
エアコンから吹き出される低い風の音に僕は目を覚ました。体は起こさず眼球だけを動かす。しばらく、自分がどこにいるのか思い出せなかったが、ほどなくして東京駅近くのホテルに泊まっていたことを思い返した。
枕元のデジタル時計を見ると、8:43と示されていた。しっかりと糊の利いたシーツから体を引き剥がすと、頭を疼痛が包んでいることに気付いた。昨日の深酒がたたってのことだろう、喉はからからだった。僕は洗面所に行くと顔を洗い、少しだけ迷ってから蛇口から流れ出す水を口付けに飲んだ。僅かに薬品のような匂いが鼻にぐずついた。
カーテンを開け、外を見渡す。街はとうに動き出していた。車道を見ると、人が、車が、回って下り、流れて巡っている。それはまるで一つの巨大な川のようだった。大きな魚に小さな稚魚、何でも食らう獰猛な生物もいるだろうし、片隅でひっそりと生命を育むものもいる。川。僕らは東京という濁流に翻弄される小さき者にすぎないのだろうな、なぜだかそんなことを思った。
僕はショートホープを咥え、備え付けのマッチを擦って火を点ける。吐き出す煙と共に、下らない感傷を追い払った。街は、街だ。決して川なんかではない。魚は川から出られない。僕らはいつでも、好きな時に好きなところに行ける。今だって、僕はこうやって、街から人から離れていって…。
突然、携帯のアラームが鳴った。時刻は9時になっていた。チェックアウトは10時、新幹線の時刻は、その10分後だった。僕はまだ半分ほど残っていたタバコを灰皿の底に押し付ける。このタバコはいつも中々消えようとはしない。僕はもう2、3度先端を強く押し付けた。細く薄い煙が立ち、タバコの火はそっと消えた。
高校を卒業すると共に、僕は故郷を離れ都内の専門学校に入学した。取り立てて何か目標があったわけではない。けれど、とにかく始めの一歩さえ踏み出せば何かが変わると思っていた。田舎町に育った僕は、テレビの向こう側できらきらと輝く東京を見て、あそこに行けば、あそこに住むことさえできれば、自分もテレビの向こう側に行けるのだと確信していた。だから東京という土地は、僕にとって夢であり希望であり、そして未来そのものだった。
専門学校での2年間。勉強をした記憶は少しとしてない。ひたすらに遊び、飲み、寝て過ごした。友達もできたし、彼女がいた時期もあった。田舎しかしらなかった自分にとって、東京にある全てのものはバーチャルに感じられ、そこに立っている僕という存在はまるでゲームの登場人物のようでもあった。見るもの全てが新鮮で、何をしていても楽しかった。
それから1年経ち、2年が経ち。気付くと僕は学校を卒業していた。けれど、卒業してからも定職を持たなかった僕はフリーターの道を選んだ。動機を持たない若者が、動機のいらない日々を選んだ。それだけのことである。
学生時代は仕送りと奨学金だけでやってきたが、卒業と同時に仕送りも奨学金も止まった。働き始めたのは、だから必要に駆られてのことだった。初めてのバイト先には居酒屋を選んだ。理由はない。ただ、時給の額だけを見て決めた。
・・
「行ってらっしゃいませ」
チェックアウトを済ませると、ベルボーイが慇懃な態度で僕を送り出した。荷造りは既に済ませて送ってあるので、右手に持つ鞄はひどく軽い。玄関に立つと、音もなく自動ドアが開いた。もう一度フロントを振り返る。ベルボーイは相変わらず張り付いたような笑顔を浮かべていた。
笑顔が、作れなかった。客に向かって作り笑いができなかった。平板な声と顔で「いらっしゃいませ」「はい」「ありがとうございました」程度のことしか言えない僕は、職場の人間に何度となく叱責された。
「お前は時間の切り売りすらできねえのか?あ?とにかく笑ってりゃいいんだよ!それくらいもできねえのかよ!」
