掛け一杯に豪勢な料理がズラリ!!」
「Qちゃん、お食べ、好きなだけ食べてもいいんだよ」
「本当に!?これを全部?!ボク一人で!!ワーイワーイ!!!誰か知らないけど、ありがとう!!いただきまーす!!!」
言うが早いか目の前に並んだ料理へと取り掛かるQ。その勢い、まさしく鬼人の如し。見る間に料理は雲散し、テーブル掛けの上に余剰スペースが広がっていく。だが、それに呼応するように
「牛たん……横手焼きそば……焼きカレー……さつまあげ……ずんだ……」
「ワワ、ワワワワ!!消えたそばから料理が現れたよ!!何これスゴーイ!!いただきまーす!!」
「お食べQちゃん……たんとおあがり……」
未来技術の粋を集めて誕生した道具、グルメテーブルかけ。脇に潜むのび太の声に反応し、次から次へと料理を現出させた。
Qは泣く。己が抱える欲望の満たされる喜びに。
Qは笑う。この汲めども尽きぬ泉のように立ち現れる料理の数々に。
その泣き笑いを陰で見ながら、野比と剛田は笑って、嗤った。
「いやあ、食べた食べた!!こんなにお腹一杯食べたのは生まれてはじめてだ!!」
満腹になった腹をさすりながら、どっと後ろに倒れ込む。このまま午睡するのも良いかもしれない。少し傾きかけた春光に照らされつつ、Qはまどろむ、その刹那。
「これはやってしまいましたなあ」
「だ、誰?!」
突然の声にQは驚き、身体を起こした。最前まで誰もいなかった筈なのに、一体……混乱極まるQの視界に飛び込んできたのは、二人の少年、野比と剛田。両名、その歳には似つかわしくないダークスーツに身を包みながら。
「今日は遠方から賓客があるということで、こうして潤沢に料理を用意していたというのに……まさかどこの馬の骨とも知らぬ輩に全て食べ尽くされてしまうとは。いやはや、これは大問題ですよ」
「ひんきゃく?だ、だって、ここにあった料理は食べてもいいって、いいって……」
「おや、食べても良いと。それは一体どこのどなた様が仰ったんでしょうかねえ」
「食べてもいいって、誰か、誰かが……」
「オイ、ゴシャゴシャと与太抜かしてんじゃねえぞ!!誰かが食べていいって言った、だと?お前安いシャブでも打ってんじゃねえのか!?コラァ!!」
「そんな、そんなこと言われたって……!」
Qの眼前が絶望に歪む。1分前まで涅槃の真ん中に横たわっていた筈なのに、今を取り巻く状況は一体、何だ?悪鬼羅刹のような表情で凄んでくる少年たちを前に、Qはその心象風景の中で煉獄を味わうばかり。
「どう落とし前をつけてくれるんですかねえ」
「ゆ、許してよ!ボクだって悪気はなかったんだ!お腹が空いて仕方がなくて、それで」
「ゴメンで済んだらロス市警も神奈川県警もいらねえんだよ!!このドサンピンが!!謝って料理が戻ってくるのかコラァ!!」
「まあ、まあ。剛田さん、正論ばかりをぶつのはおよしなさい。正論はいつでも正しいが、その正しさが相応しくない状況もある。
我々は裁判官かい?否、我々が決するべきは、事の正否ではないんです。
するべきはただ、彼がどうやって被害保障をしてくれるのか。その道筋を模索すること……謝罪だの善悪の別だのと、現況を前にしては総じてが些事ですよ。そうですよね?あなた」
鷹揚に笑いながら、野比はQに言葉を紡ぐ。
だから、Qは見る、知ってしまう。
その眼鏡の奥に鎮座する瞳の、一切笑っていないことを。
状況の全てが、自ら犯した愚行を許すだの許さないだの、そんなチープなラインを逸脱してしまっている、そのことを。
「見たところ、あなたは空手のようだ。何を為すにせよ、為す必要があるにせよ、ご自身のみでは出来ることも限られるでしょう?そうですね、まずはご家族にお話をさせて頂いて、それから」
「やめてよ!皆は関係ないじゃないか!!これはボクの問題だ!!ボクが、ボクがなんとかするから!!何でもしますから!!」
聞きたかった、最も欲していた言葉を搾り取った野比は、知らずのうちに口角が歪み、蠢き、妖しく吊り上がる。それは最早10歳いくばくかの少年が形作って良い表情では、およそなかったと、言わなくてはならない。
