
(昨日の話に関して一部鋭い読者の方々から「あれ?九代目コロスケはどこにいったの?」とのご指摘を受けましたが、そう、お分かりの通りあれは今日の更新に向けての複線。いやホントですよー、忘れてたとかそういうのないから。ホントないからね。なんだよそんな目で見るなよ!というわけで思いつきのままにこれから展開する前回のサイドストーリーをお楽しみ下さい)
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九代目コロスケは、ものの弾みで電源が起動した。
開けていく視界。暗く狭い部屋だ。
(ココは…どこナリか?)
湿っぽい。もう何年も換気していないのだろう、じっとりとした空気がコロスケの体にまとわりつく。
(ひどく不快ナリ…出るナリ)
コロスケは丸っこい手でかすかな光が漏れている扉を開けた。
ガラリ。一息に光が目に差し込んでくる。ひどく眩しい。
(うわあ…眩しいナリぃ……)
突然の光に視界が白く霞んだ。
1分ほど経っただろうか、ようやく光に慣れたコロスケは両の腕で眼をゴシゴシとこすって部屋を見渡した。眼前、すぐそばに何かが転がっている。
(なんナリかこれは……)
見落とす先、視線の傍には、千々に散った鉄屑。
橙と肌色、赤に黒。
見覚えのある原色が並ぶ。
既視感、と片付けるにはあまりにもおぞましい烈情が不意にコロスケを襲った。これは、そう…
(……我輩、ナリか?)
ご存知の通り、コロスケの目の前に広がっている鉄屑――先立ってキテレツの恣意で爆破された物体――は、七代目コロスケである。自分は確かにここにいる。しかし死骸もここにある。果たして自分は生きているのか、死んでいるのか、そもそも自分は何者なのか。
混乱が彼を包んだ。
生きながらにして死体をその知覚に感じたコロスケ。
死と生と、その彼我がグラリと失われた。
(我輩は……一体……)
気付くとコロスケはパリにいた。
パリジェンヌと語らうひと時は、彼のささくれだった心を癒していく。
昼下がりのカフェテラス、コロスケはディンブラのアイスティーを片手に友人のレイモンドと語らっていた。
「一つ聞きたいのだがコロスケくん、ああ、気を悪くしたら申し訳ないのだが……ハッキリ言って君はどの人種にも見えるし、あるいはどの人種にも見えない。それにしてもいや、不思議な雰囲気だ……コロスケ、君は一体何者なんだい?」
コロスケはその言葉を聞きながら、一口だけ目の前のグラスの中身を口にする。華やかな香りが口腔から鼻腔を貫き、パリの色彩を一層際立たせた。
(なにものか、ナリか……)
コロスケは浅く笑ってレイモンドに穏やかな視線を投げかけた。
「ジュヌ・コンプラン・パ」(分かりませんよ)
レイモンドは欧米人らしいオーバーなジェスチャーで、やれやれ、というニュアンスをコロスケに伝えてきたが、彼はそれほど野暮な性格じゃない。話はそれぎり打ち切られ、僕らは再び会話をしたり、かと思えばお互い押し黙って思い思いの時間をすごしたり、と寄せては返す波のような気まぐれな時間を過ごした。
(ここでは、自分が何者なのかなんて気にしなくていいんだ)
(僕はここで、あたらしい命を生きよう)
【臨時ニュースです。先ほど、W杯が開催されていた南アフリカで核爆弾が爆発し、南アフリカは壊滅的な状況となっております】
「モンデュー……なんてひどい事を」
【犯行の手口は四年前に起きたドイツでの核爆破事件と酷似しており、長年事件の解明に取り組んでいた国連は、ここ数日の各国空港からの情報提供などから本件犯行は日本在住『エイイチ・キテ』の犯罪だと断定、同氏を国際指名手配しました】
「キテレツ?!」
「おいコロスケ、君は何か知っているのかい?」
慟哭――戦慄が走った。長年、記憶の片隅にも蘇らなかった、いや封じ込めていたというべきだろうか、とにかくもその古ぼけた名前と今、パリの街で再び出会った。
それも、最悪の形で。
「キテレツ……まさか……そんな」
【なおエイイチ・キテは当局が全力で追跡しており、彼の実家は既に壊滅、彼自身も最早何一つの破壊道具を持ち合わせていない、との情報が入っております】
「おいコロスケ、ちゃんと答えたまえ。返答次第では、僕もあるいは……」
レイモンドの職業は警察官だ。眼に職業意識が色となって染まっていく。言うべきか、言わざるべきか――いや、覚悟を決めるべきか、決めざるべきか、と言い換えた方が適切かもしれない。
「僕を、いや我輩を……作ってくれた人、ナリ」
「……どういうことだ?」
「我輩は、ロボットとして作られたナリ」
「君がロボット?バカな!どこからどう見ても人間じゃないか!」
「これを見るナリ」
そう言ってコロスケは胸に備え付けられたコントロールパネルを開いた。
「こんな…ずっと気付かなかった……」
「そういうことナリ。だから、キテレツのことは知りすぎるほど知っているナリ」
そう言ってコロスケは木づくりの椅子からこともなげに腰を上げた。
「コロスケ、どこに行くんだ!」
「帰る場所を、思い出したナリ」
「日本?バカな!キミまで捕まって壊されるのがオチだ!何も言わなければ何も露見することはない!いいか、キミはここにいろ、ここにいるのが一番なんだ!」
「産みの親でも、彼はもう、犯罪者なんだ!救いがたい犯罪者なんだぞ!」
いい友だ、と思う。心から、そう思う。
「我輩も、そうした方がいいと思うナリ」
「だろう?だったら――」
「……ナリ」
「え?」
コロスケの言葉は宙に飛び風に舞い、パリの空に消えた。
「ま、待つんだ!」
そしてコロスケの姿も、また。
日本へと向かう機上の人となったコロスケは、一人想った。
『―――コロスケ、キミは一体何者なんだい?』
(レイモンド、僕は)
『―――彼はもう、犯罪者なんだ!救いがたい犯罪者なんだぞ!』
(たとえ犯罪者でも、彼に仕え、そして彼に死ななければならないんだ)
『―――待つんだ!』
(最後のコロスケとして、そして……)
「...cuseme?」
顔を上げると空港の職員がコロスケの入国カードになにやら物申していた。
目をやると、occupation(職業)の欄が空白になっている。
コロスケはペンをつかむと、一瞬だけ悩んで、そしてすぐにこう書いた。
「SAMURAI」
(そして、侍として)
【another story -end】
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肉欲企画はサッカーW杯を応援しています。

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テラワロタwww
棒さんのジャパニメーションに対する愛ってすごおい。
やっぱり笑わずには読まれない!!
そしてラスト(っていうかオチ
が最高!