肉欲企画。

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2012年02月02日

東京拘置所訪問

先日の日曜、ブログ友達であるzukkiniさんと共に、刑事被告人を収容する日本最大規模の施設である "東京拘置所" へと足を運んだ。

 
本題に入る前に、まず "拘置所" と "刑務所" の違いを、極めて雑に説明しておく。


拘置所→『もしかしたら悪人かもしれない人々』がお泊りしているところ。なお、死刑囚もお泊りしている。

刑務所→裁判所から「アンタ、ワルだよ」と認定された人々がお泊りしているところ。


(似たような単語に『留置所』があるが、留置所が各都道府県警の管理下に置かれるのに対し、拘置所と刑務所は法務省の管理下にある、という点で両者は異なっている)



先日の日記で 『赴けば必ず出会えるものになんてワクワク感は覚えられない』 といった旨のことを書いた。その気持ちに嘘はないが、例外もある。

そこに行かなきゃ、絶対に見られないもの

間違いようもなくプライスレスな話だ。人生が有限である以上、一つでも多くそういう "レア" なものを見てみたい……自然とそういう欲求を抱いてしまう僕だ。

かかる動機のもと、これまで僕が訪れたことのあるプレイスは以下の次第である。


・アンコールワット
・山谷(東京)のドヤ街
・飛田新地(大阪)
・上野、新宿2丁目のハッテン場
・あわら温泉(福井県)のストリップ
・真栄原社交街(沖縄)
・ソイカウボーイ(バンコク)
・ナーナーエンターテイメントプラザ(バンコク)
・まるは通り(下関)


アンコールワットから下が急転直下のドドメ色であるが、そこのところはあまり気にしなくても良い案件である。積極的に忘れて欲しい。


さて、東京拘置所である。今日までの僕の個人史において、東京拘置所のお世話になった記憶はない。また、これからもあって欲しくはない。

だからこそ、この目に東京拘置所をおさめたい。いかなる空気感、土地風情の中に東京拘置所が建立されているのか。東京拘置所を受け入れる街は、一体どういう雰囲気なのか。

不意にそいつを確かめてみたくなったのである。


2012年1月29日 晴天・強風
我々は東武伊勢崎線小菅駅の駅前に降り立った。

zukkiniさん(以下、z)「いやぁ肉欲くん、駅を降りると2秒で民家、2秒で民家だよ。これは中々見られる光景じゃないよ」

「キテる感、ありますね」

地方都市ならいざ知らず、ここは花の都・大東京である。駅対面に民家がある……確かにその光景は中々にレアだ。だが、僕はzukkiniさんに同調するフリをしながら、こう思った。それは、割と、どうでもいいなーーと。おそらく西武線あたりでも、それほど珍しくない光景であることが予想されたからである。

ただ、僕もいいオトナなので、そういうことは思っても言わないのであるが……。

駅を出てすぐに大通りに突き当たった。事前に地図など確認する筈もない我々なので、たちまちに進むべき道を見失ってしまった。

z「肉欲くん、どうしよう」

「とりあえず酒でも買いましょう」

迷ったときほど普段の自分を』、これが僕における人生のテーマだ。その思いに従い、流れるようにトリスハイボールを買った。プルトップを開ける。口をつける。飲む。トリスの味は、いつでも等しく滑らかにマズい。僕はトリスを片手に目の前の爺さんへ話しかけた。

「東京拘置所はどちらですか?」

爺「あんだぁ?面会か!?

美しいまでのコール&レスポンスである。

しかしこれが小菅でのルーティンなのだ。地域には地域の文脈が存在し、

"拘置所"

"面会"

という泥臭い単語は、その土地にあればこそ 『なんでもない日常』 の中へスルリと落とし込まれていくのだ。僕は経験至上主義者ではない。だけどこういうシーンを味わう瞬間、"経験することの尊さ" みたいなものを、しみじみと感じさせられる。

