語義上・定義上の差異はすぐにでも摘示できる。
【説得】 よく話して、相手に納得させること。
【詐術】 人をだます手段。偽計。
辞書的に考えれば、両者の分水嶺は 『(客体を)騙す意図があるか否か』 という部分に尽きる。だが、僕は思うのであるが、ひとくちに "騙す" と言っても、一体何を以て "騙す" とするのだろうか。
『騙す意思』 とは、要するに、行為者(話者)の内心の問題である。殺人や脅迫という行為が外面的・客観的に評価し易いのに比して、かかる内心の態様については、外部的な評価が下しにくい。
「騙すつもりはなかった……」
とある詐欺師がこう供述した瞬間、議論はたちまちに紛糾する。"騙す" という概念をイメージするのは簡単ではあるが、その意図(騙す、という故意)が確かに、誰かにあったのだ――この部分を明確にするのは、実のところ非常に難しい。
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