オレはスランプのどん底にいた。
オレの名前は木手英一、19歳。
東京工業大学を目指して浪人中の冴えない男。
特技は先祖ゆずりの発明だ。
キ「どうして……どうして上手くいかないんだ……!」
発明が得意……それも今となっては昔の話。
天才少年――その言葉の響きも、遠く霞んでしまった。
全てはあの日、そう、8年前の春の日に起こった。
―――――
(8年前)
キ「ない……奇天烈(キテレツ)大百科がない……!」
それは、まだ初春というのにバカに暑い日の出来事だった。
オレは、近所の低脳どもをからかうべく新たなる発明に着手しようとしていた。
オレが発明できるのには、タネがあった。
そう、オレの祖先、奇天烈斎の残した発明書、奇天烈大百科。
これがオレの発明の源泉であり、そしてオレの全てだった。
この日も、適当にその大百科を紐解いてファニーな発明に取り掛かろうとしていたのだ。
(どうして……どうして大百科がないんだ……!)
「あら、どうしたのキテレツ」
物置を漁っていた俺の背後から突如声をかけられた。
オレは慌てて振り向く。
そこには子宮、もといオレの母親がいた。
キ「あ、ああ、ママ。ちょっと探し物をしていて……」
決して狼狽してはいけない。
オレはこの家では、物静かで少し図工の得意な息子という設定で押し通しているのだ。
ここで慌てた様子を見せては余計な詮索をされかねない。
マ「何か探し物でもしているの?」
キ「うんちょっと……ここに読みかけの本を置いてたんだけれど……」
マ「あら?もしかしてあの古びた本のこと?」
キ「そ、そうそう!それだよそれのこと!ママ、どこにあるか知ってるの?」
マ「あらやだ、それだったら昨日チリ紙交換に出しちゃったわー。最近、物価が高くていやんなっちゃうから。オホホホホ」
ズババババ!
途端にオレの腕の中で唸りをあげるサブマシンガン。
マ「ギャーーーー!!」
ママは死んだ。
―――――
これが、8年前に起こった出来事だ。
白昼の事件、ママは暴漢に襲われて……死んだ。
現代の、都会の無関心が生んだ残酷な事件だった。
それはさておき、この日から僕の手元から奇天烈大百科は失われてしまった。
天才少年の名を欲しいままにしていた僕の地位が失墜したのも、丁度この日からだった。
大百科を持たない僕は、ただの子供だった。
いや、ただの子供以下だった。
逆上がりもできない。
九九は六の段まで。
50m走は37秒フラット。
小学校の卒業式の前日、教室で先生から
「思い切ってやってみるか?留年」
と言われた時には、本気で六法全書の『教育』の欄を紐解いた。
あれから八年―――もう、八年もの月日が流れたのだ。
この八年はそう、砂を噛むような、汚水を飲み下すような……そんな恥辱と辛酸にまみれた日々だった。
マ「キテレツ、ご飯よ」
不意に掛けられた声に、僕は顔を上げた。
マ「今日はアナタの好きなコロッケよ」
キ「……僕の前では普通に振舞えと言っているだろう、コロ助」
マ、改めコロ助「……そうだったナリね」
そう言うとママ――ことコロ助――は、頭に被せられたカツラを取った。
―――8年前のあの日、暴漢に襲われてズタボロになったママの亡骸を目の前にして、僕はこう誓った。
(刑務所だけはゴメンだ!)
