しげしげとその顔を見つめながら「うーむ、誰かに似ている!」と思っていると、何のことはない。昔付き合っていた人に面影が似ていたのだ。
2001年11月。僕は高校三年生。バリバリのkeep on 童貞。友達のセックス体験を聞いたり、祖母名義で作ったレンタルビデオの会員証を駆使してAVを借りては脳内天国に花を咲かせていたあの頃。
「俺は、とにかく、彼女が欲しい!」
そんな僕の切なるシャウトは、誰の鼓膜も揺らさなかった。それも無理はないことで、僕の通っていた高校は県下トップクラスの進学校(と言っても、山口県は全国で下から数えたほうが随分早いくらい偏差値の低い県なのだけど)で、皆受験を前にして目が星飛馬状態になっていたからだ。
「それでも俺は、彼女が欲しい!」
シーン。咳をしても一人。あまりのノーリアクションっぷりに、教室の片隅で勝手に尾崎放哉にシンパシーを覚える僕。「お前ら皆、不幸になれ!」叫んで、僕は教室を駆け出した。
お分かりかとは思いますが、僕はこの段階で完全に受験勉強を放棄していた。もちろん親の手前、申し訳程度に予備校に通ったり、速読英単語を読んだりしてはいたけれど、大学合格に向けたパッションとか、華のキャンパスライフに対する憧れとか、そのあたりの気持ちは完全に僕の中の『め組』の手によって鎮火されていた。思い出す、あの頃のことを。毎月の小遣いを握りつつ、月に何度か竹下君と連れ立って地元のキャバクラ(いや、ラウンジ?)で安い酒を啜っていた、あの日々。
「安めぐみっていう女の子がマジで可愛いんだって!」
5年前のあの頃から安めぐみのブレイクを予想していた竹下君は、中々先見の明があると、今振り返って思う。
「安でも高でもいいけどさぁー、俺は彼女が欲しいんだよね」
進学校から脱線気味だった僕のソウルを受け止めてくれるのは、当時竹下君だけだった。僕は竹下の家に行くと、セブンイレブンで買ったパック酒「月桂冠・月」でベロベロに酔った頭で熱弁をぶった。
「作ればええやん。まあ俺には彼女おるけん関係ないけど」
僕のソウルは、いつも一方通行だったけれど。
「肉ちゃん、そんなに出会いが欲しいんやったら、合コンでもする?」
昼休み、僕が教室で『不夜城』を読んでいる時のことだったように記憶している。見上げた僕の視線の先には隣のクラスの渡辺くんが立っていた。
「する!」
即答だったように記憶している。
「じゃ、もう一人誰か誘っといてよ!」
その頃、乳首サージェントの名前を欲しいままにしていた僕は、女子からはカマドウマよりも毛嫌いされていた感はあったけれど、男友達は豊富にいた。僕はその中で「女>>>受験勉強」という不等号を心に抱いていそうな男をリストアップすると、素早く声を掛けた。
「柴田、勉強ばっかしとったらタマキンに毒がたまるんやないか?俺と一緒に、合コン行かんか?」
「行く!」
即答だったように、記憶している。
こうして導かれし僕たちは、受験も押し迫った11月というデストロイな季節に迷うことなく合コンを開催した。誰かが言った、「刹那に生きる。」あの時の僕らは、間違いなくロックの風を浴びていたと思う。
翌週末。
僕たちは北九州小倉の駅前に立っていた。
僕は当時持っていた中で一番高価だったスウェットとジーンズに身を包みつつ、何度もトイレに行ったりしてヘアチェックを行なった。柴田も、普段よりも1.5倍ほどお洒落に見えた。渡辺は、別に何も変わらない。
「やべえ!俺、緊張してきた!」
「平常心!平常心やて!」
「あ、来たよー。こっちこっち」
渡辺が遠くに向かって手招きしている。僕たちは緊張を悟られまいと、携帯を取り出してメールを見る素振りをしたり、わざとらしくショウウインドウを眺めたりしていた。今考えると、かなり童貞臭い所作ではある。
「こんにちはー」
ピンク色の声、否!可憐なる声が鼓膜を優しくバイブレーションする。これだよ、僕が欲しかったのは!古今和歌集も力のモーメントもas〜as構文も、今、この瞬間には一切不要!俺はただ、甘く溶けるような時間、それだけが欲しかったんだ。僕は心で十字を切った。ゴッド。
「おい、どうだ?」
ヒソヒソと柴田が僕に呟く。この言葉はつまり
「やって来た女の子の顔面の具合はどうだ」
ということだと瞬時に察知した。
僕は、よく考えてみると緊張のあまり未だ女の子の顔をチェキしていないことに気付いた。とりあえず「ンンッ!」と咳払いをしたりして、何気なさを装いながらそっとやって来た女の子(angel)たちの顔面に鋭いメスを入れる。
□一人目
全体的に小さめ。おそらく身長152cmほど。目はクリっとしている。バストは……ああ分からん!俺には分からん!でもイイ!何か分からんけどイイヨー!!合格!
