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2011年12月04日

ドラえもん のび太とサンタ大戦 2

 
 
『いつ、いかなる時に、何が起こるか分からない』という出木杉の提案を受け、一同はポンプ地下室で造られた地下部屋へと移動し、ひとまずそこを仮の基地とした。もちろんそのままではあまりに殺風景なので、取り急ぎのび太の部屋と同じような調度品を設えた。

「それにしても、地下に潜ったくらいで何か変わるっての?」

「まァ、気分ってのはのび太くん、君が思ってるよりずっと重要なもんだ。現に、多少なりとも緊張感みたいなものが芽生えただろ?それに、安穏と地上でバカ面を晒してるよりゃあ余程安全だし、そうそう奇襲もされないだろうよ」

開いた手帳に目を落としたまま、ドラえもんは素っ気なく語る。皆薄々気づいていたことであるが、彼の纏う雰囲気は数分前を境に突如として変化していた。普段の柔和な物腰は消え、粗野というか、無骨というか、まるで三文小説に登場する風来坊のような口調となっていた。

「それで、ドラえもんくん。人手のアテはあるのかい?」

「いま探してるんだが……状況が状況だ、一体どれだけの奴らが諸手を挙げて賛同してくれるのか、皆目見当もつかん。それに、誰でも戦闘に介入できる、という訳ではないしな」

「それは、どういう?」

「言ってなかったな。サンタとの戦闘に参加するには、必須の条件がある。クリスマスを忌む心持ち、綺羅びやかなネオンを憎む性根、最大公約数的な不幸を喜べるタフなハート。そういうモンが要る。まァ端的にサンタへの憎悪、っていうのでも十分だがね」

「なるほど。ここにいる面々はさて置き、僕らが誰かのところに赴いて、唐突に『サンタを憎め』と言っても、それは少々現実的ではないね。狂人扱いされるのが関の山だ」

「その意味からすれば、一定程度以上世間に対するルサンチマンを抱えている人物か、無条件にこの日本を、地球を守らんとする、並ならぬ矜持を持つ人物。そういう輩を揃えなくてはならない」

「ルサンチマンに、矜持か……」

出木杉とドラえもんは難しい顔を浮かべながら何やら話し合っている。一方、のび太、ジャイアン、静香はといえば、ただその様子を見守ることしかできなかった。とりわけ静香は、取り巻く現状の切迫していることは認識すれど、未だサンタと戦う、という目的について、臆する部分が消えたわけではなかった。それはのび太とジャイアンにしても、少なからず同じであった。

「厚木の方に、パパの知り合いがいる。どうにかそれを上手く使えないかな」

「厚木?ってことは、米軍か?」

出木杉の問いかけに、曖昧な笑みを浮かべながらスネ夫が頷く。飢えた野良犬のようにぎらついた光を見せるその瞳から察するに、彼の腹はとっくに決まっていたのだろう。臆病である人間は、臆病であるがゆえ、誰よりも生への執着が強い。だからドラえもんは思う。強者とは、本来、臆病者であるはずなのだと。

「基地の内情には詳しいのか?」

「定期的に出入りしているから、相応には」

「なるほど。いや、かなり助かる。武器を揃えるにあたっては、どうしてもその辺りの軍事力を頼りにしなくちゃならないからね。もちろん、正面きって助力を願えるわけもないから、こっそり忍び込んで武器だけ拝借する、ということになる訳なんだが……それでも、どこでもドアで当てずっぽうに基地に忍び込む手間を考えたら、随分楽にはなりそうだ。礼を言う、スネ夫」

「さすがじゃあないかスネ夫くん」

ドラえもんと出木杉は口々にスネ夫を褒める。スネ夫としてもまんざらではないようで、どこか誇らしげな様子で照れ笑いを浮かべていた。

もっとも、ドラえもんと出木杉の見せた態度は、完全におためごかしであった。実際のところ、第三者の協力など要するまでもなく、ドラえもんの秘密道具を駆使すれば、世界中のどこであろうと簡単に侵入することが可能だ。その際、内部の人間を洗脳することも、やはり造作ないことである。だがドラえもんと出木杉とは、敢えてスネ夫に華をもたせた。そうやって『自分は集団において必要欠くべからざる力を具備しているのだ』という虚妄を抱かせておけば、いかな愚図でも、有事の際に獅子奮迅の努力を厭わない、そのことをよく理解していたからだ。

