しかし、僕にはなぜだか右に進むことがひどく躊躇われた。
霊感が云々が、という話ではない。
動物としての、本能のレベルで右に進むことを嫌悪したのである。
それに―――
(なぜ千星さんは、右が安全だと分かっていたのだろう)
そう、まさにそこなのである。あまりにも異常な状況で冷静な判断能力を失いそうではあったが、よく考えるとなぜ千星さんは右が正しいと、いや…どうしてここに祠があると知っているのだろう。
「おい、ずっとここにいる気かよ!!」
仲間の言葉に、はたと我に返った。
そうだ、このままここにいても、何らの解決にはならない。
進むにせよ、退くにせよ、どちらかは選ばなければならないのだ。
右か、左か、来た道を帰るか。
いや、来た道を引き返すといっても、来た通りに戻れるかどうかは保障できない。それどころか更に迷い込む可能性もある。
大体が、ここには祠を祭ってあるくらいだ、それでなお道が二股に分かれているということは、その先が出口である公算は非常に高いのではないだろうか?
僕は、決心した。
「左に、行こう」
その言葉を受けて、体育座りで放心していたツレの一人が顔を上げた。
「戻んねーの?」
不満たっぷり、といった口調で僕に食いかかってくる。
ムリもない、さらに知らない道を進めというのである。そこに確かな保証があるわけではない。だけど――
「お前、この道来た通りに戻れる自信あんの?」
「……」
反論はそこで立ち消え、彼らはぞろぞろと僕の進む方向に向かう。誰も、責任を背負いたくはないのだ。その点、僕の言に従っておけば、いざという時に僕だけを攻めれば済む。それに、もはや僕らには口論をする体力も尽きかけていた。
ざっざっざっ…僕らの足音だけが木霊する。誰も喋ろうとはしない。ただ、ただ無言で足を運んで行く。この道を、この道さえ抜ければ僕らは国道に出られる。何ら確信のないその思いだけをよすがに、僕らは懸命に歩き続けた。
しかし、おかしい。これまでの道には少しもなかった勾配が、徐々に生じ始めているのである。いや、それは決しておかしなことではない。というのも、元々ここの名称はN『山』林であって、N林ではない。山のような形状をしていても不思議はないだろう。
それに、山を登るということはこの先には湖はないということだ。逆に山のふもとであればこそ、湖が存在する可能性が高くなる。ということは、やはりあの時右を行っていれば…
「おい、やべえんじゃねえの、この道」
ぜえぜえと息とつきながら、誰かが口を開いた。
「いや、これでいいはずだ、山を登ってさえいれば、湖は見えな」
「だから、それがやべえっての」
「…どういうこと?」
「いいか、俺らは今、よく分かんねえけど山を頂上に登ってるらしい。それは確かだよな?」
仲間たちはその言葉に声もなく頷く。
「…ということはだな、もし上りきった時に、頂上で視界が開けた時に、眼下に湖を眺めてしまう可能性が高いんじゃねえか、ってことだよ」
僕は、あっと声を上げた。そうして千星さんの言葉を思い出す。
『歳火を見たら、発狂する』
そうなのだ。千星さんは何も湖に近づくな、と言っているわけではなかったのだ。あくまで『歳火を見るな』。そのために湖に近づくな、というだけのことであったのだ。僕はそのことを完全に失念していた。
「ヤバい…のか?」
誰かが不安気な声を上げる。ヤバいのか、ヤバくないのか。それは分からない。誰にも。
「クソッ…もう歩きたくねえよ…いい加減疲れた」
そう言って次々と腰を下ろし始める。正直言って、僕自身ももう限界だった。僕は腰をへなへなと地面につき、懐中電灯を乱雑に投げ出した。光がデタラメな方向に乱舞する。刹那に光は木を照らし葉を照らし地面を照らし、建物を照らす。
(建物…?)
