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2011年12月02日

ドラえもん のび太とサンタ大戦 プロローグ

 
 

いつもの昼下がり、いつもの空き地。そして顔を合わせる、いつもの面々。けれどもそこに、"在るべき" いつもの空気感は、絶無だった。

「その話、ほ、本当なのか……?」

全ての説明を聞き終えた後、沈鬱な静寂を打ち破ったのは、剛田武の声だった。普段の彼らしくない臆したそのトーンは、彼らを取り巻く状況の凄絶さを、図らずも雄弁に物語っていた。

「ウソを吐くメリットがない」

言下にドラえもんは言い返す。瞳の中に、しかし、その感情の色は見てとれない。曇天を受け鈍色に輝く双眸のガラス眼は、放たれる一切の疑義を拒絶するかのような雰囲気ですらあった。

「でも、ドラちゃん……」

源静香はただただ不安げな表情を浮かべている。並び立つ骨川スネ夫も同様だ。だがドラえもんは揺るがない。四人の小学生から向けられる怯えの視線を受けてもなお、彼の依って立つ場所には一毛の動静もない。

「全ては既定路線なんだ。逃げ場はどこにもない。だから」

闘るしかないんだ。品の字に並べられた土管の最頂点に腰を据えたドラえもんは、見るともなしに地面を見つめて、無表情に言い捨てた。

時は12月22日、都内某所。
小学生4人と、未来からやって来たロボットと。
その日、その場所で、彼らは静かに受け入れた。

『サンタ大戦』

無秩序で暴力的な、濁流の如き運命に呑み込まれるほかない自らの、その存在を。



――これは、後に歴史の闇に葬り去られることとなる、血塗られたものがたり。





話は12月上旬へと遡る。
迫り来るクリスマスを憂いたのび太は、その旨をドラえもんへと告げた。煌びやかなネオン、街中に流れるポップなミュージック、連れ立ち歩くカップルの影、そして影……その状況を想像するだに、のび太の心には暗い陰が落ちていくばかりだった。

しかしドラえもんの反応は異なる。クリスマスの何が楽しいというのか?呆気に取られたような風情でそう言い放った。のび太ははじめ、それがドラえもん流の皮肉かジョークに違いない、と捉えた。けれど、その虚妄はすぐに打ち消されることとなる。

クリスマスといえば、ホラ、サンタ大戦だろうが

要約すると、22世紀のクリスマスの日。世界では人類とサンタとが血で血を洗う殺戮を繰り返しているそうなのだ。なぜそうなったのか、いつの段階からかかる陰惨な光景が展開されることとなったのか。永らくその由来は判明していなかった。

そう、判明していなかったのである。
あの日の、あの瞬間を迎えるまでは。

・・・

ドラえもん「22世紀ならいざ知らず、この20世紀の安穏とした世において、まさか"ヤツ"らもこの時期に襲われるとは思うまいて……」

のび太「そ、そうか……どういうわけか、現代ではまだS.A.N.T.Aの動きは活発化していない……そこを叩けば、あるいはッ……!!」

・・・

こうして二人は、サンタの棲家であるフィンランドへと発った。獰猛なる翼、戦術戦闘機F-22にその身を委ねて。

短い刻の経過の後、サンタ陣営が壊滅的な被害を受けたことは、最早説明するまでもないだろう。圧倒的な奇襲、無秩序なる暴力を前に、被害者が出来ることは、無きに等しい。サンタはただ、ただひたすら、蹂躙されるに任すほかなかった。