「いやぁ、散歩ですよ。ねえ?」

z「そうそう、散歩、散歩」

爺「さん……さ……あぁ……?」

僕のプロファイリングによれば、当時の爺さんが捉えた視界は以下の如しだ。

『日曜の真昼間』
『寒風吹きすさぶ1月の末』
『30前後と思しき男が二人』
『拘置所へと散歩』

中々スリリングな絵面である。スティーブン・キングであれば、このキーワードを下に骨太なサスペンスシナリオの1本を上梓することだろう。内容は『ショーシャンクの空に』から脱獄シーンを抜き、囚人によりアヌスをガン掘りされるシーンを3時間ほどの長尺で再編集したものに相違ない。

爺「そこ、まっすぐ行けば……着くから……」

言葉少なげに爺さんはその場を後にした。

乾いた風が、一陣。
僕らの間を吹いて流れた。

小菅の駅周辺には何もなかった。もちろん、住宅や工場、あるいは極道の方々の事務所と思しきもの、等の施設は存在した。だがそれら全ては必要最低限のラインを超えていなかった。『何もない』という成分を3日3晩かけてじっくり煮込み、そこで発生した上澄み液を濾過し、さらに遠心分離機(4℃ / 12000rph / 30min)にかけ、最後に常温で放置したような……よく分からないが、とにかくも街の風情としては、取り立てた特徴は存しなかった。


ここから東京拘置所までの模様は、写真によるダイジェストでお届けいたします。



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そこかしこに宣伝される『保釈金立替』の看板が生々しい。



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分かりにくいが、これが東京拘置所の外観である。施設の性質上、当然ながら軽々に近づくことはできない。



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注意すべき規則が掲示されている。ちなみにこの写真は敷地外(国道)から撮っているので完全にセーフだ。



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こちらも拘置所外観。この写真だけを見て、これが東京拘置所だと思う人は少ないだろう。



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東京拘置所のすぐ脇には立派なマンションが建てられている。ビッグなお世話だとは承知だが、住民の方々の心情はいかばかりなのか。



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差入店。この日は日曜なので閉まっていた。

差入店とは何か、というと、その名の通り 『拘置所内にいる人に差入する物を販売している店』 のことである。そこには日用品から雑誌、食料品に至るまで、様々な品が用意されている。

こういうことを書くと

「罪人に対してそんな……雑誌や食料の自由が許されていいのか!」

とシャウトする方もいそうだが、その批判は少し苦しい。なぜなら、先にも述べた通り拘置所にいる人々は、一部例外を除いて未決拘禁者、すなわち 『罪の確定していない人』 であるからだ。また、憲法・刑事訴訟法には『推定無罪の原則』というものが定められている。噛み砕いて言えば

「逮捕された≠有罪」

ということだ。逮捕即有罪、ではない。裁判所が「あなたは有罪です」と認定し、それが確定したとき、初めてその人は 『罪人』 としての烙印を押されるのである。裏を返せばその烙印を押されるまで、たとえその人が逮捕されていようが何だろうが、その人は 『推定無罪』 、要するに我々と同じ立場にある。

そうである以上、飲食の自由や読書の自由、あの歯ブラシが欲しい!などを願うこと……それらは、出来る限り保証されなくてはならない。もちろん、拘置所内の規律・秩序・安寧などは当然守られる必要があるので、何もかもが自由である訳ではないが。

だからこその "差入店" なのであろう。ここで用意されているものは、大抵の場合差入が可能だ。餅は餅屋、というヤツである。

なお、ほとんどの物品は、自らが拘置所に持ち込み、必要な書式に過不足ない記載を行えば、手ずからの差入が可能なようであるが、飲食物だけは例外であるらしい。差入店にて差し入れたい飲食物を指定し、金銭を支払ったうえで、差入店側が直接拘置所へと差入を行うようである。これはおそらく、拘置所内に禁制物品を持ち込ませないようにするためであろう。缶詰の中に毒を忍ばせるようなケースを想像してもらえれば分かり易いかもしれない。

以上は『元刑務官が明かす東京拘置所のすべて』という書籍を読み、僕なりに解釈したうえでの説明である。間違った箇所があれば適宜ご指摘頂ければ幸いだ。



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差入店の横に、おそらく日本で一番有名と思しきポリスの肖像画があった。いくら小菅が葛飾区とはいえ、この絵はあまりにも雑なのではないだろうか……。



