肉欲企画。

twitterやってます。

2005年02月23日

まあ、ぶっちゃけてただの飲み会なんですけど。

場内は異様な雰囲気に包まれている。
曖昧に錯綜する記憶。僕は何故ここにいるのか。

目の前を確認する。琥珀色をしたグラスが鎮座していた。
周りを見渡す。数多くの友が事切れた様に横たわっている。生死の程は判然としない。
何故…何故こんなことに…!
一体何が…!

漠然とした記憶を辿りながら、しかし状況はそれを許さなかった。
アイスペールになみなみと注がれた焼酎が無言で僕の目の前に差し出される。

「飲め」

冷徹に囁かれる声。鼓膜の反応した方向に目をやる。
悪魔の様な形相をした人間がそこにいた。
一切の拒否を許さないほど冷徹な光を放つ瞳。
思わず僕は杯に、いやアイスペールに口をつけかけた。

「馬鹿な。飲めるはずがない」

そう口走り、彼の方を睨みつける。彼は少しも臆することなく言葉を紡いだ。

「飲める飲めないは聞いていない、俺は『飲め』と言っているんだ」

そう言ったきり、彼は口を閉じた。
もはや僕に選択肢は無かった。


段々と思い出してきた。そう、ここは居酒屋…僕は大学の友人達と「飲み会」と称して居酒屋に訪れたのだ。

最初は和やかな雰囲気であったそれも、時間の経過につれ徐々にサバトのような異様な空気に包まれ始めた。酒は人を狂わせる…その事実を僕は再認識しつつあった。
しかし、それでもしばらくは平穏だった。通常の飲み会の範囲であった。

事態が急変したのは、そう、ある料理が運ばれてきてからであったように記憶している。

『茄子の浅漬け』

その、何の変哲もないはずの料理が、状況を一変させた。

話は料理をオーダーする際に遡る。
注文した酒がやって来るのを待たず、僕は勝手に料理の注文を始めた。

サラダ、串焼き、唐揚げ…何の変哲も無いオーダーの仕方。
その中で特に意図も持たず、僕は件の『茄子の浅漬け』を注文した。その時だった。ある男が一言、発した。振り返って思うこと、それはその言葉は『終わりの始まり』を告げていたということである。

僕 「すいません、茄子の浅漬けを2つ」

男 「切らずにね」

一瞬、意味を掴めず呆然とした表情になったと思う。『切らずに』…主語も無くぶっきらぼうに発された言葉であったが、しかし、状況を切り取ると理解できた。彼の意図は茄子の浅漬けを切らずに持って来い、つまりはそういうことであった。

馬鹿げた話である。浅漬けというモノはすべからく適度な大きさに切られてこその料理であろう。それを切らずに持って来い、というのはまさに神をも恐れぬ暴挙。政治的側面から勘案しても土台許されることではない。

しかしながら店員もわきまえたもので、彼の提案に一瞬驚嘆した表情を見せたものの、すぐに

「かしこまりました」

といとも容易にその蛮行を許諾する旨、返答した。

馬鹿な…!愕然とした思いを抱きながら、しかし、この国に巣食う資本主義の原理をまざまざと感じされられた。所詮、金を払う者が全てなのである。金は絶対的な論理性を持つのである。金さえ適切に支払われれば、大抵のことは許されるのだ。目の前で起きている状況が、そのことを端的に説明していた。金、そう、圧倒的な資本力の前では、『茄子の浅漬けを切らずに提供する』という倫理という概念を蹂躙しきった愚行も、全ては容認されるのである。そしてそのロジックを前に、僕はあまりにも無力だった。

僕 「あの、切った茄子も2つ下さい…」

最後の力を振り絞って、掠れた声でそう呟いた。
絶望的な程の己の矮小さを感じ、自嘲気味に笑った。

しかしながら、『茄子の浅漬けが切らずに提供される』などという暴挙が現実のこととなるのであろうか?多少なりとも成熟した思考回路の持ち主であれば、それが如何ほどに馬鹿げた行為であるか、というのは容易に理解できるはず。ましてやここは居酒屋。そう、プロと称される料理人が包丁を振るう場なのだ。そうであるなら、一度は納得しかけた事実ではあるが、あるいはやはり浅漬けは切って提供されるのではないか。荒んだこのご時世であるが、しかし、良心を具備する人間というのは絶対数存在する。そのような人間の存在する限り、億の金を積み上げたところで蛮行はやはり蛮行でしかない。そう考えると幾分気持ちも落ち着いた。救われた気分になった。そうなると、先ほどまで過度に憂慮していた己が随分滑稽に思えた。

