その脅威は宇宙の片隅、名も無い一つの星からやって来た。
総体は一つ一つの微細な細菌で構成され、しかし全体としては統一した意思で行動する。驚異的な数の細菌は、人々を次々に殺していった。
人々は恐怖に怯えた。蒙古襲来、WW2、ベトナム戦争……有史以来、国家間での戦争は数限りなく経験してきた。人類はしかし、地球外からの侵略に対する方策には呆れるほど無知蒙昧だったからだ。
各国は連合してその脅威に立ち向かった。『世界をひとつに』、そんなうそ寒いスローガンは、人類が脅威に晒されて初めて達成されたというのだから全く皮肉な話である。とにかくも大国アメリカが先頭に立ち某年某日、当該巨大微生物群への攻撃は開始された。
江戸時代、黒船が日本に突如姿を現した時。日本の侍たちはその未曾有の存在に恐怖し、射程距離を遥か遠くに位置する『それ』に向かって延々と大砲を撃ち続けたという話がある。届くはずもない攻撃を、我々は最早攻撃とは認識しない。けれども侍は、打ち続けるより他に術はない。その行為は虹の始まりを探すことより儚く、無為だったといえる。
歴史を何度かまたぎ、かつて江戸で繰り広げられたものと同性質の無為がアリゾナの空で展開された。アメリカ合衆国主力戦闘機F-15、イーグルと呼ばれる戦闘機は轟音の群鳥となり対象を補足した。何百発何千発ものミサイルがアリゾナの大空を赤く黒く染めていく。その爆薬量は、日本の国土から九州をゆうに削り取れるだけはあった。
総体としては一つの固体に見える『それ』は、つまるところ億兆おびただしい数の細菌で構成された集合体なのである。爆撃に総体は一瞬霧散はするのだけれど、次の瞬間には再び集い結び総体に戻る。物理的な接触が全く意味をなさない。柳の葉を拳でなぎ倒すのが不可能であることは自明であるのと同じ次元の話だ。
それでも。彼らは撃ち続けなければならない。サハラに一粒だけ落とされた真珠を探すことより絶望的な状況だと認識していてもなお、彼らには爆撃を続ける他すべきことは存在しない。遠い昔、江戸の侍が恐怖に叫びながら大砲を撃ち続けたように。いくつもの時間を経て、侍を担う役割がアメリカの番になったというのは、これもまた皮肉な話である。
作戦はことごとく失敗に終わり、各国首脳は絶望に沈んだ。人類最後の日は少しずつそして確実に足音を大きくしながら近付いてきている。死ぬ時は一人、古い昔に誰かが言ったその言葉は実地にて否定されようとしている。「アレ」が、遠くない未来において人類を一息に終息させるだろうことは誰の目にも明らかだった。
人類は突然の光明を見る。一人の老人が決戦兵器としてのホムンクルスを産み出した。ホムンクルスとは錬金術師の業であり、キリスト教では人間が創造主である神、ヤーヴェの領域に足を踏み入れているとして恐れられている技術だ。空想の対岸にしか位置していなかったその技術が、人類未曾有の危難に際して奇跡的な成功を遂げたのである。
例の総体をうち倒すためだけに産み出されたそのホムンクルス(仮にAと名づける)は、理性と言葉を持った。独立して思考し、個体として行動する。つまるところ人外の容貌を差し引いてしまえば、およそ人間と同値の存在なのであった。
Aの誕生に人々は沸いた。絶望に彩られた世界と人々の表情を、生存への可能性がまばゆい光となり明るく照らし出す。Aは人々から寄せられる期待を『理解』した。それ以上に彼は例の総体を破壊するためだけに生み出されたことも十分に理解していた。彼は誕生して間もない頃から盲目的に戦闘へ飛び出して行った。
幾度もの交戦を繰り返した頃、驚いたことに例の総体(ここではBとする)にも知性が備わっていることにAは気付いた。Aの攻撃が少しずつBを削り取っていく最中、AはBに声を聞くことになる。
やめてくれ
おまえたちはどうしておれにかかわる
動揺した。もし対象が絶対的な悪ならば攻撃することには塵ほどの躊躇も覚えないだろう。しかしAは、その対話とも取れない一瞬のやり取りでBの真意が理解できた。理屈はつけ難いが、同じ人外の者として通じるものがあったのかもしれない。