僕は胸ポケットから取り出した大型スコップで庭に半径2mの穴を掘ると、そこに肉塊――元・ママ――を埋め、静かに埋葬した。
僕は居間に向かい、そこに生けられていた花を手にする。
僕の手には、ママの大好きだった胡蝶蘭。
それを両手に包み、僕は庭に向かうと、そのまま玄関を走りぬけ商店街に向かい、足を止めて叫んだ
キ「この胡蝶蘭、幾らになりますのん?」
帰り道、僕の手には「月姫」と「ヤマジュン作品集+α」が握られていた。
コロ助「大変ナリ!ママがいないナリ!」
玄関を開けた僕を出迎えたのは、騒々しいコロ助の声だった。
コ「ママが……ママが……!」
花とか虫をか、有無も言わさず踏みにじりたい。
そんなラジカルな想いに包まれていた僕は目の前の傀儡を見てリビドーにもにた破壊衝動(wild uncontrollable urge to destroy)に駆られたのだけれども、それをしてしまうと全てが破綻してしまう。
僕はブルブルと震える手を抑え付けると、そっとチンポを握った。
キ「コロ助……落ち着いて聞いてくれ。キミが今日から木手家のママになるんだ」
コ「ど、どういうことナリか?!」
キ「僕だって信じられないんだけれど、ママは男を作って逃げてしまった。もう帰らないそうだ。万景峰号に乗ってしまったんだ。僕も見送りに行った。帰って来るとしたら、もう遺骨以外の線はない。悪いのはママじゃない、全て、全て……!」
コ「それ以上は、もう言わなくていいナリ……」
キ「僕は!僕はいいんだ……ただパパが……パパがこの事実を受け止めて……果たして耐え切れるかどうか心配で……僕はそれだけが……」
コ「キテレツ……」
キ「だからコロ助、キミに頼みがあるんだ」
コ「な、なんナリか?」
キ「キミに、ママを演じて欲しいんだ……パパの為に……木手家の平穏を、守る為に」
僕の言葉に、コロ助は明らかに狼狽していた。
その頼りない顔が僕の破壊衝動を一層高めていく。
ブルブル。
パンツは既にベトベトになっていた。
コ「そ、そんな!無茶ナリよ!」
キ「いや、キミならできる!秘策もあるんだ!」
そう言うと僕はおもむろに尻ポケットからある物を取り出した。
コ「こ、これは……」
キ「アデランスイヴファーレ。こんなこともあろうかと思って、用意していたんだ。さあ、被ってごらん」
僕は彼の手を導き、そっとその人工頭髪をコロ助の頭部に装着した。
僕はコロ助をそのまま寝室の化粧台に導く。
キ「……さあ、目を開けてごらん」
コ「うわぁ……カツラを被った拙者……すごくミセスダウト……」
―――こうして、全ての歯車が回り始めたのが、そう、8年前だったのだ。
コ「……そんなこともあったナリねえ……」
コロ助の言葉に、ついつい自分語りをしていた自分に気付いた。
どうしたことだろう、この8年間、そんな記憶を思い出すこともなかったのに……。
コ「あの日に備え付けてもらったこの人工オマンコ(テクニカル・オマンコ)もすっかり古女房になってしまったナリよ……」
そう言って己のオ○○マンコを愛おしそうに触るコロ助。
あの後に知ったことだったのだけれど、ウチのパパは相当に絶倫だったようだ。
コロ助とパパとは、幾億もの夜伽を重ねたらしい。
思えばコイツにも苦労をかけたものだ。
(けど、苦労をかけたのに僕はと言えば……!)
コ「どうしたナリか?キテレツ……」
キ「僕はもうダメだ!何もかもお終いなんだ!」
ガシャーン。
叫んで、僕はカールの袋を踏み潰した。
コ「やめて!乱暴はよして!」
キ「……すまない」
部屋に静寂が走る。
8年前のあの日から、僕はズタボロだった。
元より、発明しか能のなかった僕だ。
それも独創ではなく、先祖の残した遺産にすがって―――。
奇天烈大百科のなくなった僕は、まるで無能だった。
凡夫、だった。
クラスの人間からは『空気』扱いされた。
利用価値のなくなった僕は、あたかもPSPが16ビットになってしまったが如き扱いを受けるようになった。
「はい、じゃあ二人組みになってー」
そんな何気ない先生の言葉。
クラスワークの時間は、いつだって煉獄の刻(とき)だった。
「先生な、枠にはまった教育が嫌いなんだ。だから、な!してみようか、留年!」
中学校の担任に言われたこの言葉。
思わずサリンを散布しかけた。
キ「僕はもうダメなんだ!何をして……どう足掻いても……何にも……誰にもなれないんだよ……!」
いつの間にか、部屋の窓から西日が差し始めていた。
カア。カア。
群れにはぐれたカラスが、電線の上で一匹鳴いているのが……聞こえた。
コ「キテレツ……模試の結果は……」
キ「フフ……これを見ろよ……」
そう言って一枚の紙切れをコロ助に手渡す。
そこに並んだ平板な文字の羅列。
偏差値――3。
コ「いや、あの、これはこれで才能かと」
キ「おためごかしは沢山だ!」
バシン!