□二人目
ギャル風。目はとろんとしている。身長は158cmくらいか。ヘソから下の守備力は弱そうなあたり、インファイターかもしれない。バストは……分かんねえ!俺には分かんねえ!もうイイ!合格!
□三人目
中肉中背。まさに中庸という言葉がピッタリだった。食べ物に譬えると、パセリか?大丈夫、明日という日は誰にでも等しくやってくるのだから。
「一人目か、二人目だな……」
僕はボソボソと呟きながら(しばらくは見(ケン)しておこう)と保守的な姿勢でこの戦を戦うことにした。もちろん、どちらか一方が「抱いて」と言ってきた場合には速やかに応じる心構えで。財布の中にはしっかりとオカモトのコンドーム、それがチェリークオリティ。
店に入ると、突然
「あたし、肉欲さんのこと知っていますよ!」
と急角度からのアッパーカットがサクレツした。一人目の女の子が、何やら僕のことを知っていると言う。ハッキリ言って、一度もあったことないはずなんだけれど……。
(乳首関係の悪行がバレたか?!)
僕は心の中で「南無三!」と唱えると、初めて仏を信じたい気持ちになった。
「一度会ったの、覚えてませんか?」

(お前は何を言っているんだ)
「ほら、体育祭で写真撮らせてもらったじゃないですかー」
「えっ、もしかしてあの時の!?」
覚えている。僕はその夏の体育祭で応援団長をカマしていた。結果は最下位。今でもブルーにしてくれる青春の思い出。
そう、あの時。僕の組が一通り演技を終えて体育教官室の前で休んでいると、見慣れない制服のナオン二人が確かに写真を撮っていったような……。疲れていたから、その辺りの記憶は曖昧だった。
「でもさあ、あの時もっと髪が長い子だったと思うんだけど……」
「あの後、切りました」
「ああ、そうなの……」
冷静を装いながらも、心は早鐘を打ったように鳴動している。
(俺の写真を撮った!?)
