その1
その朝、肉欲は珍しく早起きすると窓辺でモーニングティーをシルブプレしていた。そしてガチャリ、奥の部屋のドアが開く。神木キュンが眠い目をこすりながら居間に歩いて来た。
「ふぁあああ……あれ?肉欲さん、今日は早いんですね。お早うございます」
突然始まった二人の奇妙な生活、朝は大抵神木キュンの方が先に起きるのが常だった。それもそのはずで、あまり遅くまでうかうかと寝ていれば肉欲から何をされるか分かったものではなかったからだ。これまでに肉欲がはたらいた狼藉は、イタズラ未遂3回、下着ドロ未遂5回、手コキ未遂2回、そして強姦未遂が248回だった。もちろん神木キュンが何らの抵抗を見せなかった訳ではないが、リビングに置かれた電話機から「1」と「0」のボタンが根こそぎ破壊されていることを、彼は知っていた。110、それは彼にとってあまりにも遠い数字。
「おはよう神木キュン。見てご覧、いい天気だよ!再出発には相応しい日だ」
「再出発……?あっ」
そう、今日は神木キュンの初登校の日だった。
神木キュンが肉欲の家に来たのは、まだ夏も盛りのある日。
登校しようにもその頃は夏休みで、彼は満足なスクールライフすら味わえていなかったのだ。
「そうだ!今日から学校だったんだふぁぁぁぁ」
神木キュンの口から思わずあくびが漏れる。
昨日は新しく始まる学校生活への興奮のあまり、中々寝付けなかったのだ。
「おや神木キュン、眠そうだね。そういう時にはモーニングコーヒーが一番だよ」
そう言ってキッチンに向かう肉欲。
帰って来た手にはホットコーヒーが握られてた。
「さ、これを飲みなさい神木キュン。目が覚めるよー」
「ありがとう肉欲さ」
神木キュンはカップを手にして絶句した。
なにやらカップの表面に浮かんでいる物体があった。
「あの、肉欲さん、何か浮いていますけれども」
「ん、それはクリープだよ神木キュン。ブラックは体に良くない」
神木キュンはコーヒーの表面をまじまじと見詰める。
白い?いや、むしろ若干黄色い。
予感があった。このクリープは絶対に溶けない。
ていうかクリープじゃない。
3億数千万の恨みのシャウトが、またもや聞こえた。
「危ない!」
「え?」
次の瞬間、神木キュンは叫びながらカップの中身を丸ごと肉欲にブッ掛けた。
たまには反撃しておかねば、彼は瞬時にそう思ったのだ。
いつまでも牙の抜かれた狼ではいられないのである。
「熱い!熱い!超気持ちいい……!」
(ダメだこいつ……)
しかし肉欲には何も通用しなかったようだ。
『触れないスピードにはどんな力も通用しない』
その言葉の意味を、神木キュンは改めて思い知った。
「行って来ます……」
神木キュンは悄然(しょうぜん)とした様子で家を後にした。
無理も無い、朝ごはんから鰻重を食べさせられて溌剌といられる小学生が全国に何人居ようか。
「神木キュン!夜はウナギかけご飯だからね!デザートはアイス抜きスッポンアイス!」
背中から肉欲のそんなシャウトが聞こえる。
死ねばいい、無意識にそんなことを思った。
「やべー、コンドームないよー^^」
バタン!