そう、それは一瞬のことではあったが、確かに僕の網膜に建物のイメージが焼きついた瞬間があった。僕は慌てて懐中電灯を拾い上げると、建物を見たと思しき方向に向かって懐中電灯を照らし出す。
それは、あの祠をそのまま大きくしたような建物だった。どっしりとした石造りで、まるで……そう、あれはアンコールワットの遺跡によく似ている。
(それにしても、こんなところにどうして)
気付けば、仲間も僕のところに寄ってしげしげとその建物を眺めていた。不気味なのだけれど、不思議と嫌な感じはしない。僕らは示し合わすともなしにその建物の方に歩いて行った。
もしや、とも考えたが建物には祠と違い呪符が貼っていなかった。つるり、とした不思議な材質の石で、コケの一つもむしていない。それにしてもどうしてこんなところにこのような建物があるのだろうか。
「おい、こっちに入り口みたいなのがあるぞ」
そんな声が聞こえたので、僕はそちらに向かって歩みを進める。見ると、確かにそこだけ木枠で出来た扉が存在していた。
「入れる…のか?」
ツレの一人がコンコンとドアを叩いて、扉の感じを調べているようだ。もしこれが神社などであれば、中に祭られているのは神、ということになろうが、見たところ司祭的な様相はどこにも見当たらなかった。
「引き戸か…」
そう言って扉に手をかけると、するりと扉は開いた。さすがにカビくさい臭いが鼻につく。もう何年も開けられていないのだろう。当然の如く電気は通っていないのだけれど、どうしたことだろう、壁全体がぼんやりと光っているようにも見える。夜目に馴れてきただけなのだろうか。
開けてはみたものの、さすがに中に踏み入ることは躊躇われた。大体が、どうしてこんな建物がここにあるのかも分かっていないのである。これだって、言ってみれば歳火に関係した何かなのかもしれない。というか、その可能性の方がずっと高いのだ。とは言えこれ以上進んでも逆に湖を見てしまうかもしれないこと、既に疲労がピークであることを考えると、ここでしばらく休んでいくことが望ましいのも明らかだった。
「……もーいいよ、発狂してもなんでも。俺はここで休むぞ…」
と言って建物の中にバッタリと倒れこむツレ。火照った体には石畳がひんやりと気持ちいいらしく、倒れこんだ彼は、ああー、と気持ち良さそうな声を上げた。
それを受けて残った僕らも続々と建物に足を踏み入れていく。窓の一つもない建物だった。僕は一番最後に建物に入ると、扉を元の通り閉めた。
「おーい、ちょっと懐中電灯貸してくれよ」
奥から声が聞こえた。意外とこの建物は広いらしい。
「どうした?」
僕は懐中電灯を手渡しながらツレに声を掛けた。するとツレは懐中電灯を受け取ると、黙って壁の一部を光で照らす。そこには、石で出来た壁の中、1m四方くらいの大きさで木の板が嵌めこまれていたのである。
「なんか、手触りがおかしくてな。それで照らしてみたら、これだよ」
「なんだろうね、これ」
僕は不思議な既視感に囚われた。これは、そう、どこかで見たことがある。
この木の感じといい、色といい、これはどこかで…。
「あ…」
そうだった。あの祠で見た木と、大きさこそ違えどよく似ているのだ。気付くと、呼ぶともなしに他のメンバーも木の周りに集まっている。僕らは更に注意深く木を見つめた。
「…おい、ここ……」
「ん……?」
「なんか、書いてあるぞ?」
それは、書いてあるというよりも、何かが『掘り込まれている』状態だった。多少読み取りづらいが、どうやら日本語のようだった。
「ホントだな。小さい字だけど…読みづれえな、これ」
「ちょっと懐中電灯貸せよ、俺が読む」
『幽界ノ 幽ハ 腹スカス
幽界ニ 贄ハ 見当タラズ
ケレドモ 現世ハ 耐エ難ク
存在 デキヌト 幽嘆ク
其レデモ 幽ハ 腹スカス
死人ヲ 遣イテ 人ヲヨブ
呼バレタ 人ハ 魂抜カレ
憐レ 現世ニ 暇告グ』
僕は声に出して読み上げた。
「かくりょのゆうは はらすかす」
「かくりょに にえは みあたらず」
「けれども うつよは たえがたく」
「そんざいできぬと ゆうなげう」
「それでも ゆうは はらすかす」
「しにんをつかいて ひとをよぶ」
「よばれたひとは こんぬかれ」
「あわれうつつに いとまつぐ」
「なんだこれ?」
一同はこの奇妙な記述を読んで一様に首をかしげた。
「そういえばさあ、あんまり考えなかったけどさ、さっきの祠がもし歳火と関係あるんなら、むしろ俺たちを湖の方に呼んだんじゃねえの?なんかそういうのと関係ありそうだな、これ」
