
豪雨の夜だった。
折り畳み傘なんてほとんど役に立たない始末で、僕は半分以上ずぶ濡れになりながら家路を急いだ。脇を走る車から水飛沫が飛んでくる。その乱暴な運転に少しだけ気色ばんだが、どのみちこれだけ濡れているのだ。僕は軽いため息をつき、傘の柄を強く握り締めた。
「困ったなあ……」
激しい雨音の間を縫うようして届いた、微かな声。その声色は不思議な訴求力を持っていて、だから僕は反射的に声のした方を振り返る。目線の向こう、ほんの数メートル先。ほっそりとした女性が、ラーメン屋の軒下で雨宿りをしているのが見えた。
「どうしたんですか?」
刹那、僕は呆然とする。そのすぐ後に、今しがたの声を自分が発したことに気が付く。戸惑いが全身を駆け巡った。どうして僕は、こんなナンパまがいのことを――
「え?あ、その……雨が、激しくって。だから、帰れなくて」
女性は、ひとつひとつ言葉を確認するようにしながら、答えた。それを聞きながら、そうだよなあ、困るよなあこの雨じゃあ、などと愚にも付かないことを考える。
僕らの会話はそこで終わった。
「…これ、良かったら使って下さい」
「え?」
傘を傾けると、途端に激しい雨粒が髪を、顔を、全身を濡らしていく。止め処ない雨音だけが空間を支配していた。僕はじっと押し黙ったまま、傘の柄を彼女の方へ差し出した。
「でも、そんな」
「返さなくても平気です。安物ですから。邪魔だったら捨てておいて下さい」
ほとんど押し付けるようにして傘を手渡すと、踵を返して駆け出した。一層激しさを増す雨が容赦なく顔面を叩く。
その時、後ろ手に彼女の声が聞こえたような気がした。
でも、それはただの聞き違いだったのかもしれない。
あの時ハッキリしていたことは、靴下がビショ濡れだったことと、明日着るべきスーツがどこにもないことと――さっさと風呂に入りたいこと、くらいだった。
『ありがとう……』
あの夜、東京で降った雨は、記録的豪雨となった。
・・・
「ツキコ、これなんてどうかな?」
その日、僕は都内のアウトレットモールで調度品を選んでいた。
「うーん、ちょっと派手じゃないかしら?あの部屋の感じだったら、暖色系の方がマッチすると思うよ」
「そうかなあ……このくらいエッヂの利いた色の方が主張があって僕は好きなんだけど」
やんわりと僕の意見を却下したツキコに、もう一度だけ言葉を向けてみる。ツキコは目を閉じて顎に手を添えた。まるで瞑想するようなポーズである。
「……やっぱりダメ、これじゃないよ。それに、こういう流行色はすぐに飽きちゃうの。どうせなら長く使えるような定番の色がいいと思うよ」
自分の言葉にうんうんと頷きながら、ツキコは僕の手を取ってその場から離れようとする。いつものことだ。僕は軽い苦笑いを浮かべ、その柔らかな手に導かれるままとなった。
・・・
「これであらかた揃ったね」
アペリティフの注がれたグラスを掲げて乾杯する。テーブルの上に小気味良い音が響いた。僕らはどちらともなしに微笑みあうと、目の前に置かれたオードブルに取りかかった。
ツキコと出会って随分の月日が流れた。今思い返してみても不思議な出会いだったと思う。突然の大雨、それに降られたツキコと僕と。
『どうしてあの時、私に傘を貸してくれたの?』
何度となくぶつけられた質問だった。あの夜、僕はまるで夢遊病のような状態でツキコの方へと近寄った。どうしてそんなことを?それを一番知りたいのは、おそらく僕だろう。とにかく僕はツキコと出会い、ツキコに話しかけ、そしてツキコに傘を貸した。
二度と会うことはない。当然そう思っていた。
けれど翌日、ツキコは前日と寸分たがわぬ場所に立っていた。
『これ、どうもありがとうございました』
