郷里の傑物、高杉晋作の詠んだ辞世の句だ。ステキなお言葉である。世の中がつまらないと嘆く前に、自分で愉快なものにしようーーこの自給自足的なマインド。無人の野を征くが如きロック&ワイルドな生き様。僕らが気づかないだけで、世界は可能性に満ち溢れているのだ。
2月2日。
この日僕は 『2月を完璧に楽しもう』 と猛決意。すぐさまスーパーに走り太巻きの準備にとりかかった。節分を根こそぎ味わうために、手作りの太巻きの存在はマストだからだ。

メインの具材はビンチョウマグロ。サクで200円強。

まずはこいつをヅケにする。漬けダレは 煮切り酒:醤油=1:1 の配合だ。タッパーウェアにビンチョウマグロを漬け、30分ほど冷蔵庫で寝かせる。


その間に厚焼き玉子を用意。

上手に焼けました。

細く切った各種具材(ビンチョウマグロ、厚焼き玉子、カニカマ、ニンジン)をシャリに載せ

巻く。

横から見た図。初めての巻きずしにしては上手くいった方である。
完成した太巻きを両手に、北北西少し右を睨みつけ、無言で咥える。3口ほど食べたら飽きたので、即座にビールをキャッチ・アンド・オープン。強めに味付けをした各種具材はサイコーの酒アテとなった。サンキュー太巻き。
かくして僕の恵方巻き童貞は無事に散った。だが節分はまだ始まったばかり。僕は急ぎ着替え、近所の神社へとチャリを走らせる。
近所にある氷川神社。目当ては無論豆まきだ。

老男若女で賑わう境内。

清々しいまでの快晴。

そして現れる年男・年女のお歴々。

宮司によるマメ・セレモニーの説明が始まる。この時、境内のボルテージは最高潮に達し、集まったヤング・ボーイ、ヤング・ガールたちによる 『マメ・コール』 が巻き起こった。

(まーめ!!まーめ!!とシャウトする児童たち。ガキどもは確実にトランス状態にあった)
かくして豆まきがスタート。投げつけられる豆袋に大勢の人間が手を伸ばす。いや、そんなに欲しいか?!それ。だって、ただの大豆の成れの果てだぜ。100%節分を楽しむ気概で来た俺であったが、心の一部はなぜだかひどく冷め切っていた。何が悲しくて俺は豆を投げつけられなくてはならないのか……。

まあ、ちゃっかり豆はゲットした。豆に罪はないからである。
豆まきが済んだとなれば、次は豆食、いわゆる "歳の数だけ豆を食べなくてはならない" という謎のアレである。豆の数と歳の数との間になんの因果関係があるのかは分からないが、とにかくそういうことに決まっているらしいので、今年の僕は28の豆をサーチ&デストロイする義務を押し売りされている。
だが、28粒もの大豆を一人寂しくしみじみ食べる……その絵面。想像しただけで死にたくなる話だ。豆をひたすら黙々と啄むとき、人は "孤独" という言葉が孕む真の意味を知ることだろう。
結果として、ゲットした豆を酒瓶で粉々にデストロイし
特売で買った豚ロース肉に溶かした天ぷら粉をつけ
粉砕された大豆をまぶし
油の海に投入し
トンカツとなった次第だ。
上手に出来ました。

節分を僕なりに解釈し、『とにかくも胃袋に入ればオッケーだろう』という結論を抱くに至ったため、【節分の豆はトンカツにしてもイナフ】 この地平に軟着陸した次第である。食べた感想としては、クリスプ感溢れる心地良い食感だった。とはいえ、もう二度と作ることはないだろう。どう考えてもパン粉で揚げた方がウマイからである。無論、大豆に罪はないのであるが……。
節分を終え、次なる2月のイベントは建国記念の日である。
だが、一口に建国記念の日といっても、一体何を記念すれば良いのだろうか。神武天皇を偲んだ自慰、いわゆるジムニーに勤しめば及第点か?いやしかし、軽々な行動は賢くない。建国記念日論争、というものもある。あまり迂闊なことをカマしていたら、一部の過激派から心のこもったサリンなどを直輸出されかねないだろう。
悩んだ結果、このたび、金魚を二匹飼うこととした。
建国記念日に、僕に家族が増えました。

