
【注:今回の話はややもすると『四月一日』よりも怖いので、読む人は心臓叩いてしっかり準備してから読んでください】
僕が大学生になって越してきたY県A市には一つの俗説が噂されていた。
A市にある私有地N山林、そこで度々見かけたとされる不可思議な炎、「歳火」(としび)。
N山林は大きめの野球場くらいの規模なのだけれど、その中には建物など一つもなく、だから炎のようなものが発生するはずもない。また、かなり緊密に樹木が林立しているので、キャンプなどを設営することも不可能だろう。つまり、実際にはあり得ないのだ、炎がそこに存在するというのは。
しかし、この土地ではずっと以前より歳火の発生が確認されてきた。
いや、厳密に言えば、存在する、とされてきたのである。
なぜこんな歯に物の詰まったような言い方をするかと言えば――
「歳火を見たヤツはな、全員発狂するらしいんよ」
僕がY県に引っ越してまだ間のない頃、この土地のあれこれを色々教えくれた人がいた。下宿の隣に住んでいた人で、名前をチボシさんと言った。千の星と書いて千星。彼は僕と同じ大学の5年生で、随分と前から大学に通うこともなく日本のあちこちをフラフラとしているらしい。彼は僕にこう語った。
「お前は知らんやろうけどな、うちの市内の外れにN山林いうところがあるんよ。お前も大学に行っとりゃあアレやコレや聞くこともあるやろうけど、ええか、あそこにだきゃ絶対に近づくんやないぞ」
普段はおちゃらけた千星さんだったが、この時ばかりはやけに神妙な顔をして、いやそればかりか少し怯えの色さえ浮かべながら、僕にこう語った。
「なんでです?N山林って、僕は初めて聞きましたけど、なんかあるんですか?ヤンキーの巣窟だったりとか」
僕は適当に笑いながら話を混ぜっ返そうとした。しかし千星さんはなおも真剣な表情で言葉を繋ぐ。
「お前も、バカらしい思うかもしれんけど、真剣に聞けよ。あそこにはのう、昔から『トシビ』が出るんよ」
「……トシビ?っすか?」
「そう。一歳二歳の『歳』に、ファイアーの『火』で『歳火』」
なんで火のところだけ急に英語になるんだよ、と思わず吹き出しかけたが、千星さんの表情は相変わらず真剣そのものだったので話の続きに耳を傾けた。
「いきなり歳火じゃ言われても、何のことかよう分からんやろうね。お前も「人魂」とかは聞いたことあるやろ?まあ言うたら、その類やね」
「ヒトダマ、っすか」
「……まあ、歳火の方がもうちょい、いやかなりタチが悪いんやけどな」
「え、どういうことっすか?」
「歳火を見た人間らぁはな、もうウツヨにはおれんくなるんよ」
「え?ウツヨ?なんすかそれ」
「お前、学のない奴やのう。ウツヨ言うんは…」
そう言って口を閉じた千星さんは、携帯を取り出すとカチカチとキーを打ち始める。ちょっとして、その画面を僕に向かって差し出してきた。
「こう書くんや」
『現世』
「げんせ、じゃないですか」
「アホ、これで『うつよ』って読むんや」
「そうなんっすか。で、どういう意味なんすか、その『ウツヨ』にいられなくなるってのは」
「うん、つまりやね、歳火を見てしまうと、持ってかれてしまうんよ」
「持ってかれて?」
「そう、心をな、カクリョに」
「カクリョ、っすか」
千星さんはまたも無言で携帯を弄り始めると、さっきと同じように僕に携帯を向ける。
『幽界』
「幽界、つまり魔物やら…まあ、普段はお目にかかることのないバケモンっちゅーか、幽霊っちゅーか、そういうのがウジャウジャおるところに連れてかれるんよ」
「はあ……」
「でも、それは心、まあ魂言うてもいいけど、つまりそういう部分だけが持ってかれるだけで、肉体は残るんよ。やから、そいつ自信はもう現世にはおらんのやけど、外側、やから体だけは残っとるわけで、俺らからしたらそれを見ると発狂したような状態に見えるってわけやね」