生家は朽ちた。
トナカイは、死んだ。
クリスマスに向け子供達に用意したプレゼントも、何もかも。

それは、サンタに内包される精神の死という、あまりにも当然な結論と、共に。

粉雪が降っていた。その一つが虚空を見上げるサンタの頬に舞い落ち溶ける。雫となった雪は表皮を伝い、雪面へと零れ、儚く消えた。

ただ粉雪が、降っていた。
サンタは虚空を見上げていた。

「殺す。全てを消す。何もかも、全てを」

その感情の色が憎悪ひとつに染まりきる、その寸前までサンタは、いつまでも虚空を。

・・・

最初に異変の発生を察知したのはドラえもんだった。サンタを襲撃した3日後、定期メンテナンスのために22世紀に帰ろうとした時のことだった。いつものようにタイムマシンに乗り込んだドラえもんは、やはりいつものように、行き先を22世紀へと設定する。だがタイムマシンはちくとも動こうとしない。しまった、故障だろうか。慌ててタイムテレビで妹に連絡を取ろうとする。けれどスイッチを入れた後、画面に映るのは、無情なる砂嵐ばかりであった。

「察するに、現状のままであれば、『あるべき22世紀への道』が途絶されるのだろう」

ドラえもんは重々しい口調で状況を分析する。その顔には、相変わらず何の感情の色も浮かんでいない。淡々と、プログラミングされたロボットのように平板な声で、言葉を紡いでいった。

「それが証左に、僕が試したところによれば、タイムマシンで行けるのは12月25日までだった。つまるところこの地球の運命は、22世紀どころか、あと3日で、終わる」

目を瞑り、腕組みをしたまま、言った。同時に一同の生唾を飲む音が鈍く響き渡る。

「で、でもおかしいじゃないか!」

沈黙が横たわるのび太の自室のなか、議論の口火を切ったのは出木杉だった。空き地からの道すがら、皆の総意が 『出木杉は仲間へと引き込んでおくべきだ』 そこに向かって収斂していった故のことだった。

「もしもこの世界があと3日で終わるとして……22世紀の、いや、3日後から先の世界がなくなるとしたならば!ここに、こうやってドラえもんくんが居続けること、それは確実な意味での矛盾だよ!未来への道が途絶された時点で、ドラえもんくんの存在もまた、消え去るほかないはずなんだ!」

最後の方はほとんどがなり立てるようにして喋っていた。クラスの、地域随一の秀才と目される出木杉も、この状況を前に冷静ではいられないらしい。肩で荒い息をつきながら、睨めつけるようにしてドラえもんのことを見ていた。

「もっともだと思う。当然、それは僕も考えた。『どうして僕はまだ存在しているんだ?存在できている?』、その辺りのことを。でもね、出木杉くん。この僕の存在こそが、この世界を未来へと繋ぐ希望の鍵なのかもしれないんだよ」

「それは、どういう」

「君の言うとおり、もしも22世紀という世界の在り方が根元から滅しているのであれば、僕は既にこの場に存在していない。というより、存在する根拠がない。しかし、現に僕はここに存在する。いま、この瞬間だけじゃない。君たちと出会った時からいまに至るまで、僕は僕として連綿と存在し続けている。その結果として、僕はサンタに攻撃を仕掛けた。その帰結として、未来への道は途絶された。未来から来たはずの、僕の未来が」

「あ、そうか……」

ドラえもんの言葉を聞いた出木杉は、途端に口の中で何やらぶつぶつと呟き続けている。時に頷き、時に首を振りながら、彼は彼の脳内において無数にロジックを積み上げる。のび太を含む他の小学生たちは、苛立ちながらもその光景を黙ってみつめるほか、なかった。

「もしも真実の意味で未来への道が途絶するのであれば、22世紀という存在そのものが無くなるのであれば……そこで生じるのは、ドラえもんがいなくなる、だなんてチープな現象ではない。もっと壊滅的で、もっと絶望的な」

「あらゆる因果が根こそぎ拗じ変えられるんだ。そこに待ち受けるのは、宇宙の破滅さ」

「けれどもまだ、宇宙は破滅していない。ドラえもんもまた、ここに居る」

「そう、出木杉君。僕たちの運命はいま、まさに揺蕩っているのさ。22世紀からの使者である、僕という存在を担保に」

出木杉は大きく息を吐くと、静かに天井の方に顔を上げ、目を閉じた。鼻梁の通った横顔からは、規則正しい呼吸音以外、何も伝わってこない。ドラえもんを含め、居合わせた全ての者は、まんじりともせず彼の言葉を待った。

