新宿、午後9時23分、@白木屋。
あなたが目の前の女性からそう訊かれた場合。
その脳内には様々な想いが過るに違いない。目の前の人間との関係性にもよるが、思うに、純度1000%の本音をレスポンスするオスは、ほとんど皆無と言えるだろう。
(どうしてそんなことを尋ねるのか?)
よほど酩酊しているケースはさて置き、通常は真っ先にそこのところを考える。相手が何を期待しているのか?どんな言葉を狙っておられるのか?本音をぶつけても許されるメス、オア、ノット?無意識的に様々なハードルを見据える。
(最適解はどこなのか?)
人と人とのナマの触れ合いには、温度がある。だが、温度というものは目に見えない。故に、繊細に相手の温度を推し量り、自らもその温度に適した言葉を返さなくてはならない。我々が最適解を探る瞬間である。
「あ、アテントかなぁー」
本音ではあるのだろう。包み隠さず己が価値観を曝け出すその姿勢は、極めて実直だ。けれども、そのボールにはちょっとフックが効きすぎている。危険球のラインを超え、いっそ中性子爆弾のテイストだ。目の前の女の生理もたちまち上がること請け合い。
「なんでもいいよ、その人に似合っているものだったら……」
結局、無難な地点に軟着陸するしかない。相手との関係性が微妙であればあるほど、僕たちは安全な妥協点を模索することだろう。その返答が、抱える本音と極北の位置にあるのだとしても。
かくして、主観的な話題・価値観の表明には、繊細なハートが求められやすい。そこに唯一無二の解答など存在しないからである。
あなたの価値観が目の前の相手と合致すれば問題ない。だが、残念ながら異なってしまったとき。あなたの発言は相手の価値観を否定してしまうだろう。
男「やっぱ、Tバック!Tでしょ!あのワイルドな風味、むき出しのケツ。そこに滋味を感じないヤツは、オスじゃないね」
女「やっぱり男の人ってそうなんだ……露出度なんだ……だから最近、彼、求めてこないんだ……」
ほとんど辻斬りのような女である。というか、そういうことなら最初からそう聞け!そう叫ぶあなたの意見は正しいが、そのロジックはもはや通用しない。既に彼女は 【Tこそマスト】 確信してしまったのだから。
『人は見たいと欲するものしか見ない』
カエサルの言葉だ。目の前の女は、端っからあなたの言葉など、どうでも良かった。ただ自らを取り巻く不遇に納得のいく響きを、調べを。"男性という一般概念" の中から引き出したかっただけのことだ。
その意味からすれば、この文脈では 「俺はアテント!」 とシャウトしていた方が、よほどマシだっただろう。さすがにアテントを "男性一般におけるラブな価値観

結果として、他人から価値観の表明を求められることが苦手な僕である。『その背後に潜む狙い』 を読み解く行為が、おそろしく面倒だからだ。抜き身の価値観を無遠慮にぶつけ、挙句痛い目にあった経験も、一度や二度ではきかない。
だから、ブログの内容にも慎重になることがある。僕はNTRが好きだ!その表明はフラットだが、皆さんにおけるそれぞれの解釈は、決してフラットではないだろう。いや、僕のことはどう解釈されても構わない。だが、僕による 「NTRが好きだ!」 という発表により、NTRという概念全般が、あるいは、男全般という観念が。極めて歪曲された形で受け止められてしまったら?そのとき俺に、責任がとれるのかーー?
