さて謝罪も済み、皆さんからの許しを得られたところで、本題に入ります。
今年はおよそ10年ぶりとなるロンリークリスマスである。それはそれとして別に構わない。成長し、大人となったいまでは、『一人で過ごす時間』 というものについて、一種の尊さすら覚えている。
一人で過ごす時間を豊かにするためには、何が必要か。思うにそれは "ひとつのことに没頭できるか否か" 、ここが肝要となる。
心躍る書物を傍らに
美しい絵画を目の前に
叙情的な音楽を耳に
時に僕たちは『時間を忘れる』。
これこそ、正に豊かな時間の過ごし方である。
僕についていえば、それは 『料理をしている時間』 へと帰納していく。
上手い下手は別として、僕は料理が好きだ。実直に作れば、そのぶん実直な味で、完成された料理が僕を出迎えてくれる。具材を切り、あれこれと調味し、火を通し、盛りつける。それはかつて小学校で体験した『図画工作』の時間に似ている。もしくは化学方程式のようだ。ひとつひとつ丁寧に積み重ねれば、ほぼ確実に美味しい料理は出来上がる。例外はあるにせよ、ほとんどの場合、料理は裏切らない。僕たちが料理を裏切らない限り。
従って今年は料理をして過ごすこととした。一人で買い物にいき、一人で酒を選び、一人で料理し、一人で嗜む。字面だけ追うとほとんど自殺を促すようなそれであるが、僕はそういう風にして過ごす時間を、なにより大切にしたいのだ。喜びや悲しみ、快楽や怨嗟。並べてそれらは主観的にしか決定され得ない。世評がどうあれ、少なくとも自分自身が心から楽しいと思えるのであれば、あなたは人生上手だ。
クリスマスの夕餉といえば、鶏をおいて他にない。僕にはかねてからチャレンジしたいことがあった。それは『鶏を丸ごと一匹買い、それを丸ごと調理する』、これである。
ただ、僕は永いことオーブンのある台所環境に恵まれず、結果としてその想いを持て余すほかなかった。けれども、今年の僕にはオーブンレンジがある。だとすれば、挑戦するしかない。ローストチキンの野郎に。
僕はスーパーに行き、急ぎ丸鶏を購入した。国産、およそ2キロで980円。レジに通す瞬間ぞわぞわとした情念が胸にこみ上げる。
嗚呼、あれほど請い願った丸鶏が、ついに我が手に。
ようやくこの手で、お前を滅茶苦茶にできるというのか。
俺はこの瞬間を、世界で一番待っていた。

(この訴求力よ)
ローストチキンを作るにあたっては、こちらの動画を参考にさせて頂いた。
おそらくこれは、ジェイミー・オリヴァーのレシピを基にしたものである。ざっくりと手順を示すと、以下の通り。
1 丸鶏の内部に塩コショウをする
2 レモンと玉ねぎを内部に入れる
3 バター、オリーブオイル、レモン汁、イタリアンパセリ、塩胡椒を練り合わせ、それを鶏の皮下に擦り込む
4 180度に熱したオーブンで90分〜120分ほど焼く
5 肉汁でグレイビーを作る
6 切り分け、5で作ったグレイビーを掛けて、完成
非常にシンプルな行程だ。ローストチキンという料理の性質上、むしろ単純なやり方の方が素材の味を引き出しやすいのかもしれない。とりあえず僕もこのレシピに倣うこととした(ただ、技術的に自信がなかったため、3の行程は割愛)。

(家にレモンがあると、何だか贅沢な気分になる)

(丸鶏にレモンとじゃがいもを詰め、竹串で封をする)

(表面に塩胡椒、ミックスハーブをまぶす)

(後は焼くばかりである)
スタートボタンを押したあとも、仕上がりが気になって何度も何度もオーブンの様子を見ていた。初めての料理はバカにそわそわしてしまう。
そして120分をきっちり焼き上げ、いよいよローストチキンは完成した。
野郎ども、メリーだ!

(メリーだ!)
完璧じゃねえか……思わず嘆息が漏れでた。オーブンレンジで美味く焼き上がるのか?という懸念もあったが、この写真を見てもらえればそれが杞憂であったことをお分かり頂けるだろう。ジュウジュウと小気味良い音を鳴らしつつ、肉の焼けた香ばしい匂いが鼻腔を強く刺激する。これこれ、これだよ。これがあれば俺はもう他に何もいらない。

(あまりにも美しすぎる御姿)
急ぎ肉汁をフライパンに移し、グレイビーを作る。レシピはバター、料理酒、コンソメスープ。最後に水溶き片栗粉でとろみを付けて、出来上がり。楽なものである。
更に鶏肉を切り分け、グレイビーをかけた。付け合せは鶏の中でじっくり蒸し焼きれたジャガイモ。粗忽であるが、僕は別にこれでいい。
そしてようやく訪れる、邂逅の刻(とき)。

(嗚呼、君は)