「……人手が、必要だね」

5分か、3時間かあるいは10秒ほどが経過した頃、出木杉はようやくそれだけを言った。

「やはり、出木杉君は賢しいな」

呼応するように、ドラえもんは歪な筋動作でほくそ笑む。そこでようやく、たまりかねたようにのび太が叫んだ。

「ちょ、ちょっと待ってよ!僕には難しくて出木杉君やドラえもんの言ってることがよく分かんないけど、とにかくサンタを襲撃したのがまずかったんだろう!?だったら、タイムマシンであの日に戻って、僕たちを止めたらいいじゃないか!」

「のび太くん。それは少し違う。確かにそうすることで、『君の戻った過去の世界においては』 僕たちを取り巻くような状況が生じることは回避されるだろう。だけどその回避された世界っていうのは、僕たちがいまいる世界とは、何らの関係もない世界なんだ。その世界はその世界として別の軸として流れ続け、この世界はこの世界として、やはり独自の軸として流れ続けるほかないんだよ」

「え?ん……いやでも……過去を変えれば未来も……だって僕としずちゃんのことにしたって……」

「いいかい、のび太くん。それとこれとは話が別なんだ。君の場合、僕という特異点の介入を契機に、偶然変わっていく未来……という体で、実際のところ、全て『決まった』未来なんだ。君はジャイ子と結婚するほかないほどダメなヤツとして生まれる、そして子孫は不遇の目に遭う、だから過去に僕を送り込む、そして歴史に介入し、見事君はしずちゃんと結婚する……そこまで込み込みで、『一つの未来の在り方』として成り立っているんだよ。ある種のお約束、みたいな事例なんだ。だけど今回の話は、全く違う」

「違う……?」

「そう、違う。なぜなら、僕たちがあの日、F22でサンタのところに乗り込もうとした瞬間、未来から誰も現れなかっただろう?誰も僕たちのことを止めなかっただろう?そこからすれば、僕たちがこれから過去に乗り込んだとしても、『僕らの世界において』未来の僕たちが現れなかった以上、この世界はこの世界として、『あの日、誰も僕たちを止めなかった世界』として、あり続ける。だからこの話は、ここでおしまいなのさ」

「な、なんだかよく分からないけど!タイムマシンがダメなら、もしもボックスがあるじゃあないか!『もしもあの日、僕たちがサンタのところに襲撃にいかなかったら』ってやれば、それで全部終わる話でしょ?!」

「無意味だよ、のび太くん。まあ、まるっきり無意味だとは言わない。だけどそれは、『あの日、あの時点において』僕たちがF22での襲撃をif性において否定するだけの行為でしかない。じゃあ次の日に行かなかった、と言えるのか?その次の日は?このやり取りをしている、まさにこの瞬間、そのコンマ1秒前までの行動まで延々ともしもボックスで規定し否定し続けるの?」

「な、何を……難しすぎて、よく分かんないよ……」

「あの日の僕たちの行動原理は、何だ?思いだせよのび太くん。君の場合は『クリスマスが憎い』、それだけのことだ。そして僕の場合は『20世紀の時点でサンタに奇襲をかけたい』、こいつだ。だから、もしもボックスで『あの日の行動がなかったとしたら』と願い、それが叶ったとしよう。のび太くん、のび太、ここでよく考えろ。そこで変わるのは、何だ?」