(全く、俺って人間は小さいな)

そう自省しながら、僕はそっと目を上げた。






nasusu.jpg






つまりは、全て僕の虚妄だったのである。認識できない、いや認識したくないという己の気持ちが、良心やモラルなどといった実態のない言葉に置き換えられただけのことだったのだ。愛、良心、救済…そういった言葉を否定するつもりは毛頭ない。しかしながらそのような耳障りの良い幾億もの言葉も、この傍若無人な茄子の前ではあまりにも無力だった。それだけの話である。

呆然としながら茄子を眺める僕の横で、友人が静かに呟いた。


「これは…俺が使った茄子よりも大きいな」

僕「使った…?」

「プレイの一環で」


最早何が善で何が悪か、僕には分からなくなっていた。ただ一つ言えることは、「キュウリはダメだった。どうやらあのイボイボがポイントらしい」と微笑みながら語る彼は間違いなく狂気の世界に足を踏み入れた狂人である、ということだけだった。


「じゃあこれ、早食いな。負けたらそれなりのことはやってもらうからな」


突如、茄子を切らずに持って来いと言った当事者が声を発した。最早全てが僕の理解を超えていた。本来、漬物とはご飯と共に食したり、お茶をすすりながら箸休めとして僅かずつ口に運んだり、酒の肴として嗜む種類の物であろう。それを『早食い』とは…『漬物』という概念を、根底からレイプしきったような発言に、僕は思わず言葉を失った。


「うっす、頑張ります」


然したる抵抗を見せることなく、後輩はその提案を快諾した。馬鹿な…この状況でまともなのは僕だけなのか…?いや、もしかしたら、まともでないのは僕の方であったのか…?茄子は切らずに出すもの…?そういうスタイルが当たり前なのか…?そして早食いすることこそが本来の食べ方であるとすれば…?

何も考えられなかった。考えたくなかった。10秒ほどで茄子一本を食し切った後輩を横目で眺めながら、僕にはもう思考を巡らせる気力さえも失われつつあった。


「いやー、茄子って水分多いなぁ!」


かろうじて考えられた事は、後輩が発したその言葉に鼓膜を震わせながら『見たら分かるだろ…!漬け込んでんだから…!』という一点のみであった。


漠然と状況を眺めながら、ふとあることに気付いた。

(もう一本の茄子は…?)

そうだった。その横でもう一人、茄子を齧っている男がいた。10秒というおそらく有史以来尤も早く茄子を食べきった男の真横に並びながら、呆然と立ち尽くしている男が一人。そう、つまりは彼は敗者なのである。しかしながら、何が勝ちで何が負けなのかは、もはやよく分からない。


「よーし、じゃあ、負けたお前はコレを飲め」


そう言って手渡された物を見て僕は意識が遠のきかけた。バケツのようなアイスペールになみなみと注がれた焼酎。彼は、立ち尽くす男に向かって平然とそう言いのけた。

馬鹿な…!そんな量…死ぬって…!有り得ないだろっ…!断るに決まってるじゃねえか…!


「うっす、いただきます!」


男は、そう言って喉を鳴らしながら酒を飲み干した。
どうやらこの世界の外に位置しているのは僕だけのようである。
そう言えば、幼い頃母親から

「いいかい、棒太郎。『自分の常識、他人の非常識』っていう言葉があるんだよ。自分の物差しだけで物事は計れないんだよ」

と言われたことを思い出した。あの頃はよく意味がわからなかったが、今ではよく分かる。そんな気がするんだ。


堰を切ったように、皆が酒を飲み始めた。後輩からスタートし、徐々に僕の方にも近づいてくる。
馬鹿な…!年功序列って言葉を知らないのか…!敬えよ…!目上を…!
そう、心の中で口汚く罵りながらも運命の車輪は冷徹に回るばかり。


いよいよ僕の番と相成った−−−−


僕の記憶は滝のように氾濫し、ようやく己が今いる状況を客体化することができた。



アイスペールになみなみと注がれた焼酎が無言で僕の目の前に差し出される。

「飲め」

冷徹に囁かれる声。鼓膜の反応した方向に目をやる。
悪魔の様な形相をした人間がそこにいた。
一切の拒否を許さないほど冷徹な光を放つ瞳。
思わず僕は杯に、いやアイスペールに口をつけかけた。

