肉欲企画。

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1983年10月15日

歳火 ver.2



その言葉を聞いて僕は携帯を切った。ほんの短いやり取りではあったが、幾分恐怖もやわらいだし、何より帰路への光明が見えた。僕は早速仲間を促すと、右に向かって懐中電灯を照らして歩き始めた。

「…おい、来た道じゃなくていいのかよ。こっちであってんのかよ」

仲間の一人が不安そうな声を上げる。僕は黙って、大丈夫だ、と呟くとそのままずんずんと歩き始めた。確かにこちらの道は、先ほどまでのそれと比べると幾分踏みしめられたような後があり、獣道のような風情が漂っている。それほど足を取られることもなくスムーズに歩くことができた。

けれど道の雰囲気はそれとは反対にどんどんと暗いものになっていく。それもそのはずで、どうも先ほどよりも木の量が増えたように思う。これまでもうっそうとした雰囲気ではあったが、今首を上げると先ほどまでは僅かばかり見えていた空すらも、もう見えなくなっていた。それほどまでに木の量が増えている。

僕らは黙って歩き続ける。誰も声を発する者はいない。
そうしてそのまま20分ほど歩き続けた頃だった。
ついに仲間の一人がしびれを切らし声を上げた。

「おい!いい加減にしろよ!どこにも出ねえじゃねえか!」

「知らねえよ!俺だってこっちって聞いたから歩いてんだよ」

「聞いたっておま」

「あっ、おい!あっち、視界が開けてんじゃねえの?!」

罵倒の言葉は遮られ、僕らは示された方向を見た。そう、確かに声の通りに木々が開け、これまでの視界とは様子を異にしているような場所が目に見える。

「やった!やっぱこっちでよかったんだな!」
「さっさと抜けようぜ!道路に出ればなんとかなるだろ!」

そういって次々と駆け出していく。僕も内心不安だったから、安堵の息を漏らしながらそれに続いた。と、その時である。僕はさっきまで口論していたヤツに、腕をグッと掴まれた。

「おまえ、聞いたって、それ、誰から聞いたんだよ」
「いや、知り合いから…」
「その知り合いは、なんで祠からの道順を知ってたんだ…?」
「え?そりゃあ、黙ってたけどさっき携帯で聞いたんだよ…」

そういうと彼は凍りついたように口を閉じた。どうしたというのだろう、僕が黙っていたことを怒っているのだろうか。

「お前、怒ってんの?そりゃあ説明もせずにスタスタ歩かせた俺も悪かったけど、こうやって無事に出れたから良かったじゃ」

「……い」

「は?」

彼は唇をわなわなと震わせながら、こう呟いた。

「・・・がい・・・この、林・・・ずっと・・・・圏外・・・・・・」

僕は一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかった。圏外?そんな馬鹿な話があるはずない。僕はポケットから慌てて携帯電話を取り出すと、画面を開いて電波の状態を確認した。

圏外

うわあああああああああああああ!!!
不意の叫び声が森を切り裂く。
僕らは、その刹那に恐怖を忘れ、弾かれたように駆け出した。
もつれる足を懸命に持ち上げる。わずかに開けたその場所に向かって、僕らは全力で走った。

がさっ、という音とともに、僕らは林を抜けた。そこには仲間の4人が、腰を抜かしてへたり込んでいる。どうした、と声をかけようとしたが、よく見ると彼らは一様にぶるぶると震える腕で何かを指し示していた。僕は顔を上げてその方向を見る。

視線の先には―――


湖があった―――



――エピローグ

『超常現象?!大学生六人集団失踪の怪』

先日、Y県A市のM××大学に通う大学生6人が集団で消え去った。
目撃証言によると、失踪の当日、その6人は大学構内で集まっていることが確認された。
彼らの近くで話を聞いていた知人は、彼らがN山林に向かうことを計画していたようだった、と話してくれた。
警察はその証言を受けN山林周辺を捜索、山林の外でメンバーの一人が運転していたと思しき車が発見され、彼らがN山林に踏み入ったことは確かなものと思われる。
しかし、捜査員は数十名規模で山林に分け入ったのであるがついに彼ら6人が見つかることはなかった。事件から既に一ヶ月、以前大学生の足取りは掴めぬまま捜査は続いている。