「ええっ?そこで変わるのが、何……?」

見る間にのび太の顔が紅潮する。まるで頭から湯気でも立ってきそうな風情だ。見ればジャイアンも同様であるらしく、眉間に深い皺を寄せながら必死に何事か考えている。

「その日の行動、だけ」

「その通りだ、スネ夫くん」

先生と生徒とのやり取りに似た光景が眼前で繰り広げられる。違うところがあるとすれば、彼らの関係が上下のあるそれではないこと、そして、スネ夫の回答が正解であるとて、誰も何も喜ばない、マルをつけてくれない、そのあたりのところであった。

「どういうことなんだよ、スネ夫!」

「もしもその日に襲撃に行かなかったら、次の日に行くかもしれない。次の日に行かなかったとしたら、その次の日に行くかもしれない。その次の日に行かなかったらその次の次の日に行くかもしれないーーそういうことなんだろ?ドラえもん、出木杉」

「そういうこと。問題の所在は『あの日にあそこに行かなかったら』なんて、チープな場所にはないんだ。のび太くんの憎悪と、僕の好奇心と。その二つが存在し続ける限り、少しずつ状況の時間軸が動いたとしても、起算点自体は永遠に消え去らないんだよ」

「分かったわ、のび太さんとドラちゃんが、のび太さんとドラちゃんであり続ける以上……!」

「そう。いつか必ず起こるはずなんだ。どれだけなかったことにしようとも。行くはずなんだ。僕は、僕とのび太くんは。フィンランドへ。それは僕の記憶の中に『22世紀にはサンタ大戦が生じている』という事実が存する限り、確実な意味で」

ドラえもんの言葉を最後に、部屋にいる誰もが口を噤んだ。

仮に、空気に色があるとすれば。
その時、のび太の部屋を包んでいた静寂が色を持つのだとすれば。

それは確実に、現存するどの色よりも濁り淀んだ、薄暗い色であったに相違ない。

「んじゃあよう!!」

畳を強く踏みしめながら、立ち上がる。
無理矢理にでも場の空気を明へと転じせしめんとする。
そんなタフなメンタリティを持つのは、やはりガキ大将にしか有り得なかった。

「もうどうしようもねえ、つうんなら、出来ることをやるしかないじゃんか!ウジウジしたってしょうがないだろ!ドラえもん!俺達を呼んだってことは、何かあるんだろ!さっさとそれを言えよ!」

「だから、揺蕩っているのさ」

ジャイアンの言葉を遮るようにして言うと、出木杉はドラえもんの方へと向き直った。

「途絶された22世紀、ここに在る22世紀のドラえもん。アンビバレントな二つの事象。それが意味するものは」

ひとつひとつ、言葉の意味を確認しながら出木杉は声を発する。

「ここが分水嶺、ってことなんだね――ドラえもん。君が先に言った『希望』という趣旨も、だから」

「……ここで踏みとどまれるか否かなんだ」

初めて感情を顕にしたドラえもんの表情は、実に苦々しげなものであった。あえぐようにして口を開け閉じするのだが、どうにも言葉は続いてこない。顔を上げたり俯いたりを繰り返すその所作を見るに、彼の中で浅からぬ葛藤が渦巻いているであろうことは、容易に推知できた。

「どうあがいても、絶望」

乾いた笑いと共に発せられた言葉の主は、スネ夫だった。一同は弾かれたように彼の方に目を遣る。

「そういうことなんだろう?希望だなんて、よく言ったもんだよ。ドラえもんが存在する、ってことは、ドラえもんが造られた未来、要するに22世紀が存続する可能性も、いまの時点で残されてる、ってことなんでしょ?つまりそれが、希望。だけどそうならない可能性を示しているのがタイムマシンの、22世紀への道が閉ざされた時空航路の存在。僕ら人類がサンタに滅ぼされた先に待ち構える、虚無」

出木杉が何か言おうと立ち上がりかける。ドラえもんはその肩を無言で押さえつけた。出木杉が抗議の視線をその横っ面に浴びせかけるも、ドラえもんは平然とそれを受け流す。受け流し、ただ口角ばかりを釣り上がらせたスネ夫の言葉の続きを、静かに待った。