力任せにドアを閉め、そのままエントランスに向けて走り出した。
絶対殺す、成長したらじわじわとなぶり殺しにしてくれる、意識的にそんなことを思った。
「それじゃあ転校生を紹介します」
「は、はじめまして!神木といいます、どうぞよろしくお願いします!」
無事に教室に着いた神木キュンは、滞りなく自己紹介を済ませた。
ざっとクラスを見渡した。
みんないい人そうだった。
「じゃ、神木キュ……」
「キュ?!」
思わず神木キュンは声を荒げる。
まさかこの担任まで?絶望が胸を支配した。
「どうしたの?神木くん」
「ああ、いえ、なんでもないんです……」
どうやら少しナーバスになっていたらしい。
そうだよ、世の中の大人が皆変態なわけじゃないんだから。
「じゃ、神木くんの席はあそこだから」
「はい!」
神木キュンは示された席に向かって歩き始める。
「よろしくな神木!」
「昼休みあそぼーぜ!」
次々と掛けられる暖かい声。
(良かった。なんとか馴染めそうだ)
神木キュンはホッと胸を撫で下ろした。
神木キュンのプリプリとした尻に、先生(阿部寛似)も思わずペロリと舌なめずり。
「よーし、じゃあ算数の授業から始めるぞー」
「「はーい!!」」
久しぶりの授業だった。
不安がないわけではなかったけれど、神木キュンは勉強には自信があった。
自慢じゃないが、大抵の単元は1年上の内容までは理解している。
だからどんな内容でもついて行ける自信はあった。
神木キュンはランドセルから教科書を取り出す。
【ウホッ!いい算数 山川出版】
「もう勘弁ならん!もう勘弁ならん!」
「ど、どうしたの神木くん?!」
思わず叫んだ神木キュンの言葉に、クラスメイトが心配そうな顔で見詰める。
(ま、まずい、転向早々イタいヤツと思われたら先が暗い。
ここは平静を装わないと……)
「ああ、いえ、なんでもないんです、ハハ……」
「そう、なら授業を始めるよ」
あまりにも唐突過ぎた神木キュンの言葉は、却って何事か理解されなかったようだ。危ない危ない。
それにしても、と神木キュンは思った。なんなんだこの算数は。山川出版は算数にまで手を伸ばしてたっけ?そんなことを考えたが、今はそれよりも授業に専念することが先だった。
「じゃ、37ページ開いてー」
周りの教科書を見るが、明らかに神木キュンのモノとは属性、もとい出版社が異なっていた。これだったら37ページを開いても意味が無いな……と思った神木キュンだったが、とにかくも授業に参画する姿勢だけでも見せておかなければ。神木キュンは慌ててページを繰った。
「えー、池に3匹の亀がいました。そこに5羽の鶴がやって来ました。さて、足は全部で何本でしょうか……」
しめた!どうやら内容は同じのようだった。
奇妙な偶然もあるものだ。
それに僕は、ツルカメ算が大の得意だった。
(こんなの簡単簡単)
「はい、じゃあ神木くん、こたえてー」
「あっ、ハイ!」
ここは印象を高めるためにも、確実に答えておきたい。
多少卑怯な手ではあったが、神木キュンは素早く次のページをめくると、自分の答を検算しようとした。
【答:すごく……大きいです……】
「野朗!ブッ殺してやる!」
「わー 神木くんが壊れたー」
―――と、こんなわけで神木キュンの転向初日はクソミソな結果に終わったのでした。

毎回楽しく読ませていただいています。
てゆーかくそみそwwww
まじめに足の本数をカウントしてしまった自分が恥ずかしいです。
かまいたちのきゃーの続きが気になりますね
本当におもろいw
このシリーズもっとやって欲しいです笑
再開一発目は神木キュンシリーズでしたか。かまいたちシリーズとばかり。
ね、ネトラジ批判で落ち込んだとか心配してたんじゃないんだからねッ!
山川は世界史のイメージが。授業を無視して読み耽りましたなぁ。
神木ストーリー大好物ですww
「うーんこの少年のプリケツ、ドラフト1に会うフード1号に任命しよう!」
執事
「王子、彼は神木キュンです。」
これからの神×肉ワールドにnktkしながら待ってます
壊れゆく神木キュンが笑えて仕方ないですv
このシリーズまだ続けてほしいbb
肉欲さん、ほんとドラえもん好きなんすねwww
続きは!?続きは!!!?
「書籍化」クラスだと思われます。
まぁ、神木君にはメチャ恨まれる
でしょうが(笑)