それはもっともな意見だった。もし、歳火が僕らをまどわせようとするのであり、あの祠が歳火と関係した何かであるのなら、あそこで『去れ』とは言わないだろう。ということは、やはりあれは僕らを助けようとする存在だったのだろうか。それにしても…
「かくりょの…うつよ…」
ツレの一人が何やらブツブツと呟いている。
「にしてもさあ、これが歳火に関係あるんだとしても、一つも歳火の字が出てこないのっておかしくねえ?ちょっとくらい触れるだろ、普通」
それもそうだった。確かにここには『幽界』や『現世』という言葉は出ているものの、歳火に関する記述は一切ない。やはりこれが歳火と関係しているというのは、想像力を働かせすぎというものだろうか。
「確かに、どこにもないよなあ」
「……いや、書いてるよ」
そう言い切ったのは、先ほどからブツブツと何事か呟いていたツレだった。
「どういうこと?どこにも書いてないじゃん」
「いや、書いてるんだ…違うな、そうじゃない。元々最初から歳火なんてものは存在しないんじゃないか、と言った方が正しいのかもしれない」
僕らは彼の言葉に首をかしげた。歳火が元々存在しない?一体それはどういう意味なんだろうか。
「何度もね、この詞を読んでいたら気付いたんだ。どうも、引っ掛かる部分があるって…それは、ここ」
そう言って彼は『死人』の部分に指を指した。
「しにん?死人がどうかしたってのか」
「いや、そうじゃないんだ、死人じゃなくて、いや、ああ、死人なんだけど…これ、別の読み方もできるよね?例えば、そう、【しびと】ってね」
確かにその通りだった。当たり前のように僕は死人を「しにん」と読んでいたけれど、確かに「しびと」とも読めるものである。
「ああ、確かにな。けど、それがどうしたんだ」
「でね、僕は【しびと】って読んだ時に、何か違和感というか…まあ、そこまでハッキリとしたもんじゃないけど、どうにも喉に小骨が引っ掛かるような何かを感じたんだよ。しびと、どうもこの文字を既に何度も聞いているような、そんな違和感を」
彼が何を言いたいのか、僕は話の先が少しも見えなかったが、彼は構わず続けた。
「それで、ずっと考えたてたんだ。君が話してくれた元々のN山林にまつわる話があったよね。その時のキーワード…幽界と現世、それがハッキリとここに書かれているのに、それに対応する【歳火】がどこにも書かれていない。これはどう考えてもおかしい。偶然、と片付けるのも不自然すぎる」
なるほど、むべなるかな、である。それにしても普段は無口な彼がここまで雄弁に語るとは、人は見かけによらないというものだろう。
「するとここで浮くのはね、【しびと】だけなんだよ。それで考えたら、すぐに分かった。まあ、【しにん】だと考えてる時は気付きもしなかったんだけど…」
「なんだよ、何が分かったってんだよ」
僕は持って回ったような言い方をする彼の言葉に苛立ちながら、話の続きを求めた。
彼は、こほん、と一つ咳払いをすると、重々しく口を開いた。
「【しびと】、この言葉を入れ替えてみたら、【としび】になるんじゃないの?「しびと」と、「としび」…「死人」と「歳火」…」
僕らは思わず息を飲んだ。
「…おそらく、なんだけど、キミにその話をした人は何らかの意図を持って【しびと】の存在を隠したかったんじゃないかな。大体が「死人」だなんて、噂レベルの話にしてもあんまりにも生々しいからね。それよりも、あまり聞きなれない言葉の方が都市伝説的で、僕らも興味を惹かれる。そういう狙いがあったのかもしれない」
そう言われてみると、そうであるような気もする。
それにしても、どうして…。
「そして問題は、どうしてその話をした人が」
ピリリリリ
突然、空間にけたたましい携帯の着信音が鳴り響いた。
おかしい、先ほど僕はマナーモードに切り替えたはずである。
いつの間にか解除されたのだろうか?
僕はポケットから携帯を取り出そうとした。
「……ちょっと待てよ。どうしてお前の携帯が鳴ってんだよ!」
ツレの一人が叫ぶように大声を上げた。どうして?なぜこいつは「どうして」などと言っているのだろう。携帯は鳴るもんじゃないか、と思った瞬間、僕は血の気が引いた。
この山林に入ってから、僕以外の誰も、携帯が鳴っていない。僕は、偶然の出来事かと持ていたけれど、それは偶然なんかではなく、いや、鳴っていなかったのではなく、鳴ることが有り得なかったのではないか?
