「オラ、のび太!掛かってこいよ!」
昼下がり、いつもの空き地。
爽やかな秋晴れの日だった。
「ええ〜?!い、嫌だよ!」
「ゴシャゴシャ言ってねえで早くこい!」
頓狂な声を上げて嫌がる素振りを見せるのび太に、ジャイアンの激しい声が飛ぶ。見ると、その脇でスネオがにやにやと笑っていた。いつもの、いつも通りの構図である。
ジャイアンは数日前からボクシングジムに通っていた。強い男になる、それは彼が常々口にしていたことだ。最強の男、その言葉を体現するべく彼はトレーニングを始めたのだ。
「シュ、シュ!」
力をつければ、それを試したくなるのが人情だ。しかし未だボクシング経験の浅い彼は、ジムでのスパーリングが許されていない。次第に溜まっていくフラストレーション、そしてそれが今日爆発したのだった。
のび太を相手に、力を試す
決意した彼はのび太を空き地に呼び出す。いつものように野球の誘いかな、と思ったのび太は、さして何も考えることなく漠然と空き地にやって来た。そうしてみると、これだった。突然ボクシングをするぞ、と言われたのび太の戸惑いはいかばかりのものか。
「シッ!」
「うわっ!やめろよ!」
ジャイアンの放った軽めのジャブがのび太の頬を掠める。おそらく、あえて外したのだろう。軽いステップワークを踏みながら、ジャイアンが挑発的な笑みを浮かべた。
(こいつ、本気かよ)
仕方なくのび太は見よう見まねのファイティングポーズをとる。しかしズブの素人であるのび太の脇は完全に開ききっており、おかげでアゴの部分は完全にガラ空きだった。ジャイアンはそれを見逃さない。ぎらりとした獰猛な目つきでのび太のアゴを視認すると、猛牛が突進するような勢いで間合いを詰めた。典型的なブルファイターである。
「え?」
「シッ!」
突然のことに、のび太は状況を把握できない。寸前まで2mほど先にいたはずのジャイアンは、あっという間にのび太の目の前まで近づいていた。次いで、ジャイアンの右肩の方が僅かに動き、そして――
乱暴な右ストレートがのび太のアゴを正確に捉える。のび太の頭はぐるんと回転し、視線の先にはやはりスネオがにやにやと笑うばかりだった。刹那に視界が白く染まる。あれ、僕は一体……
果たして記憶はそこで途切れた。
「 み き……じょ い」
(ううん……)
遠くの方から、呼びかけるような声が聞こえる。
「大丈夫……目を覚まして……」
次第に声はのび太の方に近づいてくる。
(うるさいなあ、もう)
眠りを阻害されたのび太は、声の存在を正直に鬱陶しいと感じた。もう少し寝かせてくれよ、もう学校は終わったはずだろ、そんなことを乱雑に思考しながら、のび太はふと気付く。
(どうして僕は眠ってるんだ?)
「君、大丈夫かい?」
「えっ?」
何度目かの呼びかけに、のび太はようやく飛び起きた。その瞬間、鈍く痛み始める頭。アゴの辺りもズキズキとしているのが分かる。一体何が?どうして僕は眠っていたんだ?てんでまばらになってしまった記憶を掻き集めながら、のび太は少しずつ思い出す。
(そうか、僕はジャイアンに殴られて、それで――)
「意識はしっかりしているみたいだね。空き地の真ん中で君が倒れているからビックリしたよ」
「え?あ、ああ……」
のび太は改めて声をかけている男の顔を見た。ツンツンとした髪の毛、野太い眉毛、しかし顔の作りは全体として柔和な感じだった。声もひどく優しい。
「ど、どうもありがとうございました」
見ず知らずの男に、のび太はおずおずと頭を下げる。その拍子に後頭部の方がズキンと強く痛んだ。どうも倒れた拍子に後頭部を打ちつけたらしい。
「つ……」
押し殺したような声を漏らしながら、のび太は後頭部をさする。コブができていなかったのがせめてもの救いだった。それにしてもジャイアンのやつ……と口の中で毒づきながら、同時にこれからもボクシングに付き合わされるのか、と思うとうんざりとした気持ちになった。
「ケンカでもしたの?」
心配そうな目をしながら男がのび太の方を見た。もう秋だというのに男はTシャツ一枚しか羽織っておらず、首には真新しいタオルを下げていた。寒くはないのだろうか?とのび太は思ったが、寒いどころか男のシャツにはじんわりと汗すら浮かんでいる。どうやらジョギングでもしていたらしい。ぼうっとした頭でそこまで考えて、ようやくとのび太は男の質問に答えた。
「いえ、そういうんじゃないんですけど」
「見たところ大きな怪我はないみたいだけれど、一応手当てしよっか。僕についておいで」
そう言うと男は腰を上げ、のび太の方に手を差し伸べる。手には包帯のような物がグルグルと巻きつけられていた。
(何だろう、これは)
のび太は怪訝な思いで顔を見上げたのだけれど、逆光となっていた男の表情は見て取れなかった。とりあえずのび太は男の手を掴む。その手はごつごつと節くれだっており、優しそうな男の雰囲気とは似つかわしくないものだった。
「どこに行くんですか?」
「ん?僕のジムだよ」
ジム、という言葉にジャイアンとの一件が生々しく蘇る。ジャイアンのやつ、何がボクシングだよ……のび太は途端に暗い気持ちになる。
(それにしても、人をぶん殴っておいてそのまま放ったらかしにしておくなんて、いくらなんでも薄情すぎるよ!)