客に向かってヘコヘコ頭を下げて、愛想笑いを浮かべる。そんな自分の姿はどうしても想像できなかったし、許せなかった。笑いたくもないのに笑い、下げたくもない頭を下げる。あの日、郷里から夢見たテレビの向こう側には、そんな映像はどこにもなかった。どうして自分が今、見も知らないでっぷりと肥えた中年にビールを差し出しているのか、その理由が分からなかった。
僕は少しずつ疲弊していった。かつて、上京した時。きらきらと輝いて見えたネオンは、近づいて見ると小さな古びた電球がびっしりと集合しているだけだった。
・・
改札に切符を通すと、二枚の乗車券は勢いよく機械に吸い込まれた。いらっしゃいませ、もありがとうございます、もないデジタルな存在。見上げると、1mほど向こう側に僕の乗車券が排出されている。二歩進んで無言で券を掴むと、改札はパタリ、と音を立てて門扉を閉ざした。僕はホームを目指して長い長い階段を上る。
4年前に上京する時は何を思っただろうか。
都会の雑踏を想い、意味もなく高揚と憂いを抱いた気もする。
同級生たちと別れを惜しみながら、何年経ってもまた会おうと誓った気もする。
けれど、思い返してみても頭の中で像を結ぶのは切り取られたモノクロの写真のように曖昧な絵ばかりで、それすらも思い出そうとするほどに色を形を失っていく。思い出せるのはただ漠然と、あの時は嬉しかった気がする、あの時は悲しかった気がする、という紋切り形の感想めいた思いばかりだった。
結局、残ってるのは曖昧模糊とした感情の色ばかりだ。少し前のことのようなのに、記憶の端緒は掴もうとしても手の中からするすると逃げて行くばかりである。
それでも一つだけ、印象深く残っていることがある。
僕の育ったところは高台で、窓からはいつも九州が見えた。
17年間、海を見なかった日はなかった。
だから東京行きが決まった時、18年目からは、たぶん、海を見る日はめったにないだろうな、と思った。
そう思うと、海を眺める一瞬一瞬がひどく貴重なように感じられた。
海に写る自分の姿を見て、瞳を滲ませる…そんな情緒的な部分を持ち合わせていたわけではない。海にこれといった思い出を持っていたわけでもない。
ただ、どうしてだろうか。東京にも海があればいい、とは思った。汚くてもいいから、海があればと。
今思い返す。酒に、遊びに、恋にそしてバイトに。生活の全てのことは足早に駆けて行き、その中で僕は笑い、怒り、喜び悲しんだ。後年過ごした下らない日々は、その一日一日が恐ろしく長く感じられたものだったけれど、振り返ってみれば何もかもが慌しく過ぎていったように思う。全てが荒々しく、忙しなかった。
そしてかつて、旅立ちを前にしてあれほど憧憬を抱いた海を、東京で見ることは一度としてなかった。
いや――言い換えよう。僕は、海を思い出すことすらもなかった。
海。記憶の端をくるくると巻いてみて、どの瞬間を切り取ってみても、海に思いを馳せている僕の姿は見当たらない。
・・
きっかけはささいなことだった。いつものように自分の人格を切り取って漠然と働いていると、年恰好の似た若者が数名、どやどやと店に入って来た。
どこかで飲んできた後なのだろう、彼らは上気した顔をして大声で喋っていた。聞くともなしに彼らの会話を聞いていると、彼らが大学生だということが分かった。名前を聞けば誰でも知っているような、名門の大学。今思えば、目標もなく働いている自分と比べて彼らのことを羨んだのかもしれない。自分を恥じる気持ちもあっただろう。もちろんその時はそんなことを思っているだなんて考えもしなかったけれど。
「あの店員さあ、マジ感じ悪いよな」
「つーか、俺らと同い年くらいなのにフリーターとかマジ終わってるよなー」