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と思いきや、著作権者側から1000%のお墨付きを得られた絵であった。いくらなんでも、もう少しキッチリと監修すべきではないのだろうか。まあ、これも、ビッグなお世話なのだろうけど。


ーー以上が、駆け足ながら東京拘置所近辺のダイジェストである。門外漢の故、酷い写りの画像ばかりであることは、寛容な精神でご容赦賜りたい。


z「いやあ、予想外に早く見回っちゃったね。どうしよう、これから」

「とりあえず、寒いし、道すがらにあった店に入ってみましょう」

この時、我々はひとつの雑貨屋に目星をつけていた。
それは

『あの店なら酒を飲ませてくれそうだ

という目星だった。何の変哲もない雑貨屋に対して、である。

z「あの店、絶対イケるって肉くん」

「奇遇ですね、僕もそう思っていました」

野に放たれたハイエナ、酒だけに特化されたピュアなるDNA。普段は胡乱極まりない脳内なのに、アルコールの放つスメルにだけは極度に先鋭化されてゆく。

「こんにちは〜、お酒飲めますか〜?」

ガラス戸を開けながら開口一番それだったのも、ひとつご愛嬌というものだ。瞬間、僕らの存在を認めた婆さんが光よりも速い言葉を放つ。

婆「車かい!?あんたら、車か?!

アー ユー ア カー オア ナット?(Are you a car or not?)唐突に叫ぶ婆さん。僕たちはたちまち思考の迷路を彷徨った。

「く、車じゃ、ないっス」

言うだけで精々だった。しかし婆さんはその言葉に満足を得られなかったらしく、すぐさま店の奥へとシャウトを上げる。

婆「お゛お゛ぉどぉーーーざあああああん!(意訳:お父さん)ぎゃああぐだぁああよ゛ぉおお!!(意訳:来客なう)」

この対応、この空気感。俺はこれとよく似たバイブスを肌で知っている。それは関西、あるいは下関ーー要するに、西日本のそれと近しいテンションだ。古き良き日本、と言い換えてもいいかもしれない。

お父さん「あ゛あ゛?!車か!?!

繰り返される 『車か!?』 の調べ。有機物と無機物の違いって、一体どこにあるのだろう。僕は無意識的にそんなことを考えた。

「車、じゃ、ない、っス」

文節を区切るようにして、言った。すると奥から、今度はお爺さんお婆さんの息子と思しき男性が姿を現した。

車ですね?

ーーそう、ここはデトロイト。アメリカ合衆国ミシガン州南東部にある都市。南北をエリー湖とヒューロン湖に挟まれており、東はカナダのウィンザー市に接する。アメリカ中西部有数の世界都市。主要産業は自動車産業であり、「自動車の街」とも呼ばれる地域。それは突然、砂漠の蜃気楼のように、小菅の町に浮かんで消えて……。



婆「いやぁー、今日は荒川の方でサッカーやっててな゛ぁ〜。だからっつうか、車で来てる人がお゛おいんだわ!」

z「ハハ……完膚なきまでに徒歩ですね……我々……」

ようやく事情を理解してもらい、雑貨店の中に腰を落ち着け酒を飲む我々。どうもこの雑貨店は土地の一角を駐車場として供しているらしく、僕らもその用で来たと確信していた、とのことだった。気持ちは分かる。だが、主語・述語関係はなるべく大切にして頂きたいところだ。



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味のある店内だった。ビールを飲んで、タバコを一服。zukkiniさんは、何やら魚の缶詰を購入してらっしゃった。



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婆「あ゛んたら、こんなとこまで何しに来たの?」

z「ちょっと拘置所を見学しに」

婆「あ゛たしは福島出身でねえ!」

論理構造の破綻した会話が心地よい、そんな瞬間。清らかにくすんだ空気の流れる軒の下、僕は極めて自然な手つきでワンカップを購入した。



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婆「ワンカッ……お゛どぉぉおおさあぁあ゛ん!ワンカッ、日本酒ぅ、い゛くらぁあぁ?!」

爺さん「……にぃひゃくさぁんじゅぅぅぇん……」

婆「ん、230円」

「ハイ、230円」

東京、いや、日本広しといえども、たった10秒ほどの間に230円の4文字が3回もリフレインされたのはあの日、あの時、あの小菅の空の下だけだったであろう……そのことを僕は確信している。



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z「そういえば、小菅の駅と言えば!駅を出てすぐに民家があるんですねぇ〜

この男はいつまでその情報を推し続けるのか。あの光景がそんなにzukkiniさんの琴線に触れたというのだろうか?分からない、僕には皆目、分からない。

婆「あ゛ぁ?ああ……民家……あ゛たしゃあね゛え、福島の生まれでねえぇ!