「うん、これでいいんじゃねえのかな。印刷所に回しとけ」

原稿から目を上げ、男はタバコを乱暴に揉み消した。この手のネタは三流ゴシップ誌である彼の雑誌が得意とするところである。

それにしても…と彼は考える。大学生が6人も集団でいなくなるか?普通。海沿いで拉致された、とかならまだ考えられるし、あるいは金銭のトラブルで山に埋められた、というのも、まああり得るだろう。
しかし、当日までの彼らにはなんら事件の匂いはない。いや、噂を聞くに、どちらかといえば模範的な学生たちだったようだ。それなのに、前後の文脈なくして彼らは突然に姿を消しているのである。そう、まさに煙のように。これは一体どうしたことなのだろう。

そういえば、と彼は思った。先日、ある情報筋から聞いた話だ。
確かに彼らの姿は見つからなかったのだが、唯一、その内の一人の持ち物と思しき携帯電話が見つかったというのだ。
携帯電話自体には、事件前後に一緒にいたと思しき知人との連絡を取った形跡しかなかったそうで、これという手がかりはなかったらしいのだが、その中に一つ、奇妙なメールが残っていたというのだ。
それは着信したメールでもなければ、送信したメールでもなく、作成途中のメールだったという。

「いや、それがね、まったく意味をなしてないメールでしたからね、少しばかり気になっちゃいましてね」

そういって男は、調べてきた(作成途中の)メール本文を俺に見せてきたのである。

そこにはアルファベットで、こう書かれていた。

Tiboshi
Toshibi

Shibito

「なんのこった、これは」
「そうなんですよー。全く意味が分からなくって」

俺は何のことかさっぱりわからないメモを手にし、ボリボリと頭をかきながら

「じゃ、ま、これは一応頂いておくよ」

と男に声を掛けて、その場は別れたのである。

そのメモを片手に、もう一度それを声に出して読んでみる。

チボシ、トシビ、シビト…

「なんのこっちゃ」

相変わらず体をなさないメモを机の奥に押し込むと、俺は再び校了の作業に取り掛かった。


春…新入生がまたこの地に訪れる。
彼は、間取りや立地からすれば格段に安い物件を見つけることができた。
それにしても安い。相場からすれば、実に半値ほどである。
彼は訝しがって、不動産に強く問いただした。
すると不動産屋はついに諦めたように、彼に対して真実を教えてくれた。

「いやね、何年か前にこのあたりで失踪事件があったんですけどね、実は以前ここに住んでいた人ってのが、その時失踪した人なんですよ」

なんだ、そんなことか。馬鹿らしい。そんな理由で安くなるんだったら、むしろ願ったり叶ったりである。

「ああ、いいですよ。僕、そういうの全然平気ですから」

そうですか、と若い不動産屋の社員は顔をほころばせた。

「で、一応住む上で聞いておきたいんですが、僕の隣に住んでる人ってのは…」

「ああ、アナタが住む部屋は角部屋ですから」

「え、でも一軒は隣に部屋があるはずですよね?」

「そこなんですけど、なんか昔からずっと借り手がおりませんで。まあ、やはり角部屋の方が人気がありますからね。基本的にはあなたのように角部屋を勧めてるんですよ」

ふーん、そういうもんか、と思いながら、でも隣に住んでる人がいないのなら気兼ねしなくていいな、と思った。不動産屋の車が街を走っていく。窓から吹いてくる爽やかな春の風が、彼の鼻をくすぐった。


(END NO.1)
posted by 肉欲さん at 00:00 | Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 このエントリーを含むはてなブックマーク
この記事へのコメント
怖かったです・・・

ふたつめ、みっつめは、怖くて開けられません・・・いつかまた、酔った勢いとかで開こうかと思います。私、下戸です。

今はやりの、ダ・ヴィンチ・コードですね。いやはや、さすが。
いつもわくわくしながら読ませてもらってます。これからも楽しんで書いていってくださいね。
Posted by 酢 at 2006年06月30日 00:22
・・・・。

お風呂に入る前に読んだので、お風呂に入るのが恐くなりました・・・。

2つめ、3つめはまた今度、まだ日が明るい時に読もうと思います・・・。
Posted by ヱリコ at 2006年06月30日 00:44
ていうか、みんないなくなったのに、僕という一人称はどうしてこの話をみんなにきかせることができるの。
僕があたらしいチボシになったの。
Posted by 着信 千星さん at 2006年06月30日 08:33
バカ正直に信用して右に曲がった自分はやっぱり負け組でした…
Posted by ひぽ at 2006年06月30日 11:54

ぞくっときますね。
Posted by まぢかな中島 at 2006年06月30日 12:07
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