超高齢化社会に対応するべく日本政府が打ち出した
「避妊したら死刑」
という恐ろしい政策に、人民は為す術もなく従った。
その政策の行き着く先を見越してミキハウスに就職したタケシは、目論見通り巨万の富を得ることに成功したのだが、愛する妻に遂には逃げられてしまう。
「私は遅漏しか愛せません」
というメッセージを残して。
そう、避妊禁止がためコンドームの着用もままならなかったタケシは、その早漏っぷりに磨きがかかっていたのであった。タケシは途方に暮れる。
苦悩するタケシ、そのタケシの前に現れたのは大学時代の先輩で、全く新しい形のピンクローターの開発に勤しむ肉襦袢猛(にくじゅばん・たける)だった…。
「先輩、俺、一体どうしたらいいのか…」
タケシは深い悩みの中にいた。国の避妊禁止政策により授かった今の富。けれどもまた、その政策によって愛する妻、ジェーンが逃げたのも事実であった。
「いいじゃないか、タケシ、早漏だって立派な個性だよ」
そう、優しい言葉を掛ける猛だったが、タケシは黙ってかぶりをふった。
「違うんです、先輩。僕だって自分の早漏には誇りを持っています。あれはもはや芸術の域に達したと言ってもいいくらいだと思います。分かりますか?先輩。この世界に、本当に3こすり半で果てることのできる人間が何人いるか、想像できますか?でも…それじゃあだめなんです。妻は、そんな僕のことを認めてくれないんですよ…」
最後は殆ど息だけの声になりながら、タケシはゆっくりと呟いた。その様子を黙って見つめていた猛だったが、なるほどなあ、と小さな声を発した後にタケシに話しかけ始めた。
「俺のじいちゃんはさ、花火師だったんだ。小さな仕事場で、職人なんて数えるほどしかいなかったけど、そりゃあ凄い腕前でさあ…夏祭りの時期になると、じいちゃんの花火はどこからもひっぱりだこだったんだぜ?俺、そんなじいちゃんの背中見て育ったから、職人っていうのに凄く憧れていてさ…」
初めて聞く話だった。確かに猛にはその言葉に違わぬくらい頑固一徹なところがある。それは生まれつきの性格とばかり思っていたが、どうやら今の話に多少関係があるのだろう。
「だから、俺は何をするにしてもとことんまで突き詰めてやらないと気が済まないんだよ。今、俺はフリーターやってるけど、それもとことんまでやってみたいんだよ。俺、働いたら負けだと思ってるからさ」
思わずハッとして猛の顔を見上げた。その表情は穏やかで、一つの迷いもなかった。猛の佇まいは、紛うことなくニートのそれだった。僕の頬に、熱い雫が伝った。
「先輩、俺…」
「いいんだ、もう、何も喋るな。その代わりほら、これ…」
猛がぶっきらぼうに何かを押しつけてくる。手にとって見ると、それはペニスバンドだった。
「これって…」
「ん…ちいさい頃さ、俺よくそれを使って遅くまで遊んでたんだよな…」
照れくさそうに頭を掻く猛の横顔に、ふと、遠い日の幼い顔がオーバーラップする。きっと、笑顔の無邪気な少年だったのだろう。アナルのようなえくぼは、猛のチャームポイントだった。それは今も変わらない。
「タケシ、お前が遅漏になることは、やっぱり難しいと思う。だからさ…使ってもらえよ、それ、かみさんにさ」
「それって…アナルファッ…」
「♪おとなのかいだんのーぼるー きみはまだーシンデレラーさー」
猛は歌いながら答えを誤魔化したようにも見えたが、タケシの心は不思議と穏やかさに包まれていった−−−