「もしかして……」
「最初っから、ここの山林に入ってから、ずっと圏外だったじゃねえかよ!!!」
もう一度叫ぶような声を上げたと同時に、携帯は留守番電話に切り替わった。
しん、と静まり返る室内。機械の音声が、主の留守を告げている
『…ニナッタ電話ハ、電話ニデラレマセン。ピーットイウ発信音ノ後ニ、メッセージヲ入レテ下サイ』
「……千星やけど。帰りがおそいから、電話しました。もしかして、道に迷うたん?もしかして、左の方に進んだ?それやったら非常にまずいわ。すぐに引き返した方がええよ。そっちに行ってしもうたら、とんでもないことになるから。引き返して、右の方に進まんといけんよ」
ねっとりと絡みつくような声が、スピーカーから漏れ出している。さっきまでは頼りにしていたはずの声なのに、どうしてだろう、今は遠く、もはやこの世のものではないようにも感じられる。どうしてだろう、それは彼の言葉に従わなかった罪悪感からなのだろうか。
「……おい、この人の名前、何ていうんだ……?」
「え……千星だよ。千の星って書いて、【ちぼし】」
「ちぼし……」
「なあ、それが何か関係あんの」
「チボシ…チシボ…いや、違う……」
彼は再び何かをブツブツと呟き始めた。何か思いついたのだろうか。
すると今度はメールが届いた。案の定千星さんからであった。
差出人 千星さん
本文 ええか、右やで、右に行くんやで。間違っても変な建物に入ったらいけんよ。
「……どうしたの?」
「いや、千星さんからメールが」
「ちょっと見せて!」
というと、彼はひったくるように僕の携帯を取り上げた。
「これ……」
彼は画面を見たままワナワナと震えているようだった。時折、そうか、そうだったのか、と呟いている。どうしたのだろうか、あの文章に殊更不思議な点はなかったようにも思えるのだけれど。
「どうした?なんか気になる文章だったの?それとも圏外だからって驚いてんの?もうそれは今更驚かなくても」
「違う!文章じゃない。アドレスが…」
アドレス…?そう言って僕は差出人のアドレスに目を落とした。
From:tiboshi@xxx.ne.jp
「…これが、どうにかしたの?」
「……アナグラムだよ。いいか、お前はおかしいと思わないのかそのアドレス?」
「え?どういうことだよ」
「お前、小学校でローマ字習っただろう」
急に何の話をし始めるのだろう、と僕が不思議な顔をしていると、彼は構わず話を続けた。
「いいか、お前、ローマ字の「ち」は何て習った?chiだろうが。それなのに、この人は何でtiboshiにしている?普通ならchiboshiのはずだ」
「いや、まあそうかもしんないけどさ、でも単純に登録が重複してただけかもしれないじゃん」
「確かにそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ハッキリ言って僕だって普段ならそんなこと気にしないよ。けどね、彼はtiboshiじゃないとダメだったんだ。Tiboshiじゃないといけない理由があったんだよ。いや、というより千星という人は、どこにも存在しない。そして存在しないからこそ、その名前を名乗る必要があったんだ。彼の本当の姿を隠すために、だ」
僕は彼が何を言っているのかサッパリ理解できなかった。けれども、彼が何か確信を得ていることは、僕にも伝わってきた。
「だから、どういうことなんだよ。分かりやすく説明してくれよ!」
「だから、アナグラムなんだよ!いいか、tiboshi、これを並び替えるんだ。したらどうなる?さっきの死人と歳火と同じ話だよ。今回はアルファベットだけどね。ここから、出て来るんだよ、死人も、歳火も!」
「どういうことだよ?」
「死人は、いいかい、shibitoだ。そして歳火はtoshibi。分かるだろ?ここで使われてるアルファベットは全部同じなんだよ!」
「あ・・あ・・・・」
「死人も、歳火も、そして、千星も……全部、全部同じ、一つのものだったんだよ!そう考えれば、君にN山林の話をしたのも合点が行く。大体が最初からおかしいといえばおかしかった。この人が『湖が危ない』だなんていわなければ僕らは湖に向かわなかったわけだし。注意を促すなら、むしろ具体的な情報は与えないはずだろう?それなのに、この人は僕らを意図的に湖にリードするような発言をした。なぜか?それはこの人が」
「千星さんが、歳火で、死人だから、なのか…」