キュートでプリティな方がカメくん、ワイルドでタフな方がマツくん。命名の根拠は、僕の生年月日が10月15日なのであるが、その日というのが地元にある関の氏神・亀山八幡宮のお祭りの日であり、結果として父が僕の名前を【亀祭(かめまつ)】に決定するところだったーーというヒリついたエピソードに由来している。ギャグのように聞こえるかもしれないが、これはガチの話だ。父の下したクールな回避判断にサンキューと叫びたい。
こうして、小さな僕の部屋に、小さな小さな水槽国家が誕生した。だからこれは、僕の僕による僕のための建国記念日。つつましやかな国ではあるが、一日でも長く平和と健康を保てるよう、国家最高機関としては誠心誠意頑張っていきたい所存だ。
そして迎える2月の大トロ。クリスマスに並び、孤独な男たちを阿鼻叫喚の無間地獄に叩きこむ陰惨なイベント。そいつの名はセント・バレンタインデー。この行事もまた、自給自足の精神で楽しむことに決定した。
では、何を作るか?王道で考えれば、どうしてもチョコということになる。だが、一人暮らしの男が湯煎をして……型に流しこんで……デコレーションを施して……ラッピングをして云々……想像するだけで心をレイプされた気持ちだ。圧倒的なジェノサイド感である。
それでも甘味は作りたい。なぜならその日はバレンタインデーだからだ。ではどうするか?2分ほど熟考した結果、答はすぐに閃いた。
豆を煮込み
甘納豆が完成した風情である。
昨今のように洋風にかぶれてしまったムーブメントにあっては見落とされがちだが、甘納豆の有するポテンシャルは相当に高い。若者風に形容すれば、ガチでヤバイ。その歯ごたえ、芳醇な豆スメル、広がる控えめな甘さ……そのどれをとっても一級品であるし、何なら酒のツマミにもなる。焼酎のお湯割りと甘納豆、この組み合わせはまさしく犯罪的だ。騙されたと思って試してみて頂きたい。ウェルカムトゥ・マメ・ワールド。
2月14日を迎えたいま、僕はメイドイン俺の甘納豆をしみじみと食べながら、この日記を書いている次第だ。今年の僕はバレンタインチョコ、否、バレンタインマメを無事にゲットすることと相成った。自給自足ではあるが、事実は事実である。
我が物顔をしてのさばっている旧態依然とした慣習は、殆どの場合マジファックな風味であること請け合いであり、バレンタインはチョコでなくてはならない!という法はどこにもない。2月14日、手作りの甘納豆、いいじゃないか。僕はいま、凪いだ水面のように穏やかな気分だ。
以上である。ひとまずこれで 「僕は2月をパーフェクトに味わった」 と断言して差し支えないだろう。
恵方巻き、豆まき、カメとマツ、そして甘納豆。僕は自らの努力と工夫の結果、過不足ない形でそれらを手にすることができた。
チータも朗々と唄い上げた通り、幸せは歩いて来ない。
だから、歩いてゆくのだ。
次に見据えるは3月。
まずは3月3日、ひな祭りの日には菱餅と甘酒を胃袋にぶち込み、サイコーのテンションで桃の節句を迎え撃つ気概だ。
僕にとって、日常とは、目が疲れるくらい彩りに満ちている。
人生の楽しみ方に迷ったら、いつでも気軽に訊いてくれ。
僕もあの二人区別つかんっす。
この調子で女性もサラッとマメ料理してしまいそうな肉欲さんを想像してしまいました