そんな高円寺に、先日、ぼくののうみそというブログを管理運営されているzukkiniさんと一緒に訪れた。きっかけはzukkiniさんのしたためた『高円寺グルメ情報 リターンズ』という記事を読んでのことである。
「こんなナイスなプレイスがまだ残っていたとは……」
高円寺、それは汲めども尽きぬ魅惑の泉源。どれだけ巡り回ったとて、物陰からまだ見ぬディープスポットがひょいと顔を出す。リンク先の記事にあるお店も、永らく気になりながらついぞ足を踏み入れたことのない場所だった。
「もっと知りたいな、高円寺のこと……」
そこからの行動は迅速の一言、僕はzukkiniさんと連絡を取り、迎えた2日後、我々による我々のための高円寺巡りが敢行された運びだ。
10月10日正午ーー
「お久しぶりです」
zukkiniさんと駅前にて合流し、挨拶もそこそこに高円寺徘徊を開始。向かう先に目的は特にない。敢えていえば無目的が目的である。
【ステキなスポットを見つける】
これこそが今回の行動の第一義、そして最終義であった。
肉「この路地裏あたり、アヤシイですね」
z「ビンビンきてる感があるね」
アヤシイ、とは我々の辞書によれば 『ナイスな空気感』 を意味する。その意味で言えば東京の山谷、大阪の飛田新地、福岡の筑豊、沖縄の真栄原社交街、タイのソイ・カウボーイ、これらはいずれも 『アヤシイ』 という概念に落とし込まれる。日常から非日常へーーたちどころに空気の臭いが変わるのを感じ取る。このテイスト、嫌いじゃないぜ。
z「肉くん、何かあるぜ」
肉「キテる感、ありますね」
目の前に立ち現れた店、それはホットドッグ屋だった。しかしそれは店の誇示する看板の表記から何とか読み取った情報でしかなく、外観からすれば完膚なきまでにスナックだった。それも 『場末』 という枕詞が容赦無く付くタイプのスナック。紫色の髪をした熟レディが店主を務めるタイプのスナック。へべれけになった課長が 『おう、カラオケ、いくで!』 と半ば無理矢理若手を連れ込む感じのスナック。概ねそういう感じだった。
肉「昼飯はここでキメですね」
z「構わんよ」
取り急ぎ駅前に戻り、待たせていた従者を呼び寄せる。従者とは要するに、昼から僕と酒を飲もうだなんていう肝の座ったアホたちの総称である。一人は東大生のワタライくん。もう一人はエステティシャンのもちさん。最後に居酒屋店員のまーさん。統一性など絶無だ。
肉「最初に来た方向からは分かりませんでしたが、中々ステキな案内看板がございますぞ」
z「この飾り気のなさ、嫌いじゃねーぜ」

(素朴さ、その言葉の意味を知りたければこの看板に会いにこい)
肉「改めて見ても、やっぱりこれ、スナック以外の何者でもないですね」
z「うむ、全くその通り」


(この瘴気よ)
着いてみれば、どうもテレビの取材がきているらしく、店内は慌ただしい様子。特に急ぐ事情もなかったので、とりあえずプレーンドッグと塩ドッグとを注文し、のんびりと待つことに。無目的が奏功した格好である。

(絞られたメニュー。ドリンクは80円という狂気の沙汰)
ほどなくしてドッグがやってきた。

(プレーンドッグ 390円)
ソーセージを挟んだパンは相応に重厚で、口の小さな女性や子供であれば、頬張るのに少々気合を要するだろう。味付けはほとんど施されておらず、提供されるケチャップとマスタードで好みの味に調整する。甘味の深いケチャップだったので、とりあえずマスタードをたっぷりと掛けた。そして一口。うん、とても普通。日曜の昼下がりに母親が作ってくれたホットドッグと近接する味わいである。
肉「めっちゃ普通ですね、これ」
z「肉くん、聞こえるようにそういうこと言わない」
怒られてしまった。
間を置かずして、接客係兼責任者と思しきママが受け取り口から顔を出す。

(the ママ)
マ「お兄さんたち、前も何度かいらしてくれたかしら〜」
肉「いえ、完全に今日が初めてです」
マ「あらまぁ〜!」
実に陽気なママだった、と言わなくてはならない。笑顔を絶やさないままバシバシと言葉を浴びせかけてくる。
「学生さん〜?」
「どうしてうちに来ようと思ったの〜?」
「いまうちの店、静かに大人気なのよ〜」
「さっきのはテレビの取材なの〜」
「でも放送されるか分からないの〜」
「ここはね〜、スナックを間借りしてるのよ〜」
「日曜と月曜しかやってないの〜。だからあなたたち結構ラッキーかもよ〜」
「これ、お店のマスコットのアリスちゃんなの〜。煙草の煙で茶色いでしょ〜。オホホ〜」