面食らっていた僕のところに、きちんと折り畳まれた傘が差し出された。僕は何だか気恥ずかしくなって、悪いことをしたわけでもないのに 『すみません、なんか、すいません』 と頭を下げた。
それから僕とツキコは、二段飛ばしで仲良くなった。
「ほんっと、おかしかったよね。あの時のコウちゃんって……」
「仕方ないだろ。まさかあんなところでまた会うとは思ってなかったんだから」
ツキコはいたずらっぽく笑いながら、デザートに口をつけた。この話になるといつでも僕は茶化されてばかりだ。あんな昔の話、よくもまあ飽きずに……とは思うが、実のところこのやり取りは嫌いじゃない。
『そういえば、あの時――』
そうやって始まる会話は、いつだって僕をあの雨の日へと誘ってくれる。それが嬉しくもあり、くすぐったくもあり。
「ようやく引っ越せるね、コウちゃん」
駅へと向かう道すがら、明るい声でツキコは言った。28歳になるのを期に、長く住んだ1Kのアパートを引き払って2DKのマンションを借りることにしたのだ。今日はそのための家具選びだったのである。
「でも2DKって一人で住むにはちょっと広すぎるんじゃない?あ、犬でも飼うとか?でも一人だったら持て余しそうだよねー、コウちゃんってズボラなところあるし」
鷹揚に頷きながら、頭の中では別のことを考える。
正直に言えば、家具選びなんて二の次だった。
僕が本当にやりたかったこと、いや、伝えたかったこと。
それは。
(ツキコ……)
気付いているのだろうか。
僕らが出会ってから、今日でちょうど――二年になるということに。
「掃除はねぇ、マメにするのがコツだよ。後で後で、って思ってるとすぐに散らかっちゃうから。それと……」
「ツキコ」
歩みを止めて、言葉を遮った。
ツキコはきょとん、とした表情を浮かべながら僕の顔を見つめる。
唐突にあの夜の情景がフラッシュバックした。
何も言えなかったあの日。
僕は傘を差し出すだけのがやっとだった。
でも今は、違う。
今の僕は、あの夜とは。
「これ」
それでも、それだけ言うのが精一杯だった。そのままツキコの手を強く握り締める。ツキコは相変わらず僕の方を見詰めながら、困ったような笑顔を浮かべていた。
もう一言、あと一言。
僕は下っ腹に力を込め、ゆっくりと声を絞り出す。
「一緒に住んで欲しい」
手を添え、僕はツキコの掌を優しく開く。
そこは、月明かりを受けてにぶい光を放つマンションキーがあった。
「君と一緒に住もうと思ってあのマンションを借りたんだ。だからツキコ、これからは僕と一緒に住もう」
「……」
音のない夜。
微妙な静寂が二人の周りを包み込む。
たった一秒、が随分と長く感じられた。
「…いよ」
「え?」
沈黙を破ったのはツキコの発した呟きだった。
今にも消え入りそうなほどの、か細い声。
俯いていたツキコは顔を上げると、またも小さな、でもしっかりと
声で、こう言った。
「できない……一緒には、住めないよ」
「どうして――」
僕が言い終わるより前にツキコは走り出した。呆気にとられそうになりながら、すぐに僕はツキコの後を追った。
「待って、待てくれよ!」
・・・
僕はツキコの家に行ったことがなかった。
行きたくなかったわけではない、むしろ何度となくツキコの家を訪ねようとした。
でも、その度にツキコは
『ダメよ、ウチは両親が厳しいから』
そう言ってにべもなく断るばかりだった。人には様々な事情がある。ツキコがそう言うのであれば、それを尊重してやるのも大切なことだ。幸い僕は一人暮らしだったので、ツキコと逢瀬を重ねるのには何らの問題もなかった。
それでも。
僕もツキコも、社会的には十分『大人』とされる年齢だ。
いつまでも半端はできない。
僕は、ツキコのご両親にひと目お会いしたかった。
けれど、いつもツキコは
『また、今度ね』
そうやって曖昧にはぐらかすのである。