「はあー、怖いっすね。都市伝説ってやつっすか」
「都市伝説?いや、違うんよこれが。そんな安っぽい話やないんよ。ま、確かに現世やー幽界やー言うとるんは俺らが後付けで説明付けただけのもんかもしれんのやけど」
そう言って千星さんは一拍置いた。目には何やら少しだけの悲しみと、そして深い恐怖の色が挿した……ような気がする。
「俺もここに住んでから長いんやけどなあ、あそこに行ってから気ぃが違うようになった奴らが、知り合いに少なからずおるんよ。一人くらいやったら、そりゃまあ偶然何かの弾みでおかしゅうなった、って片付けられるんやろうけどな。俺が知っとるだけで、これまでで五人。五人もよ?偶然で片付けるには、どう考えてもおかしすぎるやろうが」
そう言って千星さんは僕の目をギョロリと覗き込む。担がれてるのかな?とも思わないでもなかったが、普段はチャラチャラしている千星さんがこんなにも真剣に話をしているというのはどうにも珍しいことだ。嘘、と決め付けるには早計かもしれない。
「まあそういう訳でやね、キミもこれからこの土地で住むんならこの話を聞くこともあるやろうけれど、絶対に興味本位でN山林には近寄らんことやね」
「はあ。分かりました」
それぎりこの話は打ち切られた。
これが実に2年前の話である。
僕は大学の三年生になっていた。それなりに勤勉だった僕はこの二年間で大体必要な単位は取り尽くしており、卒業はまず大丈夫だろう、という状態だった。
つるんでいる友達も大体そんな感じで、だから僕らは三年になると途端に暇を持て余した。授業のない大学生は、ほとんどニートと同じなのだ。寝て起きてバイトに行くだけの生活。そして僕らは、そんな風に漫然と続いていく日々にいい加減倦怠していた。
ある日のこと。珍しく大学の校内で集った僕らはラウンジでだらだらと時間を潰していた。
「何か…面白いことねえかなあ」
メンバーの一人が、誰ともなしにそう呟いた。他の人間も、声には出さぬものの彼とほぼ同じような心境なのだろう、元気がないわけではないのだけれど、その表情は誰もが覇気のないものだった。面倒くさそうにタバコをふかすヤツ、どうでもいい女とのどうでもいい内容のメールのやりとりを繰り返すヤツ。僕らは時間という檻に閉じ込められた家畜のようなものだった。
「そういえばさあ……」
口を開いたのは僕だった。特に何かを考えて口を開いたわけじゃない。けれど、漫然とした時間は思考ばかりを無駄に活発にさせ、時に記憶の底で忘れられていたものまで掬い上げることがある。この時がまさにそうであった。
「N山林の話って、知ってる?」
「N山林?何それ」
「いや、なんか都市伝説の類らしいんだけど」
「面白そうじゃん。話してみろよ」
そう促され、少しだけ面倒だな、と思ったがどちらにしても時間は腐るほどある。僕は居住まいを正して、千星さんから聞いた「あの」話を語り始めた。僕が語りだしたことで、ゆるりだらりと流れていた空気は少しだけ緊張し始める。なるべく正確に、なるべくリアルに。僕は千星さんから教えられた話を寸分違わぬかたちで伝え聞かせた。
「…ていう話なんだよ」
5分ほどかけて喋り終わる頃には、喉がカラカラに渇いていた。
「…なんだか、どこにでもありそうな話ではあるよなあ」
と、ありきたりな感想を口にしながらそいつは隣にいる奴を肘で小突いた。
「お前、確か実家だろ?そんな話が伝わってんの、この辺だと」
メンバーで一人だけの地元民はそう問われ、うーんと首をかしげながら、聞いたことがあるような気もするけど、うーん、と、ブツブツ一人ごちている。
「あんまり有名な話でもないのかもなあ」
と、自分でフォローするように僕は言った。すると、端の方で一人携帯を弄っていた奴が急に立ち上がると