(汚れっちまったアリス氏)
肉「テレビに出る、ということは、先んじてこの店のことをブログに書いておけば……放送後、民どもはこぞって店名をググり始め……そこで検索に引っかかる我々のブログが……」
z「これはどえらい金脈を彫り当てたかもわからんね」
銭ゲバならぬアクゲバ(アクセスゲバ)である我々の瞳が鈍色に輝く。
肉「あの、お店の名前はなんですか?」
マ「不思議な窓よ〜」
z「不思議な窓。オーケー奥さん、この店、ブログで紹介してもいいですか?」
マ「いいわよ〜」
こうして我々は太陽輝く昼下がり、ビールをウマウマと飲みながらドッグを完食した。約束されたアクセス数、という土産を片手に。
■高円寺不思議な窓の基本情報(食べログ)■

(愛と勇気で絶賛販売中)
肉「中々快調な滑り出しですね」
z「うん、キテる感あるね」
ひとまず駅に戻った一行は、次に入る店を決めるべく近辺を彷徨う。昼酒を振る舞う店は数多くあるが、折角生み出されたステキな流れを止めたくはない。店選びは慎重になる必要があった。
z「肉くん、ここ、やってるねえ」
肉「ここでええんじゃないですかね」
時に慎重に、時に大胆に。0.5秒で次の店を確定させ、速やかにそのドアを開けた。

(思い切りclosedと書かれているのはおそらく何かのギャグである)
肉「やってる?」
店「あ、は、はい!」
肉「ものすごいclosedになってますけど、やってる?」
店「え、や、はわわ」
コンマ1秒で確信する。目の前の女性店員は絶対にドジっ娘である、その真実を。肉欲、zukkini、ワタライ、その場に居合わせたメンズはキックオフと同時に心を鷲掴みにされた。
店「ごめんなさい、ついうっかりしちゃって……ちゃんとひっくり返したつもりだったんですけど……」
z「たぶんあの表示の影響で、何人かお客さん逃しているはずですぜ」
店「そ、そうですよね。ああ〜、気をつけなきゃ……」
肉「(´^ω^`)」
z「(´^ω^`)」
ワタライ「(´^ω^`)」
肉「お姉さん一人でお店回しているんですか?」
店「いえ、本当は店長が来るはずなんですけど、電話こないんですよ……一人で店開けるのも初めてで、すっごく緊張してて……さっきだって、ビール注ぐ手も震えちゃって!」
z「そうなんですか、全然気が付きませんでしたよ」
店「もう、店長何してるんだよ〜……後でしっかり怒らなくっちゃ!」
肉「(´^ω^`)」
z「(´^ω^`)」
ワタライ「(´^ω^`)」
宝石というものは得てして野に転がっているものである。我々はその事実を改めて痛感した。500円のヱビスビールが急速にその旨味を増していく。生きていて、良かった!間違いなくあの時、僕らはそう感じた。
z「肉くん、たまらんわ……ワイ、もう辛抱たまらん……あの姉ちゃんツボ過ぎるわ……」
肉「おいテメー……zukkini、オメーは既婚者だろうが……」
z「その話はヤメロ!!!」
肉「店員さん、この人ね、奥さんおるんですよ」
z「ヤメロォォォ!!!店員さん、この人ね、爽やかそうな顔して、肉欲言いおるんですわ。肉欲棒太郎。どうですかこれは!?」
肉「俺の趣味の話は関係ないだろうが!?!!」
醜くも美しい生存戦略。そいつが僕とzukkiniさんとの間で起こった。べたべたと馴れ合うばかりが友情ではない。時にベアナックルで殴りあうようなシチュエーション、真のフレンドシップにはそいつがマストなのだ。

(店員の様子を窺うzukkini氏。野生のヒポポタマスもかくやの目付きである)
その後も我々は店員さんと軽妙なトークを交わし、結果、メロメロに骨抜きされて店を後にした。滞在時間はおよそ1時間ほどであっただろうか。
z「肉くん、やけにあっさり引き下がったね」
肉「馬鹿を仰るんじゃない。後でまた行くに決まっとるでしょうよ」
z「なるほど、時間差での波状攻撃である、と……」
肉「落ちてる小銭は拾う主義でしてね……」
世界で一番知恵のない会話が音速で爆誕してゆく。父よ、母よ、息子は元気です。
店で酒を飲むのにも飽いた一行は、高円寺北口を巡る旅へと出立。純情商店街を練り歩き、早稲田通りに出て、そのまま東通りの方へと向かう。
西日を受けたアスファルトがきらきらと輝き、爽やかな秋風が頬を撫でる。夏と冬との間の、曖昧な空気感。僕は全ての季節の中で秋が一番好きだ。
肉「おや、何かナイスな精肉店がありますなあ」
z「店頭で焼き鳥を売っているね」
肉「食べるに如くはありませんね。お父さん、正肉(鶏のもも肉)を5本下さいな」
親父さん「まいどー!」
軒先で焼き上がりたての焼き鳥を受け取り、ウマウマと頬張る。甘辛いタレの味が口いっぱいに広がり、次いで濃厚な肉汁がじんわりと口腔を満たした。何も足さない、何も引かない。それは実直なる焼き鳥の味わいだった。
肉「美味しいですねー」
親父さん「ありがとうねー!」
肉「写真、いいですか?」
親父さん「いいよー!!」