これは贔屓目に考えても「僕に興味があるということ」だと僕の脳内のwindows95がシャウトしている。やったぜゲイツ!やはりmacじゃこうは行かない。<アフィ>みんな、windowsは最高のOSだよ!!</アフィ>
「柴田、俺は一人目の子にする!」
素早く僕は伝令を飛ばした。こういうシチュエーションで対象が被った場合、血で血を洗う戦争になりかねないからだ。男の友情は、チンポ関係によってのみ崩れる。これは紛れもない真実だ。女性の皆さん、くれぐれもご留意を。
「俺も二人目の子がええと思っとったんよ!」
戦争は回避された。僕らは互いのターゲットを決めると、めいめいが各個遊撃を始める。
「ちゅーかさあ!何で俺の写真撮ろうとか思ったわけ?」
前陣速攻、握りはペン!僕は己の精神世界に住むペコを叩き起こすと、率直な疑問を投げかけた。
「あー、私、お兄さんと絵の塾が同じなんですよー。それで、夏に一回遊んだりしてー。だから興味があったんです」
もし、この時僕にギャリック砲を撃つ力があったとしたら、兄の住んでいた小平市は確実に消し飛んでいただろう。『敵は往々にして、身内の中にいるものである』。古から伝わる教えを、僕は身を以て実感した。とりあえず僕はギャリック砲の代わりに、脊髄反射をフル活用して兄にメールをした。
「テメエ!大学生の分際で高校生と遊んでんじゃねーよ!?告訴されんぞ!?!」
光よりも速く兄にメールを打つと、再びトークをジョイフルし始めた。
「彼氏とかいるの?」
「ええー、いたら来ませんよー」
ま、それはそうだわな。
「彼氏欲しいの?」
「そうですねー。クリスマスとかも近いですしねー」
「じゃあ俺と付き合えばいいじゃん」
「あはは、肉さんおもしろーい」
ちっとも面白くねえよ、こちとら。童貞の叫びを、ギャクにしてくれるな!頼むから!ま、振り返ってみたら確実にギャグとしか思えないタイミングなんですが。若さゆえの過ちでしょうね。
「とりあえずメアドと番号教えてよ!」
僕は最低限のラインを死守すると、とりあえずその日のコンパを終了した。
「メール、するから!」
まだ日付も変わらない夜。
そう言いながら手を振りつつ別れた小倉駅。
二度とは戻らない青春の日。
「メール、するから!」
今では二度と言えないセリフのような気がする。たぶん僕はその言葉の代わりに
「もう一軒、行こか?」
とか言って、さほど飲みたくもない冷酒でもオーダーするんだろう。思えば遠くに来たものだな、としみじみと思う。
その後、色々あって、僕はその子に恋をした。授業中にカチカチとメールのやり取りをするのが何より楽しかったように思い出す。
「肉さん、今日は空がすっごく青いよ!」
今なら鼻くそをほじくりながら画面をスクロールしそうな内容の電信。けれどそこは恋の魔法、僕は0.5秒で窓の外を見上げ
(ホントだ!青い!)
なんて、いたく感動したもんさ。ホントに青かったのは、自分のケツなのにね。
【一旦、明日に続く】
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体育祭の応援団長はかなりモテますよ(^ω^)
団長と写真撮るときとか列ができてましたからねー。
肉欲さんにもこんな頃があったんだね
ガチで
パセリワロスwwwwwwww
合コンいいな。
後編期待してますっ!
受験はまだ始まってすらいませんよ!
個人的には「もう1軒」の方が嬉しいけどww
あいかわらず、すごい文章力ですね^^感動します。
小説とか書いてみてはどうですか? 売れたらモテますよ〜♪
回想のお話大好き
(゜д゜)ウッウー
身長:165メートル
目は複眼
どうですか?^^
応援団の団長はモテる代償に必ず一浪以上する
ってルールがありましたよ。
蒼井そらのブログ
僕にも、そんな時があった…と思う、たぶん。
後編たのしみにしちょります!
>俺と付き合っちゃえばいいじゃん
!イヤー===(*´д`*)==⇒ン!
大好きです肉さんv
次もっと甘い言葉期待してますv…ぁはあ
やはり団員じゃモテませんか…
(´・ω・`)
【肉欲より】
普通に携帯のメアドを持っておりましたが。
そういえば
( ^ω^)いま肉さんが夢にでてきたおw
(*^ω^)肉様ったら…
余談:12月23日のエントリ「肉欲の空」を表示させると何故か、
副題欄に【撲は〜】と出て来るのは使用ブラウザの所為ですか?
ファイルシークを串して携帯で見ても同じなんだよ。当時の心境でFA?
肉欲さんと飲みたいよー
俺はブログ巡回
ときめきますなあ。
性春か!?青春か!?
明日に期待!
俺も高校の時って男子高じゃねぇーかぁ!
文化祭ウマーだったけどNE(はぁと)
これじゃなんだか普通の友達の日記みたいであまり…(>_<)
無料のブログに求めすぎ!?すみません。
今週もラジオありますかっ?