「いいじゃん、面白そうじゃない?どうせ暇なんだし、俺らで見に行こうよ。その歳火ってやつを」
僕はこの話を始めた時から、内心こういう提案がなされるのを期待していたようにも思う。いや、むしろ積極的に望んでいたと言ってもいいかもしれない。それだけ暇が僕を蝕んでいるのを感じていた。多少危険な衝動でも、今この虚無的な人生を変えてくれるのならば、大歓迎というものである。他のメンバーの顔を見ると、みんなニヤニヤ笑ったり、無言で頷いたりしている。反対の意を唱えるヤツは――どうやらいないようだった。
その夜、僕ら6人は駅前で待ち合わせ、そのままメンバーの一人が乗ってきたワンボックスカーに乗ってA市郊外にあるN山林に向かった。途中でビールを買ったりしつつ、運転手含めた全員でビールをちびりちびりと啜りながら少しずつテンションを上げていく。この辺りは夜になると極端に車の通りがなくなるので、警察と鉢合わせることもないだろう。
40分ほど車を走らせ、僕らはN山林に辿り着いた。その日は曇り空で、周囲には街灯の一つもなく車のヘッドライトだけが辺りを照らしていた。完全な暗闇が包んでいる。空間にはたまに遠くで犬が遠吠えする声が聞こえるばかりで、だから光どころか、音すらも存在しない。
「…すげえ、不気味だな」
「ああ、確かにここなら、『出る』かもな」
そして僕がビールの最後の一口を飲んだ時のことだった。
ピリリリリリ
突然携帯電話が鳴り響いた。誰かがひっ、と声を上げる。僕も思わず肩をビクンと震わせた。Gパンの尻ポケットから携帯電話を取り出すと、僕は液晶の画面を確認した。
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着信
千星さん
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「千星さん…?」
そう、あの日僕に歳火の話を語って聞かせてくれた千星からである。
彼はと言えば相変わらず学生を続けており、今では七年生になってしまったと聞いている。放浪癖は相変わらずのようで、僕が尋ねる時はいつも隣の部屋にはいない。
「誰だよ?」
突然驚かされたのがよほど癇に障ったのか、先ほど声を上げてびっくりしていたツレが不愉快そうに僕に聞いてきた。僕はそれには答えず通話のボタンを押す。
「…もしもし?千星さんですか?」
「ああ…さっき電話くれたやろ?どうしたん?」
「えっ?」
「いや、俺の携帯に『着信アリ』になっとったんやけど。お前の名前で」
「え、電話してないですよ」
「ウソやん。自分の名前で着信履歴残っとったよ?」
「マジすか?おかしいな…んん、もしかしたらなんかの弾みで掛かっちゃったのかもしんないっすね。すいません、特に何かあったわけじゃなかったんですよ」
「そっか。ならええんやけど…ところで今何しとるん?暇やったらたまには酒でも飲もうや」
「えっ…」
僕は言葉に詰まった。千星さんからは、N山林には絶対に行くな、と口を酸っぱくして言われていたからである。ここでバカ正直に「実は今、N山林にいるので、ムリです」などと言ってしまったら一体何を言われるだろうか。
「ん?どうしたん?」
「いや、その…」
「何か忙しかった?ていうか、自分様子おかしいやろ?どこおるん、今」
僕は迷った。確かにこの雰囲気は恐ろしすぎる。霊感の一切ない僕にも、ここが普通の場所とは違うことが、今実際に山林を目の前にするとなんとなく分かる。千星さんの言う通り、ここには近づくべではないのだろう。しかし…
僕は連れにチラリと目を遣った。僕の電話が終わるのを苛立たしげに待っている様子がありありと伝わってくる。彼らのことだ、今更「引き返そう」と言われて引き返すことはしないだろう。そして僕も、確かに怖くないと言えば嘘になるが、本当はもう少しここで何かを待ってみたいのである。