「22世紀への道が残されているのだとしたって!その22世紀ってのは、サンタと陰惨な戦いを繰り広げているドラえもんが存在する22世紀、っていうことでしょ?!じゃあ、どうあっても、いまの僕たちはサンタと戦う以外に生き残る方法はない、ってことじゃんか!それだけじゃあない!目の前のドラえもんが、いまここにいるドラえもんが!サンタと戦い続けている未来から送られたドラえもんである以上、いま僕たちがサンタと戦ったとしても、絶対に勝てはしないんだ!勝てるんだったら、そもそも22世紀でサンタと人類が争いをしている、なんて前提がないはずなんだよ!もし勝てるのだとしたら、ここにいるドラえもんは『サンタと争いをしていない、平和な22世紀で造られたドラえもん』であるはずなんだ!そこから逆算したら、僕たちの迎える結末は、良くて引き分けがせいぜい、そういうことだろ!?」

「だから、揺蕩っていると」

「黙れよ出木杉!お前だって分かってんだろ!僕に分かったくらいなんだ、君に分からないはずがないじゃないの!勝てもせず、負けもできない戦い、その難しさくらい!!」

「待てよスネ夫!なんで勝っちゃいけない、なんてことになんだよ!!」

「そ、そうだよスネ夫!この際、皆で力を合わせてサンタなんてコテンパンにやっつけちゃえばいいんだよ!!」

スネ夫の怒声に怯みつつ、どうにかのび太とジャイアンは反論を試みる。静香はと言えば、何かを悟ったようにだらりと頭を垂れていた。

「ハッ!勝つ?コテンパン?よくもまあそんなことが言えたもんだ……じゃあのび太、一つ聞くけどな。もしもサンタに勝てたとして、だ。その時ドラえもんは、どうなる?」

「ええ?それはもちろん、戦いに勝つわけだから……」

「いなくなっちゃうんじゃ、消えちゃうんじゃあ、ないかしら……」

唐突に発された声の主は静香だった。のび太は驚いてその方に振り返る。静香は戸惑いと諦念とを含んだ瞳の示しながら、なおも言葉を紡ぐ。

「いえ、私にもよく分からないけれど、仮にさっきドラちゃんと出木杉さんが言い合ってたような『因果』が変わるってことになるのなら……勝ったその時点で……」

「消滅するだろうね、宇宙は」

ため息混じりに静香の結論を補完するのは、ドラえもんだ。脇に座る出木杉は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。色を失ったような顔つきになる静香と、当を得たように卑屈な笑顔を作るスネ夫とが、醜く並び立つ。のび太とジャイアンとは、なおも理解が追いついていない様子だった。

「僕は『サンタと戦争を続ける22世紀』から来たドラえもんだ。だから、仮にもサンタを根絶やしにする、殲滅する、なんて事態を引き起こせば、その時点で概念矛盾が生じる。『サンタのいなくなった過去』に、『サンタのいる未来から来た僕』が存在してしまう、ってことになる。それは即ち歴史の改編だ。22世紀へと繋がる固有の因果が根底から否定される。その時に何が起こるのか」

「どうせのび太とジャイアンのオツムじゃ分からないよ。簡単に言い換えてやる。のび太、もしお前がタイムマシンで過去に戻って、お前が産まれる前にお前のママを殺したら、どうなる?」

「ママを!?」

「お前を産んでくれた人がいなくなるんだ。当然お前も産まれなくなるだろうさ。でもそれだけじゃあない。お前のママはお前を産むためだけにこの世界にいた訳じゃないんだ。買い物をしたり、近所の人と仲良くなったり、どこかに旅行に行ったり……沢山の、実に色んなことをしているはずなんだ。その全ての行動が根こそぎ消え去る。及ぼしたであろう夥しい数の影響が、まるっきりなかったことになる。その時、お前が産まれなくなるだけじゃなくって、そもそもこの世界が存続し続けるのかどうか?全ての理が、あるがままであり続けるのか否か?そんなのは誰にも分からない、誰にも保証できない。保証できないんだよ、のび太!ジャイアン!!」