そんな時、彼らの罵倒が耳についた。その言葉が自分に向けられているであろうことはすぐに理解できた。けれど無感動に働いている自分には、どんな言葉を投げられても全ては平板に流れていく。罵詈や雑言は、酒場ではよくあることと分かっている。僕は聞かなかった素振りをして彼らの言葉を受け流した。
「すいませーん」
どこかから呼ばれる声がする。呼びかけられた方向に振り向くと、先ほどの大学生がにやにやと笑いながら手を上げていた。僕は注文用のハンディを手にして、彼らの席に近づいた。彼らは皆一様ににやにやと笑っていた。
「ご注文でしょうか」
「ねえお兄さんの年収って幾ら?こんなところで働いてて虚しくなんねーの?」
「もう、やめなってー」
注文、ではなかった。僕はハンディを握り締めたまま、固まったように立っていた。
「つーかさ、金払ってんのウチらじゃん?なんで笑わねーの?マックの店員でもスマイルしてるよ?ほら、笑えよー、俺ら客だよ?」
「ちょっといいかげんにしなよー」
女は、止める素振りをしながらもなおにやにやと笑っている。多分、止めるつもりなどないのだろう。僕は無表情のまま、男の言葉を聞き続けた。そして男はどうやら、そんな僕の態度に鼻白んだようだった。
「は?つーか何なのお前?お前の給料、俺の金だよ?ていうか、お前らみたいな奴らは一生俺らに使われ続けんだよ?その辺分かってんの?負け犬なんだよ、お前。分かったらさっさと笑えよ!」
次の瞬間、テーブルに並んでいたビールの瓶が音を立てて床に転び、男はバランスを崩してその場に倒れこんでいた。無意識のうち、僕はその男を殴り倒していたのだ。最初は呆然と殴られた頬を押さえていた男は、自分が何をされたかに気付くと顔を赤くして僕の襟首に掴みかかった。騒ぎに気付いた店長はすぐに平謝りに謝った。店長は土下座すらして事態を何とか収めようとしたのだけれど、結局男とその仲間は警察を呼んだ。そして僕はその後数日、警察署に拘留された。
それからのことはあまり覚えていない。相手の男は「訴える」と息巻いていたらしいが、店と、それに両親が必死になって謝ったらしい。慰謝料も幾らか差し入れたようだ。僕も反省文を書かされた。店は事件の日付で解雇扱いになっていた。
「もう、帰って来い」
事件の処理が終わったあと、久しぶりに会った父親にそう言われた。怒っているわけではなく、悲しんでいるわけでもなかった。ただ粛々とその言葉を述べた。
「東京に残る必要もなかろう。地元に戻れ」
その時、その言葉を聞いて僕は初めて気付いた。今の自分の姿がどのようなものかに。意味もなく東京にすがりついている、自分に。ふとした瞬間に何かが、誰かが僕のことを変えてくれる。この大きくて巨きすぎる街には、そんな奇跡のような出来事がどこかに転がっているに違いないと信じ込んでいた、自分に。
父の言葉を反芻しながら、僕はここ数年の自分の生活を省みた。バイトに明け暮れ、休みの日は学生時代のフリーター仲間と酒を飲み、インターネットで時間を潰し、泥のような眠りを眠り、それから、それから、僕は。
空虚だった。そこには、何もなかった。
そんなことはずっと前から分かっていた。
それでも僕は、東京にいさえすれば何とかなると思っていた。信じていた。
あの日見たテレビの映像は、きらきらとした街は、あまりにも明るすぎた。
ふと、いつの日にか見たネオンを思い出した。
遠くから見るときらびやかに眩しいほどに輝いていたネオン。
けれど、目を寄せてみると一つ一つの電球が小さく光っているに過ぎないネオン。
取り替えられたばかりの電球はひときわ煌々と輝いている。
少しくたびれた電球は、時折点滅したりする。
電熱線の切れた電球も、まばらに散って。
来た方向に踵を返し、しばらく歩いてからもう一度振り返った。
光の濁流の中、ネオンはただネオンとしてそこに存在するばかりだった。
・・