そして僕は、口を開いた。
「…あの、千星さん。実は僕いまN山林にいるんっすよ」
「…なんて?」
「今、友達と一緒にN山林の前にいるんです」
「……自分、何しとるんか!あれだけN山林には行くなって言ったやろうが!アホか!さっさと帰れ!引き返せ!死にたいんか、自分!」
千星さんはものすごい勢いで怒りながら、次から次へと罵倒の言葉をまくしたてた。当然だろう。親切で教えたことを、僕はあっさり無視したのだから。
とは言え僕もバカ正直に事実を伝えたわけじゃない。実際、今回のことは千星さんに黙っていれば済むことだったのだけれど、僕はあえて本当のことを告げた。そうすることであの日聞けなかった更なる情報を手に入れようとしていたのである。
そして千星さんは、案の定僕の張った網にかかったのである。
「おい、まだ山林の中には入っとらんのやな?やったら、まだ間に合う。ええか、中には絶対入るなよ。歳火は、中におる。そっからは見えんやろうけどな、山林の真ん中にはでかい湖がある。歳火が出るならそこやから、お前らは今はまだ安全じゃ。それ以上は絶対に踏み込むな。お前らがおるとこやったら大丈夫やけえ、さっさと帰れ!ええか!」
「はい、はい。分かりました。すいませんでした」
なおも、ホントだな、早く帰れとまくしたてる千星さんを適当にあしらい、僕は電話を切った。
「長かったな。早く歳火ってのが出るの待とうぜ」
ツレはそう言って二本目のビールに手を伸ばしていた。僕は携帯を再びポケットに押し込むと、彼らに向かった。
「今電話で教えてもらったんだけど、どうもここからじゃあ歳火は見えないらしい」
「じゃあどこだったら見えんのよ」
「山林の中に湖があるんだって。歳火は、そこで見えるらしいよ」
山林の中、という言葉を聞いて、一同はたじろいだ。ムリもないことだ、山林の外でさえこの異様な雰囲気だというのに、中はどうなっているのかは推して知るべし、であろう。一様に顔を見合わせて、どうしようか、というようなことを話し合い始めた。
「まあ、折角ここまで来たんだし……」
結論が出ないまま10分ほど曖昧に話しているとき、誰かが不意にそう言った。その言葉を受けて、誰ともなしに次々と、そうだな、まあ行ってみますか、というような声が上がり始めた。六人での山林探訪の始まりである。ジャンケンに負けた奴が車から懐中電灯を取り出し、先頭に立った。
山林、と名が付いているものの、実際には山のような勾配はなくなだらかな平地が続いている。けれども整地は一切なされていないようで、足元には堆積した落ち葉や腐った木切れなどが見渡す限りに茫洋と覆っていた。相変わらず音は何も聞こえず、時たま足元に落ちていた木の枝を踏みつけたときに、パキ、と音がなるばかりだった。
「何も、ねえな…」
どこまで行っても、木、木、木。林は思ったよりも広く大きく、懐中電灯が照らす明かりは永遠と同じような風景を映し出しているような錯覚を醸し出す。歩けど歩けど道は開けない。僕らはいつしか時間感覚も失い、いつまでも同じところをグルグルと回っているだけなのではないか、と猜疑の念を抱き始めた。
「おい、そろそろ疲れたんだけど…」
メンバーの誰かが不意にそう言った。その言葉を端に、次々と俺も疲れた、足だりい、などの声が続く。それもそのはずで、考えてみれば現在既に僕らが山林に入ってからゆうに1時間は経過していた。普段運動などしない僕らがそれだけ歩けば、疲れない方がおかしいというものである。それでなくてもこんな不気味な場所なのに。
「そろそろ帰ろうぜ」
「あっ」
二つの声はほぼ同時に重なった。短い声を上げたのは、先頭を歩いていた奴だった。
「どうしたんだよ?」
「あそこに、何かある」