最後の方はほとんど叫ぶようになりながら、スネ夫は言った。その内容を完全に理解できた訳ではなかったが、あまりの剣幕にのび太は反論の接穂を見つけられない。それはジャイアンにとっても同じようで、憤怒とも狼狽ともつかない感情を眼に浮かべながら、ただ押し黙っていた。

「それでも、このまま手をこまねいていたところで、待ち受けているのは確実な意味での終焉、世界の破滅だ。それが分かっているからこそ、ドラえもんくんはこうして僕たちを集めたんだろう」

淡々と話す出木杉の表情からは、相変わらず何らの感情も読み取ることができない。とはいえ、淡々と事実を分析する彼の物言いが、集まった面々の心の平静を保たせるのに一役買っていたのは紛れもない事実であった。

「やるしか、ないんだ」

「ドラえもん……」

「のび太くん、しずちゃん、スネ夫にジャイアン、そして出木杉くん……やるしかないんだよ。僕たちに出来ることは、残された選択肢は、それだけなんだ。どれだけ困難な道のりであろうと、可能性が0.1%でも在る方を、僕たちは選ぶべきなのさ」

「たとえそれが、血塗られた道であっても、ってね」

混ぜ返すようなスネ夫の物言いに、思わずジャイアンが気色ばむ。ドラえもんは視線でそれを制すると、そっとスネ夫の手を握った。

「スネ夫くん。君が怖いと言うのなら、僕はその感情を否定しない。君が無理だと叫ぶなら、僕はその言動を否定しない。だからこそ、僕は君と一緒に戦いたい」

「な、何を……」

「怖い、というのは、生きたい、という気持ちの表れからだ。無理だ、と言えるのは、現状を冷静に分析できてのことだ。死にたくないと願う人間の逞しい生命力を、無理を認識する人間の聡明さを、僕は知っている。そんな君であればあるほど、僕は君と、この戦いに臨みたいんだ」

聞けばそれは、馬鹿に陳腐な言葉遊びだった。怖いと、無理だと唱えたスネ夫の真意は、それ以上でもそれ以下でもない。いかに美辞麗句を連ねようとも、あの瞬間スネ夫にあった心持ちを捻じ曲げることは出来ない。

「ど、ドラえもん……」

だがその感情も、1秒後には過去となる。絶えず堆積されていく時間の中、精神は目まぐるしく新陳代謝していく。スネ夫の心にあった絶望という古皮は瞬く間に剥がれ落ち、克己という新皮が、芽吹いて覆う。

「無理に、とは言わない。それはスネ夫だけじゃない。ジャイアンもしずちゃんも、出木杉くんも、のび太くんだって。逃げ出したかったら遠慮なく逃げ出してくれていいんだ。そこにあるタイムマシンで原始時代に行ってもいいし、海底世界や地底世界に行ったっていい。僕にそれを止める権利はない」

「に、逃げないよ!」

「いいんだ、のび太くん。さっきも言ったけど、臆病になることは決して悪いことじゃないんだ。歴史も証明している通り、蛮勇と無謀は違う。君たちは君たちなりに永く生きるチャンスを、幸せになれる選択肢を、適切に判断すべきだ。だから、逃げたっていいんだ。その決断を責めることは誰にもできやしない」

曖昧に笑いながらドラえもんは語る。だがのび太には見えてしまった。言いながら、ガクガクと震えるドラえもんの膝のことが。

「ドラえもん、水くせえじゃねえか。俺様の辞書に『逃げる』なんて言葉が存在しないのは、とっくに知ってんだろ?」

ドラえもんの肩を引き寄せ、町一番のガキ大将は力強く宣言する。俺は逃げない、と。お前の目指す先は、俺の目指す先でもあるのだ、と。

「ぼ、僕だって!」

「私もよ!」

のび太と静香が続けざまにジャイアンの言葉に呼応した。スネ夫は相変わらず卑屈に笑っていたが、次第にそれは能面のような表情へと変わり、ついに大きなため息をついたかと思うと、唐突に弾けるような笑顔を見せた。