「なるほど、そこまで誠意ある態度を示されては、こちらとしても無碍にはできません。分かりました、あなた……ええと、お名前は?」
「きゅ、Q太郎だよ……」
「Q太郎、Qさんですね。うん、どうだろう、Qさんの熱意に免じて……そうですね、召し上がったものを丸ごと返せ、などという無茶な主張は取り下げましょう」
「ほ、本当に!!」
思わずQは破顔した。助かった、と言わんばかりのため息と共に。それを見て剛田は俯いて、こぼれ出そうになる笑みを堪える。
これだから外道はやめられねえ
そんな呟きを漏らしながら。
「ヤッター!じゃあ、じゃあもう帰ってもいいってこと」
「戯れた言の葉産み落としてんじゃねえぞ畜生未満の糞餓鬼がぁ!!」
吼えた。野比の咆哮は辺り一面に響きわたった。何秒か前まで確かにあった彼の笑顔は無残に霧散し、ひたすら狂気の一色に染め上げられた修羅の顔が、そこにあった。
「てめえの1bit以下の脳味噌にも分かりやすいように言ってやろうか?俺は
『飯を返されるのは諦めた』
と述べただけだ。そしてお前はこれから知るだろう、タダより高いものはない、と。消費の先にあるのは虚無などではない、別の消費なのだと。そのあたりのことを」
「い、一体何をウッ!!」
頚部にチクリ、と短い痛みが走る。
次いで、目眩、脱力、意識混濁。
世界が明滅する。
背後におぼろげな存在感。
一体、誰が。
薄れゆく意識の中、Qが見た人物、それは
「ハカ……セ……」
「ハス、ハス、ハス!!僕もキミの来し方行く末には学術的興味を抱かずにはいられない!!」
斯くしてQは捕獲された。
彼に罪はあったのか。
彼は何を為して、何を為さぬべきだったのか。
果たしてそれは分からない。
確実なのは野比と剛田、そしてハカセによるギブアンドテイクアンドテイク、むしり取られることばかり待ち受ける狂乱の宴に身を投じる、そのことだけだった。
・・・
「キュキュキュのキュ!キュキュキュのキュ!オバ!Q!音頭で!Q!Q!キュゥゥゥゥゥ!!!」
民謡じみた喘ぎ声を上げながら、剛田が87回目の放精を果たす。周辺は夕闇が包み込み、間もなく夜の帷が下りようとしていた。
「懸案されていたオバケの肛門だが、割と普通にあったね」
「そうですね、僕としても野比さんの慧眼には驚かされるばかりで……ハースハスハス!」
会話を紡ぎながら野比は紙に絵を描き、ハカセは馬鹿でかい模造紙に計算式を書き続けている。
デジタルデバイスに飽いた野比は今回の一部始終を紙芝居として後世に遺す、と決意していた。
ハカセはハカセで、人ならざるものの正体を物理的に解き明かそうと興奮していた。
それぞれがそれぞれの熱量と共に、一体のいたいけなオバケを取り囲んでいて、そして
「ねえ、のび太。そろそろ次にイッてもいいのかしら?そろそろ我慢も限界に近くてよ」
先の行為を終えて、まだ2分と経っていない。相変わらず剛田の回復力は驚嘆に値する、と野比は思った。それが証左に、彼の逸物は怒張の極みを得ている。ややもすると彼も人外の化生なのでは……そんな下らないことを考えたのも一瞬のことで、野比はすっくと立ち上がった。
「大衆が望むのは、何も下劣で扇情的なシーンばかりじゃあない。鋭いカウンターのように訪れる劇的なドラマ、そいつを見たがってるんだ」
「緊張と緩和、ってヤツですか。さすが野比さんだ。ハースハスハス!」
「お仕着せのようなお涙頂戴の展開、アタシはやあよ」
「ま、我慢してくれ。ジャイアンの言い分も分かるが、それでも好きなんだよ、大衆は……」
家族愛。そんな唾棄すべき群像劇をね。
「う……あ……」
「丁度よく眠り姫が目を覚ましたようだ。グーテンモルゲン、Qさん、気分はどうです?最高ですか?最悪ですか?その両方ですか?」
「もう……いいでしょ……うぐぐ……」
「間もなくです。間もなく終わりが始まります。
晩年はいつから始まるのか?そんなことを問いかけた作家がいました。重松清というんですけどね。歳若い人間であれ、明日死ぬことが確実なのであれば、その人の晩年はそのずっと前から始まっていたことになる、そんな趣旨の作品でした。示唆的です。
それと同じ意味で、この一連の作品、まああなたとジャイアンとが演じた痴態のことなんですが、その晩年は、もう始まっています。
