肉欲企画。

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2009年01月05日

君がその手に掴んだ夢は 1

 

みんなー!オチンチンエキスポランドの開幕だよー!!


 
「タモっさん……気は済んだかい?」

「ん……」

男の目の前には荒涼とした風景が広がる。
夢の残滓、敗戦の証左。
彼 ――タモっさんと呼ばれた男―― は夢に、社会に、現実の前に、敗れた。

「あんたは十分頑張った、それは俺が一番知っている。だからもう、いいんじゃないか?少しくらい休んでも、さ」

ホットの缶コーヒーを勧めながら、保の横に立つ男は呟いた。視線の先にはだだっぴろい空き地がある。申し訳程度に整地がなされてはいるものの、好き放題に生えている雑草が何ともいえぬ哀愁を誘っていた。だからその光景は、全てのことが "終わって" しまったことを雄弁に物語っているようでもあり――

「まだだ」

「タモっさん!」

「まだ何も始まっていないんだ」

それでも、諦めきれない男がひとり。
足元に植わった雑草を引き抜いて、投げた。

・・・

浅田保が男性器に潜む可能性に気が付いたのは、まだ年若い時分だった。一般的にはあまり知られていないことであろうが、男性器には大きく分けて3つの機能がある。ひとつ、排泄。ふたつ、射精。そしてみっつ、精神鎮静作用。そう、男性器には我々の心を落ち着け、更に安らぎへと導く効能が存在するのである。

女性の方からすれば 『まさか』 と思われるかもしれない。だが、思い返してみて欲しい。例えばあなたの父親が昼寝などをしている際、無意識的に己が右手(ないし左手)を性器へと導いていなかったか――その辺りのことを。

あえてその作用を論理的に説明するならば。男性の性器というのは、同時に急所でもある。故に、その部位を手で包み込むことによって、男性は安心感を得ることができる。カラクリとしてはこんなところだろう。

しかしそんな説明には何の意味もない。男性器を触れば、落ち着く。これが全ての真理なのであり、それ以上でもそれ以下でもないのだ。大事なのは 『それをどう活かすか?』 であって 『そのメカニズムはどうなっているのか?』 ではないのである。テレビの動く仕組みを知らなくても、テレビを見ることは可能なのだ。

「人はどうして争うのだろう」

小学生の頃、連日のように報道されるベトナム戦争の様子を目に焼き付けながら、保はそんなことを思った。己の性器を触っている瞬間、保の心は常に静謐さを維持していた。皆がこの感覚を共有できれば、世界から争いなんてなくなるのに――

『武器を捨てよう、チンポを持とう』

それは保の抱いた、あまりにも幼くて青い思想。
だが、これが保を終生に亘り突き動かす原動力となる。
男性器を通じた世界平和。

「それでは、今日は皆さんに将来の夢を発表してもらいます。浅田君から」

「はい!僕はオチンチンが大好きです。毎日オチンチンばかり触っています。オチンチンを触っているとき、僕はいつも……」

即日、学年集会が開かれた。いきなりのことに保は戸惑いを隠しきれない。保の両親は学校へと呼び出され、教師から強い口調で注意を受けた。家に帰ってから、保は父親から殴られた。保は保なりに反発をしたが、まだ子供である保の声は弱すぎた、遠すぎた。また、学校に行けばクラスメートから心無い誹謗も受けた。アサダチンチン――保に付けられたあだ名が、それだった。

社会と自分との間に横たわる、乖離。
矮小な自分のままでは絶対に超えられない、壁。
保はこの時、人生で初めての挫折を味わうこととなる。
だがそれは、この後何度となく味わう挫折の始まりに過ぎなかったのであるが。

早い段階で学校教育というシステムに疑問を抱いた保は、近所の寺へと通い始める。両親としても息子に更正して欲しかったのであろう、寺に通おうとする保を止めようとはしなかった。

寺での修行の中で、保は護摩の存在を知ることとなる。護摩とは、簡単に説明すれば、仏の智慧の火を以て煩悩(苦の根元)を焼きつくすことだ。保はほとんど直感的に 『護摩と僕の理念とは、相通じるものがある』 と考えた。特に八千本の護摩木を焚きながら徹夜で「悩める人を救い、現世に大きな利益を施す」と祈念を続ける真言密教の難行・八千枚護摩大行は、保にとって実に示唆的な行いに感ぜられた。

