俺はそう言って、空を指差した。
嘘じゃなかった。さっきまで雲の後ろを出たり入ったり……出たり入ったり……
「ウッ……なんてフトマラ……!」
「どうしました阿部さん?」
「な、なんでもない」
危ない。どうも妄想が過ぎたようだ。
とにかく、さっきまで雲の隙間から出たり入ったりしていた太陽は、すっかりどこかに姿を隠していた。空はもう真っ暗だ。
「すごい雲ですね……今夜は吹雪くかもしれないですね」
正樹は眉をひそめた。うほっ。
「じゃあ、今日はもう戻りましょうか」
俺たちは、正樹のアニキのボブさんに借りた4WDに乗り込んだ。
正樹とは、今年の四月に公園で知り合った。
俺がベンチに座って休んでいる時に前を通りかかった正樹に声を掛けたのだ。果敢かつ執拗なアタックで、何度かデートをする関係にまでこぎつけることができたのは、この秋のこと。
しかし、押しても押しても手応えがなく、いい加減俺の一人相撲のような感じさえしていた。だから、一緒にスキーに行かないかと彼の方から誘われたときには、正直言って「OKサインなのか?」と戸惑った。
彼のアニキのボブ権田という人が、信州でペンションを経営しているのだという。しかし、少しゲレンデから離れていて不便なこともあり、シーズン中もあまり客がないらしい。それで格安の値段で泊めてもらえる、ということで、正樹に誘われたのだ。俺はもちろん喜んでOKし、昨日、つまり12月21日、ここ信州へとほいほい付いて来ちゃったのだ。
ボブ夫妻の経営する「シュプッール」は、外観はハッテン場風で、内装は菊色を基調にしたイカス感じのペンションだった。料理のメニューもカツ丼、うなぎ丼、親子丼と多彩で、その上味も満足のいくものばかり。かなり人気のペンションらしい。暇だから格安で……というのはボブさんが俺たちに気を遣わせまいとして言ったのだと、昨日到着してから気付いた。
俺と正樹の部屋は残念なことに、というか当然、というべきか、別々に取ってある。全く男同士なのだから何も考えず裸でぶつかり合えばいいというものなのに……この辺り、ボブさんは野暮だ。
俺たちは……
A一旦部屋に戻って着替えると、玄関脇の談話室で落ち合った。
B一旦部屋に戻って着替えてから、夕食までどちらかの部屋で話でもしようということになった。
Cボブさんとくそみそ。
D意味はないけれど自殺。
ハッテン場風の外観て・・
吹いたw