「新幹線が到着します。白線の内側までお下がりください」
父の口添えもあって、僕は故郷とは違う田舎町の小さなイラスト事務所に就職が決まった。仕事を辞めて時間のできた僕は、部屋でひとりになり、曖昧で空疎だった古い記憶と向き合った。眩しすぎる東京の光からようやく目を逸らした時、僕は、かつてのことを思い出した。記憶の中で煌々とした光のせいで影となり隠れていた部分から、昔のことを掬い取ることができた。
僕は、絵の好きな子供だった。
今では何も描かなくなったけれど、絵を描くことが何よりも好きだった。本当に。
東京に来たときも、だから、美術の専門学校に入って――それで――。
誰かの言葉が耳朶に蘇る。
答えは常に、自分の前に提示されているのだ、と。
だから、後はそれに気付くか気付かないかの違いでしかないのだ、と。
今度僕は、眼前に海の広がる土地に住む。
東京に来る時に夢に描いた、海。
これからの生活では海を毎日見ることができるだろう。
その代わりに何が見れなくなるのかは、まだ知らない。
・・
「800円ですね」
駅の売店で朝昼兼用の弁当を買った。中国地方の片隅にある駅に着くまでの道中は、驚くほど長い。
4年前と今と、旅立つことだけは一緒だけど、その内容は驚くほど異なる。
故郷は故郷として、たとえ両親が亡くなっても、起居の場所がなくとも、そこは故郷だ。絶対に。
帰る場所、とも言える。
それはやはり、郷里を置いて他にはない。
窓の光がぽっと照っているから、最後には帰る場所が分かっているから、そこには間違いなく海があるから、僕は海を思い出さなかったのかもしれない。
東京は違う。
物理的に、帰る場所は存在しない。
気持ちの方でも、多分。
東京で就職したい気持ちはある。
これは感傷かな、と思うと、次の時には『東京』の部分を大阪や福岡に置き換えても成り立つことに気付く。
考え始めると思考の終わりが見えなくなる。
東京に帰る意味を見出だそうとするほど、そこにアイデンティティのないことに気付く。
そしてなぜか、ひどく後ろめたい気持ちにもなる。
それでも、と僕は思う。
もしかしたら、アイデンティティなど望むべくもないのかもしれない。
僕は僕で、これでいいのかもしれない。
帰ろう、たとえばそう思った時というのは、いま自分が立っている場所を否定することにも似ている。 今いる場所が辛くなったから、もうこれ以上は先には進めなくなったから、逃げたくなったから、守られたくなったから、そういう時に、きっと思うのだ。
「帰ろう」と。
これから僕が向かうのは将来を掴みに行くための土地になるだろう。
できることなら、否定はしたくない。
与えられたフィールドでベストを尽くしたいと思う。心から。
もしかしたら、とふと思った。
東京は、『帰る場所』にはなり得ないが、『逃げ場所』になるのではないだろうか。
東京には友もいる。思い出の場所も少ないながら、ある。ここには弱音を拭い取ってくれるだけのものと人とがあるのを、僕は知っている。
笑って、こずかれて、それでも「ただいま」とだけ言えば、受け入れてくれる誰か、何か。それは決して悪いことじゃない。だけど、そうして東京に戻る自分の姿を思い浮かべてみた時は、参ったな、という感じで苦笑いをした後、決まって溜息をついてしまう。
・・
「まもなく発車します。閉まるドアにご注意下さい」
デジタルなアナウンスに目を上げた。眼下にはコンクリートに染められた無機質なホーム。そこには幾許の温かみもないからこそ、ありがたかった。
向こうで過ごす生活のうちに、逃げ出したくなることは何度あるだろうか。
無くあってほしい。それは弱い自分には、望むべくもないけれど。
僕の東京での生活は、ありふれた、どこにでもある時間だったろう。
主人公は僕でなくとも、他の誰に置き換えても概ね成り立つドラマだ。