それからの保の動きは早かった。まず、8日間の断食を決意した。当然両親は心配を深めたが、それについては寺の住職が 『大丈夫ですよ、保くんは仏の教えを熱心に学んでおられますから……』 と宥めすかした。この時点で住職の目に保は "ストイックな少年" 程度にしか映っていなかったことだろう(いや、実際ストイックであったのだが)。

苦しみながらも8日間断食の前行を終えた保は、ついに次のステージへと挑む。本来であれば真言を唱和しながら約7時間連続して護摩木を焚き続けるのであるが、保の狙いは違った。7時間連続で己がイチモツを握り続けたのである。間断なく、およそ8000もの回数だ。途中、何度となく意識を失いかけたという。それでも保は、強靭な精神力でこの八千回摩羅大行(後に保が命名)を終えることとなる。歴史に残る偉業であろう。

その間、住職は敢えて保に声をかけようとはしなかった。若人が何かを成そうとしている。そうであれば、いたずらにそれを邪魔してはならない――住職の胸の中には、そんな思いが確かにあった。そして住職は、何かを終えて満ち足りた顔をしている保のもとに近づくと、柔和な表情を浮かべながらそっと話しかけた。

「保くん、何かは掴めたかい」

「住職、僕、オチンチンが大好きです」

義務教育課程で然るべき国語教育を受けなかったことの弊害か、保の言葉はいつだって直裁に過ぎた。勿論その言葉に、心に何一つ偽りはなかったのであるが、果たして住職の導いた結論は 『浅田さん、お宅の息子、やっぱり手遅れです』 というものであったというのだから、真に人の世は無常である。ただ、保の胸の中に確かなる手応えが残ったのが唯一の救いかもしれない。

かくして保は娑婆へと戻ることとなる。
保、16歳の年であった。

それからの保は遮二無二働いた。寺にすら見捨てられた息子がどうなることか……と両親は案じたが、懸命に仕事に精を出す保の姿にほっとため息をついた。保は稼いだ金の一部を実家へと入れ、残りの全てを貯蓄に回していた。

「おめえさんまだ若いのに、そんなに貯めこんでどうするつもりだい?」

職場の主任から何度となくそんなことを聞かれたが、その度に保は曖昧に笑って言葉を濁した。夢は安易に語るべきものではない、ただ愚直に叶えるものなのだ――数度の挫折の中で、保はそんな矜持を抱くに至る。彼の抱いた夢、すなわちオチンチンエキスポランドの開園。

子供から青年へと成長した保は、世間が男性器に対して存外に冷たい視線を向けていることに気付いた。

オチンチンは汚い
オチンチンはいやらしい
オチンチンは乱暴だ

なるほど、確かにそういう面もあるかもしれない。この世にオチンチンなかりせば、性犯罪の発生件数はほぼゼロへと近づくことだろう。しかし、保の考えは違った。オチンチンが悪いんじゃない、それを扱う "人間" が悪いのだと、そのように考えたのである。

「じゃあ、オチンチンが単独で犯罪でもするっていうのかよ?!違うだろうが!!オチンチンを変なことに使ってる奴が悪いだけだろうが!!」

保は吼えた。その叫び声は獣のように激しく、かつ赤子の泣き声のように、純真だった。

「小さい子供のオチンチンが汚いか?怖いか?それはない、そんなことは有り得ない。あの無垢でちっちゃなオチンチンを思い出せよ、あれこそが本来のオチンチンなんだよ!オチンチンこそが光だし、オチンチンがあるからこそ、俺たちは俺たちでいられるんだ!!」

「あんたがオチンチンを握っている時、あんたはナイフを握れないだろう?銃を握ることはできないだろう?オチンチンを握っている時、俺たちは争いを止めるしかねーんだ!!」

「世界のオチンチンを展示するオチンチンパビリオンがあれば、小さなチンポも大きなチンポも平等にチン列されるオチンチンエキスポランドがあれば!きっと日本は、世界は変わるんだ、平和になれるんだよ!そうだろ!」