Bが地球にやって来たのは全くの偶然だった。母星が消滅し、長い時間をかけ宇宙空間を流れ流れて辿り着いたのが結果として地球だったに過ぎない。Bに地球上の生命体を阻害する意思は微塵となかった。ただ、悪いことにBは存在するだけで人類にとっての害悪となった。Bは静かに暮らすことのみを望んだ。ちっぽけな平穏、取るに足らない些細な願いではある。幸せというのは真に相対的なもので、世の中には億の富を手に入れても不幸と感じる人もいれば、コップ一杯の水だけでこの上ない幸せを得ることのできる人もいる。平穏。その瑣末な願いこそが、Bにとってはこの上ない幸せだったのだ。そしてその願いは水に浮かぶ月を掌中に収めることを願うようなものだった。人とBと、たとえるならば水と油。両者はどれほど望んでも融和することはない。永遠に。
Aは少なからず動揺した。相手のことを知り過ぎない方が良い場合も世の中には多くある。例えば、恋愛。例えば、戦闘。Aに突きつけられた事実は、優しすぎるAの心に小さな石つぶてを投げ込んだ。それは湖に生じた波紋となり、次第にAの心に大きく広がる。
Bを消滅させる正義はどこにあるのだろうか。
立ち位置が違うだけで、Bと僕らと、結局は同じことではないだろうか。
それでも。Aに立ち止まることは許されなかった。人外の彼に優しく接してくれる人も現れ始めた。生来から優しい彼は、その容貌にも関わらず多くの人に親しまれるようになった。彼らを守るためにも、彼らを失わないためにも、Aは本来の目的を果たす必要があった。
Aは同時に恐怖もしていた。Aの存在はBを前提としている。Bがいなければ、Aもこの世に存在していなかったことになる。とするならば、果たしてBが消滅したあともAは存在することを許されるのだろうか。核を産み出した人類は、オーバーキルもの量の核を保有することになった結果、核に恐怖している。B亡き後、それでも彼らはAに対して笑いかけてくれるのだろうか。
そんなことを考えるようになった。
暗い研究室の中で、Aは自分自身に問いかける。
何のために産まれた――分からない。
何をして、喜ぶ――分からない。
分からないまま、終わる?そんなのは――
「時間だ、行け」
老人の冷たい声が耳に届く。行かなければならない。
少なくとも今は、今だけは自分を必要としてくれる人がいる、それだけをよすがにAは無理やり歩みを進めた。
飛び立つ。空に向かって。
アンパンマン、一陣の風となりて今、暁の空へ。
(つづきません)
棒太郎氏の文章力に脱毛
ちょっとスネオの夏を思い出したですね。
いーやだっ☆
でわかった。
やっぱすごいねwww
肉氏かっちょいい。
脱帽です・・・・
というか何故に眼鏡?
視力いいよね??
まで読んだ
この文章もそうだし、その消えた文章を見ても、肉欲さんの文章力はホントにスゴイものだと感心しきりです。
( ^ω^)つカツラ
>中島さん
そうですか?まあ作者が同じですからねw
>てんさん
フヒヒ!ありがとうございます。
>ストロボさん
まあ、あそこは露骨すぎたかもしれません;^^
>治ったしさん
需要があればいつでも出しますよ!でも需要がないぜ!
>我さん
おそらく、ビールと焼酎が・・・
>BAさん
ごめんねエロくなくてごめんね
>q
無駄遣いですかね。僕はそうも思わないんですが・・自制します。
>ハンドさん
みなさんが喜んでくれるのが一番嬉しいですお( ^ω^)
>メントスさん
いや、普通に働くのが一番ですお!( ^ω^)
>あいすさん
勿体無いお言葉ktkr。これからもよろしくお願いします!
>ちんさん
そんなことないですお(;^ω^)
>サーブさん
確かに。最近は単純な勧善懲悪ものって少ないですよね。
>七誌さん
そうそう、そうなんです。
(ぶっちゃけ後付けなのは内緒だ!)
>にゃーすさん
ねーよwwwwww
>キテレツ
ヒント 伊達
>といちさん
読んでない。
>タスクさん
その言葉で再うpを決意した次第です^^
>アヌスさん
なんなんですかこのHNは><破廉恥です><
>(´-`)さん
解釈はみなさんにお任せです。
楽しんでいただければ何より!
おまえかーΣ(゜□゜)
てなりました。
やっぱ面白いです^^