「ヘヘッ、僕がいて随分助かったでしょ!」

「ああ、本当にスネ夫くんは」

「大した、もんだよ」

言い終えるか終えないかのギリギリのタイミングに。ドラえもんは僅かにのび太たちのことを見遣った。その行為に特別な意味を持たせようとした訳ではない。だがドラえもんは知っている。一見すると何の意味もない行動であるほど、無意味な所作であればあるほど、何がしか後ろ暗いものを覚えている人間たちは、目の前の無為の中に無理やり意味を見出そうとする、そんな悲しき習性の存在を。

「お、俺だって!俺だって、スネ夫なんかよりよっぽど役に立てらぁ!」

「私も……ううん、ごめんなさい、今は何ができるか分からない。だけど、今回のことでは出来る限りのことをするつもりだわ!その気持ちは、スネ夫さんにも勝るとも劣らないものよ!」

期待通り、というべきか。ほんの短い時間に、たわいのないやり取りをしただけで、二人はこうも戦意を高揚させてくれた。実に自然に、実に自発的に。ドラえもんは高笑いしたくなる気持ちを抑え込みながら、二人に向かって鷹揚に微笑んだ。

「ありがとう。でも、決して無理はしないでおくれ。何度も言うようだけれど、辛くなったらいつでもそこの……」

タイムマシンで逃げてくれ。そう言いかけたとき、その部屋からのび太の姿が雲散していることに気付いた。ジャイアンたちの背後にある襖が少しだけ開いているのが見える。逃げ出したのか?まさか!ドラえもんは慌ててその思いを振り払う。彼に限って、ほとんど類を見ないような規模のルサンチマンを抱えるのび太に限って、サンタを前に逃げ出すという選択肢を選ぶことは、あり得ないと確信していた。

「のび太くんの姿が見えないようだが……」

出木杉が怪訝そうな空気を隠そうともせず声を発する。思わず舌打ちが零れかけた。彼はまだ、ドラえもんに対し完全に心を開いたわけではない。その頭脳が賢しければ賢しいほど、安っぽい感情に棹される可能性はゼロに近づく。故に、彼の弾きだす損益分岐点において、この戦いが『損になる』と判断された時点で、彼はすぐさま戦線を離脱するであろう。それこそ、タイムマシンに乗ってでも。

「のび太くんは、うん、そうそう、いま頼りになる助っ人に協力を取り付けにいったのさ」

出鱈目を喋った。そんなアテがあるのなら、そもそもここに連れてきているはずなのだ。そのあたりのことは出木杉にしてもすぐに喝破するだろう。事実、出木杉の放つ訝しげな様子は、一分たりとも揺らいでいない。いま、彼の脳内にある損益分岐点は、どのあたりを彷徨っているのだろうか。いや、ともすればのび太がその姿を消した以上、既に――

「ドラえもぉん!!」

その首から冷えた汗が滴り落ちんとするまさに直前、息せき切ってのび太が部屋へと戻ってきた。手にはタケコプターが握られている。のび太が戻ってきたことに安堵する反面、ドラえもんの胸中に名状しがたい怒りが渦巻く。この馬鹿野郎は非常時にどこをほっつき飛んでいたというのか。

「のび太くん、君ねェ!」

「ドラえもん、お願いだから悪魔のパスポートを貸しておくれ!なんなら、どくさいスイッチでもいい!!じゃないと会えないんだ!!あの人に会おうとすると警備員が、色んな人が僕の邪魔をするんだ!!」

要領を得ない言葉を喚きちらしながら、のび太は半狂乱でドラえもんに詰め寄る。その後も何事か切実に叫び続けていたが、どうにも言わんとすることが伝わってこなかった。

「待て、待て。のび太くん、ちょっと落ち着け」

「落ち着いてなんていらんないよ!もうすぐサンタが来るんでしょう!?だったら一刻も早く助っ人が、あの人に会ってあの人のいう『大切な人』に助けを頼んで、それで、それで!」