(こんなにも美しく)

(ウマそうで)
これよ、これ。やはりクリスマスはこうでなくてはいけませんね。焼き上げられたチキン、少しのお野菜、そしてワイン。何も足さない、何も引かない。そういう在り方こそが本来のクリスマスであるし、またひとりの時間を、そっと優しく包み込んでくれるのだ。
さあ、料理は時をうつさずに。温かいうちに食べねばなるまい。いただきマンモス!
おお、こ・・これ・・・は・・・・!!う、ウマ、ウマくないぞこれ。あんまり。
お、おいテメー…マジかよ……
こんなのってないよ……
絶望。その二文字が僕の心を埋め尽くした。『一人の時間も、いいものだぜ?』 と、ドヤ顔で記事をアップロードする目論見も、根こそぎ消えた。ふざけるなよ、FUZAKERUNAYO!!鶏、テメーこのチキン野郎!殺すぞ貴様!もう死んでいるが!クソッ、生き返れ!そして死んで欲しい!
>料理は裏切らない。僕たちが料理を裏切らない限り。(ドヤァ
テメーも死ね!いや、これは俺か?!死にたくない!だが死んでくれ!消費者金融で限度額マックスまで借りて、しこうして後に死んでくれればそれでいい!!俺からのお願いだ!!
完全にしてやられました。滅茶苦茶マズいって訳じゃないんですけれども、どうにも臭みがね……やはり下処理をもっと丁寧にやるか、あるいはより高級な鶏を買うか、そのいずれかが必要だったのだと思われます。とりあえず作ったものは仕方がないので、肉をほぐして鶏雑炊やチキンライスにすることにします。鶏に罪はないからね……。
なんていうことだ。期待が高かった分、しくじった時の絶望感は実に大きい。それはまさにいま、この瞬間のことである。こんな時、誰かがそっと傍らにいてくれたらば……そうか、だからこそ彼らは、必死になってクリスマスを誰かと過ごそうとしていたのか……並べて故のあることだったのか……お前らはいつだってクレバーだったさ……。
(ピンポーン)
俺「ん?こんな時間に誰だろう。はいはーい。僕だよー」
(ガチャリ)
「来ちゃった……」
俺「み、宮崎あおいさん!?もとい、高岡あおいさん、高岡あおいさんじゃないか!!」
「私をその名前で呼ぶのは止して!あおい、私はもう、ただのあおいなのよ……」
俺「I beg your pardon.マジでソーリー。さあ、あおい。イヴの夜は寒い、まずはマイハウスにインするんだ」
あおい「おじゃまシマウマ」
俺「ふふ、ギャグも一級品ときたもんだ。あっ……!」
あおい「何かしら、そのチキンに似たサムシングは」
俺「そこまでだ。それ以上は目の毒になる……そんなヤツのことは見なかったことにして、部屋であたりめでも噛みながらとびっきりの安酒をペロペロと舐めようぜ」
あおい「パクッ モグリ ムシャムシャ」
俺「いけないあおい!そいつは失敗作なんだよ!さあすぐに吐け!吐き出せ!その時アンタのゲロは俺のご馳走と化すだろう!!ありがとうございます!!!」
あおい「ゴクリ ふふ、とても美味しいわ」
俺「美味……しい……?」
あおい「私ね、思うの。大切なのは『何を食べるか』なんかじゃない、『誰と食べるか』なんだって、そんなことを、心の底から」
俺「何を食べるかより、誰と食べるか……」
あおい「だから私にとって、このチキンは世界のどんな料理よりも美味しくって、愛おしくって……ねえ、この言葉の意味、分かる?」
俺「セックスしたい、ってこと?」
あおい「それはあなたが決めることです」
俺「こんなに嬉しいことはない!なお、不貞行為に伴う亭主への慰謝料に関しては、全てそちらの負担ということで、ひとつ宜しく!オナシャス!!!」
ーーそんな下らないことを書いていたら無事にイヴがやってきました。ハッピーメリークリスマスイヴ。明日の夜も普通に日記を書いていると思うので、お暇な皆様におかれましては、気軽に見にきてくれよな。
【肉欲より】
明日の夜は所用につき料理をする時間がなさそうだったので……でも一人で過ごすのは既定路線です。
肉たん愛されてるねww
ローストチキンって自分で作るとジューシーさが出ませんよね
“俺のようにな”
という言葉への伏線、枕詞だってこと、とおのとっくに気づいてましたよ。
あとは結局焼いた鳥でしかないからソースこだわらないとただの鳥
「でも、肉さんだって。肉さんだってそうなんだ。そしてこの空は遠く離れた肉さんのいる街まで 広がっているんだ。俺たちはsoul brother,なにを悲しむことがある。1人じゃ、ない…」
そう思って耐えてきたというのに。
裏切られていたなんて…
今年は肉さんを呪いながらすごします(^^)
というのが北京ダックの歴史
……ええ、完全に逆恨みですがなにか?