僕は、ツキコのことをあまり知らない。
どんな家で、どんな部屋で、どんな味噌汁を飲んで、どんな両親の下で育ったのか。そんな普通のことを、僕は何も知らない。
だから、ツキコと共に暮らそうと思った。
・・・
「ツキコ!」
一体どれだけ走っただろうか。
随分長く走った気もするし、そう長く走っていない気もする。
肩で荒い息をつきながら、ツキコの腕を強く握った。
「どうして逃げるんだ」
ツキコは振り返らないまま、目線を下に落としている。
外灯もまばらな路地裏、月明かりだけが二人を照らしていた。
「…住めないよ、コウちゃん。一緒になんて、住めないんだよ」
掠れた声が鼓膜を撫でるが、相変わらず僕の方には顔を向けない。名状しがたい焦燥感にかられた僕は、矢庭にツキコの前へと回り込んだ。
「ツキコ、僕は君と」
「無理なの、無理なのよ……コウちゃん、分かって。お願い」
「分かんないよ、どうしてダメなのか、僕には分かんないよ。なあツキコ、ダメならダメでもいい。ただ、聞かせて欲しい。なんで僕とは住めないのか、それと……どうしてご両親にも会わせてくれないのか、そういうの全部、教えて欲しい」
頼むよ――最後は、息だけの声で懇願した。
ツキコと住みたい、諦められない。
その気持ちは確かだ。
でも、もしも理由があってツキコが僕と住めないのだとすれば。
その時はきちんと受け止めてあげたい。
だから今は、ツキコに全てを話して欲しかった。
遠くで家族団欒の声が聞こえる。
しばらくしてから、ツキコは黙って僕の手を引いた。
・・・
そこは全く見覚えのない場所だった。
うっそうと生え茂る木、木、木。
雑木林というには、あまりにも静厳な空間であった。
「都内にこんな場所があったんだ」
ため息交じりの声が漏れ出る。
ツキコは黙ったままひたすらに歩いた。
「ここ」
最後にツキコが導いた先。
そこは、夥しい数の竹が植わっていた。
「ここ?ここが一体、どうしたって」
「ここが私の家で、実家で――私の生まれた場所」
あたりを見渡す。およそ家屋らしきものは見当たらなかった。それどころか、人が踏み入ったような形跡すらない。
(馬鹿にしてるのか?)
不意に、内なる怒りがこみ上げてくるのを感じた。
ツキコは僕と住みたくないものだから、両親に会わせたくないから、こうやって竹やぶなんかに僕を連れてきて、誤魔化して、それで……
「私、メンマなの」
乾いた風が、一陣。
二人の間を走って消えた。
「メン、マ――」
愛した女(ヒト)がメンマだった。
にわかには信じがたいその言葉、しかしツキコの瞳に浮かぶ色は、あくまで真剣そのものである。
バカらしい、と思わないわけではない。
ただ、自分はメンマだ……と、そんなウソをついて何の得になるというのか。
それに、僕には分かる。
長い付き合いだからこそ、ツキコはウソをついていないということが。
「これが私の家よ」
ツキコの手の中には小さな瓶が握り締められていた。
そこに書かれていた文字、それはまさしく 『桃屋のメンマ』 。
中にはしなびたメンマがふたつ、安らかな様子で横たわっている。
「ご両親、だね」
僕の言葉に、ツキコは『どうして?』という表情を浮かべる。
それくらいは、分かる。
分からなければウソだ。
「ご挨拶してもいいかな」
僕はツキコの手から瓶を取った。
「開けないで!開けちゃだめ……」
「どうして?初めて会うんだ、一言くらい」
「寿命(しょうみきげん)が、もう僅かなの……」
短い言葉に全てが詰まっていた。思わず僕は己の不明を恥じる。
どうしてそんな簡単なことに気を回せなかったのか――僕は頭を垂れつつ、ツキコに瓶を返した。
「いつからだい?」