もうすぐです。もうすぐ終わります。Qさん、良かったですね」
「こんな……こんなこと……許されない……!」
「Qさん、聡明な僕は知っているんですがね、聞き及んだところ、オバケには学校も試験も何にもない、そうらしいじゃないですか。なんと反社会的極まりないことか。そんな反社会的な人物には、制裁、そいつが必要なんです。この現代市民社会の成熟した日本で生きるうえでは、ね」
「のび太!御託はよろしくてよ!さっさとはじめましょ!」
「ジャイアン、これはすまない。どうにも僕は優し過ぎてね。身に降る理不尽の理由を説明しないと、収まりが悪いんだ。さて、それでは手筈通りに」
野比はポケットから複数本の瓶を取り出す。そのラベルには綺麗な書体で「変身ドリンク」と記されていた。
「何もかもが曖昧な世の中にあって、確実なのは生まれたこと、そして死ぬこと。そればかりです。でもオバケのあなたはその埒外にいらっしゃる。
じゃあ、あなたにとって確実なこと、それは一体何ですか?」
未だ混乱極まる脳内で、Qは必死に野比の言葉を咀嚼する。
僕にとって確実なもの、揺るがないもの、移ろわないもの。
それは、それというのは
「…O次郎……」
「その言葉が聞きたかった。
ジャイアン、否、元ジャイアン。準備はいいかい」
「バケラッタ!!」
聞きなれた、あまりに慣れ親しんだ声を耳にし、Qの意識が急速に晴れていく。彼の家族、大切な弟、O次郎。その声が、その存在が、どうして、どうしてこんな腐界にいるのだ、いてしまうのだ。
「安心しなさい。これはO次郎であってO次郎ではない、そういう矛盾を孕んだ存在です。要するにいま、この瞬間。この世界にはふたつのO次郎が存在します。それはオリジナルのO次郎と、そして、このO次郎。そうですね、元ジャイアンなわけですから、G次郎とでも……」
「バケラッタ!バケラッタ!」
「おやおや、ジャイアンときたら、そんな姿になっても元の性分は変わらないようだ。全く、自我と他者的意識の彼我がどこにあるのか、まだまだ分からないことが多いな。とにかくもハカセ、試算はどうなったんだい?」
「野比さん、分かりました。最初にG次郎にスモールライトを13秒間照射、しこうして後にビッグライトを4秒照射、それでおおよそ望まれる絵面が得られるはずです」
「さすがだ、ハカセ。僕の友人、いや元友人というべきか……とにかくも出木杉に勝るとも劣らない能力だ。この短い時間で状況に適応する瞬発力、賞賛させて頂きたい」
「ハ―スハスハス!ただの学問馬鹿ですよ。ハスス」
下婢た笑いが虚空を飛び交う。
こいつらは、一体、何を言っているのか。
何を企て、何を求めているのか。
分からない、今はもう、何も。
Qは、だから、自らその意識を閉ざした。
「おや、再び眠ったのか。呑気なものだ」
「バケラッタ!!バケラッタァァァァ!!!」
「ジャイアン、状況は全て順調だよ。
ここから最後の演目だ。
共に為そう。
共に見よう。
永遠に壊れない玩具、その深淵を」
空を見上げる。
野比の目には綺麗な立待月が見えていた。
「スモールライト、照射!」
G次郎の身体を眩い光が包み込み、見る間にその体躯は収縮していく。そしてその姿が視認できなくなってなお、光の照射は止まない。きっちり13秒、ハカセの試算に達するまでは。
「オ―バー!」
「ご苦労!1分後、ビッグライト照射開始!」
それは賭けにも近かった。ナノサイズにまで転じてしまったG次郎が、その存在そのものをこの平原から消してしまわないか、そんなリスクに対する賭けだ。
1秒が永遠に感ぜられる。
その永遠を60もの回数身体に刻み込まなければならない。
だからこれは、罰だ。
野比が己が好奇心を満たすために課した、世界で一番純粋な、罰。
賭けに負ければ、俺は失うだろう。
友を、明日を、夢幻の地平を。
その先のことは考えたくもない。
今はただ、灼けるような情念に身を焦がすだけだ。
昨日もない明日もない、ただ現在の一点しか見えない無間地獄で踊りながら、のび太はひたすら、永遠を信じた。
「ビッグライト照射!」
「レンジャー!」