「僕だけ仲間はずれになんて、させるわけにはいかないでしょ!」

言うが早いか、スネ夫の頭頂部にジャイアンのゲンコツがお見舞いされた。それを見て一同は腹を抱えて笑いあう。先ほどまで室内に蔓延していた沈鬱な空気がウソのように吹き飛んでいた。

「やってやるぞ!」

「おう、サンタがなんだってんだ!なあスネ夫!」

のび太が笑う。静香が笑う。ジャイアンとスネ夫が笑う。

そして出木杉とドラえもんもまた、笑った。

「いやはや、策士と言うべきかペテン師と言うべきか……流石だよ、ドラえもんくんは」

「ハ、出木杉くんは相変わらず食えないヤツだ……」

余人に悟られぬよう、押し殺した声でささやき合う二匹の獣。

「それにしても、膝を震わせる演技までするなんてね……まったく、大した役者だ」

「マヌケ。あれは――」

そこにいたのは、狸。
狸の精神を持つ、狸の皮を被った、獰猛なる狼。

「武者震いよ」

獣はそっと、牙を研ぐ。

誰にも気付かれないように。
何にも気付かれないように。




・・・

とりあえずここまで書いたんだけど、続き読みたいか?読みたいよな!オッケー知ってた、読みたいに決まってるよね!か、書くかぁ……書けるのかなぁこれ……。


posted by 肉欲さん at 01:07 | Comment(18) | TrackBack(0) | 日記 このエントリーを含むはてなブックマーク
この記事へのコメント
サンタ大戦たまんねぇ・・・。
続き期待です!w
Posted by 虹 at 2011年12月02日 01:26
名作の予感。記念カキコ。
これはもしやイブに結末が・・・?
Posted by ゲム at 2011年12月02日 01:39
すごい面白い。なんか感動した。泣きそうになって悔しい。
Posted by at 2011年12月02日 02:16
わくわくしてきたww続き待ってます!
Posted by at 2011年12月02日 11:28
のび太と傭兵とはキャラ設定がだいぶ違いますね、続き期待。
Posted by at 2011年12月02日 11:31
ぜひ続きを。
Posted by at 2011年12月02日 14:35
これはマジで続き書こうとしたらどでかいお仕事になりそうですね・・・。
Posted by キイチ at 2011年12月02日 16:58
はよ!肉先生はよお願いしますわ!
ワクテカがとまらんのですわ!
Posted by at 2011年12月02日 17:01
さあ!!肉欲!身を粉にしろ!!

ってか「SIREN」のどうあがいても、絶望。にはクスっとさせられたぜw
Posted by at 2011年12月02日 17:10
書こうよ「!!」
Posted by at 2011年12月02日 19:09
まだー?
Posted by at 2011年12月02日 20:08
肉タン、電王みてた〜?
Posted by at 2011年12月02日 20:57
ワッフルワッフル!!
Posted by at 2011年12月03日 13:00
これは普通に気になるだろ!!
Posted by at 2011年12月04日 00:19
タイムパラドクスが複雑過ぎる…
Posted by at 2011年12月04日 21:04
傭兵の映画かがまだだというのに、新作登場!

去年に続き、肉さんの文才に酔いしれる年の瀬、わくわくします
Posted by at 2011年12月05日 10:17
>ガクガクと震えるドラえもんの膝のことが。

ドラえもんの膝ってどこだよ!w
Posted by at 2011年12月08日 22:04
膝クソワロタ
Posted by at 2011年12月12日 10:14
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