そう言って懐中電灯の明かりを照らす。なるほど、確かにその先には何かがあった。僕らはとりあえずそこまでは行ってみよう、ということで重い足をようよう運んだ。
そこには、一つの祠が祭られていた。僕らの膝程度の高さしかないその祠はずっと雨風に晒されているのだろう、天井部分には青くコケがむしており、端々には亀裂が入っており劣化の具合が激しい。いや、そういった程度の外面的機微は大した問題ではなかったのであるが、その外壁の部分が異様だった。
幾百、幾千もお札……いや、これはおそらく「呪符」というものだろう、おどろおどろしい色で古い漢字が書き殴られた紙が、祠の周りにびっしりと貼り付けられていたのである。
「これ…やべえよ……」
不意に誰かが呟いた。その時である。ざざざ、と急に大きな音を立てて激しい風が吹き始めた。突風は木々を揺らし、先ほどまで静寂に包まれていた『そこ』は、木の葉がこすれあう激しくそして乱雑な音に一気に包まれた。その嬌声にも似た木々のさざめきはまるで叫び声のようでもあり、また僕らを歓迎する歌のようでもあり、僕らは身じろぎしつつじばらくその場を動けないでいた。
突如、ぴたり、と音を立てたかのように風が止んだ。身がすくんで動けなかった僕らも、ようやく風が止んだことで、何か封印が解けたかのように体から力が抜けた。周囲は相変わらず暗闇に包まれているが、少しだけ安堵した僕はその時祠の様子がおかしいことに気付いたのである。
祠の扉が、開いている。
いや、そもそも呪符であれだけ覆われていた祠である。扉が存在していることすら知らなかった。しかし、どうしたことだろう。突然風が吹き、そして突然止んだ今、存在を隠していた祠の扉が開いているではないか。
「おい、ちょっと懐中電灯貸せよ!」
そう言って半ばもぎ取るように懐中電灯を手にした僕は、膝を付いて祠の扉の方を窺った。他のヤツらも僕の行動の意味に気付いたようで、みんなそろそろと膝を付き、祠の中を窺おうとする。僕は少し、いや実際のところかなり嫌な予感がしたのであるが、それでも得も言われぬ何かに突き動かされるようにして懐中電灯を祠の中に照らした。
予想に反して祠の中には何も祭られておらず、中はがらんとしていた。なんだよ、という空気が流れる。
「ま、こんなもんだよな、実際は」
「この符だって、誰かがイタズラで貼ったんじゃないの?」
違いねー、と誰かがカラカラと笑ったときである。コトン、という音が祠の中から聞こえてきたのだ。束の間にほころんだ空気は、一息に緊迫した。お、おい、今の、と仲間の一人が僕に対して目で訴える。僕は、こくり、と頷くともう一度祠の中に光を当てた。
するとそこには、先ほどまでそこには確かに存在しなかった「もの」があった。平たく、長細いそれは―――僕は、かなり躊躇ったが実際に手に取って調べることにした。
それはかまぼこ板のような、古びた木板だった。なぜこんなものが?さっきまでは確かになかったはずなのに…。様々な疑問符が頭を駆け巡る。とにかく、生首なんかが出てこなくてよかった、と僕は見当外れの安心感を抱きながら立ち上がった。
「なんか、木の板があるだけだったよ。驚いて損した。ほれ」
そう言って僕はその板を仲間の方に見せつけた。なんの変哲もない板である。僕は薄笑いを浮かべながら、なんだかなあ、と呟いてメンバーの様子を窺った。
誰も、何も喋らない。いや、喋れないという雰囲気だった。
顔色は暗闇に溶け込んで見ることができなかったが、この様子は、間違いなく戦慄しているそれである。
どうして?ただの木の板じゃないか。そう思った時、僕はあることに気付いた。
僕は、片面しか見ていない。
彼らは、僕の見ていない面を見ている。
体中の筋肉が収縮していくのを感じる。そう、彼らは僕が見ていない何かを見、そして今、戦慄しているのである。僕は、丘に上げられた魚のようにパクパクと口を動かしながら、板をゆっくりと翻した。