気付くと僕はコロ助の横っ面をはたいていた。
慌てて正気に戻る。
殴るつもりなんて……暴力を振るうつもりなんてなかったのに……。
キ「わ、悪い……ついカッとなって」
コ「いいナリよ」
赤くなった頬を押さえることもなく、ニッコリ笑って立ち上がるコロ助。
コイツだけは……コロ助だけは、今も、昔も、変わらない。
コ「そんなに、大学に入りたいナリか?」
居住まいを正し、真剣な面持ちでコロ助が僕に向かって聞いてきた。
鋭い眼差し。射抜くような視線には、先ほどまでの温かみは、どこにもなかった。
ゴクリ。僕は思わず生唾を飲む。
キ「あ、ああ……オレは、東工大に入って、もう一度、天才の名を欲しいままにするんだ!」
僕は拳を振り上げて叫んだ。
夕景。
先ほどまでやかましく鳴いていたカラスは、もうどこにもいなかった。
コロ助は、ふう、と溜息をついて僕を見詰める。
僕は視線を逸らすことなく、彼の瞳を見詰め返した。
コ「では、これを使うナリ」
キ「こ、これは……!」
コロ助が言葉と共に僕の手に差し出してきたのは、一つの玩具だった。
キ「これは、古より伝わる伝説の……『乱れ駁シリーズ・其の四桜花』じゃないか!」
乱れ駁・桜花――空想の戯曲とされた伝説のオーパーツ。
封印されし暗器、伝聞にしか情報のない、夢幻のアナルバイブだった。
キ「どうして……どうしてキミがこんな物を!」
コ「それも、奇天烈斎様の発明ナリよ」
キ「しかしこんな物は奇天烈大百科には……」
コ「我輩だけが知っていることナリ」
ことの顛末はこうだった。
奇天烈斎は、時の将軍に頼まれ
「三国一のアナルバイブを作成してくれ」
と頼まれ、その作成に着手した。
彼が参考にしたのは、乱れ駁シリーズの文献だったらしい。折りしも当時の江戸には、まだ僅かながらの文献が残っていたのだそうだ。
そして苦節2週間、奇天烈斎はついに乱れ駁・桜花を完成させた。
「将軍様、これに」
「うむ、良い出来じゃ。早速試してみよう。アッーー!」
襲いくる快楽。
将軍は瞬時に絶命した。
そして奇天烈斎は、将軍を殺した天下の謀反人として即座に打ち首獄門の刑に処されたのだった。
キ「そんな……そんなことがあったのか……」
コ「だから、奇天烈斎様はその構造を文献に残すことができなかったナリ。けど、我輩だけは……間近で見ていた我輩だけは、その構造を暗記していたナリよ……」
キ「それで……これがここに……」
コ「キテレツ」
神妙な面持ちで、コロ助は僕の肩を掴んだ。
僕は固唾を飲んで彼の言葉を待つ。
コ「この技術を東工大の教授陣に見せれば、いや東工大だけじゃなく……おそらく、世界のどの大学にも楽に入れるナリ。だけれど、我輩が手伝いできるのはそこまでナリ。その後は……入った後の手助けは……我輩にも……」
キ「分かってる、みなまで言うな」
僕はコロ助の言葉を制止し、黙って彼の肩を抱いた。
細い、肩だった。
そして、強い肩でもあった。
(これが母の温もりか……)
幼い頃、凶刃によって母を亡くした僕にとって、その温もりは、彼からの一番の贈り物となったんだ。
(4ヵ月後……)
キ「じゃ、行ってくるよ!」
コ改めママ「行ってらっしゃい英一!ベストを尽くすのよ!」
今日はマサチューセッツ工科大学の入試だった。
正直言って乱れ駁・桜花さえあればどこに入試にも落ちる気がしなかった。
僕は東工大なんていう極東の大学からは目を逸らし遥か世界へ……そう、世界へ羽ばたく決意をしたのだ。
(止まっていた僕の心を、キミが動かしてくれたんだ)
僕は、今は姿の見えなくなったコロ助に向かって静かにお辞儀をした。
――成田――
『ノースウェスト航空……○×△便にお乗りのお客様は……至急……』
キ「おっと、行かなくちゃな」
僕はアナルバイブを手にすると、静かに手荷物検査場に向かった。
係員「おや?これは」
キ「アナルバイブですよ」
係員「これは失礼しました。よい旅を」
キ「グラッチェ(ありがとう)」
僕はこうして、機上の人となった。
―――
試験官「それで、志望の動機は?」
キ「何言ってっか分かんないっス。日本語でいいっスよwwwサーセンwww」
試験官「ダメだコイツ」
キ「ホラホラ、これこれ。このアナルバイブ。さてとりいだしたるはこの摩訶不思議なアナルバイブ、これをこうして菊門(キクゲート)にあてがいますとアラ不思議!とてつもない快楽がギャーーー!」
キテレツは、快楽の中、遠いアリゾナの地で、死んだ。

なかなか面白いっすb
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8年?6年?
↑奇天烈が言ってるwww
しかし絶頂の中で死んだ奇天烈はいい顔で逝ったんでしょうね。
アウアウwwwwwww
『チンプイ』や『シャドウ商会変奇郎』も捨てがたい。
長かったんだお
目からウロコだよ!
キテレツが気に入ってるそうです。
そんな藤子さんに顔射してアナルバイブ突っ込んで放置プレイするような真似をするなんて恐ろしい子・・・・!
ピノコとブラックジャック、ファック。