高い視聴率は決して望めないくらいの、ゆるい作品。
けれど、平凡だから、飾り気のない日々だったから、大切にしたくなる。余計に愛しく思う。
東京で出会った様々な人に、思い出に、感謝が尽きることはない。
だから、逃げる場所ではなく、胸を張って帰れる場所にしたいと、思う。
元気にただいまの言える、東京に。
東京を去る最後の日の前日、中野から新宿まで歩いた。
青梅街道を抜けて西新宿のビル街を背に越しながら新宿駅東口まで歩く道のりはなぜか心に響く。うそ寒い形で都会化された光景は、逆説的に郷愁を誘うからなのかもしれないと、個人的には思っている。
歩くともなしに歩き、眺めるともなしに辺りを眺めながらしていると、ある時にふと足場がぐらつくような気持ちがした。自分は確かにそこに立っているのに、足下に目をやると実は踵はどこにも立脚していないことに気付く、そんな奇妙な感覚だ。
そこは新宿駅前の雑踏だった。周りを見渡してみると、様々な人間が行き交っていた。 声の限りに叫びながら最新のパソコンを売る男、マクドナルドのポテトを咥えながら携帯のディスプレイを覗き込む女、『改憲反対』と書かれたプラカードを片手に所在無げに佇む老人。
目に写る雑多な人間は、手を伸ばせば簡単に触れられるほどの緊密な距離に存在している。けれど彼らが融和することはない。水と油は、液体という括りは同じだけれど永遠に溶け合わない。彼らもまた同じなのかもしれない。なぜだか感覚的にそう思った。
新宿。そこに取り立てた思い入れがあるというのではない。
ただ新宿の街を考えた時、それはイメージとして僕の頭の中でたちまちにあらゆる光景に入れ替わり、奇妙な立脚感覚は一層強くなる。
他にはどこにもないはずの、新宿。しかしその像を頭で結ぼうとしてみても、途端にそれはどこにでもある街へと姿を変える。
ずっと、長いこと。僕は砂の城を作ろうとしていたように思う。高くて大きな砂の楼閣を。 バカみたいに大きくて堅牢な楼閣を作ろうとした僕は、多くの人に作業を手伝ってもらった。それは友人の時もあれば、恋人でも有り得たし、また家族でもあった。 僕らは笑い、泣き、時には怒りながら砂を形作ろうとした。
ほどなくして、砂は建ち上がる。目の前に『そこにあるもの』として存在するようになる。
しかし、楼閣はもろくて儚い。
汗を流しながら、時には痛みに歯を噛みながら作ったものでさえ、容易にその姿を崩す。
ずっと漆喰が欲しい、と思っていた。
砂は、それだけではあまりにも弱い。
己の姿を保つことすらままならない。
だから僕は、一度建てたら二度と崩れ落ちないように楼閣の外を漆喰で塗り固めたい、と思っていた。
漆喰。そんなものはどこにもなかった。だから、僕は手だけで砂を積み重ねる。だから、戻ってみると楼閣はいつも姿を消している。
色んな場所で砂を固めた。新宿に、高円寺に、高田馬場に。
今ではどの街に戻っても、そこには形のない砂が所在なげに散っているばかりだろう。その昔、必死にこの手に握った砂の名残だけが、そこに。
それでも、かつて確かに何かがあった証だけでも欲しがる僕は、両手で砂を掬いとる。せめてこの砂をあなたに見て欲しいと願い、掌を砂で満たして歩き出す。
僕が歩くものだから、定型のもたない砂は少しずつ、ゆっくりと指の間をくぐり抜ける。ひとつ減り、ふたつ減り、いつの間にかすっかり抜け切った時に、ようやく僕はあなたの前にたどり着く。
そこに残っているのは、砂が『さっきまでこの手にあった』という感覚だけである。
砂のざらつき、さらさらとした手触り。
寸前まで存在し生々しく手に残っている感覚は、生々しいからこそ共有できない。絶対に。
僕は、その人に向かい空虚な掌を向ける。
せめてこの手だけでも見て欲しい、そんな儚い気持ちがあるのだろう。