「落ち着けってんだこのクソメガネ!サンタを屠るより前に手前の口を二度と開けないようにされてェのか糞袋が!!」

のび太の顎を万力のように締め上げながら、ドラえもんが叫ぶ。初めて見せる生々しい怒気、そして明確な殺意に、一同は凍りつくようにして固まった。ただ出木杉だけは、おどけるようにして口笛を吹いていた。

「いいか、のび太。戦いは何も武力だけで決まる訳じゃない。知略や謀略、要するに情報の力だって同じくらいに重要なんだ。その意味からすれば、俺やお前、並びにここにいる全員が『何を知っていて』『何を知らないのか』、その辺りのことを適切に知ることもまた、戦いにあっては不可欠な要素なんだよ。分かったか?分かったな?分かったなら俺がこの手を離した瞬間、お前はお前の知っていることを、飼い慣らされた子犬のようにペラペラと喋り始める、そうだな?」

矢継ぎ早に言葉を受けたのび太は、もの凄い勢いで瞬きを繰り返す。尋常ならざる力で締め付けられているため、頷くこともできないらしい。ドラえもんはその瞬きを質問に対する肯定の意味だと認め、顎を掴む手からゆっくり力を抜いた。

「あ、会いに行こうとしたんだ。助けを得ようとして、あの人に、でも会えなくて、止められたんだ!だからドラ、ドラえもんに」

「もう一度だけ言う。要点のみ述べろ。今度は顎を潰すぞ」

「ほ、星野スミレさんに会いにいこうと思ったんだ!」

時代をときめくスター女優、星野スミレ。それはその場にいる誰もが見知った存在だった。しかし彼女の存在と、いまドラえもんたちを取り巻く現況と、その両者が一体いかなる親和性を有するというのか。

「以前、ドラえもんと一緒にスミレさんと会ったことがあったろ?その時、僕は聞かされたんだ。スミレさんの好きな人は、遠い遠いところで必死に頑張っているんだ、って。その人は、そう、まるでスーパーマンのような人なんだ……って、そんなことを。だからそのスーパーマンのような人の力を借りられれば、そう思って僕はスミレさんに!」

確かにドラえもんらと星野スミレとは、以前、つまらぬ事件をきっかけに会話をする機会に恵まれた。ただ、ドラえもんはその仔細を記憶してはいなかった。そのところからすれば、のび太のまくしたてる会話の内容は、ほとんど初耳に近い。

「まあ、落ち着きなよのび太くん。星野スミレさんはもちろん僕も好きだけど……いくら彼女のいう『好きな人』が『スーパーマン』じみているのだとして、そのポテンシャルは結局、ドラえもんくんの持つ秘密道具には到底及ばないんじゃあないのかい?そうであるならば、その見も知らない人に拘泥する意味は、あまりないと思うのだけれど」

「いや、でも、出木杉くん!普通に考えたらそうかもしれないけど、けどあの時、スミレさんは不思議な道具を見せてくれたんだ。それこそ、まさに、ドラえもんが持っているような、秘密道具みたいな感じで……」

「おい、待てのび太。そんなもん、俺は見た覚えないぞ」

「そりゃあ、そうだよ。だって君がトイレで用を足している間のことだもの。スミレさんも『これは二人だけの秘密よ』って言っていたし……ウフフ」

全身が総毛立つかの如き気持ちに襲われた。どうして目の前にいるバカは、全ての言を額面通りに受け取ってしまうのか。不意に獰猛な殺意が鎌首をもたげそうになる。

「それは一体、どういう代物だったんだい?」

出木杉がいてくれて良かった。ドラえもんは心からそう感じた。もしこの場に自分とのび太としかいなかったら、およそまともな会話など成立していなかったに相違ない。百度ミンチにし、百度タイム風呂敷で復元してからでしか、冷静にはなれなかったであろ。

「コピーロボット、っていう道具でね。見た目は普通の人形、っていうか、のっぺらぼうのマネキンみたいな感じで、小さい姿形をしてるんだ。で、その人形の鼻っ柱がボタンみたくなってて、そこを押すとね、その鼻を押した人と人形とが、まるっきり同じ人間になっちゃうんだよ」