しかしその叫びは冷笑の中に掻き消えていく。あいつはおかしい、浅田は狂ってる、彼は変態だ――そんな罵詈雑言を受けていく中で、保は徐々に無口になった。夢を語ることを、止めた。

保にとって23回目の春がくる。
彼の手元には7年間休みなく働いた対価として、およそ2000万円の資本金があった。
これでようやく踏み出せる、自分の夢へと近づける。
保は書類一式を鞄に詰め込むと、新宿にある不動産屋に足を運んだ。

「すいません、事務所を借りようと思っているのですが」

「はいはい、どういった御用向きでしょうか?」

「これが事業計画書なんですが」

「拝見いたします」

その瞬間、担当者の表情が固まる。そのリアクションまでは保も予想していた。問題はここからである。保は、事前に頭の中で何度も反復していた台詞を口にする。

「お気持ちはお察しします。ただ、私としても伊達や酔狂でこのようなプランを準備しているのではなく、あくまでも公益を図る目的でオチンチンエキスポランドを……」

「お、お引取り願います」

「待ってくれ!話を最後まで」

「誰か!誰か男の人呼んでー!!」

最後はほとんど逃げ出すようにして店を後にした。結局、喋りたかったことの一割も話すことができなかった。それでも保は薄く笑いながら、次の不動産屋を求めて彷徨う。なに、多少の困難は覚悟していたことじゃないか――そんなことを念じながら、思いながら。

結果は散々なものだった。どこへ行っても門前払いを受けたし、警察に通報されかけることもあった。

「なんでだよ……」

ションベン横丁でホッピーを痛飲しながら、保は呟く。確かに保の計画は突飛なものかもしれない。しかし、長い目で見ればきっと芽吹くであろう素晴らしい事業なのに、どうして誰も理解してくれないのか。ほとんど酩酊した頭の中に、世間に対する呪詛ばかりが渦巻いた。

「お客さん、お客さん」

「ああ……酒はもういいよ……」

「いえ、お客さん、昼間うちの店にいらっしゃいましたよね?」

保が顔を上げると、そこにはスーツに身を包んだサラリーマンが立っていた。その顔をまじまじと眺めつつ、すっかり鈍くなってしまった頭を無理やり働かせる。そういえば、何軒目かの不動産屋にこんな男がいたような気がした。

「なんだよ……すっかり邪険に扱ってくれてさあ……」

「その節はどうも……それで、改めてお話があって。店長の手前、あの時はあんな対応になってしまいましたが、もしかすると私、お客さんのお力になれるかもしれないんです」

保は半信半疑で男の話を聞く。その内容を総合すると、事務所を賃貸するよりはいっそ土地を買って、そこで事業を営んではどうか、ということだった。

「でもなあ、土地を買うったって、俺の手持ち資金じゃ無理だよ」

「確かに都心で土地を買うのは無理でしょう。でも、田舎の方だったら何とかならないこともない。事業の概要を伺う限り、別段都心に限定する必要もないのでしょう?でしたら、まずは浅田さんが別の場所で実績をつけて、それから本腰を入れる……というのは如何でしょうか」

都心に限る必要はない、か。保は口に出して呟いてみてから、確かにそうかもしれないな、と思った。田舎で多少なりとも広い土地を買い、そこで自由にやる。それもまた魅惑的な提案に思われた。

「でも、どうしてそんなに親切にしてくれるんだい?こんな、素性も知れない俺のことをさ」

「理由を聞かれると困るのですが、まあ、可能性……ですかね」

「可能性?なんだか漠然としてるなあ」

「はは……いやね、毎日ただ漫然とサラリーマンをやっていると、こう、たまらない気持ちになることがあるんですよ。自分はこれでいいのか、このままでいいのか、って。だから何だろう、浅田さんのギラギラとした熱い瞳を見ていると、どういう訳か力になりたくなったんです。その意味で、可能性」

男の名前は衣笠といった。二人は新たに注文した熱燗で乾杯をすると、夜が更けるまで飽きることなくこれからのことについて話し合った。それは、保にとって初めての経験でもあった。

「キヌさん、絶対成功させましょう!」

「当たり前ですよタモっさん!」

この日ふたりは、泥のように酔った。

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