だけどあなたは、空になった僕の手を見せつけられて、不思議そうに首をかしげるばかりなのである。
遠くでカラカラと砂の舞う音が聞こえた。
決して聞こえるはずのない音が。
眼前に広がるのは砂の残滓。
砂は、僕の立ち寄った場所にはどこにでもあった。
どこにでもあるから、歩いていると風と共に少しだけ舞い上がり、少しだけ僕の足下を輪舞する。僅かにすねの辺りをそっとくすぐり、気付いてしまうといたずらに去っていく。
気付く。砂が足元をくすぐったことを。
かつてはここで、様々な出来事があったことを。
悲しくはない。
ただ虚しい、とは思う。
また頑張っていこう、という気持ちも少し。
・・
扉が閉まった。見送りも何も無い旅立ちだった。僕は動いていく車窓を見ながら、薄く笑う。
座席に座った僕は、長い旅路に備えて靴を脱いだ。
爪先の奥の方から控え目に、砂がパラパラと落ちて来た。

肉欲さんの文章の幅にはいつもながら惚れ惚れさせられます。
まずちゃんと嫁よ。
東京は逃げ場
確かに僕もそうです
独りじゃ誰も気付かない程小さな光なのに…
東京在住で、同じ中国地方出身である私としては、大変共感いたしました。思いがけず。
今日のは素晴らしかったですよ
肉欲さんはホントすげぇ
自分も砂のくだりで感動した。。。
東京にいらした際には飲みたいです。
言い表せんけど、良いねー
私もブラウン管の向こう側に憧れているだけなのかな…。どちらを選択するか今以上に良く考えようと思ういいキッカケになりました。
ありがと肉欲さん(^^)
これからも楽しく拝見させて頂きます。
コップンカー
歳火とかヌレえもんとはまた違うジャンルもいいよな
短編集1冊読むより全然面白いし、深みがあります。
肉欲さんはたくさん文学読んでますね。そんな感じが文章からにじみ出てました。
かっこいいです。
私はただ逃げ出したいだけなのかな…
本当その文才に惚れ惚れします。
今夜は好きにしても…アッー!
肉欲さんの文章力すごいですね
文芸誌に長文小説を投稿してほしいです。
さらに独特の雰囲気や文体を期待します。
砂かぁ。
よくわかんないけど溜め息しか出なかった。
毎日みてます、更新頑張ってください
今イチ『オチ』みたいなのが掴めず(^o^; 今回は感動できませんでしたm(__)m
海から川に来て砂で締め括る…タイに旅立つ前乗りの東京(川)で、思いつかれた読み物だったのでしょうか?
改めてユックリ読んでみます(;^_^A
ちなみに、僕は肉棒さん(…あっ!カツシンやキムタクみたく略したらヤバい?笑)の『替え歌』的な(パロディー?)文章が大好きです♪
良いと思ったものを「良い」と言って何が悪いんでしょう・・・。
こんなところでマジレスはおかしいかもしれませんが、ここで肉欲さんの文章を褒めている方たちはみんな、肉欲さんの文章に感動したり、なんらかの形で心を動かされたから褒めているんですよ。
そんな風に文句が言える方なんですから、あなたはとても素晴らしい文章が書ける方なんですよね。
是非、あなたの書いた文章を読んでみたいです。
酒飲みながら見てたら心底響いた。
詩人やねぇ〜
自分の人生が心配です。
いつも思うんだけど、
素人の粗削り感は否めないし、たまに言い回しがくどくて、読み辛い部分はあるかな(^_^;)
何処かで見たことあるような表現も多く、独創性はないけど、それなりに楽しめる人はいるんだろうなと思うよ。
普段、本とかネットとかでこういう文章をたくさん読んだり書いたりしてれば、誰でもこのくらい書けるようになるよ。
HNも、ある漫画からのパクり?だしね 笑
書籍化とか小説家とかは、間違ってもあり得ないでしょう(^。^;)
バレちゃいけないようなことを、僕が書いてしまっていたのでしょうか 笑?