「 六人
揃イテ
去 ネ 」
血のような顔料で、べったりと書かれていた。
ひっ、と僕は声を上げ、反射的に板を投げ捨てた。興味だけで突き動かされいた僕らの表情は完全に恐怖一色に染まり、しかしこの暗闇である、誰もがその場を動けずにいた。その時のことである。僕のポケットから携帯の振動が伝わってきた。もしや、と思い僕は急いで携帯のディスプレイを覗き込んだ。
-----
着信
千星さん
-----
僕は急いで電話に出ようとしたが、全員が過度の緊張状態にある今、あまりに興奮した様子で電話で話すのは彼らをヘタに刺激することにもなりかねず、得策ではないと思った。僕はメンバーに気付かれないようそっと携帯を取り出すと、一、二歩離れた場所で通話ボタンを押した。
「…もしもし」
僕は囁くような声で通話口に声を発する。
「…お前、まだ帰っとらんやろ」
「……」
「中、入ったんか」
「……はい」
「…いま、どこや」
「……祠が、あります」
その言葉を聞いて千星さんは、喉の奥で絞り出すような声で、ほこら、と呟いたように思う。この人なら、あるいは何か知っているかもしれない、僕は密かにそんな期待を抱いた。
「……ええか、よう聞けよ。お前は今祠の前におるんやの?」
「は、はい」
「やったら、そっから左右に道が分かれとるはずやろう。違うか?」
僕は周囲を見渡した。確かに、来た道を正面に据えて、祠からは左右に道が伸びている。
「…あります」
「よし、やったらここから間違うなよ。お前らは祠に向かって右、ええか、右やぞ。右にずっと行け。したら、何もなく林から出れるはずじゃ。来た道と、左には絶対に行くなよ。ええか、絶対ぞ」
「わ、分かりました」
そして僕は
右に行った
左に行った
来た道を戻った
(選択して下さい)
どれを読んでも薄ら寒くなって困りました。
どうしてくれるんですか、謝罪と賠償を(ry
肉欲さんのせいで自分もブログ作りたくなっちゃいますた。
怖いよぉおおぉぉ!!
カマイタチの夜と比べても優劣がつかない程、質が高い。
上の書き込みにもあるとおり、本出した方が良いですよ。
これって2949さんが全部考えてるの…?
すげいすげいよう!
貴方は一体何者なんですか
全部読めないよー
肉様責任取って付き合って!笑
「フフ…まるで乳飲み子ナリね…」がドツボでしたww
ぜんぜん分からんかった。
右側のって最後どういうこと?
教えてYO
すごいですね、この構成力。
自分が騙されやすい人間であることに改めて気付きましたw
でも四月一日のが好き
つまり、NIKUYOKUがYOUKIKUN(妖気君)てこと。
暮垣(くれがき)さんは
酒のんで気分が激軽(げきかる)になり
キクラゲみたいなコンマオ晒す
( ^ω^)<…うまくいかんな>
マジで怖いから昼間を待って全部読んだおれも天才だけどなwww
ブログってこんな風にも使えるんだな( ゚д゚)ポカーン
マジ“かまいたち”やってるみたいだったね。
“釜井達の夜”www
スゲー楽しみdeatn
これでゲーム作りたいwww
文章も上手いし、面白かったです!
もしかして、肉棒さん、小説家志望とかなのかな?四月一日も読んだし、他のも少し読んでみたのですが、文才あると思いました。
ブックマークしたので又ちょこ×2遊びに参りまーす。
又面白いの期待してますねっ(^з^)/
長いのにスラスラと読める文って本当にいいですなぁ
本当に面白かったです! ニッコリニコニコですお!!( ^ω^)(^ω^ )
本当に面白かったです! ニッコリニコニコですお!!( ^ω^)(^ω^ )
天才だね( ´∀`)
肉欲さんほんと好きです。
これからも楽しみにしてます。
びくびくしながら読んでました
でも面白かった〜
びくびくしながら読んでました
でも面白かった〜