目に見えない、顔も窺えないやり取りであるからこそ。繊細になる瞬間も存在する。一方的に価値観を表明するようなやり方で、いいのか?!葛藤を覚えてしまうのである。
実に1000回に1回くらいは、そんなメロウでセンチな心境でパソコンに向かっている……そう考えてもらって構わない。残りの999回は、まあ、特に何も考えずに書いている。
無責任でいられる時、たとえばブログを書くようなシーンでは、ダイレクトに本音を投げる。責任を求められる時、たとえば顔を付き合わせての会話では、なるべく三味線を弾く。
大体そういう感じで切り抜けるようにしているのだが、しかし、どうしてもそれが通らないケースもある。
「どんな下着が好きなの?」
そのリリックを、彼女や妻からスナイプされる場合である。
「えっと、まあ、似合う感じなら……」
「だから、それはどんなの?」
察しろよ!もう!だが『察しろ』、その釈明は彼女・ザ・鬼警部には遠すぎて、脆すぎて、何も言えなくて、夏。僕らはすぐさま半落ち寸前、窓越しに寺尾聰ライクな己のフェイスを見ることだろう。だが、それでも
「パンパース……」
言えっこないのである。いや、言うわけにはいかないのだ。それは別に『そもそも、パンパースは下着なのか?』 眠たい議論を避けたいからではない。あくまでも
「パンパースは好きだが、別にお前に履いて欲しいわけじゃない」
結論がそこに帰着するからだ。極めて微妙な心の性感帯、そいつは恋人にだって隠したいときも、ある。
「ぱ、パンパース……買ってきたよ……(///)」
違うのである。いや、間違ってない。だが、正しくもない。分かるだろうか、この繊細で絶妙なタッチが。
かつて、もんた&ブラザーズは『ダンシングオールナイト』という楽曲の中で、こう歌った。
Dancin'all night 言葉にすれば
Dancin'all night 嘘に染まる
その価値観は、その生生しい想いは。言葉にした時点で嘘に染まる。なぜなら彼におけるアテント、パンパースなハートは、極めてアプリオリ(前経験的)なリビドーであり、その想いを、あるいは情熱を、言葉で誰かに伝えることなど、およそ不可能であるからだ。また、それが複雑で微妙で身勝手なタッチであればあるほど、誰かに押し付けるような真似も、したくはない。
「パンパース、履いたよ……(///)」
そのシーンを見た彼の心にあるのは、興奮ではなく、確実に懺悔。
『身勝手な俺の価値観を、身勝手に押し付けてしまった……』
好きな人にだからこそ抱いてしまう、切ない絶望。魂のすれ違い。このあたりは非常に難しいテーマである。
「どんな下着が好きなの?」
かつて、俺も彼女から訊かれたことがある。
そして当然、上述したような葛藤に苛まれた。
だけどその日、意を決してこう告げた。
「縞パンとか、いいんじゃないですかね……」
「えー、縞パン(笑)はないわぁ〜」
じゃあ訊くなよ!テメエ!!!俺は一瞬にして無差別殺人犯のソウルに共鳴した。まあ、だからと言って彼女に縞パンを買って、履いて欲しかったわけでは、毛頭ないのだが……。
「縞パン(笑)以外で何かないの?」
「敢えて言えば……パンティのサイドの部分、腰から脚にかけての布面積、そいつがタイトな感じがいいかな……極端な感じでいえば、紐パンのような……」
僕がその言葉を吐いた瞬間。彼女の顔が絶望に歪む。その理由は明確で、僕の把握する限り、彼女がタンス貯金する全てのパンティは、件の布面積がアベレージで5センチくらいはあったからだ。ちょっとしたサニタリーショーツな装いと言えば、分かりやすいだろうか?
「え、え?じゃあ、この、いま履いてるパンツとかは……?」
「まぁ、アウトだ……」
どうだろう!?この誰も得しないテイスト。理不尽過ぎるチキンレース。皆さんにしても、誰かの価値観を尋ねること、あるいは、自分の価値観を表明すること。そいつの恐ろしさを分かってもらえたと思う。
後日、彼女はパンティを買ってきた。確かにそれは、腰から脚にかけての布面積の少ないそれだった。だがそのパンティが僕の琴線に触れることはない。心遣いに感謝はすれど、それはどうしても後出しジャンケンのように感じられるからだ。無残なことを言っているとは理解するが、抱いた心を止める術も、記憶を改竄する方法も、僕にはない。
「い、イナフだねぇ……」
それは、優しさとは正反対のところに位置する言葉だ。整合性を保つためだけに発せられた、下らないサービス精神の発露。
結局、訊けば返ってくるような言葉に、大した意味などない。
『あなたに似合っていれば、それで……』
それは10000%の確率でウソ、大げさ、紛らわしい誇大広告。JARO出動、即御用。聞こえはよくとも、心はどこにも存在しない。
「俺、冬に女が油断して剃り残した脇毛がマジで好きなんだよねぇー!!」
これは僕個人的な叫びである。そして、純度1000000%の本音だ。訊かれてもないのに表明しているこの言葉は、魂のハイオク、フォーナインのインゴット、マッハ500の弾丸特急。嫌がる女性の抗議を無視し 『おやおや、つくしの子が恥ずかしげに顔を出しますか?もうすぐ春ですか?』 と、ゲワキを撫でつつ囁くシーン。キャンディーズのスーちゃんの気持ちで責め上げるシーン。考えただけでたまらない情緒だ。
「今日、剃り残してきたから……(///)」
解散しろ!!今すぐ。何度も言うが、後出しジャンケンではいけないのだ。いや、ホント、心意気は買うんだけども……。
訊いてもないのに抜かしている言葉。
普段から口さがなく喧伝しているナマな表明。
本当の意味における人の心は、そういうところから読み取るべきだ。尋ねて返ってくる言葉は、並べて "よそ行き" の声でしかない。
訊いてもないのに語ること。
酔ったときに垂れ流す戯言。
いけない薬をキメた時に発現するキワキワなリリック。
本音は、そういうところに眠っている。
そういう話なのかな って
ここに良い壺が…
『どんなパンツ?』という質問の答えにはなりますか?
好きなパンツを履いてると、
偶然目にするのが嬉しいから言わない
じゃダメなんでしょうか