のび太の語った内容は、まるで出来の悪い絵空事のような話だった。事実スネ夫も静香もジャイアンも『あのスミレさんが、まさか……』という風に失笑している。比較的懐の深い出木杉ですら、隠そうともせず呆れたような顔をしていた。だが、ドラえもんだけは例外だった。

「お前のいうコピーロボットってのは、こいつか?」

「そう!それだよ……て、え?どうしてドラえもんがそれを」

のび太が最後まで言い終えるより早く宇宙完全大百科を取り出し、猛烈な勢いで『星野スミレ』の項を検索する。その間、出木杉やのび太が何事か問いかけてきた気もしたが、最早ドラえもんの耳には届かない。数分後、検索結果が端末より吐き出された。

【星野スミレ】
かつては美少女アイドルとして幅広い世代に支持され…(略)…その後はスター女優としての地位を確立…(略)…星野スミレのもう一つの顔は、正義のヒーロー『パーマン』の三人目のメンバー・パーマン3号(通称パー子)である……(以下略)。

「パーマン……?」

「え、ドラえもんってば、パーマンのこと知っているの?」

何気なく呟いた単語に、スネ夫が並ならぬ興味を示した。

「いやあ、うちのスネ吉兄さんが小学生の頃の話なんだけどね、そのパーマンっていうのがとにかく大人気だったらしいんだ。立ち居振る舞いは小学生みたいなんだけど、空を飛んだり怪力を振るったりで、縦横無尽の大活躍!それを見た当時の小学生は、そりゃもうパーマンに憧れたもんだって。スネ吉兄さんがいつか話してたなあ」

「つまり、それは特撮、ということなのか?」

「ええっ?そりゃ、そうなんじゃないの?だって子供が空を飛んだり悪人をやっつけたりだなんて、普通はあり得ないでしょ」

普通は。スネ夫の発したその単語がドラえもんの脳内で幾度と無くリフレインする。普通は、普通に考えれば、確かにスネ夫の言う通りだ。しかし歳相応の素直さを持ち合わせるスネ夫は、未だ気がついていない。22世紀から来たと称するロボットであるドラえもんが眼前にいる状況、それこそまさに『普通ではない』という、明白過ぎる事実に。

「つまり、パーマンは存在する。あるいは、した」

口元を吊り上げながら出木杉は呟いた。パーマン、その存在はフィクションではない、特撮などではない、現実の存在なのだと、彼はすぐに確信したのだ。同時にドラえもんは思う。

この少年は理解が早い。
否、あまりにも早すぎる、と。

「……やけに嬉しそうだね、出木杉くん」

「そうかい?いや、少しばかり愉快になってきたのは否定しないけれど。あと、僕のことは呼び捨てで構わない。まどろっこしいだろう?だから今後、僕もキミの呼び名は皆に倣うことにするよ」

なあ、ドラえもん。
出木杉はねっとりとした口調でそう告げる。
その何もかも、全てが既定路線であるかのように。

いけ好かなかった。

かかる感情を携えつつなお、出木杉の助力を得なくてはならない自らの存在が。

何よりも疎ましかった。



posted by 肉欲さん at 23:39 | Comment(9) | TrackBack(0) | 日記 このエントリーを含むはてなブックマーク
この記事へのコメント
ここでパーマンかww
どんだけ風呂敷広げるんだろう
Posted by at 2011年12月05日 00:10
こんなにドラえもんがダークでクレバーだなんて。
Posted by at 2011年12月05日 00:40
ドラえもん指ないからのび太の顔握れないじゃないの…とかいうような、くだらないこと抜きにしてますます面白い!
続き、いつまでも待ちます。
Posted by at 2011年12月05日 03:07
出木杉の妖しさがなんともwww
Posted by at 2011年12月05日 03:07
これは本当に期待wwww
Posted by at 2011年12月05日 10:18
このタイミングで見てしまった自分を悔います…続きをっ
Posted by at 2011年12月05日 10:48
出来杉の名前が出来過ぎとなってるところに作為を感じた
Posted by at 2011年12月05日 19:34
めくるめくFワールド‥‥!
Posted by at 2011年12月06日 10:39
パーマン参戦!?

こいつはハットリくんに期待するしかねぇ
Posted by at 2011年12月08日 09:40
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