「物心ついた頃、私はメンマだった。それでいいと思ってたし、それがいいと思ってた。パパもママもメンマとして暮らしてた。私の全てはメンマだった。メンマとして生きて、メンマとして死ぬ。それが私の全てだって、そうなんだって」
メンマとしての人生。
それがどのようなものなのか、果たして僕には分からない。
だけど、僕とツキコが過ごした時間。
そこにウソはなかった。
一人の人と竹(ヒト)の、美しく愛おしい日々だった。
「でも、コウちゃんと会ってから、ちょっとずつ変わっていった。パパとママは反対したわ。『お前は食い物にされてるだけなんだ!』って。私も最初は警戒してた。でも、コウちゃんは優しかった。私を一人の竹(にんげん)として見てくれた。メンマ扱いをしなかった。だから、どんどんコウちゃんのことを……好きになった」
「だったら!」
「でも、もうおしまい!恋愛ごっこは、もう終わりなの。詰まるところ私はメンマ、メンマなの。ねえ、コウちゃん。コウちゃんが、あなたが見ていた私は、メンマとしての私?それとも、竹(にんげん)としての、私?」
「それは……」
卑怯だよ、そんなの。
今までずっと、隠してたんじゃないか。
それに、そんなの関係ないよ――
全ては声にならない。
言葉にすれば全部がウソになるような気がしたから。
ツキコとの日々が、ツキコへの思いが。
何もかもが消えうせてしまうような気がしたから。
「もう分かったでしょう。メンマはメンマなの。人間とは暮らせないわ。だからありがとう、楽しかった。もう会わないようにしましょう、私たち――」
「ふざけるなよ!」
自分でも驚くほどの大声が藪を切り裂いた。
ツキコに触れる。その肩は小さく震えていた。
僕はその細くてしなやかな体に手を回し、強く抱きしめる。
「メンマでも何でもいい。僕はそんなこと関係ないくらいに、君のことを……愛しているんだ」
思いの丈を言葉に込めた。
そしてその言葉に、何一つ偽りはなかった。
ツキコと暮らしたい、ツキコと添い遂げたい。
そんな想いは、ツキコの告白を聞いたあとでも、寸分違わぬ形でこの胸に残っている。
「――ウソよ」
「え……」
「ねえ、コウちゃん。初めて私たちが会った場所、覚えてる?」
脳裏に、あの夜の豪雨が蘇る。
ツキコは微かな声で『困ったなあ……』と呟き、それを聞いた僕がツキコの方に近づいて、そしてそこは――
「ラーメン屋、か」
「コウちゃん、あのラーメン屋さんによく行ってたよね。私、知ってるんだ。それで、コウちゃんよく注文してたなあ……
『チャーシューメン、ひとつ』
って」
あ、と思った。
確かに僕はチャーシューが好きだ。
ラーメン屋にいけば、決まってチャーシューメンを頼む。
麺を覆わんとばかりに浮かべられたチャーシューたち、それを一つまみし、一息に頬張る。あの瞬間の愉悦、それは何にも代え難い。代え難いのであるが――その事実が、いまは僕の胸へ鋭く突き刺さる。
「あれは、違う」
「違わない。いいの、分かってた。『所詮メンマなんてお飾り』……そんなことは生まれた時から、ずっと。分かってたのよ」
「違う!」
「違わない!!だったらコウちゃん、ねえ、あなたは食べられるの?ラーメンの上にどっさりと乗せられたメンマ、そんなメンマラーメンを、チャーシューメンと同じように!喜びと楽しみを携えながら!!ねえ、食べられるの?!」
「……食べられるさ」
「目を見て答えて!
ねえ、その言葉が本当なら、目を見て答えてよ!!
『チャーシューなんていらない、麺もいらない、僕はただ、メンマだけがあればそれでいいんだ』
って、私の目を見て答えてよ!!」
どうして僕は、あの時。
ツキコの目を、見ることができなかったのだろう。
……いや、僕は弱かったのだ。
これから先、あとどれだけ生きるかは分からないけれど、その人生の中で。スープの中にメンマだけが浮かんだラーメン、それを食べ続けることができるのか?