(願わくばこのような表情の出来る老後でありたい)
少しくお父さんと談笑してから更に歩みを進める。すぐ傍に確実な意味での 『キテる感』 溢れる定食屋が鎮座在していたが、生憎この日は定休日であった。


(隠しきれないキテる感)
リベンジを胸に誓い、泣く泣くその場を後にする。あの店で定食と一緒に飲る一杯のビールは、さぞ美味しいことであろう。拙い酒カス野郎としての経験値が確実にそう叫んでいた。だが嘆いていても仕方がない。道はいつでも前にしか存在しない。
肉「特に理由はないですが、路地裏を曲がったりなんかしちゃいましょう」
z「感じるよね、名状しがたい訴求力を」
肉「やはり、というべきか」
z「おわしましたね」


(訴求力の正体)
一見すると何の店か分からない店構えであったが、果たしてその実態は駄菓子屋兼雑貨屋であった。極彩色の駄菓子の数々がノスタルジーをダイレクトに刺激する。合成着色料の放つケミカルなフレイバーが鼻腔を貫いた。

(戻らないあの日々が、そこに)
種々雑多な駄菓子を手にとり、ああでもないこうでもないと会話に華を咲かせる。幼きあの頃は 『お小遣いがもっとあれば、もっともっと、好きなだけお菓子を買うのに!』 そう思っていた。けれどもいざお金を持つ頃になると、その欲求はどこかに雲散していた。人生とはかくもままならないものである。
肉「お姉さん、万華鏡下さい」
z「え。そのチョイスは一体」
肉「後であの店員のお姉さんにあげるんですよ……!」
z「お前、安すぎるだろ……」
心温まるやり取りを紡ぎつつ、再び駅前へと戻る。時刻は間もなく午後5時。本格的に夜の帳が下がろうとしていた。
z「まあ高円寺といえばね」
肉「ここは外しておけませんな、やはり」


(高円寺で最も知名度が高いであろう居酒屋・大将)
この大将は焼き鳥をメインとする居酒屋である。中央線にはこういったテイストの居酒屋が多い。荻窪の『鳥もと』、吉祥寺の『いせや』などはとみに有名だ。いずれの店も価格帯・味付け両面においてさほどの違いはない。率直にいってしまえば、味を楽しむというよりは利便性や雰囲気を味わう、という側面の方が大きい。味を求めて大将に行くような層はまず間違いなく存在しないだろう。これはdisではなく単純な事実である。非常に気楽、ということです。

(まことに気楽な空気感である)
肉「いやあ、実に得るものの大きい一日でしたね」
z「うむ。高円寺はまことに広大であることよ」
高円寺に限らず、街というのは不思議な存在だ。どれだけ見たと思っても、決して見尽くすことはない。街の表情は簡単に千変万化する。見落としていたもの、見ていたようで見えていなかったもの、新しく生まれ変わるもの。様々だ。いつだって新しい装いで僕達を待ち構えている。だから楽しい。だから飽きない。それこそが僕達をして何度でも同じ街に魅了せしめる所以なのかもしれない。
肉「善い一日だった」
z「イナフだったね」
肉「では、再びあのお姉ちゃんに会いにいきましょう!」
z「イナフだね!」
股間を羅針盤に見立て、本能のままに高円寺をデッドウォーキングする我々。向かう先はひとつ、純愛という名のガソリンを体内に叩き込み、我々は再びあの店へと戻った。
肉「たのもう!」
店「いらっしゃ、え、また、あれ?」
肉「お姉さん、万華鏡はいらんかね」
店「まん?えっ?あの、ええっと、わー」

(タイムマシーンが開発されたら、あの日の僕を殺してくれて構わない)
こうして突発的に敢行された高円寺探索は、終わった。本当に楽しい一日だったと言わなくてはならない。数々の出会い、別れ、そしてまた、出会いーーそれは確実に精神の血肉となり、これからの人生を色彩豊かに輝かせることだろう。
井伏鱒二は 「さよならだけが人生さ」 と言った。そして寺山修司はこう綴った。
「さよならだけが人生ならば 人生なんかいりません」
次に高円寺を訪ねるのはいつになるのだろうか。いずれにせよ、その時もまた愉快で、胸弾むような出会いに恵まれることを、心から祈りたい。
ちなみにこの日の足跡を正確に記せば、以下の通りである
12:20 高円寺着
12:50 不思議な窓にて飲酒
13:30 例の店で飲酒
16:00 焼き鳥を食べながら飲酒
17:00 大将で飲酒
20:00 例の店でまた飲酒
21:00 河岸を変えて飲酒
22:00 バーで水タバコを吸いながら飲酒
24:00 バスで練馬に移動し、カラオケで飲酒
25:30 帰宅し、友人とマリオカートをしながら飲酒
26:30 友人とPerfumeのダンスを練習し始める
28:30 就寝
人生の楽しみ方に迷ったら、いつでも俺に聞いてくれ。
■zukkiniさんのmixiとtwitter
覗いてるお姉さんの姿もまた良し。と思う
やはり策士ですね。
お姉さんかわいい。
視姦にもほどがある
また筑豊が有名に…。
肉さんはもうかっこよすぎるぜッ!