僕は彼の言葉を遮って、言葉を繋いだ。
『其レデモ 幽ハ 腹スカス
死人ヲ 遣イテ 人ヲヨブ
呼バレタ 人ハ 魂抜カレ
憐レ 現世ニ 暇告グ』
「だから、俺らを…」
「おい、あっちの方、何か光ってんぞ!」
言葉に、僕らは窓に駆け寄る。
林の奥、遥か彼方の方角…確かに、その一部が薄ぼんやりと光っている。
ピリリリリリ
三度、携帯がけたたましく鳴り響いた。
僕は画面を開く。
着信:千星さん
僕は、そっと通話ボタンを押した。
「なあ、何しとるん?自分、どこおるん?なして右行かんかったん?俺、怒られるやん。幽さんに怒られるやん。あの人ら、腹減ってんねんで?どうして、言う通りにしテお前らはこなかったんだって聞いてるんだよおおおおおおオオオおおおおおオォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1111111111!!!!!!!!!!!!」
その叫び声はスピーカー越しでありながらすぐ傍にいるかの如き絶叫であった。ビリビリと入り口の窓が揺れる。窓の外を見ると、光はひときわ大きくなり、まるで洪水のように林からあふれ出そうとしていた。
その瞬間のことであった。天井から、その入り口をすっぽりと覆い隠すような木の板が落ちてきたのである。
どすん、と音を立てて入り口を塞ぐ。僕らは寸でのところでそれをよけた。
「危ねえ…大丈夫か?!みんな」
僕はきょろきょろと見渡したが、怪我をしている者はいなかった。僕はやれやれ、といった感じで息をつくと、一体何が落ちてきたのか、と入り口の方を電灯で照らした。
『決シテ 幽光 見ルベカラズ』
そこには、やはり小さい文字でそう書かれているのだった。
そして朝を迎えた僕らは、そっと板に手をかけると板はすんなりと外れ、入り口はまた元のように姿を現した。僕らはがらりと扉を開ける。鮮烈な空気が肺を満たす。朝日があんまり眩しくて、僕は思わず目を瞑った。
「さて、と。こんだけ明るけりゃ、もう大丈夫だろ」
「そうだな、早く家に帰りたいわ……」
僕らは思い思いのことを口にしながら、建物を後にした。
「まあ何にせよ、こいつに助けられたのかな…」
「かもな…」
結局、この建物は何だったのだろう?幽界と仇をなす存在だったのだろうか?だからこそこうして迷い込んだ人間を助けて…。
ダメだ。寝不足の頭では何も考えられそうにない。考えるのはあとにしよう。今はゆっくり休んで…
「おい!こっちに国道があるぞ!」
「マジか?!」
「つーか、すぐ裏手じゃん…」
「全く気付かなかったよな」
そう、僕らが夜を共にした建物のすぐ裏手、そこが国道だったのである。
それにしてもいくら疲れていたからといってこんな近くにある道を見逃すだなんて…まあいい、ともかくも今は無事に帰れる喜びを味わおう。
「にしても、車はどこにあんのかな…」
「しゃーねーだろ、とりあえずは街に戻るしか…ん?」
「どうした?」
「あれ、人じゃねえか?」
そう言って指差した方向には、確かに人らしき影があった。
ふらふらと、こちらに向かって歩いて来ているようだ。
「そうだよ、人だよ!助かったな、どっか道教えてもらうべ!」
そう言って僕らはおーいおーいとその人に向かって叫んだ。
その人はふらふらと、ふらふらと僕らの方に向かってくる。
ふらり、ふらり。
一歩一歩、踏みしめるように。
そしてついに近くに来たとき、その人に話しかけようとした。
「あの、すいませ……」
その人の目には、既に尋常な人間の持つ光は失われていた。フヒ、フヒヒヒヒと小さな笑い声を上げ、だらりと涎をたらしながら僕らのことなどまるで認識していない様子で、そのままふらり、ふらりと歩いていった。
「…なんだ、あれ」
「まあ、季節の変わり目だからな」
「そういうもんか…でも道分かんねーよ、これじゃあ」
「あれ、また人来たんじゃね?」
「うっそ、どこ?」
「あれ。…あれ?なんか一人じゃないかも」
「うん?」
そうして見上げた視線の先、坂の上からは……一人、二人、三人四人…道に一杯の人影があらわれ、ふらり、ふらりとゆっくりとした足取りで、こちらに、ふらり、と向かってきているのであった。
(END NO.3)
こわいいいいい
教えてYo!!!!!!!11111!!!!!
まじ恐い
1人で寝られない
おもしろい!
歳火見た人たち?
こえぇ
会社にいるのに寒くて仕方ない・・・
誰かエアコン切ってよ・・・
あ、ちなみにコメントは初めてです