それを考えた時。
僕は確かに、こう思ったのだ。
『それはそもそも、ラーメンじゃ、ない』
「楽しかった。本当に楽しかった。
コウちゃんと一緒に過ごした間はまるで夢のようで、思わず自分がメンマだってこと、忘れちゃってた。
でも……私はメンマ。
ねえ、私、メンマなんだよ。
だからもう、これでさよなら。
バイバイなんだよ、コウちゃん」
「待ってくれ、ツキコ、待ってくれ!」
気付けば、ツキコは泣いていた。
声を上げずに、大きな声で泣いていた。
その涙の粒は大きくて、大きくて。
あの夜降ったどの雨粒よりも大きくて。
「これからはメンマも食べる!
大好きになる!いや、大好きだ!
だからツキコ、お願いだ!行くな――」
(いいの、コウちゃん。)
「ツキコ……」
(私の本当の名前はね、チクコ。椎名築子。今まで隠していてごめんなさい。なんだか冴えないでしょ?チクコなんて名前)
「そんなことあるもんか、そんなこと」
見れば、ツキコの――チクコの体は、もうほとんど消えかかっていた。おそらく、元の姿へと戻っていくのであろう。僕は必死になってチクコの体を掴まえようとするのだが、振りかざされた両の手は虚しく中空を舞うばかりで。
涙が溢れた。
止まらなかった。
(コウちゃん、その瓶を見て。
私の家を――私の両親が入った、その瓶を)
「うん……」
(そこの賞味期限のところを見て欲しいの)
「賞味期限?」
言われて僕は目を落とす。
【2009.07.07】
そこには、今日の日付が記されていた。
「これが、一体何だって言うんだ」
(分からないかな……コウちゃん、そこは私の家なの。
私が生まれて、私が育って、私が……ずっと隠していた場所。
そこが私の全てで、だからそこに記されているのは)
「…!だ、だってさっき、パパとかママとかって!」
(本当はそう呼んでただけ。
私もパパもママも、同じメンマなの。
だから私も今日で、いま、ここで)
「言わないでくれ!」
(だから、やっぱりコウちゃんとは一緒にいられなかったんだ。
最後にいじわる言ってごめんなさい。
でも、最後なんだから、ちょっとくらいはワガママ言わせて欲しかったんだ。
ごめんね……コウちゃん)
強い風が吹き、竹の葉が大きくざわめく。
瞬間、チクコの姿は完全に失われ、そして――
「チクコ……」
瓶の中には、三つ目のメンマが。
微笑むように横たわっていた。
『ありがとう……』
「チクコぉぉォォォ!!!」
・
・
・
――月日は流れ
「おじいちゃーん」
「こらこら、竹男。おじいちゃんはお仕事で疲れてるんだから。あっちで遊んでなさい」
縁側に座って、外を見遣る。
私はここから見える風景を何よりも愛している。
「お義父さん、麦茶お飲みになりませんか?」
「ああ、ありがとう」
「今年も竹が綺麗ですね」
「うん……本当に」
竹が見える場所に住もう、と思った。
大きくても小さくてもいい、ただそこに竹があれば、それで。
私はがむしゃらになって働いた。一人でも多くの人に竹の良さを分かって貰おう、そう思って懸命に生きた。
折節、日本には空前のメンマブームが訪れた。
私は時流に乗り、時には翻弄されながら、それでも必死になってメンマの普及に努めた。
「父さん、またウチのメンマが品切れになっちゃったよ。やっぱりラインを増やさないと」
養子にとった一人息子、竹蔵。
今では会社のほとんどを、この竹蔵に任せている。
「銀行も追加融資してくれるっていうし、この際フィリピンあたりに」
「――見ろ、竹蔵」
「?」
私は黙って庭先を指差す。
それに呼応するように、初夏の涼風が優しく吹き抜けた。
「今年も、綺麗だ。
竹の葉が風に揺られて、本当に綺麗じゃないか」
「……うん。とても綺麗だ」
「おじいちゃん!ねえ、おじいちゃん遊んでよ!」
「ほら、竹男も見なさい。あの竹を、凛々しく植わる竹たちの姿を」
そう言って竹男を膝の上に座らせた。最初は頬っぺたを膨らませて不機嫌そうにしていたが、優しく頭を撫でていると次第に大人しくなった。
「静かだねえ、おじいちゃん」
「うん……」
再び、柔らかな風が流れて消える。
その時、縁側の上でコトンと小さな音が鳴った。
「あ、おじいちゃん!何か転がってるよ!」
竹男は祖父の膝を離れ、パタパタと音のする方に駆け寄る。
ゆっくりと転がるそれは、すぐに竹男の手の中へと収まった。
「おじいちゃん、知ってる?