「馬鹿な。飲めるはずがない」

そう口走り、彼の方を睨みつける。彼は少しも臆することなく言葉を紡いだ。

「飲める飲めないは聞いていない、俺は『飲め』と言っているんだ」




そうだった。そうだったのか…。


呼吸が荒ぶる。動悸が激しくなる。不定愁訴が体を包み込む。

しかし、それでも、退くことはできない。僕に残された道は絶望的なまでの険しさ、否、もしかしたら道すらも残されていないのかもしれない。虚空に足を踏み出すような救いのない思いを抱きながら、僕はそっと、しかし確実に焼酎を飲み干す。

動悸は激しさを増し、肺はもはや酸素を受け付けようとすらしなかった。



混濁としていく意識の中、やはり今日はソルマックを飲んでくるべきであった…と最早何の意味も持たない思考を弄んだ。
posted by 肉欲さん at 21:41 | Comment(7) | TrackBack(0) | 日記 このエントリーを含むはてなブックマーク
この記事へのコメント
うわやばいですね
体はお大事に
Posted by K--S at 2005年02月23日 23:47
 ふっ。(嘲笑)

 我輩はもう、「飲め」と言われようとて笑い飛ばせるだけの地位にあるからな。
 歳は取っておくものじゃて。(悪笑)

 ちなみに若い頃は、「馬鹿馬鹿しい。」と言下に見下げるノリの悪い輩であったからな。飲み会になんぞ滅多に誘われんかった。(凹)
 就職したら、酒が飲めない上司が二人もいた所為で、遠慮して誰も「飲め」などとは言わんかった。
 要するに、棒太郎氏は『日本縦社会構造』の犠牲者というわけである!

 わかったか! わかったなら立ち上がれ、棒太郎! 今こそ絶対数存在する良心と呼ばれるものを具備した常識的人間の代表として、このイカレ腐った日本縦社会構造を根底からくつがえすべく、衆議院議員として立候補するのだ!

【立候補者】肉欲棒太郎
【所属政党】無所属
【基本公約】茄子の浅漬けを切らずに提供することを禁ずる法律の制定

 見給え、棒太郎!
 未来の政治家、未来の日本を支える君を迎えに来たぞ! 黄色い救急車で!!!
Posted by 世界最狂の魔法使いCray-G at 2005年02月24日 01:12
なすが1本そのままっていうから、早とちりしちゃって、変態遊戯を興じたんだろうと思っちゃったじゃない。 早食い? ふーん。 へぇー。
あまり、興味ないです。

しかし、焼酎もったいないよね。胃酸と混和したのちに、また外に出すんでしょ。
でも、ケント GJ! 乙!
Posted by アナル軍曹 at 2005年02月24日 11:27
その焼酎を「飲め!」と言った人、
見るところ酒量に自信がおありのようですので、
そのうち当方と勝負して下さい。
アイテムはウォッカ希望。
使用する容器はワンショットグラス。
250mlを先に空けた方が勝ち。
レモン(口直し)は櫛形スライス2枚まで。
以上。
Posted by Cass at 2005年02月24日 12:22
先日久しぶりに男の子2人と飲みに出かけたのですが、
そのうちの一人の注文する品が
「茄子の一本漬け。」
「穴子の一本揚げ。」

・・・どんだけ『一本』が好きやのん?
Posted by くがつなな at 2005年02月24日 14:29
>k--sさん

酒は本当に怖いですよね・・・。

>クレイジーさん

いや、基本的には拒否するんですけどね、流石に周りが皆飲んでたら雰囲気ってものもあるじゃないですかー?(結局断れない人間)まあ、こういう乱痴気騒ぎができるのも今の内だけだってことで、それなりに楽しんでおきますよ。後学にもなるかもしれませんしねえ…たぶん確実になりませんけどね…。

>アナル軍曹さん

なんで居酒屋でそんなマニアックなプレイに興じないといけないんですか…。

>Cassさん

酒豪なんですね。何だかイメージとピッタリすぎて怖いくらいですよ。そしてその具体的な提案を見るに、よく飲み比べをやっているのかと推察します。このキャリアウーマンめっ!

>ななさん

それは遠まわしなセックスアピールなのでしょうか。それはともかくとして、その二つの料理は単純に酒に合いますよね。いいおつまみですね。アナゴとかたまらん。食べたい。
Posted by 棒太郎 at 2005年02月24日 18:00
飲めってノタマッタ人って健太郎でしょ?
Posted by うん子 at 2006年08月26日 05:42
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

メールフォーム
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。