ならないでしょ^^;過去ログ全部みてからいってみ
自分が思ったことを書き込むだけじゃ駄目なのか?
>SOPHIAさん
明らかな荒らしの場合を除いてコメントを削除する場合はありません。
もしかしたら、seesaaの仕様でコメントが書き込めなかったといった状況が生じたのではないでしょうか?
もしこの説明で納得がいかないのであれば、管理画面のスクリーンショットをお送りいたしますし、またご要望とあれば管理のPWもお送りいたします。
必要とあればメールなどでご連絡ください。
失礼いたします。
イメージ描写、過去描写、現実描写が入り乱れてる所やただだらだらと長くしまりのない文章になっている所とか。
読む人が増えれば批判するヤツもでてくるのはしょうがないお( ^ω^)
ニクさんやめないでねー(=゚ω゚)ノ
個人各々の気持ちを誰かが遮るから荒れるんじゃまいか?
俺たちが気持ちを伝える相手は飽くまで肉欲さんだよ。
そう言う自分が記事と関係ない事無駄にしゃしゃり出てごめん。少し悲しかった。
俺はすごくよかったと思うよ。
読んだ後に深く溜め息が出る文ってあまりないもんだよなぁ。
今回も気持いい溜め息をつかせてもらった。大好きだよ肉さん。
そんな話でした。
てか肉欲さんの実体験かと思った。。
よく考えたら肉さんは高学歴イケメンなんだよねぇえええ。shit!!
肉さんの文章ロマンチックで切なくて大好き♪
自分に合わない人は読まんかったらええやん。アホ!
↓
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/ / ヽ ::: \
|─(●),─(●)─、| / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, | < あれれ〜?
| ,;‐=‐ヽ .:::::| \_______
\ `ニニ´ .:::/ +
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何物にも影響されない文章など存在しますかね…必ず影響されているはずですけど。
誰にも文章を書くきっかけとなるルーツは存在しています。
此処は肉欲さんのブログ。彼が何を書くも自由な空間です。
批判したいだけなら書かない方がかしこいですよ。
肉欲さんのブログは最初から読み直しました。誰がなんと言っても、貴方の文章力は素晴らしいと思っています。
頑張って下さいo(^-^)o
感動しました
いつもの雑記も最高ですがこれも本当に良かったです♪
なんか上のほうでほざいてるアホはなんなんですかね
ああいうバカがいるから世の中争いが絶えないんでしょうね笑
もしかしたら肉さんの知り合いかもね
俺も知り合いのブログに「つまんねーよ死ね」とか書き込んで後でばらすってのやったことあるし
今回のは他のと違ってなんか深い感じですね。途中から集中力が持たず、ワケわからんようになりました。
でもなんか胸がいっぱいになっていろんな事を考えさせられてしまいました…。
これはすごい!
感動しました。
面白いと思いましたが、肉欲さんの文章は使い回しがちょっと多いかな、と思いました。
水と油が…というフレーズは何度か目にした覚えがあります。他にもちらほら…
まぁ、何が言いたいかっていうと大好きだお( ^ω^)
応援してるお( ^ω^)
それはそういうもんなの
普通のだと読むのめんどくさくなる
その語彙力はどぅやって身につけられたのでしょうか…
かなり尊敬します
東京は誰もを拒まないけど、決して交わって心開く事はない。
そこに住む人は皆仮面を被り寂しさを押し隠し生きる。
そして、仮面が剥がれた時、人は耐え切れず逃げ出していくんだ……。
東京から戻ってきた友達がこんな事を酔っ払って洩らしていたけど、ここを読んで少し理解できた気がした。
結局いろんな事に挫折して広島に帰ってきたんだけど
共感できる事、共感したくない事がいろいろ混じり合って
複雑な気分になった。
これ読んでも何にも感慨が湧かない奴って薄っぺらい
人生を生きてるんだろうな・・・
更新少なくなっても、まだ過去ログを読んでるひとはいるので残しておいてほしいんだぜ。