僕ね、数字が読めるようになったんだよ!」
雲がゆるやかに流れていく。
遠くから響いていた蝉の鳴き声が、やんだ。
「ううんとね、これは……
にい、ぜろ、ぜろ、きゅう、ぜろ、なな、ぜろ、なな
読めたあ!
ねえおじいちゃん、当たってる?
僕、当たってた?」
竹男は手に持っていた瓶を無邪気に振り回す。
中では、ほとんど元の姿を失ってしまった何かが、ふたつ。
からからと、からからと。
瓶の中で踊っていた。
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メンマwwマジかよwww
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メンマ……マジかよ……
二度裏切られました。勿論良い意味で。
肉さん大好きっす。って言っても女好きのあなたにはこの感謝の言葉が1mmも届かないんでしょう。悲しいねぇ。。
すごいわ、肉さん!
俺はメンマの方が好きだけど
これで桃屋のスポンサーもいただきですね
肉さんありえない。マジでありえないw
ラーメン屋で5年修行してた僕には少しだけメンマの気持ちがわかります。
どんぶり一杯に盛られたメンマは食べれない。
哀しいけど、リアルすぎる現実。
その文才をもっと!
間違いなんかじゃないですよね?
わざとだって言ってよー!!
【肉欲より】
無論間違いです。
くっそ〜
ふいちゃったじゃないか
仕事中なのに
必死でごまかしました
もうね。
こんな文が書けるあなたが、大好きですww
竹が題材とか「美女と竹林」にヒントを得たのかね。
>詰まるところ私は
メンマだけに?( ^ω^)
た、食べたのか?
「私、メンマなの…」
で大変なことになりました。電車の中で。
予想外すぎる展開でした
感動的な話しだと思ってたのに
いや感動した!
愛をありがとう…
『それはそもそも、ラーメンじゃ、ない』
ここが秀逸すぎる。
肉欲さんは年100冊の本を読むとはいえ素人なんですよね。ということはプロの小説はもっと面白いのかな。僕も本読んでみようかお( ^ω^)
大好きになる!いや、大好きだ!
だからツキコ、お願いだ!行くな――」
こんな台詞、こんな感動的なシーンで使うか?www
どこの大学か気になります
発情期のバイブル、それが肉欲企画。
このフレーズ何かに使えませんかね??
メンマラーメン好きのオレに謝れ!
やられましたよ。
もうひとつは別の何かになったって事?
べ、別にメンマが好きな訳じゃないんだからねっ!
だってメンマって!
メンマって竹だったんですね…
途中・・肉欲市ね
最後・・泣いた。
志ね
チクコはどうなったんですかね´`
小説家を目指してください。普通に読めました。マジデ。
ちっきしょう。
奇才って言葉はあなたのためにあるようなもんだぜ。肉さん。
メンマのまんまwww
とか思ってたらメンマの下りで泣いた
これは久しぶりに感動させられました。
カタコト想像して吹きましたwww
ずっと読んでました。今回の作品は普通に感動しました。
これからも楽しみにしてます。
ラーメンのメンマだけ増量とかできたらいいのに!
そんな私もコウちゃんです。
メンマですって告白と「それは、ラーメンじゃ、ない」では噴いた。
下ネタって全然だめなんですが肉欲さんはなんか知的でいいです。これからも更新楽しみにしてます。
ここで、ああ‥やっぱりな‥ってなったねw
ほんといい衝撃をくれるww
しかし神木キュンはどうなったんスかね‥
またこんなの楽しみにしてます。