打つも打ったり、投げも投げたりである。ここにあって、会話の成立する意味、必要性などは、どこにも存在しないのだ。

婆「ほれぇ」



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故に、何の文脈もなく差し出されるおかき、並びにビスケットだ。これぞまさにIBS(イナカ・バアチャン・システム)の技術の粋、というべきであろう。

「いやー、久しぶりに食べると、やっぱ優しいなあビスケット……ほんわかと甘いわ……ポン酒と合うわおかーさん……おかーさん?!」

婆「ほれほれ」

展開されるはBWS(ビスケット・ワンコソバ・システム)だった。食べるそばからビスケットが補充されていくその光景。まさに終わりの見えないマラソン、永久機関。加えて、おかきまでも補充されていく。エンドレス・ビスケット&おかき。おそらく小菅は、未来永劫食糧難の問題と無縁で在り続けることだろう。

なお、おかき+ビスケットというペアが僕の喉に襲いかかった結果、いちじるしく喉が渇いたゆえに、購入したポン酒は音よりも速く消費された。げに恐ろしきは小菅を支配するローカルロジックである。



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ふと目をやった陳列棚には、あからさまに使いかけのポン酢がズドンとその御姿を誇示されていた。なぜこんなところにポン酢があるのか、せめて冷蔵庫に入れたらいかがなのか……という部分、そいつに俺は関知しない。もはや関知などするべきではないのである。


婆「お゛ぉ?もういぐんかい?」

「うん、ごちそうさまでした。おかーさん、外からお店の写真、撮ってもいい?」

婆「だぁめだよ、はずがしい……(///)

地域には地域の文脈がある。分かりにくかろうと何だろうと、よそのもの僕たちがその地域へ飛び込もうとするなら、最大限の努力でもってその文脈を読み取るべきだ。婆さんが恥ずかしいというのなら、その写真は撮るべきではない。あなたが加納典明でない限り。

「じゃあね、それでは……」

またーーとは、言わないし、言えない。次に小菅に来る日、それは確実にワッパを手に嵌めた挙句のことである筈だからだ。レアな体験を希求する僕にあっても、さすがにそこは御免被りたいところである。


こうして僕らの東京拘置所散策は終わりを告げた。

この出来事が今後、僕にとって何か役立つのかどうか、それは全く分からない。

間違いなく言えることがあるとすれば、先々において、もし

『小菅なう』

呟く日が訪れたとしたら。

どうか黙って差入店へ足を運んで欲しい。
そして僕にさばの水煮缶を差し入れて欲しい。


コンビーフでも、もちろん可である。



posted by 肉欲さん at 01:06 | Comment(6) | TrackBack(0) | 旅行記 このエントリーを含むはてなブックマーク
この記事へのコメント
うむ。
Posted by   at 2012年02月02日 01:26
頭の中でこの婆ちゃんが完全にトトロの婆ちゃんとシンクロした・・・。
Posted by ヒヅキキイチ at 2012年02月02日 02:04
竹ノ塚在住なので、いざと言う時は差し入れに伺いますよ!
Posted by at 2012年02月02日 22:13
差入店の外観に親しみを覚えました。一生無縁でいたいものです。
Posted by ヶ at 2012年02月03日 17:28
コンニャクやちくわも需要ありそうですね!
おかずにはなりませんけど
Posted by at 2012年02月04日 19:26
会社の先輩が元東京拘置所の死刑執行官やっていた 朝〇〇番!!ハイッお別れですっポリス連れて行き執行 嫌な仕事だったと いつも 死刑執行とは言わない お別れです!!と 言うそうだ
Posted by 川崎のおじさん at 2012年12月13日 02:06
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