無為の地平に光が灯される。
野比がその手に掴むのは、神の未来か悪魔の過去か。
「……ァヶラッタァァァァ!!!」
「G次郎、視認成功!繰り返す、G次郎、視認成功!」
「っしゃああああああ!!ざまあみやがれってんだ!!」
それは小さい、本当に小さいサイズのG次郎。
ほとんどビー玉くらいの大きさだった。
それでも、いる。
G次郎は確かにそこに、居る。
野比にとってはそれが大事だったし、それが野比の全てでもあった。
「よし、G次郎。後は分かるな」
「バケラッタ!」
「いけ、G次郎!輪廻の穴を穿つんだ!」
G次郎は駆ける、賭ける。仮初の兄であるQのアナルに向かって懸命に、ひたすらに、ただ純真に、その小さな体躯をめいっぱい使いながら。
「バァァァケラッタァァァァァァ!!!」
その小さな身体は、最早弾丸。明日に向かって放たれた、希望の一番槍。それは流線型の光となりて鮮やかな彩りを放ちながら、Qの直腸へと確かに、厳かに、歌うように囀るように、奉納された。
「ハカセ、状況は!」
「目標、予定座標に着地、活動を停止!押しなべてが順調です!」
「定刻まで後何秒だ?!」
「…6、5、4、3……始まります!!!」
――はじめは、Qのからだが、おおきくみやくをうつた。そして、いつしゆんのせいじやく。ついで、めいどう。それから、はじまつた。Qのからだは、ああ、おおきくふくらんでゆく。はらが、からだが、そのそうじてが。ふくらみ、ふくらみ、そしていつか、とまつた。そのとき、Qのからだのなかから、ことばがうまれて、いわく、ばけらつた、と。
(後に編纂される『ノビタの福音書』より抜粋)
「腕が無ければ腕を貸す
足が無ければ足を貸す
腹空くときは腹くちくする
か。
引かれれば足し、足されれば引く、そうして紡ぐ、兄弟の愛情。それを繰り返すこと、永遠。オバケの一生。見せて貰ったよ、Qさん、そしてG次郎」
(バケラッタ!)
Qの腹からG次郎の咆哮が轟く。少しだけ掠れて聞こえたその声は、しかし、兄の体表を媒介としてこの場に、この街に、この世界に……愛ある産声として、確かに轟いた。
「笑ってくれるのかい?千年杉……」
野比が見上げた先にあった何千もの葉、それが一斉にその身を揺する。いつも、千年杉だけは彼と共にあった。だから今日のことも優しく笑ってくれたのだ、と野比が言えば、それは感傷に過ぎるのだろうか。
「詩人ですね、野比さんは」
「茶化すなよ、ハカセ」
ハカセの言葉に野比はかぶりを振る。
全ては、終わった。
後はまた、何でもない日常に戻っていくだけのことだ。
それは僕にしても、ハカセにしても、すっかり糞まみれになってしまったジャイアンにしても。
「帰ろうか」
「そうですね、僕たちに永遠はない。あるのはただ、ヒリつくような日常だけです」
「ところでのび太よう、どうして今回は87回しかさせてくれなかったんだ?」
「なんだ、そんなことか。単純な話さ。
88、その数字を横にしてみなよ」
「ああ……フフ、野比さんはやはり詩人でいらっしゃる」
「な、なんだよ!俺にも分かるように説明しろっつーの!」
「アハハッ!明日図書館にでも行ってみれば?じゃねー!」
「おい、待てよのび太!この野郎、ギタギタにしてやる!!」
嬌声が残響し、次第に無音へと転じる。
残ったのは横たわったままの化生が、ひとつ。
いつまでも尽きぬことのないその横たわった無限
そしてあの時、その無限の体内に横たわったもう一つの、無限。
(ジャイアン、君のことさ、当然Qの中で果てたのだろう?
だからその時、成ったんだ。
横たわった君が、横たわった彼の中で
無限と、そして、無限にね)
朝の光を浴びながら、野比はやはり、詩人でしかいられなかった。
「妖怪大戦争だ……!」
そして、ここにまたひとつ。
怨嗟の輪廻道へと足を踏み入れる、憎悪の結晶と化したものが、またひとつ。
産まれて、立った。
因果はまだまだ終わらない。
(劇画オバQ 『Q太郎 水木ワールドへの入門』 おわり)
懐かしいです
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アホか
肉さんがこんな駄文書くかよ