のび太は内心の憤りを抑えられない。キーッ、と悔しげな声を上げながら、道端に転がっていた空き缶を蹴った。
「ここだよ、さあ入って」
「あ、はい」
やはりそこはボクシングジムだった。開かれた扉の向こうには、テレビで見たことのあるような風景が広がっている。幾人もの男が、手にグローブを嵌めて思い思いのトレーニングに勤しんでいた。そこかしこに響く拳を打ち付ける鈍い音に、思わずのび太の足がすくむ。
「あ、お疲れ様っす!」
「お疲れ様っす!」
先を歩いていた男に、次々と声が投げかけられた。男は事も無げに「お疲れー」と柔和な調子で返すと、そのままスタスタとジムの奥の方に歩いていく。のび太は慌ててその背中を追いかけた。
のび太は気付いた。ジムの中にいる男たちが、自分を助け起こしてくれた彼のことを一種独特な目で見ていることを。そしておそらくそれが尊敬の念であることを、のび太は何となく察知した。
(へええ……)
不思議だった。一見してどこにでもいそうな、いやむしろ人よりも気弱そうな感じの男が、実際には屈強な男たちからかしずかれている現実そのものが。
「ん?」
ふとのび太は壁の方に目を遣る。そこには、普段あまり見慣れないような類のポスターが貼られていた。半裸になった男が数人、ファイティングポーズを構えつつ獰猛な目つきでこちらを睨んでいる。
それは興行用のポスターだった。ここがボクシングジムである以上、そんなポスターが壁に貼られているのは当たり前のことではあろう。しかしのび太の視線は、そのポスターに刺さったまま張り付いたように動かない。ひときわ目に付いたのは、そのポスターに立っていた一人の男の姿。
「これって……」
「ん?ああ、それは僕だよ。何だか大げさで恥ずかしいんだけどね」
目の前を歩いている男が、ポスターの中に立っていた。写真となってポスターの中にいる男の表情は、先ほどまでのび太に向けられていた穏やかなそれとは異なり、激しい闘志をたぎらせていた。
「日本フェザー級チャンピオン……」
写真の下に記されていた文字を思わず口に出して読み上げる。幾つか難しい言葉が並べられており、その全部を読み取ることはできなかった。それでも何とか知っている単語を拾っていくと、いつしか男の名前らしい言葉を見つける。
「一歩?」
「え?」
のび太の言葉に男が振り返る。しげしげとポスターを眺めているのび太の様子に、何を言わんとしているのか察した男は、ここでようやくと自己紹介を行った。
「ああ、そうだ。紹介が遅れちゃったね。僕の名前は一歩、幕之内一歩だよ」
けたたましいクラクションが窓の外から飛び込んでくる。のび太の背後では、強い調子でサンドバッグを打ちつける拳の音が断続的に続いていた。
「日本チャンピオン……」
野比のび太。
幕ノ内一歩。
のび太はこの日、ボクシングと出会う。
(つづく)
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・・・
全然関係ないけど最近好きなアーティスト
■speena 『つづれおり』
■チャットモンチー 『シャングリラ』
橋本絵莉子は俺の嫁
・・・
■過去ログ選を更新しました。
wktkが止まりませんね^^
これがシャングリラ…よいですね^^
早く続き読みたいです!><
私もspeena好きですよ…* 月に鳴く
2949さん もしや高い声の女性ヴォーカル好き?
そんで一歩にwktk
橋本絵莉子は俺の嫁( ^ω^)
まさかのコラボw
いやいや橋本絵莉子は俺の嫁っすよwwwサーセンwwwww
まあ橋本絵莉子は譲れないが…。
まっくのっうち
続きが楽しみです☆
speenaはジレンマとかもいいですよね〜
昔よく聴いてました♪
初コメです(^-^)
これはwktkが止まらないwwww
ここまでアッコは俺の嫁というカキコがないことについて嬉しいような悲しいような複雑な感情になった。
アッコは俺の嫁( ^ω^)
かまいたちのことですね。
えっちゃんなら今僕のマラをシャングリラしてるおwwwwwwwww 肉さんサーセンwwwwwwwww
やった!
しかしwktk
これを期待
恋の煙もお勧めです
コメント増えてからか
厨が多くなってダメになったのかな
つまらなくなったとかはこういう場で言うものじゃない(*´Д`)少しは物事考えて発言しましょ
二重なったよね。
>>思ったことも書けない米欄に何の意味があるの?お前が少し考えろよ。
このサイトは好きだけどさ
こんなところでやめちゃダメだよ。
期待に応えることは、さほど重要じゃないし。
この記事に対するコメントなんだから記事に関連したコメントをするのが常識だと思うが。漠然と「つまらなくなった」とだけ書いて、どうしたいのか。この記事のこういうところがどうだった、と言いあうのがコメント欄だろ。ブログに対する意見ならメールフォームから送ればいいだけの話。
なんかポエム書いたりするし
高2病?
報道志向強くなり
TBSの川田亜子アナが3月23日付で同局を退社し、テレビ朝日のキャスターに転身することが5日までに、分かった。
う゛〜んなかなか続きが気になりますね〜^^
次回楽しみにしてます!!(ただ・・・くそみそはちょっと・・・
ブログは100%自分のモノ。
好きなときに好きなだけ好きなこと書いたらよいのですよ〜
と、日々思っております。
あんた相変わらずナウいもん書いてるのね〜〜
好きよ〜〜〜♪
肉さん頑張って(^ω^)
肉さんのブログは肉さんのもの。馴れ合うつもりじゃないけどつまらない、しか書けない人の事はキニシナイ
ちょっとそぐわないような感じもしますが、
のび太から見た幕の内一歩の異質さが
リアリティを持って現れてきていると思います。
面白かったです。
続きが待ち遠しいです。
あるまじき写真が月刊誌に掲載されてしまい、
後に引退することになった【藤本綾】
なんと先日、自殺未遂騒動を起こしていたことが
わかった。
詳細はこちら。